ひゅぅ、ドサッ。
ひゅぅ、ドサッ。
ぼくとマリーちゃんは、ステラおばあちゃんに、火のついてない暖炉のあるリビングのふっかふかのアメ色革ソファの上に、ぽいぽい置かれた。
向かい合うように、座椅子がある。
とっても小さい。
だから膝を組んで背もたれのない台のような椅子の上に座って、頭をこっくり、こっくりしてる六郎おじいちゃんも、とっても小さい。ステラおばあちゃんがデカ過ぎるのもあって。
家にある、"しちふくじん"、ってやつの置物の、"えびすさん"、っていうのに、おじいちゃんはとってもよく似てる。だからって、服装までマネしなくていいのに。似合ってるけどさあ。
「じいさん、起きてくださいねぇ」
と、ステラおばあちゃんが、おじいちゃんの背中をボンってやると、おじいちゃんはすってんころりん、ボールみたいに転がって、でも、ふっかふかの絨毯の上だから、ごつんとはならなかったし、でも、どうして起きないの? それで?
「ろ・く・ろ・う・じ・い・さ・ん・っ!」
ステラおばあちゃんは、ぶちゅうううううううううううう、って、おじいちゃんのほっぺったを吸って、ポンッって、放した。
「やいやい、ばあさんや。わしの唇はここやぞぉ?」
ぶちゅうううううううう!
「……。チヒロくんのおばあ様って、すごいね……」
いつの間にか、かちんこちんじゃなくなってたマリーちゃんが、困った顔して、隣のぼくにそう言った。
「だよね」
ぼくもそうだと思ってるけど、お兄ちゃん以外そうだって言ってくれなかったんだよね。
*
「六郎おじいちゃんさ。どうしてぼくら呼んだの? いっつもみたいに来たらよかったのに?」
「そんなの決まっとるじゃろう! チヒロの彼女の茉莉《マリ》ちゃんと、ゆっくり会ってみたかったからじゃよ! 邪魔が入るとめんどうじゃからのぉ、な、ばあさん!」
「おほほほほほ」
バシィン! バシィンン!
おじいちゃんの頭を、おばあちゃんは上品に笑いながらしばいてた。多分、おばあちゃんを嘘の理由で説得したんだろうなぁ。
「で、何が聞きたいの? ぼくじゃなくてマリーちゃんに」
ぼくは不満そうにそう言った。
「ふはは。決まっておろう。"どうして"、じゃ、よ」
「おほほほほ。じいさんは、こう言いたいのですよ。おほんっ。『わしは、お嬢ちゃんがどうして、ワシのチヒロを好きになったのか、そこをじっくりねっとり知りたいのじゃよ』って。わたしも詳しく知りたいわ。きっととっても素敵だと思うから」
あぁ、とぼくは頭を抱えた。ダダこねるおじいちゃんを止めないおばあちゃんなんだから、どうるい、ってやつだもん、二人とも。
お兄ちゃんとリカお姉ちゃんっていうより、リカお姉ちゃんとリカお姉ちゃん、って感じだし。
「はは……マリーちゃん……ごめんね……。」
だからせめて、ってぼくだけは、って謝った。
「……」
マリーちゃんは俯いてる。ぎぃぅぅぅ、って、辛そうで。
「おじいちゃん。おばあちゃん。帰るよ。マリーちゃん、行…―」
ぎゅぅぅぅぅぅ。
マリーちゃんはぼくの手を掴んで、さっきみたいに。
「お願い……。待って……。」
そう小さく、腕から伝わって、聞こえたような気がして、ぼくは立ち去るのをやめた。
*
「チヒロくんの、おじい様、おばあ様……、ごめんなさい……」
マリーちゃんは、深く深く頭を下げた。
何が何だか分からない、けど……、ぼくは、置き物でいることにした。
マリーちゃんは、あの電話の時にあったことを泣きながら、何度もしゃべれなくなって、また落ち着いて、そうやって、最後まで話し終えたんだけど。
「事情は分かった。マリーお嬢ちゃんは悪くない」
「そうねぇ。嘘とはいうけれど、今は本当になっているだし」
と、おじいちゃんとおばあちゃんは僕の方を見てくる。
「?」
「チヒロくんは悪くないんです……。わたしが、嘘、ついたから……」
「分からぬようじゃのお、チヒロ。それじゃあ、ワシのことを呆れた目で見る資格何ぞ無いぞい? 寧ろ、もっと鈍い。無知は罪とよく言うが、これは何と言うべきかのぉ」
「女泣かせ、とでも言うべきでしょうねぇ」
ぼくは流石にいらっときた。
「はっきり言ってよ! こんなじゃあ、マリーちゃん苦しいだけじゃんか! ずっとずっと、泣いてるんだよ! 辛いから、泣いてるんだよ!」
「分かっておるじゃないか。あとちょっとじゃよ? チヒロ」
そう、おじいちゃんは、微笑んでいる。
おばあちゃんが、いなくなってる。って見渡したら、マリーちゃんも。
「チヒロや。よぉく、噛みしめよ。チヒロがお嬢ちゃんを泣かせとるのじゃよ」
「……」
「何となく、分かっておった顔じゃの。強がっておった訳か。上々上々」
「ぼく……ダメなのかなぁ……」
「ダメダメじゃなあ」
「マリーちゃんの彼氏になったの」
スタッ!
ガシガシガシ、
「それは断じて違う! 違うぞ! チヒロ!」
おじいちゃんは、僕の前に立って、僕を見上げて、僕の足のふくらはぎをひねった。
「っ!」
おじいちゃんは、いつもみたいに、曲芸染みた動きで、つい動いてしまったぼくの足蹴を避けてた。
「これはあ奴らに説教が必要かのぉ。いやじゃが、まだ幼いものなぁ、チヒロや」
「?」
「まあ、お主のことじゃ。告白されて、そこでやっと、まともに考えたのじゃろう」
「うん……。」
「自信が、無いのか? いいや、漠然と不安、なのかのぉ?」
「……。」
「大事じゃぞ。それは。逃げぬお主なら、大丈夫じゃろて。チヒロ」
「そう……?」
「お嬢ちゃんは、お主といて幸せそうじゃと、ワシは思ったぞ? 現に今も、ほら」
スタッ。そろり。そろり。そろり。そろり――
ギィィ。
開いた扉の先。向かい合って座って、何やら話が弾んでいるステラおばあちゃんとマリーちゃんの姿が見えた。
「っと。聞こえぬわな」
と、六郎おじいちゃんは、僕に、声真似して教えてくれた。盗み聞きならぬ盗み見だけど。
「『チヒロくんはね、ちゃんと考えてくれるの。私がダダこねても、ちゃんと考えてくれて、誤魔化さず、面倒くさらずに、答えてくれるの』」
「『真面目だからねぇチヒロちゃんは』」
「『私ってめんどくさいってよく言われるんです。親にも。たまに、みんなにも……。でも、チヒロくんだけは、いつだって――』」
「……。」
「だから、理由というのが大切なのじゃよ。電話越しに放置されたのもあるが、ちょっと心配になってのぉ」
そう、おじいちゃんは含みのあることを言った。何か色々な意味が入ってそうだったから。
おじいちゃんはにたああってしたかと思うと、
スタスタスタ――ガチャッ!
「わしも混ぜて~」
だから僕も慌てて、
「ま、待ってよおじいちゃんんん!」
スタタタタタ――
向こうの部屋に混ざった。