8月1日。
「では、皆さん、夏休みの宿題出してくださいね。」
「はーい。」
「はい。」
「あ、忘れた。」
「やってないで~す。」
「出しま~す。」
「忘れたんで明日出します。」
「家に取りに帰っていいです?」
後ろから前へ、どんどん各種宿題を前へ集めていく。そして、いよいよ最後。自由研究だ!
ぼくは教室左端の一番後ろの席に座っている。
「はいっ。」
ぼくは自身満々の宿題を渡す。A4ノート丸々一冊を使った渾身の自由研究。
【アンケート ~せいすいってなあに? いろんな人に聞いてみました!~】
「え、チヒロくん、これ……。うん、いや、何もないよ!」
ぼくの前の席の男の子はなんか言いたそうだったけど、それを押さえたみたいだった。どうしたんだろう?
そして、ぼくの宿題は回収されていった。
さーて、マリーちゃん、ちゃんと日記出したかなあ。ぼくが直したのまさか、また書き直したりしてないよなあ。今日の朝も修正入れたし、まあ大丈夫かあ。
うーん、彼女になったんだったなあ。でも、彼女とか、実感わかないよなあ。まあ、そのうち分かるか。お兄ちゃんもそう言ってたし。
放課後になった。授業が終わる。迎えにいかなくっちゃ。毎日一緒に帰るって約束したんだし。
キンコンカンコーン↑!
キンコンカンコーン↓!
「4年1組 学《まなび》 千広《ちひろ》 くん。至急職員室まで来てください。」
え、何事?
キンコンカンコーン↑!
キンコンカンコーン↓!
キンコンカンコーン↑!
キンコンカンコーン↓!
あれ? まだ続くの?
「4年2組 相合谷《あいあたに》 茉莉《まり》 さん。至急職員室まで来てください。」
「……え?」
キンコンカンコーン↑!
キンコンカンコーン↓!
あいつも呼び出されている。……うわあ、ってことは自由研究だよね。大人たちの反応まずかったし、本当は引き下げとくべきだったんだよな、あのアンケート。でも、31日の夜ににやばいって気づいてももう間に合わないよね。だから、もーいーやっていう感じで出したけど……。
ぼくのやつはやばいかもって程度だったけど、あいつのやつは明らかにやばかったもんなあ。あいつが呼び出されて、ぼくも呼び出されるってことはもうそれしかないよね……。あああああああ、やばいよ~~~~、どうしよ~~~~!
ぼくは一目散に職員室へと向かった。その間何か聞こえた気がしたが、焦っているぼくの耳には入らなかった。
キンコンカンコーン↑!
キンコンカンコーン↓!
4年3組 ――
キンコンカンコーン↑!
キンコンカンコーン↓!
職員室に着いた。まだあいつは着いてないみたいだった。担任の先生はぼくを何とも言えない顔で見つめている。怒っている様子ではない。ちょっと安心した。
呆れている、みたいな気がする。あとそれと、お母ちゃんがお兄ちゃんを見るときみたいな残念そうな? 目をしていた。あれ? ぼくまずいことした? あ、あのアンケートだよね、やっぱり。
「チヒロくん。君……なんてもの調べちゃってるのよ……。このタイトル……正気、なの? せいすい……。意味知っててやってるのよね、やっぱり。」
先生は、笑顔で怒ってた。日本人形みたい、こわい、とか言われたときと同じ顔している。でも、先生って、こわくないとぼくは思う。だって、お母さんや、リカお姉ちゃんが怒ったときのこわさを、ぼくは知ってるもん。
「うんです。」
「そこは”はい”でしょ。なんでも、"です"つけるだけじゃあだめなのよ。」
「はい。」
ぼくは覚えた。とりあえず、"です"つけとけばいいわけじゃないってことを。
「じゃあ、先生。"せいすい"って、なあに?」
「……。」
ピキィ!
「訊くなぁあああ! んなもんっ!」
「はい……。」
こんな怒った先生の顔見たことないよ。うん、先生、こわくないって思ってて、ごめんなさい。んんん、でも、結局、"せいすい"ってなんなのかなあ?
ガラガラガラ
トン
「失礼します。」
「失礼します。」
「呼び出し受けて来たんですが、ぼく何かやらかしました?」
「放送で呼ばれて来たんですが、なんで私呼ばれたんです?」
トモくんに、マリーちゃん!
ピキピキ、カチン!
「なんで! あなたたち! このバカをとめなかったのぉぉぉっぉお!」
先生のこれまで聞いたこと無いような巨大で迫力のある怒鳴り声が校舎中に響き渡った。