"せいすい"って、なあに?   作:鯣 肴

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第9話 マリーちゃんの"こくはく"

 今日は8月29日。さてどうしようかなあ。

 

 

 

 

 

「……なんでいるの、マリーちゃん?」

 

「だって、チヒロくんの観察日記書くんだもん!」

 

 うわあ、観察日記って言い出しちゃったよ……。僕は動物じゃないんだから。でも、きっともう無駄だよね、言っても……。

 

「うん、もういいよ……。でも、でも! 31日に全部チェックするからね!」

 

 せめて保険くらいはかけておかないとね。

 

「わかってるって! で、チヒロくん、今日はどうするの?」

 

「今日はね、ごろごろしてるの。何もしないよ、な・に・も。」

 

 僕とマリーちゃんは二人並んで縁側で並んでいた。僕はごろごろ。横でマリーちゃんは女の子座りして、日記を開いてかりかり何か書いている。

 

チリンチリン

 

 風が吹く。風鈴の音が鳴る。夏といえばやっぱり風鈴だよね! それについでにマリーちゃんのスカートが前ちゃんと抑えられてなかったのでばさっ、て開く。

 

 お兄ちゃん曰く、ぱんつは見とけ。ってことらしいから、今回もばっちり見せてもらっておく。縞パンだった。青と白の。

 

「マリーちゃん、ありがとう。」

 

ばっ

 

 マリーちゃんはスカートを抑えて顔を真っ赤にしている。そして卵を縦に切ってそれを半分にした下側のような目で僕をにらむ。ジト目っていうやつらしい。

 

 何日か前にリカお姉ちゃんがはまってたやつだ。じとーって音聞こえてきそうだからジト目っていうらしいけど、音なんて聞こえてこないよね、全く。半分卵目とかでいいんじゃないのかな、これ? あ、でもそれだとゴロ悪いなあ。

 

「チヒロくんのえっち!」

 

 え、僕何もしてないよね。

 

「ぱんつ見たじゃないの! 昨日もしっかり見てたし!」

 

「お礼言ったからいいんじゃないの?」

 

「あれ、そうなのかな?」

 

「そうだって。それに、マリーちゃん、なんかうれしそうじゃないの。」

 

「そんなことないわよっ、ぐすっ、チヒロくんのバカ~!!!」

 

 そのままマリーちゃんは走り去って行った。そのうち機嫌直して戻ってくるだろう。いつもそうだし。うーん、ぱんつ見るのってえっちなのかな?

 

 お兄ちゃんが言うには、えっちっていうのは、なんかむらむらしたら使う言葉らしいけど。でも、むらむらってなんなのかお兄ちゃんに聞いても分からなかったからなあ。言葉で分かるもんじゃないらしいし。まあいっか。

 

プルルルル、プルルルル!

 

 お、電話だあ。誰からかなあ。

 

かしゃり

 

「はい、もしもし? だあれ?」

「もしもし、わしだよ、わし!」

 

「ちゃんと名前言わないとだめだよ。そういうサギはやったらしいから。お母さんが言ってた。」

 

「ははは! 声と電話番号で分かるじゃろうて! わしだよ、わし。六郎じいさんじゃよ。お前のおじいさんじゃよ!」

 

「うっわあ、間違いなくおじいちゃんだあ! で、どうしたの?」

 

「あれ、随分そっけないのう! いやなあ、あさってチヒロに会いに行こうと思ってな。ばあさんといっしょにのう。大丈夫そうかのう?」

 

「いいよ! お爺ちゃんサイコー!」

 

「あれ、なんかテンション高いのう。 いつもならもっとそっけないのに。」

 

ぐいぐい

 

 電話から、その引っ張りを感じた方へ意識が方向転換する。

 

「うん?」

 

 当然、マリーちゃんだった。今電話中なんだから、静かにしといてよ。

 

「チヒロくん、誰とお電話してるの?」

 

「僕のおじいちゃんだよ。あさってこっちに来るんだって。そういうことだから明日はおとなしく家にいてね。僕のところには来ないということで。日記には、おやすみ、とでも書いておいたらいいよ。」

 

がしっ

 

 手に持っていた電話をマリーちゃんが強奪していった。突然のことに僕はぽかんとしていた。

 

ドタドタドタ

 

 マリーちゃんは走って僕から距離を取る。そして、その顔は何故か赤面していた。

 

「もしもし。」

 

「もしもし、かわいらい声じゃのう! どちらさまかのう?」

 

「私は、相合谷《あいあたに》茉莉《まり》と言います。チヒロくんの彼女やってます。」

 

「お~、チヒロにもとうとう、いや、もう彼女ができたのか! それはすごいのう。明日はお祝いにな――」

 

 なんとか追いついたけど、もう遅かったっぽい。でも、できることはやらないと。

 

「うわあああああああ、マリーちゃん、何言っちゃってんの? 僕マリーちゃんとお付き合いとかしてないよ。僕はお兄ちゃんにようにはなりたくないの! マリーちゃん今すぐ言いなおして。 ウソです! って。」

 

 言葉を口にすると、あせりがじわじわ出てくる。浮かんだのはいっつも見てる、お兄ちゃんとお姉ちゃんの姿。僕はお兄ちゃんみたいな立場にされちゃうのだけは絶対に、ごめんなんだから。

 

 するとマリーちゃんは受話器を落とし、僕に飛びついてきた。突然のことに僕は対処できず、そのまま押し倒される。

 そして、僕の上に馬乗りになったマリーちゃん。大粒の涙を流し、顔を真っ赤にして、鼻水を少し流してちょっと汚い顔をしていた。

 

「なんで、なんでそんなこと言うのよ。」

 

「だって、僕、マリーちゃんと付き合ってないよね、別に。」

 

「じゃあ、私のこと好き?」

 

「好きだよ、友達として。」

 

 お兄ちゃんが、女の子関係で、私のこと好き、って聞かれたらこう言ってなんとかその場を乗り切れって言ってた。今こそそのときなんだから。

 

「女の子としては?」

 

 ……。うーん、これどう答えたらいいんだろう? まさかの切り返しが来た。

 

 たぶん僕はマリーちゃんのこと好きだよ。友だちとしては確実に。でも女の子としてって、それってつまり、お兄ちゃんがリカお姉ちゃんを好きっていうときの好きなのかなあ?

 

「答えてよ! 私、男の子として、チヒロくんが好きなのよ。付き合って、の好きなのよ!」

 

 顔を真っ赤にして、涙を流して怒鳴るマリーちゃん。

 

 あ、これ本気のやつだ。……お兄ちゃんにもリカお姉ちゃんにも聞いたことがある、というか念押しされたよね。本気で好きって言われたら、本気で答えを返さないといけない、と。ちゃかしたり、いい加減じゃあだめだと。

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