聴取を交代して席に座ったアレクサンドラは挨拶をした。
「
「え、えっと…」
ドイツ語で話しかけられて、サッパリ不明な様子の彼女は目の前に座った少女に戸惑いを見せていた。グーテンターク以外はさっぱり分かんない。
「ふふっ、ご心配なく。少し揶揄ってみただけです」
「あっ、良かった…」
するとアレクサンドラは少し笑って言うと、少女は日本語が流暢であった事に非常に安堵した様子でため息を吐く。少なくとも英会話も安心できないのにドイツ語ともなるとわけわかめであった。
「ふむ…航洋艦晴風、艦長の岬 明乃…現在、横須賀校に帰港予定か…」
足を組んで彼女は肩に乗せた猫と共にバインダーに記された情報を読んでいく。すると岬は不安を隠さない様子で聞いてきた。
「あの…私達って…」
「安心したまえ。この拘束も一時的なものだ。聴取を終えたら解放する」
彼女はそう話すと、岬は武装した生徒達によって制圧されたことで乗組員全員に不安感が漂っていた。するとアレクサンドラはそんな彼女の顔色を見て話す。
「気を悪くしたのならすまない。我々は海賊に占拠された可能性を考慮していたのだ」
「ああいえ、怪我人は出ていませんので…」
岬はそう話し、全員が無傷で拘束された後に衛生長を除いて全員が船内教室に集められていた。
「それで、このさるしまに放った魚雷とは?」
「はい。さるしまは晴風に対し実弾による発砲を行い、怪我人の可能性から止む無く模擬魚雷を発射しました」
そこで岬から聴取の続きを行いながら彼女達のここまでの動向を聞いていた。
「なるほど、三時間ほど遅刻の後に集合場所に到着した…と」
「はい」
「映像などの類は?」
「状況は混乱していて、撮影は出来ませんでした」
「…」
話を聞き、アレクサンドラは少し考えてから予め大雑把に聴取していた内容を読み漁って行く。
「(事前に遅刻をしたのに砲撃?しかも実弾を?)」
着弾と同時に爆発炎を確認しており、見張員が右頬に軽く裂傷を負ったそうで、その際のカルテも残されており傷に間違いはなかった。
「(この艦の機関が壊れやすいことは学校側も把握している。了承の伝聞もあるのに何故?)」
晴風側から提出された通信記録の類も確認しており、さるしまからの攻撃による損傷は皆無に等しい。
「(それにシュペーもだ。何故無警告で艦砲射撃を行った)」
そこで彼女は信じられない様子でその聴取を読む。
「シュペーによる砲撃は?」
「はい。事情を説明するために鳥島沖合に移動し、その最中でアドミラル・シュペーからの砲撃を受けました」
「…再度お聞きしますが、事前警告も無しに砲撃を?」
「はい。追撃され、シュペーからの無警告射撃を受け、三番主砲が大破。後部甲板にも被害が出ました」
彼女は細かく話すが、その口調や唾の飛び方、極めて落ち着いた様子から、彼女は真実を語っているのだと理解する。
「(何を考えている。シュペー…カッツヒェン)」
そしてシュペーからの砲撃の最中、シュペーから脱出した乗組員を保護したと言う報告も上がっていた。
『艦長、破損した晴風の主砲、並びに後部甲板の調査が出来ました』
『かなり酷いですね』
その時、インカムを通して晴風の損害を確認していたヴェンデルガルトとヴァルトルートは報告をあげた。
「三番主砲は完全に大破。丸ごと交換するしかなさそうです」
「後部甲板も板が歪んでます。着弾痕の近くに破片を確認」
二人はライトを照射しながら、他に応援に来た航空整備班の面々と共に被害状況を確認していた。
「砲塔内部にも破片を確認。…砲弾は原型を留めていますが、十五cm砲弾です」
『…』
そこで破損した主砲塔から摘出された模擬弾を見てヴェンデルガルトは言うと、アレクサンドラは頭を抱えそうになる。これでシュペーが撃ったことは確実となったからだ。
「(無警告射撃は事実…海賊に占拠されたのはシュペーの方だったのか?)」
この時点で彼女は武蔵の砲撃の報告や、シュペーの晴風への無警告射撃、さるしまの砲撃。
現状起こった問題に対して彼女はまだまだ情報不足であると認識する。
「(取り敢えず、本当に錯乱して撃たれないようにするためにも、学校長の命令は秘匿した方が良さそうだな)」
未だに情報不足で不安げな様子の岬を見て彼女はそう判断する。
叛乱疑惑がかけられている晴風を下手に独断行動などに走らせないためにも、情報は知らない方が相手を御しやすくさせる。
『艦長、宗谷学校長から返信がありました。『保護に感謝する』です』
そこでアーダルベルトに残っていたエーリカが言うと、彼女は続ける。
『そして学校から救援艦隊に通信です。現在、武蔵、摩耶、五十鈴、名取、時津風、天津風、磯風、アドミラル・グラーフ・シュペーとの通信が途絶したそうです』
「…どう言うこと?」
そこで新たに現在位置不明の艦艇を聞いて彼女は首を傾げた。
武蔵やシュペー以外の艦艇が行方不明になったことに彼女は怪訝に聞き返してしまった。
『現在、通信が途絶した艦艇を横須賀校教員艦が捜索命令を出す可能性もありそうです』
「集団で脱走の可能性は?」
『分かりません。現時点では情報も何も足りていませんので…』
エーリカからの話を聞き、アレクサンドラは岬を見る。
「岬艦長、船内に海賊や反政府組織などの接触、乗り込みはありませんね?」
「ありません」
そこでレコーダーを確認してから岬に聞いた。
「分かりました。自衛目的で魚雷投射を行った、という認識でよろしいですね?」
「はい。間違いありません」
そしてレコーダーの電源を切ると、そのデータを持ってアレクサンドラは席を立つと、岬は聞いた。
「あの…どうして皆さんはこの海域に?」
岬からの質問にアレクサンドラは答える。
「我々は鳥島に向かう途中で通信障害を受け、緊急で横須賀に帰港する予定でした」
彼女は淡々と嘘を吐くと、岬はその話を信用した様子で納得していた。
「そ、そうだったんですね…」
「我々はこのまま横須賀に帰港します。晴風も同行しますか?」
「は、はい!」
岬は何を考えているのか分からない糸目に近い細目で、少しばかり緊張感のある、威圧感のあるアレクサンドラに少し緊張気味に答えた。
「あ、でもその前にクラスのみんなと一度相談をして良いですか?」
「分かりました」
岬にアレクサンドラは頷くと、部屋のドアを開けた。
「聴取は終わったぞ」
「了解しました」
そして部屋の外では突撃銃を背負った生徒は背筋をピンと伸ばして敬礼をして返した。
おそらく、人生においてこれほど後悔したことはない。
初めての海洋実習で遅刻し、そこで教員艦からの砲撃を受け、魚雷で反撃をしたところを叛乱疑惑をかけられ、昼間は留学生艦に無警告で射撃を受け、止めに深夜に銃を突きつけられて船内教室に集められていた。
「ついてない…」
そして大きくため息をついて真白はガックリと肩を落としていた。
元々自分が不幸体質であることは自他共に認めており、その不幸が最大限発揮されたのが今回の
「か、艦長は、大丈夫なのかな…?」
そこで知床が不安げに言うと、西崎が聞いてきた。
「向こうって、シュペーと同じドイツから来たんでしょ?何で撃ってきたのか説明してくれなかったよね」
教室に居た面々は一人一人聴取をされており、西崎も魚雷発射をした張本人として他の乗組員よりも長めに聴取を受けて疲れていた。
「ZZZ…」
立石に至っては教室で眠っており、教室内では他にも疲労から乗組員が眠ってしまっていた。
「みんな、お待たせ〜」
「「「「艦長!」」」」
そこで教室に戻ってきた岬を見て起きていた面々は彼女の無事に安堵していた。
「大丈夫でしたか?」
「うん。色々と質問をされたけど、事情は分かってくれたみたい。聴取も終わるから、アーダルベルトの人達は帰るって」
「そうですか…」
彼女は真白に頷きながら答えると、彼女は先ほどの強襲の理由を教えた。
「向こうは、私達が海賊の人質になっていた可能性を考えていたみたい」
「はぁ、そう言うことですか…」
すると教室の部屋がノックされた。
『失礼、晴風艦長はいるか?』
「あ、はい!」
岬はそこでドアを開けるとそこでは見慣れない黒い外套を羽織った制服を纏った生徒が立っていた。
「小さい…」
「あの人が、ドイツ艦の艦長さん?」
そこて岬と話していた比較的身長の小さな少女を見て立石と知床はそんなことを言う。
「救助したシュペーの乗員まで案内してくれるか?」
「分かりました」
流暢な日本語で少女は言うと、岬は『あれ、こんな身長小さかったの?』と先ほど座っていた時からは意外な身長に驚いてしまっていた。
「あ、あの…貴女方は一体…?」
そこで真白からの質問に少女は僅かに顔を上げた。
「…ああ、これは失敬」
そして少女は思い出したように背筋を改めて正して敬礼をした。
「私はプリンツ・アーダルベルト艦長、アレクサンドラ・イレーネだ」
「プリンツ・アーダルベルト記録員、アンネリー・フォン・ヴィッテルスバッハです。以後、お見知り置きを」
そこでタブレットを持っていた眼鏡をかけた生徒が記録員ということを知った。
「では、案内してもらえますか?」
「分かりました」
岬はそこでアレクサンドラを救助したシュペー乗組員がいる医務室まで案内を始める。
「猫…?」
その時、立石は常に彼女の足元に一匹の猫がいた事に気がついた。
そして医務室まで向かう途中、アンネリーは聴取を纏めていた。
「概ね、聴取の内容は同じですね」
「ええ、どうやら教員艦からの砲撃も、シュペーの砲撃も本物のようだ」
そこでアーダルベルトからの照射を受けて諸々の修理を始めている晴風を確認する。晴風は戦術航法装置や水上レーダーが損傷をしており、開放された乗組員はアーダルベルトから予備部品をもらって修理を進めていた。
「美波さん、中に入ってもいい?」
『良いぞ』
そして医務室に入ると、岬は扉を開けてアレクサンドラ達を中に招き入れた。