「雷跡二。左一二〇度、三〇。こちらに向かう!」
深夜、晴風においても見張員の野間が差し入れのどら焼きを食べかけようとした時、僅かに勘づいて海辺を見て伝声管に叫んだ。
「…」
その頃、医務室で気絶して横になっていたミーナは直後に感じた凄まじい振動と爆発音に驚愕した。
「っ!!?」
そして飛び起きた。
「な、な、何じゃぁぁああっ!!?」
ちょうどその頃、晴風の真後ろで二発の魚雷が時限信管が起爆して爆発していた。
「っ!?っ!?」
ミーナは驚愕して布団を握って左右を見回すと、そこで見ていた鏑木が話しかける。
「大丈夫か?」
「こ、ここは…?」
ミーナは困惑した容姿で知らない天井を見ていた。
「ふむ、どうやら意識はしっかりしているようだな」
そんな彼女に淡々と話していく少女。
「ここは横須賀女子海洋学校所属、航洋直接教育艦晴風の医務室だ。私はここの責任者の鏑木美波だ」
「晴風…」
名前を聞き、艦名を呟くミーナ。
「君はアドミラル・シュペーの副艦長だと聞いている」
「ああ…ワシはシュペー副長の…」
彼女はそこまで行ったところで困惑気味に周りの医務室を見ていた。
「だ、だがワシは何故ここに…?」
「覚えていないのか?」
「う、うむ…途中から何があったのか…」
その反応を見て、鏑木は事前に聞いていた状況との乖離から一時的な外傷性の記憶障害が出ていると診断した。
「シュペーからお前が飛び出してきて、しかもそのシュペーに攻撃されていたのだと聞いている。うちの艦長がスキッパーで出て、気を失っていたお前を回収してきた」
「そ、そうか…世話になった……」
その直後、船体が大きく揺れた。伊201から逃げる為に大きく旋回したのだ。
「一体如何なっておる?」
乱暴な操艦に晴風に何かが起きているのだと判断したミーナに鏑木が説明をする。
「この晴風は現在、潜水艦に追われている様だ」
「潜水艦!?潜水艦からの攻撃を受けているのか?!」
どういう状況だとミーナは困惑したが、今の爆発の衝撃が実弾でなければあり得ない威力であったために違和感を感じていた。
「だが、これは…ええい、此処では埒があかん!ワシの制服はどこじゃ?」
「此処に有る。海水で濡れていたが、ちゃんと洗濯し、乾燥機にかけてある」
鏑木はそう言いながら机の上を指差すと、ミーナは急いで病院着から着替え始めた。そしてすぐに着替え終えると、ミーナは鏑木に聞いた。
「艦橋はどっちじゃ!?」
「案内しよう」
そこで鏑木がミーナを甲板から艦橋まで走って案内した。
魚雷が爆発した様子を双眼鏡で岬は確認していた。
「あと六本…」
「こんなにすぐに見つかるなんて…」
真白も逃げられたと思っていた矢先の攻撃に唖然としていた。
「このド下手くそな操艦は何だ!?艦長は誰じゃい!?」
すると艦橋の近くから怒号が聞こえ、その声に二人は首を傾げて艦橋に戻る。
「この艦は、ド素人の集まりか?!」
そう怒鳴り込みながら艦橋に上がってきたのは、横須賀女子海洋学校ではまず見慣れない制服。そして先ほど自分たちの艦に乗り込んできたアーダルベルトの士官と同じ制服を纏った生徒。
その乗り込んできた時の気迫に、思わず誰しもが気圧されて納沙も少し引き気味にミーナに事情説明をする。
「今、潜水艦と戦闘中でして…」
「んな事、分かっとる!!」
その叱責に彼女達は驚愕して軽く悲鳴を漏らすと、ミーナは先ほど甲板を走った時に見えた明かりについて指摘する。
「ならば夜戦中なのに航海灯まで消していないとは何事だ!?」
「全部照明消して!」
その指摘を受けて、従わなければならないという直感が働いて岬は指示をすると、点灯していた航海灯の電源を落とした。
「こんなことしたら、他の艦とぶつかっちゃう…」
「戦闘時に自分の姿を晒すド阿呆がいるか!!」
「ひぃっ!!?」
その時、全ての照明を落とした時に知床が不安げに呟くとそれをミーナは叱責していた。
彼女のきつい広島弁と怒鳴り声は、元々そう言ったことに弱い知床には効果覿面だった。すると彼女は自分が艦長になったように指示を出していく。
「取舵いっぱーい!!」
「と、取舵いっぱーい…取舵二〇度〜…」
実質的に艦の指揮権がミーナになっているような状態に、一連の手早い動きに唖然と岬達は見ていた。
「聴音、聞き逃すなよ」
『畏まりました』
少女の命令に万里小路は承諾した。
「これで少しは時間が稼げるはずだ…」
彼女はそこでようやく一息吐くと、ようやく話せる間ができたので恐る恐る真白が訝しんで話しかけた。
「…お前は誰だ?」
「ん?ワシか?」
そこでミーナはそこでようやく自分が航洋艦の指揮を行っていたというちょっとまずい事態をしていたことを把握すると、改めて自己紹介をした。
「ワシは、ヴィルヘルムs「あっ!?ドイツ艦の子だよ、目が覚めたんだ!!」…」
しかし言いかけたところで岬に割り込まれて一瞬沈黙してしまう。
「いや、それより今は戦闘だ。すぐに反撃の準備に移る」
しかしすぐに気を取り直すように彼女は胸を少し張る。
「潜水艦戦ならワシに任せろ!」
「へぇ…」
その自信には岬も見上げてしまう。
「潜水艦の本場はドイツだからな!」
「「「おお…」」
そして彼女が自信満々に言うので、聞いていた面々は感嘆した声を上げた。
「さすがドイツ」
「ドイツ…」
「そいつ?」
ミーナは反応を聞いてから自信満々に聞いた。
「まずはド基本の爆雷で…」
「一発しかない」
それに真白が答える。
「じゃあド定番の対戦迫撃砲を…」
「そんなの積んでないって…」
「Mk.32対潜魚雷…!!」
「いつの時代だよぉ、ってか知らん!」
その返答を聞いて次第に唖然となっていくミーナ。後ろで聞いていた知床や納沙は、先ほどとのギャップから吹き出してしまう。
「じゃあ何があるんじゃい〜!」
「そう、私たちには何もない」
拳を握って彼女は叫ぶと、その背中で岬が頷く。
「だから知恵を貸してほしいの」
その要望にミーナはすぐに答えた。
「水中で動くものは何かないのか?」
彼女がミーナにそう告げた時、艦橋の電話が鳴った。すぐに納沙が受話器を取った。
「あっ、艦長。アーダルベルトから通信です」
「なんて言ってる?」
岬がそこで確認をしようとした時、ミーナは勘づいてその名を呟く。
「何、アーダルベルトじゃと?」
「ん?」
その名前を聞いて岬は首を傾げると、ミーナは恐る恐る聞いた。
「もしや、アーダルベルトとは…プリンツ・アーダルベルトのことか?」
「え?う、うん…そうだけど…」
岬は困惑気味に頷くと、ミーナは直後に激昂した。
「ド阿呆、なぜそれを早く言わんのだ!」
「えっ、あ、知り合いだったの?」
「んんっ、まあ…今は説明は面倒だ。兎に角、電話を貸せ!」
そう言いミーナはやや乱暴に電話の受話器を受け取った。
アーダルベルト艦橋では、晴風に被害報告を聞くために電話をしたのだが、少し意外な相手から返答があった。
「艦長、ヴィルヘルミーナ副長から通信です」
「何?」
その連絡に一瞬訝しんだ。
「ミーナが出たのか?」
「はい」
アンネリーは頷くと、アレクサンドラの隣でエーリカが推察する。
「魚雷の衝撃で目を覚ましたのでしょうか?」
「あんな至近距離の爆発じゃあ、あり得るかもしれんな…」
彼女はすぐに繋ぐように言うと、インカム越しでミーナと連絡が取れる。
「ミーナ、目を覚ましたのか?」
『ええ、さっきのこの魚雷のせい目を覚ました』
「そうか…色々と聞きたいことがお互いにあるが…」
『分かっている。とりあえず目の前の問題に対処しなければならない』
ミーナとそこで意思疎通を図ると、艦橋の窓越しにアレクサンドラは航海灯を落とされた晴風を慣れた夜目で視認する。なるほど、航海灯がいつの間にか消えたのは彼女の指示のようだった。
「状況はどこまで把握している?」
『対潜戦闘中で、こちらには爆雷が一発しか備わっていない所まで』
「よし、こちらも展開中だった飛行船に爆雷を装備させようとしているところだ」
そこで後部甲板で航空爆雷を乗せたトレーラーをケッテンクラートで牽引する航空整備員の姿を一瞥する。
『そっちで<ツァウンケーニヒ>は持っていないの?』
「あるにはあるが…使えると思うか?」
ミーナは次にアーダルベルトに積み込まれているはずの兵装を口にする、
『じゃあ何のために貴女達が遠洋航海で実験艦運用の改装されたのよ』
「元々こっちは回転翼機の運用前提よ!?こんな対潜戦闘想定していない!」
『地中海の時みたいな夜間発艦はできないの?』
「無理だ。対戦哨戒を行う機体は持ってきていない」
ミーナとアレクサンドラは次第に口調が激しくなる。
『じゃあ実践でTⅩⅠ使いなさいよ!』
「使えるか!相手は海洋学校の学生艦だぞ。太平洋で国際問題を起こすつもりか!!」
晴風ではミーナが地団駄を踏んでドイツ語で怒鳴り始めていたので、聞いていた納沙達が唖然となって見つめていた。
「なんか揉めていますね」
「アーダルベルトの艦長と知り合いなのかな?」
岬はやや呑気に見ていると、新たに通報が入る。
『雷跡一、左一五〇度二〇。こちらへ向かう!』
野間が新たに魚雷を発見する報告を行うと、すぐに岬は指示を出す。
「リンちゃん!面舵一杯!」
「面舵一杯!面舵二〇度〜!」
そして回避行動を行うと、ミーナはその間もアレクサンドラと交渉した。
「今は緊急事態だ。潜水艦に攻撃をされ続けたらなぶり殺しに遭う!」
『しかしこっちのTⅩⅠは実弾だ。命中したら潜水艦は確実に吹き飛ぶぞ』
「そもそも一方的に攻撃を受けている時点で大問題だ!」
ミーナはアレクサンドラに潜水艦で攻撃を受けている現状に頼み込む。
「頼む。その方が生き残れる」
『…』
そして少し間を置いてからアレクサンドラはため息をついた。
『…分かった。こちらで魚雷を使おう』
その直後、アーダルベルトの艦橋でややギョッとしたような声が上がった。しかしアレクサンドラはすぐに彼女達の為のように言う。
『ただし、使うのはTⅩだ。直前で何とか自爆させて見せる』
「了解。こちらでも潜水艦探知を行わせよう」
双方に了承が取れると、ミーナは受話器を戻して通信を切った。