国を背負う巨獣が、俺にだけ「痛い」と言う   作:三打して待つ人

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荷物は一頭に載せない

歩けなくなって初めて、指揮台には階段があると気づいた。

 

共有荷台の見張り台は七段。

 

左脛へ荷を掛けられない俺には、一段でも多い。

 

ジオとフェン工人が担架板を持ち上げようとしたので、断った。人の荷を受ける作業ができない俺を、今度は二人の荷物にして高い席へ運ぶ。それで全員の指揮をするのは、何かがおかしい。

 

「下へ板を置いてくれ」

 

「上でないと橋と塔が見えない」

 

ジオが言う。

 

「見える人に報告させる」

 

「全体を見ないで指揮するのか」

 

「俺が見える範囲を全体って呼ぶよりましだ」

 

見張り台の下、四本の柱に囲まれた場所へ低い作業板を置いた。寝たままでは声が腹へ入りにくいので、背へ水袋を二つ。左脚は添え板で固定し、踵を浮かせる。エマが壊れた橋材から杖を一本削ってくれたが、今夜は立つためでなく、届かない板を指す棒に使う。

 

見張り台にはミラが上がる。塔と二頭の角度を透明板で読む。

 

カロク前節はヤシュ。短脚の出血、水膜、兵站の重さ。

 

フェン円環城はエマ。接地板、貯水嚢、避難区画。

 

仮橋中央はネネ。横綱の左右差、残り家材、共有台の刻印。

 

ジオは四つの報告を同じ鐘で運び、残留隊士二人は各国の記録係へ戻る。

 

俺の席から二頭は見えない。

 

代わりに、誰が何を見ているかは全部見えた。

 

報告板は四枚、色を分けない。カロクの赤やフェンの灰で分けると、危険値まで国ごとの主張に見える。板の角へ、脚、水、台、人の刻みだけを入れた。

 

同じ鐘で届かなければ、遅い板を待つ。早い側の数字だけで先へ進まない。報告者が交替する時は名前でなく、どの測定器を引き継いだかを書く。

 

細かすぎると言われるかもしれない。

 

でも、俺が上から全部を見て「あれを動かせ」と叫ぶ形なら、俺が倒れた瞬間にまた止まる。昨日、脛一本で証明したばかりだ。

 

歩けないことが悔しくない、と言えば嘘になる。

 

見張り台の七段くらい、自分の足で上がりたい。橋の継ぎ目を手で触り、二頭の音を近くで聞きたい。低い板へ寝て人の報告を待つのは、仕事をしているというより、仕事を恵んでもらっている感じがする。

 

その感じを消すために無理をすれば、次は担架を持つ人の仕事まで増える。

 

役に立つ形を、自分の得意な一つへ固定しない。

 

そう決めて、最初の四枚を待った。

 

「接触計、十五刻」

 

ミラの第一報。

 

「カロク三節目前、水膜北西八。短脚四本、二本再出血」

 

「フェン前左、新裂け半指。貯水嚢は前側へ寄って水位十九」

 

「横綱差二。切断条件三」

 

塔の最大律が来るたび、数字が悪くなる。

 

白杭十一本は、もう現地で一本ずつ止められない。帝国船が黒管から同じ律を送り、抜けば三節目の支えが減る。残せば引かれる。

 

塔を先に壊す案は赤だ。

 

二頭が自分で離れようとする力を、衝突ではなく腹合わせの向きへ逃がすしかない。

 

古式共有台の「荷」刻印を、透明板へ写して作業板へ置く。

 

字は一つだけ読める。周りに、三本の太い線と十二の浅い欠け。カロク脚へ一本、フェン脚へ一本、中央台へ一本。欠けは六つずつ左右へ分かれている。

 

「三つの荷を十二回に分ける?」

 

ネネが言った。

 

「数は合う。でも、何の荷だ」

 

「昔なら水と町と人」

 

ミラが古図を下ろす。

 

「カロクは広い水膜を運び、フェンは腹の貯水嚢に溜める。乾季に腹を寄せるなら、水だけが片方から片方へ移るのではありません」

 

古図の季節印を見る。

 

乾季の前半、カロク側の線が太い。後半はフェン側。中央は途切れず、十二の欠けごとに左右が入れ替わる。

 

「持つ番を替えてる」

 

水を渡すだけではない。

 

カロクが前半に水と乾燥食を運ぶ。腹合わせでフェンへ水を預け、その代わり、フェン側の軽い家材と季節荷をカロクへ移す。後半はフェンが貯水を持ち、カロクは水膜を軽くして砂の硬い側を歩く。

 

荷の総量を減らす約束ではない。

 

同じ一頭へ、ずっと載せない約束だ。

 

今は正反対になっている。

 

フェンは水位十九まで減った貯水嚢を前へ寄せ、外門を守る兵と避難民を円環前側へ集めている。カロクも水樽、杭隊、武器、国境を失った仮小屋を三節目前へ寄せた。両国とも相手に近い側だけが重い。

 

重い前同士を塔が引けば、顔からぶつかる。

 

「前の荷を中央へ出す」

 

ヤシュが伝声筒の向こうで黙った。

 

「カロクの水樽をフェンとの橋へ?」

 

「所有を渡すんじゃない。共同台へ一刻預ける。フェンも前側貯水袋と外門兵站を出す。二頭の腹側、横へ重さを作って向きを変える」

 

「帝国がまた狙う」

 

「だから全部は載せない。十二欠けの一つずつ。片側が止めたら両方止める」

 

エマも反対した。

 

「フェンの水を橋へ出して、横綱が切れたら終わりだ」

 

「水位十九を全部出さない。最初は一目盛り。受け袋六つへ分ける。橋が落ちても、六つ全部は同じ側へ落ちない」

 

「避難民は荷ではない」

 

「人を重しとして動かさない。行き先を保留した七十五人が中央共有荷台を選んでる。その人たちの寝床と食料を、本人の同意なしに別の脚へ移さない」

 

人も町も水も、重さはある。

 

だから同じ物として扱っていい、とはならない。

 

水袋は弁を開けば動かせる。食料は持ち主へ返せる。人には、重さとは別に選ぶ足がある。

 

「七十五人へ三案を出す」

 

中央代表へ板を送る。

 

カロク側共有台、フェン側共有台、今の中央台。どれも兵は入れず、水と寝床を両国折半。移動しない選択も、途中で変える選択も残す。二頭の向きが変わった場合の傾きと、塔最大律の危険も書く。

 

「今、住民総会をする時間があるか」

 

ジオが訊く。

 

「七十五人の行き先を俺が決める時間なら、もっとない」

 

総会という大きな席にはしない。家ごとに出口札を回し、中央代表が集計する。返答待ちの間に、水と兵站の第一欠けを準備する。

 

 *

 

最初の共同台は、古式仮橋の中央床を使わなかった。

 

帝国に射線を読まれている。カロク腹側の低い水膜棚と、フェン貯水嚢の後ろを二本の吊索で結び、霧砂すれすれへ新しい荷台を下ろす。

 

カロク工人が台骨を出し、フェン工人が水袋継ぎを作る。ミラが二頭の腹曲線を測り、ネネが帆糸で吊索の振れを読む。

 

俺は作り方を全部決めない。

 

報告の形式だけを揃えた。

 

現在荷重、次に動かす量、停止値、失敗時の戻し先。四つ。それ以外の現場判断は区画責任者へ渡す。

 

「カロク水樽、第一欠け六十。台へ」

 

「フェン受け袋、水位一線分。台へ」

 

「兵站は」

 

「カロク杭材十二束。フェン外門支え材八束と乾燥食四箱」

 

重さを同じにするため、物の数は違う。

 

武器は載せない。共同台を兵站庫に変えれば、どちらが先に取るかで兵が戻る。橋上で預かった槍と黄封武器は、円環城後ろの共同庫へ残す。

 

第一欠けを吊る。

 

カロク三節目前の水膜が北西八から七。

 

フェン前左の接地板は、前寄り荷重が半欠け減る。

 

二頭の向きは変わらない。

 

だが悪化も一打止まった。

 

「第二欠け」

 

言いかけて、止めた。

 

今のは俺が出す合図ではない。

 

「各区画、継続判断」

 

ヤシュは短脚の出血を確認し、白。

 

エマは接地板と貯水嚢、白。

 

ネネは吊索差一、白。

 

ミラは腹角、変化なしだが戻し可能、白。

 

四つそろって、第二欠けへ進む。

 

第三、第四。

 

共同台が重くなるほど、二頭の前側は軽くなる。カロクは頭を北西から西へ半欠け戻し、フェンは円環前を南東へ逃がす。

 

塔は正面へ引く。

 

二頭は横へずれる。

 

顔を合わせる角度が、腹を並べる角度へ少しずつ変わる。

 

第五欠けで、問題が出た。

 

カロクの乾燥食箱に、国境杭隊の赤印がある。フェンの工人が共同台へ載せるのを止めた。

 

「兵へ配る箱だ」

 

「前節の住民分だ」

 

ヤシュが返す。

 

「赤印は杭を動かす隊の印だ」

 

「倉が同じなんだ」

 

物の説明で済ませれば、また相手の嘘になる。

 

箱を開ける。乾燥霧魚、子ども用の薄粥袋、兵用の塩固めが同じ箱に入っていた。配給倉が前節で一つしかないためだ。

 

「分ける」

 

子ども粥と通常食は共同台。兵用塩固めは後ろの庫へ。赤印箱そのものは空にし、持ち主欄を消さずカロクへ返す。

 

フェン側も外門支え材の束に槍柄が二本混じっていた。支え材だけ台へ、槍柄は共同庫。

 

両国とも、暮らしと戦の荷を同じ倉へ入れていた。

 

箱の色だけで分ければ、住民の食事まで敵の武器になる。

 

第六欠けへ進む。

 

中央の七十五人から返答が来た。

 

カロク側共有台へ二十一人。フェン側へ十九人。今の中央へ三十五人。家族を分けず、七人は次の測定で再選択。移動する四十人は自分の寝具と道具だけを持ち、両国工人が同数ずつ台車を押す。

 

人の移動は、水の欠けへ数えない。

 

本人が選んだ結果として、別の欄へ重さを測る。

 

第七から第九。

 

前側の兵も移す。

 

退却と呼べば、先に下げた国が負けになる。だから両国同時に、前線兵の三分の一を水濾過と避難寝床の作業へ配置換えする。剣や槍は共同庫。本人は道具札を持ち、カロク兵はフェンの受け袋を、フェン兵はカロクの水樽を触らない。自国側の仕事だけでは共同にならないので、二人一組で台の傾きを読み、弁は各国水守が開ける。

 

仲よく一つの仕事をする、ではない。

 

相手の勝手を止める目として、同じ場所にいる。

 

それで十分、荷は分かれる。

 

第八欠けの途中、フェン側の受け袋から白砂水が漏れた。

 

俺の板へ届いた時には、エマがもう赤を出している。全区画停止。フェン工人は袋を閉じ、カロク側も水樽の弁を同じ目盛りまで戻した。片側だけ予定量を載せれば、共同台が傾くからだ。

 

漏れは底縫い二指。昨日の仮水路で使った古布を裏返し、濡れた側を外へ出していた。乾いた面なら一刻持つという見込みだったが、塔律の横振れは計算へ入っていない。

 

「新しい布を使う」

 

エマが言う。

 

「フェンの在庫は外門修繕へ回した」

 

ヤシュがカロクの水樽覆いを一枚出す。赤い肩印が付いた布だ。

 

フェン工人はすぐ受け取らない。

 

「あとで水袋をカロクの物だと言うな」

 

「布一枚の所有札を別につける。水の所有は変えない」

 

ミラが布、袋、水、作業の四欄を作った。布はカロク貸与、袋はフェン、水は共同測定中、縫い手は両国一人ずつ。返す時は同じ布でなく、同じ幅と厚みの布でもよい。

 

小さな帳面仕事で十分な争いもある。

 

補修後、袋を半量だけ載せ直す。三十息漏れなし。ネネの差は一。エマが白を返し、第八欠けを終えた。

 

第九欠けではカロク短脚の一つが沈んだ。

 

前の荷を減らしているのに、古傷の周囲へ塔律が残っている。ヤシュは荷の移動を増やすのでなく、短脚支えへ共同台の浮き袋から補助索を一本返した。荷を軽くすることと、弱った場所の支えを外すことは同じではない。

 

カロクの仕事だからとフェン側は触らず、代わりに自国接地板の裂けを同時測定する。両方が白になってから、兵の配置換えを再開した。

 

俺が出した指示は一つもない。

 

止めた板と、再開条件を読み合わせただけだ。

 

それでも四つの報告は、俺の低い板で一つの工程になった。

 

十番目で、塔の律が強くなった。

 

黒管の逆送が共同台の吊索まで震わせる。差一から二。切断条件三へ近づく。

 

「止める」

 

ネネの赤札。

 

全区画が止まった。

 

俺は反射で、あと二つだと言いそうになった。十二欠けを全部埋めれば、初約が手に入る。塔を止められるかもしれない。

 

だが、初約は作業を続けるための賞品じゃない。

 

吊索差二。今進めば切れる。

 

「戻す?」

 

「戻さない。今の台で保持。ネネ、振れが一へ戻る条件を」

 

「塔の打つ時だけ二。打たない間は一。二打一打の逆で、台を半欠け下げる」

 

ミラが吊点を三つ描く。今の二点吊りだと、塔律が左右差へ直に入る。中央へ霧砂の浮き袋を一つ足せば、荷の一部を地面へ逃がせる。

 

カロクの管番が古い水袋を出し、フェン工人が底へ逆流止めを付ける。

 

俺が考えた物ではない。

 

俺にできるのは、浮き袋の継ぎ目が今の荷重に耐えるか、報告された幅と縫い目から赤を出すことだけだ。

 

中央袋を半分膨らませる。

 

差一。

 

ネネの札が白へ戻った。

 

十一番目。

 

最後の十二番目は、物ではなかった。

 

両国の作業板だった。

 

カロクは水量板を自国の水守台へ置き、フェンも貯水板を円環城へ置いたまま、写しだけを交換していた。相手が原板を奪えば水の権利を失うと考えたからだ。

 

古式刻印の最後の浅欠けは、板と同じ幅だった。

 

「記録を中央へ置くのか」

 

ヤシュの声が硬い。

 

「所有を渡すんじゃない」

 

エマが先に答えた。

 

「同じ時刻の原板を、同じ台で読む。終われば各国へ戻す」

 

ヤシュはしばらく返さなかった。

 

俺は説得しない。

 

水が減った時、先に記録を隠したのはどちらも同じだ。原板を出す危険を払うのも、俺ではない。

 

やがてカロク側から水量原板が来た。

 

フェン側から貯水原板が来る。

 

中央共有台で、二枚を同じ帝国正午星の線へ合わせた。

 

十二の欠けが埋まった。

 

橋下の「荷」刻印から、低い律が返る。

 

最初は塔の逆送だと思った。

 

ミラが腹角、ネネが吊索、ヤシュが水膜、エマが接地板を読む。四枚とも、塔の一打より半息早い。帝国管から来た律ではない。

 

共同台の三点吊りが一度沈み、その重さをカロクへ六、フェンへ六に分けて返す。次の一打では左右が逆になる。人間が十二の欠けへ荷を置いたあと、二頭が自分で順番を選び直していた。

 

「取得と記録する条件は」

 

ジオが問う。

 

「俺の歯だけじゃ足りない」

 

四枚の測定板を重ねる。二頭の足、共同台、外から見た腹角。全部が同じ交替を示す。さらに中央代表へ、床の揺れが左右交互か確かめてもらう。三十五人中、別々の位置にいる六人が同じ順を返した。

 

そこで初めて、節名を板へ置いた。

 

人語の歌ではない。

 

カロクの長い踏みと、フェンの短い二拍。その間へ、共同台の三点吊りが一打を置く。持つ、渡す、休む。次は反対側が持つ。

 

十二回すべて同じ側が重くならない順だった。

 

初約「荷」。

 

三節目を得た。

 

俺が言ったからではない。水と食料を分け、兵を作業へ移し、七十五人が行き先を選び、両国が原板を同じ台へ置いた結果へ、二頭の律が返った。

 

カロクが一歩、長く踏む。

 

フェンが二拍目を半息遅らせる。

 

次の一歩で、二つが重なった。

 

歩調が同期した。

 

塔の最大律が、二頭の間で一度だけ行き先を失う。接触計は十五で止まり、腹角がさらに一欠け開いた。

 

共有荷台の床が、巨大な響骨みたいに鳴った。

 

俺の右奥歯へ来た律が、脛、肋、作業板へ抜ける。

 

痛みに息を詰めた。

 

「止まったのか」

 

確認のつもりで、小さく言った。

 

床が同じ言葉を拾った。

 

共有荷台から仮橋へ。仮橋からカロク前節とフェン円環城へ。水管、橋板、接地輪、家の床まで二頭の同期律が運ぶ。

 

――止まったのか。

 

自分の声が、カロクとフェンの全都市から返ってきた。

 

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