頭文字D Two Openings   作:三坂

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第5話 ヤビツ峠

 

 

 ヤビツ峠(ヤビツとうげ)は、神奈川県秦野市にある主要な峠であり、日中は多くのドライバー、サイクリスト、ハイカーに愛される有名なスポット。

 しかしそれはあくまでも表向きの姿であり、ひとたび暗闇に日が落ちれば別の素顔が顔を出す。

 

 

ドギャァァァ!!

 

 

 日中は多くの人で賑わう「表ヤビツ」は急勾配に加え、見通しの悪い連続するヘアピンカーブ、狭い道幅が特徴。

 これが走り屋(ローリング族)にとって「腕を試す絶好のステージ」試す絶好の峠となっており、今も多くの走り屋が己の腕を試すように走り込んでいた。

 

 そんなヤビツ峠のスタートゴール地点として使われ、走り屋達の屯する場所でもある菜の花台展望台より麓側の峠道を見慣れたRX-8とNAロードスターの2台が登るように走っていた。

 

 

ブロロロ

 

 

 先頭を走るRX-8の後ろ、ロードスターの車内では助手席対照的に退屈そうにしている千景に対して、運転席に腰掛け上機嫌なユキが急なお誘い受けてくれてありがとう!といった会話を交わしていた。

 

 

「いやー、群ちゃん来てくれてありがとー。急なお誘いだったのに!」

「別に……、ってか来ざるおえなかったんだけど…ほぼ強制だったし…」 

 

 

 まあ確かに言われてみればほぼ成り行きみたいな感じではあったものの、ユキの言う通りなんだかんだいってきてくれる時点で本気で嫌がってる…という訳ではなさそうではあるが…

 そんなことを話しているとふと千景が、ここにはよく来るのかと何気なく尋ねていく。

 

 

「…ねぇ、ユキ」

「ん?何ー?」

「ここってよく来るの?ヤビツ峠…だったかしら」

 

 

 よく来る…といえば嘘にはなるが彼女自身沙耶に連れて行ってもらう形であちこちの峠にこうしてお邪魔しては、地元の走り屋に混じって技術を磨くために夜遅くまで走り込んでいるらしい。

 

 

「よく来る…!って言えば嘘にはなるけど、よく沙耶先輩に連れて行ってもらう形で神奈川県内の峠のあちこちに走りに行ってるの」

「へぇ…そんなにあちこち…」

「うんっ、技術を磨くならいろんな人と走ったほうがいいって沙耶先輩はよくいうからさ♪」

 

 

 一人で走るために技術を磨いている自分とは対照的だな…そんなことを思いながら外の景色を眺めていると、目的地である菜の花台展望台に到着。

 

 

ーみんなで…私とはえらい違いだな、一人で誰にも絡まないよう技術を磨いてたのに…ー

「あっそろそろ着くよー、菜の花台展望台!」

 

 

 2台は適当な空いてるスペースに車を止めると、RX-8から沙耶が、ロードスターからはユキと千景が車から降り立っていく。

 

 

キキッ

「とーちゃく!」

「……」

 

 

 普段なら絶対に来ることのない賑わった時間帯の走り屋達の休憩スペース、少し窮屈に感じながらも千景は同時に何処か楽しげな雰囲気を思わせていた。

 そんなことを思っている間にも、沙耶は地元の連れと話をつけており、千景の近くではユキがいつでも出れるようにウォーミングアップを済ませている。

 

 

ー普段なら絶対来ない場所…、窮屈だけど……なんだろう…みんな楽しそう…ー

「ういっすー、お疲れー」

「おうお疲れ沙耶ちゃん!今日はここか?」

「ええっ、次コース空きそう?ユキと走りたいんだけど…」

「〜♪」

 

 

 しばらくそんな感じで周りを眺めていた千景だったが、ふとユキがもしコース出るならどっちに相乗りするかと尋ねていく。

 まあ一人置いていくわけにはいかないと思ったのだろう、本人的には自分のほうに乗ってほしいと思っていたのだが、少し考えた千景は一旦沙耶のほうに相乗りさせてもらうと告げた。

 

 

「…あっこのあとコース出るならどっちに相乗りする?流石に群ちゃんを一人ここに置いていくわけには行かないし…」

「……じゃあ、沙耶さんで」

 

 

 それを聞いたユキはえぇ…!?と悲鳴に近い声を上げるが、千景曰く別に信用していないというわけではなくまだ走りを見てないから見てから判断したいからというもの。

 ちなみに沙耶のほうは問題ないと思ったのは積車やRX-8の運転をみる限りや雰囲気的に信頼できそうだったかららしい。

 

 

「えぇ〜!?なんでぇ…」

「いや…貴方の本気走りをまだ見てないからよ…、それ見てから決める」

「…じゃあなんで沙耶先輩はいいの?」

「そりゃ雰囲気的に、あと積車やRX-8運転してるとき貴方よりも安定してたから」

 

 

 確かにそうだけどさー…と少し不満げだがその通りと言わんばりの表情を浮かべていると、そんな2人の元にに連れと話し終えた沙耶が戻ってきた。

 どうやらいま走ってる人達が帰ってくれば1本走ることが出来るらしく、それまでは待機という形をとるとのこと。

 

 

「むぅ…そりゃそうかもしれないけどさぁ…」

「あっお待たせ二人とも、いま走ってる人が終わったら一本いけるって」

 

 

 ちなみにどっちに乗りたいかと沙耶から聞かれた千景は、迷うことなく彼女と答えていき、ユキが不服そうにそっちのほうが信頼出来るから…と経緯を説明していく。

 それを聞いた沙耶は走りをまだ見せてないのにプレッシャーかけるなぁ…と苦笑いで話しつつ、別にいいよと返答を返す。

 

 

「ちなみに走るときはどっちに」

「沙耶さんで…」

「聞いてよ先輩、群ちゃん即答なんだよ?私よりも信頼出来るからって」

「まだ千景さんに走り見せたことないんだけどなー…(汗)ちょっとプレッシャーだけど…、オッケー分かった。いいよっ」

 

 

 とまあそんなやり取りをしていると先ほど話していた人達が帰ってきたのか2台のエキゾースト音と共に、上の方からオレンジ色とと青色のNB8CロードスターとMR-Sが降りてきた。

 

 

ギャァァァ!!

ウォンウォン!!

 

 

 その後走り屋達が屯している菜の花台展望台に2台は入ってくると、ユキ達とは少し離れた場所に停車。

 その後運転席ドアがそれぞれ開くと、ロードスターからはこのヤビツ峠をホームコースとしているチーム246のリーダー、大宮智史が…

 

 そしてMR-Sからはユキの親友でもある美樹さやかがそれぞれ降り立つ。

 

 

キキッ

「っと…」

「よっと…」

 

 

 長尾峠を拠点としているさやかだが、ヤビツ峠や七曲りもバトルや走り込みをしているためチーム246の大宮とも面識があり、こうして峠で出逢えば手合わせみたいな感じで走り込んでいるらしい。

 

 

「いやー大宮さん速いねー、ついていくのがやっとだよー」

「当たり前だ、これでもリーダーやってるもんでね。いくらお前っても負けてちゃ示しがつかん」

 

 

 すると大宮と同じチーム246のメンバーでありヒルクライムを担当するランエボ乗り、小早川が話があるとこちらにやってきたことで、さやかは邪魔にならないようにその場を後にしていく。

 

 

「よう大宮、ちょっといいか?」

「あぁ、悪いさやか。ちょっと席外して貰っていいか?」

「いいよっ、んじゃまた!」

 

 

 その後は適当な場所で休もうかな…そんなことを思いながら歩いていると、少し離れた場所に見慣れたNAロードスターとRX-8と共に、話し合ってるユキと沙耶を見つける。

 だがそれと同時に見慣れない黒髪ロングヘアーの少女がいることに気づくと、あの子がユキの言っていた子かな?そんなことを思う。

 

 

「さてと…私は適当な場所で休憩でもして…ってお?あれは…」

「んじゃそろそろ行く?走ってた人たち戻ってきたみたいだし」

「はーいっ!あっ今日は私先行いきたい!」

「ユキに沙耶先輩じゃん、ってん?見慣れない子がいる……もしかしてあの子かな?ユキの言ってた子」

 

 

 見れば見るほど中学時代に転校してきた転校生に容姿も雰囲気もそっくりだな…内心そんなことを思いながら、あんまり好きじゃないんだよな…と苦手意識を見せる。

 …がもしかしたらいい人かもしれないし、初対面で失礼があっちゃいけない!そう思ったさやかは気持ちを入れ替え近寄っていく。

 

 

ーうへー…見れば見るほどそっくり…私的には苦手だなー…、っていやいや!失礼ないようにしないと…!もしかしたらいい人かもしんないし!ー

「よしっ…!」

 

 

 その後いつものテンションでユキにお疲れーと声をかけていくと、それに気づいた彼女も満面の笑みを浮かべながら駆け寄る。

 もちろん沙耶も顔見知りのため、お疲れさまと声掛けながらさやかの元へとやってきた。

 

 

「ユキー!お疲れー!」

「あっさやかちゃん!お疲れ!」

「お疲れさまさやかちゃん、さっき走ってたのさやかちゃんだったんだねー」

 

 

 だが千景は初対面のため乗り込もうとしていた沙耶のRX-8から離れることなく3人を見つめており、その様子を横目にあの子が前言ってた子?と尋ねると、ユキはうん!と答えながら自己紹介していく。

 

 

「……」

「ねぇユキ、あの子が学校で言ってた子?」

「うん♪紹介するよ、郡千景ちゃん!」

 

 

 当然さやかのことも千景は知らないため、ユキはさやかの自己紹介もすると彼女がよろしくー!といつものテンションで近寄りながら右手を差し出す。

 

 

「んで群ちゃん、この子が私の親友の美樹さやかちゃん!」

「どもー、ユキの親友の美樹さやかでーす。話は聞いてたよ、よろしくっ!」

 

 

 もちろこの後の展開はなんだかんだいいながら差し出された右手を握り返すというもの…、なのだが千景はその差し出された右手を軽くてで振り払った。

 

 

パシッ

「へ…?」

 

 

 当たり前だが振り払われたさやかはもちろんのこと、一部始終を見ていたユキもえっ?という目が点になりそうな雰囲気で唖然と見つめる。

 しかし千景は気にすることなく、さやかに対して悪いけど馴れ馴れしくするつもりはないから…そんなことを返していく。

 

 

「…え?」

「悪いけど、馴れ馴れしくするつもりはないから…」

 

 

 何とも言えない雰囲気がしばらく続いていたが、遅れる形で怒りがひしひしと湧いてきたのか、さやかが完全にオコな表情をみけながら詰め寄ろうと歩みだす。

 …がその前に間髪入れずにユキが待った!とかけたことで、衝突はなんとか回避出来た。

 

 

「…あ?こっちが挨拶してるってだけなのに何よその言い草は…!ちょっとこっちきなさい、しっかり後悔させて…」

「はいストップー!!2人とも喧嘩しないで…!!」

 

 

 なんとか宥めているユキの後ろ姿をみつつ、こりゃ思ってたよりも癖が強い子だな…そんなことを沙耶は思う。

 それと同島そんな子相手によく強気な立ち回りが出来るわね…とユキのメンタルの強さに関心していた。

 

 

「いやだってコイツが失礼な態度を…!」

「はぁ!?私は馴れ馴れしくするつもりはないって言ってるだけで…」

「あーもうヒートアップしないの…!群ちゃんも落ち着いて…!」

「あはは…」

ーこりゃ思ってたよりも癖が強そう…、ってかこんな子相手にユキはよくあのテンションでいられるわね…ー

 

 

 その後なんとか離したことで宥めることには成功したものの、まだ納得できてないさやかはユキに対してあんな失礼な奴、絡む必要もないし放っておいていいんじゃないと口していく。

 がユキは全然そんなことを思っていないというかこの展開は想定外だったのか、あたふたしながらも一生懸命千景をフォローする。

 

 

「ったく何なのよアイツ、ユキ。あんなの放っておいていいんだからね、失礼過ぎるし」

「あっいや…群ちゃんは元はいい子…いやさやかちゃんからしたらそうじゃないかもしれないけど…」

 

 

 ちなみに当の本人はというとそそくさとRX-8の助手席に乗り込んで、運転席から顔を覗き込ませていた沙耶と話しており、もしかして人付き合い下手くそ?と彼女から指摘を喰らっていた。

 

 

「千景さん…、貴方って思ってたよりも人付き合い下手くそ?」

「……」

 

 

 そんなやり取りをしているとなんとかさやかを宥めて来たのかユキが駆け足でこちらに戻ってきて、かなり脱線したものの一走り行こうと沙耶に提案していく。

 

 

「黙ってるってことは…図星ね」

「先輩ー!お待たせ…!早速走りに行こうよっ、脱線したけど…」汗

 

 

 もちろんそのつもりであった沙耶はオッケーと告げながら運転席ドアを開けながら乗り込んでいき、ユキも一言千景に触れると、そのまま隣のロードスターへの運転席へと乗り込む。

 

 

「オッケー、んじゃさっき話した通りユキちゃんが先行ね?私は後から追っかけるわ」

「はーい、んもー群ちゃん。人付き合いは苦手でもちゃんとしないと…」

スタタタ

 

 

 そんな彼女の後ろ姿を横目に、本来なら貴方とも馴れ馴れしくするつもりはないんだけどね…と思いながらもかつての親友を思い出すと、強く言えない自分に内心呆れていた。

 

 

「……」

ー本来なら貴方とも馴れ馴れしくするつもりはないんだけどね…、はぁなんで似てるからって強く言えないのか…ー

 

 

 その間にもエンジンを始動した2台は、沙耶の手合図でユキの操るロードスターが先に動き出し、それに続く形で沙耶のRX-8がロータリーサウンドを響かせなが展望台駐車場を後にした。

 

 

キュルル

ウォンウォン!!

ーいいよっ、出てー

ー了解です…!ー

ゴフッ

 

 

 その後コースに出ると、沙耶が助手席に座っている千景に対してしっかり捕まるように指示しつつ、あの子の走りもちゃんと見てあげてね?と告げていく。

 もちろんそのつもりである千景は軽く頷きながら、視線を前に向けると前を走るユキのロードスターのテールランプを見つめる。

 

 

「そろそろ行くわよ…!しっかり捕まってて、…それと…」

「…?」

「あの子の走り、ちゃんと見てあげてね」

 

 

 直後スタートの合図を知らせるハザードをロードスターが炊くと共に弾かれたように心臓部であるBP-ZE型エンジンを咆哮させながらホイルスピンと共に加速。

 もちろん沙耶もそれに続く形でアクセルを踏み込むと、特徴的なロータリーサウンドを響かせながら最低限のホイルスピンと共に速度をあげる。

 

 夜のヤビツ峠に2台のけたたましいエキゾーストサウンドを響かせながらアップダウンの激しい暗闇のヤビツ峠に飛び出していくのであった。

 

 

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