浮島のリオスと地上の旅   作:nocomimi

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第一章: 浮島のリオス
女神像の足元にあるもの


「おい、リオス!見てみろよ!いま雲の下になにか見えたぜ!」

 

三人の少年が、下方に雲海を見下ろす崖の上にいた。そのうちの一人の、眼鏡をかけた利発そうな少年が叫ぶと、背後の地面に座り込んでいたもうひとりが顔を上げた。

 

「――ほんとか?どこ見ても雲ばっかりじゃねえか」

 

リオスと呼ばれた少年は手に持った小石を崖の外に向かって投げながら言う。彼はややだらしなく伸びた金色の髪に、緑のチュニックを着ていた。

 

すると眼鏡の少年が振り向いて言った。

 

「ほんとさ。雲の間から森が見えたんだ。それから石造りの建物みたいなのも。チラっとだけどさ」

 

「お....俺よぉ...聞いたことあるぜ。し...下には化け物がいっぱいいるって話しだろ?おっかねぇよなぁ」

 

隣にいた太った赤毛の少年が、怖気を振るったように言う。すると眼鏡の少年は彼を肘で小突きながらからかった。

 

「またロドの怖がりが出たよ。お前はいったい人の言うことを疑うってことを知らないんだよなぁ」

 

「だってよぉセバルス....。年寄りたちがよく言ってただろ、森から鬼が出てきたとか出てこなかったとかよぉ」

 

「ロド、お前まだそんな昔話信じてるのか?俺たちもう十五歳だぞ?」

 

「でもよぉセバルス...年寄りの言うにゃ、人間はみんな昔は雲の下に住んでたって...」

 

「どうせそれも作り話だろ?じゃあどうして今はこんな高いところにいるんだよ」

 

「そ...そりゃ...なんでも女神様の力で村ごと空に昇ったって話だろぉ?」

 

「バカバカしい。それで今も村ごと空に浮いてるっていうのか?少しは頭を使えよ、ロド。そんなことあるわけないだろ」

 

頭上からは昼下がりの明るい日差しが強く照り付けている。崖は見渡す限りゆるやかな半円形に広がっている。その先に見えるのは全て白い雲だ。

 

少年たちが住んでいたのは「浮島」と呼ばれる直径十キロあまりの円形の土地だった。だが「浮島」とはいいじょう、本当に浮いているのかどうかを確かめた者はいない。それで少年たちの間では、この村が本当に浮いているのか、それともただ周囲から隔絶して高い場所にあるだけなのか、たびたび議論のタネになったのだ。

 

二人の少年がそういった他愛もない話をしていると、リオスと呼ばれた少年がおもむろに腰を上げた。

 

「――おい、そろそろ帰ろうぜ。戻る頃には晩飯どきになっちまうからな」

 

「へへ...週一回の大事な礼拝はサボっても、晩飯はサボれないってか?」

 

セバルスと呼ばれた眼鏡の少年はいたずらっぽく応じる。するとロドと呼ばれた太った少年も賛意を示した。

 

「お...俺も帰るよ。だって飯に遅れると弟たちに俺の分喰われちまうからよぉ」

 

三人は踵を返した。前方はるか遠く、小高い丘の上に巨大な女神像が見える。そしてその周囲に広がった起伏のある地形に溶け込むようにして数知れない住居がしつらえられていた。

 

崖から少し離れると一同は畑に入った。カボチャその他の農作物が一面に植わっている。だが、畑の世話をするはずの農夫たちの姿は見当たらない。

 

その理由は小一時間も歩くとすぐにわかった。小高い丘の上の女神像の足元に、無数の群衆が群がっているのが見えてきたからだ。

 

その数は数万にも及ぶと思えるほどだった。女神像に近づくにつれ、足元に石造りの神殿が建てられているのが見えてくる。その神殿の塀の内部にも、外庭にも、さらには丘から下る階段にもびっしりと人がひしめいているのだ。

 

「やれやれ、ご精勤なことだよな。こんないい天気なのにあんなゴミゴミした場所でじっとしてるなんて気が知れないぜ」

 

セバルスと呼ばれた少年が呟く。

 

「お...俺...ちょっと急ぐよ。いっつも、親には『遅れて礼拝に行った』って言い訳してるからよぉ。じゃあな」

 

ロドと呼ばれた太った少年は仲間たちを顧みると、畑を貫く農道を駆け出していった。それを見たセバルスは苦笑した。

 

「へっ...意気地なしだな。俺なんか親公認さ。もう親父もお袋も諦めてるからな。お前もだろ、リオス?」

 

「――俺、もとから親いねぇし」

 

リオスと呼ばれた少年は前を向いたまま素っ気なく答えた。それを聞いたセバルスはやや出鼻を挫かれたような表情になった。

 

「あ...そ...そうだった..な」

 

「別に気にするこたぁねぇよ――父親は行方不明。噂じゃぁ崖から飛び出して雲の下に落ちたって話だけどな。んで母親は病死。ま、珍しいっちゃ珍しいけど騒ぐことのほどじゃねぇさ」

 

リオスが平板な口調で言葉を継いだ。気まずい沈黙が流れる。セバルスは話題を変えるように口を開いた。

 

「『....気高き善良な民を地上の悪から救い出された女神ハイリアに感謝を捧げよ。然り。然り』だったっけか。ガキの時分に親から教え込まれたもんだからまだ覚えてるよ。あの頃は一生懸命暗記したもんさ。それで自分がマシな人間になれると思い込んでたからな」

 

照り付ける日差しがやや傾いてきた。涼しい風が吹き抜け、農作物の枝葉を揺らす。

 

「...と思ってたら親父は近所のオバハンと浮気。お袋は連日ギャンギャン泣きわめく。俺はすっかり目が覚めたよ。あんな祈祷文百万回唱えたところでマシな人間になんかなれないってな」

 

セバルスは首を振ると眼鏡の奥で白目を剥いた。

 

「―――しかもだぜ。肝心の神官どもは献上物に手を付けて贅沢三昧、おまけに愛人まで囲ってるって話だぜ。信じられるか?」

 

だがリオスと呼ばれた少年は相方の独白を黙って聞いているのみだった。

 

「なあリオス、お前はいつ気づいたんだ?」

 

眼鏡の少年に問われて、リオスは顔を上げた。

 

「気づいたって...何にだよ?」

 

「あの詐欺さ。神殿に人を集めて、カネやモノを持ってこさせて、神官どもがいい暮らしをする。あんなことやったって俺たちには何の得にもならないって、いつぐらいから分かったんだ?」

 

セバルスが再び問う。リオスは、しばらく考えたあと、ポツリと答えた。

 

「物心ついた頃から気づいてたさ。だいいち目も耳もねぇ石の像に人の願いなんて聞けるわけねぇんだから、拝んだところで何も返ってこねぇって、少し考えればわかりそうなもんだろ?」

 

「へえ...お前結構頭イイんだな」

 

セバルスは感心したように言った。二人はやがて農地を抜け、市街地に入っていった。足元の道路は石畳に変わり、その左右には町の中心地から流れてくる清い水を湛えた水路が走っている。

 

女神像の足元で行われていた礼拝が解散となったのか、街路にはチラホラと人通りが戻り始めている。二人の少年が歩いていると、声を掛けてくる者があった。

 

「ちょっとあんたたち!またサボったのね。ダメじゃないの、ちゃんと礼拝出なきゃ」

 

顔を上げると、同年代の少女が水桶を手に立っていた。セバルスは立ち止まると大仰な口調で答えた。

 

「おやおや、これはこれはイリーナお嬢さんじゃあないですか。今日も今日とて布教にご熱心なことで」

 

眼鏡の少年は滑稽な仕草で礼をすると続けた。

 

「だけど俺たちのことはどうぞお構いなく。もう十分間に合ってますんで」

 

「ふざけないで。どうして女神様に感謝するのがそんなに億劫なの?反抗してるつもり?」

 

イリーナと呼ばれた少女は腰に手を当てると睨みつけてきた。だがリオスは呟くように言いながらまた歩き始めた。

 

「別に感謝してねぇつもりはねぇよ。ただあの石っころが女神さん本人かどうか疑わしいってだけさ」

 

「なっ....」

 

少女は驚くと目を剥いて少年を見やった。その横で、セバルスが面白ろそうな顔で笑いをこらえる。

 

「....理屈ばっかり捏ねないで!私たち、子供会にいたときは一緒に朗読も劇もやったじゃない。どうしてこんなふうになっちゃったの?」

 

気を取り直した少女は、リオスを追いかけながら問いかけた。その後ろからセバルスが茶々を入れる。

 

「ま、目覚めたってことですよ。彼は早熟なもんでね」

 

「あんたは黙ってて、セバルス!」

 

言い争う二人をしり目に、リオスはスタスタと街路を進んだ。そして角を曲がりながら後ろに手を振った。

 

「じゃな、セバルス」

 

「おう、またな、リオス」

 

少年たちが挨拶を交わす中、イリーナと呼ばれた少女は当惑し切った顔で立ち尽くしていたが、やがて悲し気に首を振ると水路から水を汲み始めた。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * 

 

リオスが家に帰った頃には、太陽は沈みかかっていた。

 

街路の石畳は赤く染まり、家々の影が長く伸びている。

 

少年が扉を押し開け室内に足を踏み入れると、竈の前に腰を屈めていた老人が顔を上げた。

 

「おお、帰ったか、リオス」

 

老人の頭は総白髪で体は痩せさらばえ、相当の高齢と見えた。

 

リオスは無言で食堂を横切ると自室のカーテンを押し開き、ベッドに背中から身を投げ出した。すると老人が声を掛けてくる。

 

「お前...また礼拝に行かなんだか」

 

「行くわけねぇだろクソ爺い」

 

少年が荒々しい口調で答えると、老人は溜め息をついた。それを聞いた少年は舌打ちすると寝返りを打った。

 

「....のう、リオス。ちいと手伝ってくれんかの。儂はこのごろ、手が上手く動かなんでのぉ」

 

しばらくすると老人が遠慮がちに言った。するとリオスは白目を剥いて身体を起こし、食堂に戻った。

 

「...ったくいつも家でゴロゴロしてる癖に晩飯の支度もできねぇのかよ。役立たずが」

 

少年は言い捨てると手を洗い、吊るしてあった野菜や干し肉を包丁で刻み始めた。老人は情けない声でこう答えた。

 

「...そ...そう言わんでくれ。儂ももう今年で九十での。女神様のお陰で長生きはできたが、身体が言う事を聞かんのじゃて」

 

リオスは材料を鍋に入れ、竈に焚き木を足して火を熾した。やがて鍋が煮立ち、スープの香しい匂いが漂ってきた。少年は自分の分を椀によそうと、戸棚からパンを取り出してひとりで食べ始めた。老人が震える手で自分の膳を整え長い間祈りをしてからようやく食事を始めた頃には、少年は自分の分を食べ終えていた。

 

リオスは食器を流しに放り出すと、またベッドに戻って横になった。すると、老人は食事をしながら、誰にともなく話し始めた。

 

「儂がフロウを....お前の父親を引き取って育てることになったのは...まだあれが五歳のときじゃった。それから年月が経って、今度はお前を引き取ることになったのが十年前じゃ。これも女神様の不思議なお導きのせいかのぉ.....」

 

老人は口をつぐんでしばらく咀嚼し、やっとの思いでパンを飲み込むと、言葉を継いだ。

 

「儂は....お前の父親にとっては悪い養父じゃった。あれを邪魔者扱いし、辛く当たってしもうたのじゃ。じゃが儂はその後それをひどく悔いたものじゃ。昔のままの悪い人間でいては、こうして儂らを救ってくださった女神様に顔向けができんからのう」

 

やがて老人は啜り泣き始め、途切れ途切れにこう続けた。

 

「...フロウは...素直で、儂の言うことをよう聞く子じゃった。それを...それをいいことに儂はあれを酷く扱ってしもうたのじゃ。悔やんでも悔やみきれんことじゃ。だから儂は...お前の母が...リナハが死んでお前を引き取ったとき、思ったのじゃ。今度こそはちゃんと面倒を見ると....」

 

「それで育ったのがこんな悪ガキだから驚いてんのか?だったらお生憎さまだな。子供の頃の親父がどんなだったかは知らねぇが、俺は俺さ」

 

リオスは鼻を鳴らすと、両腕を枕に寝転がったまま答えた。老人はようやく嗚咽を納めると、ポツリと言った。

 

「儂は....儂がフロウにつらく当たった報いを、いま受けているんじゃろうのう」

 

そう言うと老人は黙り込んだ。沈黙が家を覆うと、窓から見える橙色の空が急速に暗くなってきた。

 

リオスは寝転がったまま天井を見つめた。そして覚えずして父親に関する朧げな記憶を探り始めた。

 

手製の木剣を自分に持たせ、がっちりとした手を添えながら素振りを覚えさせた父。

 

その低く頼もしい声。時折母を見やるときの優し気な眼差し。

 

――だが、その父はある時忽然と姿を消した。

 

幼な心に、疑問符が一杯だった。

 

どうして僕と母さんを捨てたの?どうして一緒に居続けてくれなかったの?

 

母にその疑問をぶつけても、彼女は優しく微笑んで首を振るばかりだった。そして決まってこう言うのだった。

 

『お前の父さんはとっても勇敢で立派な人だったのよ』

 

――そんなに立派ならなんで家族を置き去りにして姿を消すなんてマネができるんだ?――

 

苦々しい思いが胸に湧いてきたリオスはもう一度寝返りを打った。それでも昼間太陽を一杯に浴びたせいか、眠気はほどなくして訪れた。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * 

 

―――コツン....コツン....―――

 

何者かが壁を軽く叩いているような音を聞いて、リオスは目を覚ました。首を振って身体を起こす。食堂のほうを見るとまだ灯火が点いているから、寝入ったのはほんの一、二時間程度のようだ。

 

―――コツン.......―――

 

再び音が聞こえた。リオスは不思議に思って窓に近づくと開け放った。眼下の道路に、二つの人影が立っている。シルエットから、セバルスとロドだと見当がついた。

 

セバルスは、手に持った小石をこちらに投げつけようとしていたが、リオスの姿を認めると手を止め、押し殺したような声で言った。

 

「おおい...ッ!こっちだ!早く来い!」

 

「どうした?」

 

「いいから来いって!大ニュースだぜ!」

 

こちらも押し殺した声で問いかけると、セバルスが答える。リオスはサンダルを履くと、窓から庭に飛び降りて仲間たちに近づいた。

 

「どうしたってんだよ。大ニュースってなんだ?」

 

「いいか、よく聞けよリオス」

 

セバルスは闇夜でもわかるほど目を輝かせながらリオスの耳に口を近寄せた。

 

「俺の親父、礼拝の世話人やってっから神官たちと知り合いなんだ。で、話しをしてたのを聞いたんだ。女神像の中から財宝が見つかったんだってよ。なんでも宝石の嵌った剣らしいぜ」

 

「へぇ...財宝ねぇ」

 

リオスは気のない返事をした。だがセバルスは熱心に言う。

 

「なあ、俺たちでちょっくら拝みに行かないか?今夜だったら神官どもも仕事終わりでゆっくりしてるはずさ。きっと見回りも手薄だぜ」

 

リオスは迷った。だが、昼間の強い日差しとうって変わって、今は涼しい夜風が吹いている。こんな夜に散歩するのも悪くない。彼が同意すると、三人はセバルスの先導で歩き始めた。

 

「で...でもちょっと...おっかねぇなぁ。幽霊とか出ねえといいんだけどなぁ」

 

ロドがやや怯えた顔で言うとセバルスは一笑に付した。

 

「お前幽霊なんか信じてんのか?呆れた奴だなぁ」

 

「面白れぇじゃん。幽霊なんてもんがいたら是非会ってみてぇな」

 

リオスが皮肉な口調で呟くと、ロドはますます怯えた顔になった。

 

「よ...よせよリオス。俺....ホントダメなんだよぉそういうの」

 

「シッ...!静かにしろよロド。そろそろ神殿が近いんだ。神官どもにバレないように潜入するぞ」

 

セバルスが言う。顔を上げると、神殿の丘の足元まで来ていた。階段の左右に神職の官舎が立ち並んでいる。その窓からは灯火の光が漏れてきている。

 

セバルスは二人に合図すると、身を低くして静かに階段を登り始めた。リオスとロドが後に続いた。どうにか階段を登り切ると、神殿の石塀の前まで出た。だが入り口の扉は閉ざされている。

 

「どうすんだ?」

 

リオスが耳打ちすると、セバルスは自信たっぷりに答えた。

 

「壁が崩れ始めてる場所があるんだ。これも親の情報だけどな。資金が足りなくて放置してあるらしいぜ」

 

三人がセバルスの案内で石塀の周囲を調べると、果たして塀に大きな割れ目ができている箇所があった。少年たちは割れ目に手足をかけると難なく塀を乗り越えた。

 

神殿の敷地に降り立ち、奥のほうを見やると、のしかかるように巨大な女神像が夜空を背景に屹立している。

 

セバルスはそれを見て流石に気圧されたようだった。ロドは額に汗を浮かべ、生唾を呑み込んでいる。だが、リオスだけは平静だった。

 

「で、財宝ってのはどこにあんだ?」

 

リオスに問われて、セバルスは慌てて答えた。

 

「...あ...ああ。なんでも女神像の足元で見つかったらしいんだ」

 

「神官どもが回収しちまったってことはねぇのか?」

 

リオスが重ねて問うと、セバルスは答えた。

 

「いや、それはない。なんでも新しく部屋が見つかったとかで、そこに置きっぱらしいんだ」

 

そう答えたあと、彼は眼鏡を直しながら言い直した。

 

「...いや、というより、石に刺さったまま抜けないらしいんだ」

 

「なんだそれ?錆びついてんのか?」

 

「いや、話によると魔法の仕掛けみたいなもんで、本当の持ち主以外には抜けないっていうんだ」

 

「へえ」

 

得心がいかないままリオスは生返事をした。ロドは不安そうに左右を見回している。三人は足音を忍ばせながら中庭を横切り女神像に向かった。

 

やがて女神像の足元に着くと、少年たちはその台座に手を触れて調べ始めた。台座だけでも巨大な家ほどの大きさだ。だが、リオスはやおら顔を上げると言った。

 

「ちょっとタンマ。ションベン」

 

それには流石のセバルスも呆れたようだった。

 

「ショ...ションベンって...ここでか?」

 

「ああ。出物腫れ物ところ選ばずって言うだろ」

 

リオスは手早くズボンを下ろすと用を足し、ふうと溜め息をついた。

 

「お待た。財宝探しに戻ろうぜ」

 

服を直しながらそう声をかけたが、二人の仲間たちは茫然とした顔で台座の壁を眺めている。

 

「どうした?」

 

「い....いや...これ....」

 

セバルスは言葉にならない声を出しながら指さした。

 

リオスは振り返ると、自分も言葉を失った。

 

いつの間にか、台座にポッカリと大穴が開いている。大人がひとりゆうに通れる大きさだ。セバルスは驚愕した顔で呟いた。

 

「...さ...さっきは無かったのに...こんな穴.....」

 

「お....おっかねぇよ....幽霊のイタズラじゃねぇか?」

 

ロドが震えながら言う。だがリオスはすぐ平静に戻ると言った。

 

「ちょうどいいじゃねぇか。行こうぜ」

 

リオスは迷わず穴の中に足を踏み入れる。セバルスは恐る恐る続いた。だがロドは泣き声を上げた。

 

「ま...待ってくれよぉ。そんなとこに入ったらそれこそ幽霊が...」

 

「じゃあお前はそこで待ってりゃいいじゃねぇか」

 

リオスがすげなく肩越しに声をかけると、ロドは諦めたように言った。

 

「わ.......わかったよぉ。こんなとこに置いてかないでくれよぉ」

 

* * * * * * * * * * * * * 

 

穴の入り口から内部に入ると、周囲は真っ暗になった。三人は覚えず歩を止める。するとセバルスが囁いた。

 

「た...確か部屋の真ん中に台座があって...そこに剣が刺さってるって....」

 

「ここらへんか?」

 

リオスが手探りしながら前に進んだ。その手に何かが触れた。

 

石のような、金属のような冷たい感触。きわめて滑らかで、まるで職人が念入りに研磨したかのようだった。それはリオスの手にあつらえたようにピッタリだった。

 

少年は何気なくそれを引っぱってみた。硬いものが擦れあう音がしたかと思うと、それは難なく抜けた。

 

「おいセバルス....この棒みたいなの....なんか抜け....」

 

リオスが振り向いてそう言った瞬間だった。

 

少年が手にしたその何かが、青白い光を発した。かと思うと、光はみるみるうちに強度を増した。

 

部屋の内部がまるで昼ひなかのように明るく照らされる。その強烈な光に圧倒された少年たちは、まるで強風に吹き付けられたかのように腕で顔を覆った。

 

その時だった。どこからか、声が聞こえた。

 

『.....リオス。あなたをお待ちしておりました』

 

女性の声だった。だが無機質で、感情のない声だった。

 

ロドが悲鳴を上げて尻もちをついた。セバルスは眼鏡がズレているのも気づかずに口を大きく開け茫然と佇立している。

 

リオスは部屋の奥を振り返った。そしてそこに見えたものを信じられず立ち尽くした。

 

そこには、少女が立っていた。だがケープを纏ったその姿は半透明で幻影のようだった。そして、その姿がフワリと宙に浮いたかと思うとゆっくりと近づいてきた。彼女はまた言った。

 

『リオス。あなたはマスターとして承認されました』

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