砂地に落ちたその物体は骨だった。大腿骨だ。
明らかに人間のものだった。
「え?...な...なんなんだよ...ここって..?」
少年は驚愕の面持ちで周囲を見渡した。他の仲間たちも立ち止まった。
周囲の砂からはそこらじゅうから骨が顔を出していた。
肋骨。肩甲骨。手骨や尺骨や橈骨。
...そして、頭蓋骨もだった。
―――合戦の行われていた谷の左右の崖が崩れ、味方の多数が倒れた―――
リオスの脳裏に、ラジーブの父、リゴール族長の言葉が蘇った。
「この場所...合戦」
狩人もそう呟くと、真剣な顔で周囲を見回す。彼は地面にかがみ込むと、少しの間手で砂を掻き分けていたが、やがて何かを見つけて拾い上げた。
その手には小さなペンダントが握られている。青い石に、涙を流す単眼の意匠が刻まれている。
ラジーブはしばらくそれを見つめていたが、やがて目を伏せると呟くように続けた。
「...シーカー。印」
「じゃ...じゃあ...」
少年は息を呑んだ。
「我...兄。ここ、死す」
狩人が言う。そして彼はそのペンダントを自分の首にかけた。
それを見た瞬間、リオスは自分の体内を電流が駆け巡ったような気がした。
少年は自分も地面に跪くと、砂を掻き分け始めた。
頭の中は真っ白だった。手に何かが触れる。石片。折れた矢の矢柄。そして骨。
狂ったように砂を掻き分けていると、リメイラが近寄ってきた。
「リオス、ちょっと。落ち着いて。まだ決まったわけじゃ...」
だが少年は目を皿のように見開いたまま、一心に砂を掻き分ける。手当たり次第に触れたものを引き出し、それを脇に放り出し、また砂を掘る。
リメイラも、狩人も、テツジもしばらくの間茫然とその様子を見守っていた。
だが、やがてリメイラが手を伸ばし、少年の肩に触れた。
「リオス、ちょっと落ち着きましょ。ね?深呼吸して。ほら」
そう言われてリオスはやっと手を止めた。だが荒い息がおさまらない。リメイラに促され、やっと何度か深呼吸すると、ようやく少年は落ち着いた。
「まだ決まったわけじゃないわ。だってパパたちの話じゃあ、行方がわからなくなったってことだもの。ね?だから、まだ生きてるかも知れないじゃない」
リメイラは傍らに座ると、そう言いながら少年の背中をさすった。リオスは頷いた。だが、まだ上の空だった。
「そ...そうだよな。そうだよな...うん」
太陽が真上に登り、頭上から強く照り付けてくる。リメイラは立ち上がると言った。
「ちょっとどっかの木陰で休んだほうがいいわね」
一行は道を挟む崖を登り、周囲を見回した。辺りは一面、砂岩だらけの荒れ地だ。
だが、少し離れたところに数本の桑の木が生えている。リメイラがそこに少年を連れていって座らせ、狩人が水を飲ませた。テツジも心配そうに見ている。
「みんな、ごめん。もう俺大丈夫だから。それに....」
少年は水を飲み終わると仲間の顔を見回した。
「それにラジーブだって辛いだろうに、俺ばっかりがみんなのお荷物になるわけには行かねぇさ。そうだろ?」
「いいからあんたはしばらく休みなさい。ね?」
立ち上がろうとすると、リメイラがピシャリと言い渡してきた。リオスは諦めてまた座った。
低い湿度のせいか太陽が遮られると涼しい。ようようのことで人心地つくと、リオスは何気なく自分がもたれかかっている木を見上げた。
木の幹に深い斬り傷がついている。その周囲に木質と皮が盛り上がっているから、相当昔のものだ。
―――ここでも戦いがあったのだろうか―――
リオスは腰を浮かせると、振り返って背後に生えている数本の木にも目をやった。陽光を遮る木々のお陰か、ささやかな下草の茂みが地面にある。そして、その茂みの中に何かが光るのが見えた。
金属製のものだ。
少年は弾かれたように立ち上がると、それを確かめようと近づいた。
「ちょっと...リオス?」
リメイラと他の仲間たちが後を追ってきた。だが少年は茂みにしゃがみ込み、先ほど反射光を発した物体に手を伸ばした。
それは金属製の武具だった。兜だ。
そして、その脇には、風化し切った人骨が横たわっていた。
予感が猛烈に少年の胸を打った。
人骨の胸には、金属製の胸当てがつけられている。
その下には、チュニック。ボロボロに風化しているが、緑のチュニックだ。
リオスは目を大きく見開いたまま、その場に膝をついた。
無意識に辺りの地面を手で探る。すると、別の金属物が指先に触れた。
長剣だ。あちこちが錆ついている。
仲間たちも周囲に集まってきた。だが、皆一様に息を呑み、一言も発しなかった。
少年はその長剣の柄を手にとった。
心臓が破裂しそうなほど鼓動を打っている。
長剣の刃に目を走らせる。そこには銘が刻まれていた。
―――『フロウ=ドシュトフロムンド』―――
リオスはそれを見つめたまま沈黙していた。
何も、考えられない。言葉が、出ない。
仲間たちもまた、背後で立ち尽くしていた。
だがやがて、リオスは剣を置くと両手を地面についた。
「お...親父......バカ野郎....」
声にならない声が、喉の奥から漏れ出てくる。
「お...親父...なんでだよ...なんで...」
リオスは肩を震わせた。まるで痙攣のように、嘔吐のように、腹の底から何かが溢れてくる。だがそれを必死で押さえようとした。仲間たちに見つめられ気遣われている自分が恥ずかしかったからだ。
だが、耐えられなかった。
涙が迸るように両目から流れ出る。
少年は大声で泣きながら地面にひれ伏した。
止まらない。涙も嗚咽も。
心の中に蘇る記憶が痛い。
温かい、ゴツゴツした手。
低い声。
広い背中。
自分が転んだとき、泣いたとき、振り返ってこちらを見やる視線。
「お...親父ぃ...親父ぃ...親父ぃ...」
リオスは声にならない声で呻いた。泣いていると、誰かが近づいてきてその背中に手を置いた。
狩人だった。少年は矢も楯もたまらなくなり、相手の首に抱きつき、その肩に顔をうずめて咽び泣いた。ほとんど血を吐きそうなほどの激しさで、リオスは慟哭し続けた。
* * * * * * * * * * * * * * *
どれほどの時間が経っただろうか。
流れる涙も底を尽き、声も枯れ果てたとき、リオスはそれでもしゃくり上げながら狩人の肩から顔を離した。
「ごめん...ラジーブ...」
「大事なもの、死。嘆く。正しい」
だが狩人は静かに言う。まるでリオスの心を読んだかのようだった。するとリメイラが呟いた。
「ごめんねリオス。あたし...期待持たせるようなことを....」
振り返ると、彼女もまた目に浮かんだ涙を指で拭っていた。テツジも沈痛な表情で頭を垂れている。
だが、ようやく感情の波が収まると、リオスは改めて遺骸の傍に跪いた。
彼はしばらくそれを見つめていたが、やがて手を伸ばした。
鉄兜を手にとり、付着した土くれを払う。錆びついてはいるが、まだ使えそうだ。
リオスはそれを頭に被ると、顎紐を締めてみた。誂えたようにピッタリだ。
少年は次に、遺骸の背に手を回し胸当ての留め金を外した。自分の身体にあてはめてみるとやはり丁度いい。
「ラジーブ、留めてくれ」
リオスが言うと、狩人は手を伸ばして少年の剣の鞘のストラップを外し、次いで胸当ての留め金を引っ張って装着した。
「お...おいリオス。何やってんだよ」
テツジが呟く。リオスは答えた。
「親父がやり残した仕事は俺がやる」
彼はそう言うと、今度は遺骸からベルトを取り外して自分の腰に締めた。剣にも手を伸ばしたが、今の自分に二刀を扱える自信はない。墓標代わりにすることにしてその場に突き立てた。
次にリオスは両手で地面に穴を掘り始めた。仲間たちも手伝ってくれたので、埋葬用の穴はすぐに完成した。
遺骸を持ち上げると、その下に弓と矢筒もあった。だが、弓は弦が切れてしまっている。矢筒を取り上げて中を覗き込むと、まだ矢が入っている。使えそうだ。リオスは黙ってそれをラジーブに差し出した。
「...形見。大事。なぜ」
狩人は驚いた顔で少年を見つめる。だがリオスは言った。
「俺、下手くそじゃん。お前が使ったほうが親父も喜ぶだろ」
それを聞いたラジーブは目を伏せて矢筒を見やったが、やがて頷くとそれを手に取って自分の背に担いだ。
リオスは父の遺骸を穴に安置すると掘り返した土を上から被せた。その上から改めて剣を突き立ると、しばらく顔を伏せていた。
三人の仲間たちも目を閉じ、黙祷していた。
だがやがてリオスは皆に言った。
「待たせたな。行こうぜ」
「リオス....大丈夫なの?」
リメイラが尋ねる。だが少年は迷いなく言った。
「あぁ。大丈夫だ」
そう言うとリオスは歩きだした。仲間たちも後から従い、四人は再び元いた谷間に戻って先に進み始めた。
* * * * * * * * * * * * *
道はやがて別の道と合流した。その先には、塔のような構造物が建っている。
よく見ると、それは先ほど鬼たちに襲われていた機械亜人と同じような形状をしていた。
高さ十メートル、直径三メートルほどのモニュメントだ。のっぺりとした顔に大きな目玉と丸い鼻口がついていて、頭部の上には輪っかのようなものが乗っている。
「あれ、たぶん鉱山入り口の印ね」
リメイラが言った。リオスは何気なく尋ねた。
「印...?でもあれ、機械亜人だろ?ゴロンが掘ったんじゃないのか?」
「人間が機械亜人を使って採掘を始めたとき、ゴロン族は『同じ方向には掘らない』っていう条件で許可したらしいわ。ゴロン古代坑道は南方向よ。そんで人間は北向きに掘ったってわけ」
リメイラは説明した。合流地点に立つと、そこは岩壁に囲まれた円形の広場になっていた。リメイラが言ったとおり、北向きにトンネルが伸びている。そして南側の壁にも大きな穴が開いていた。
「最近掘り返したってぇ形跡だな」
テツジがその穴に近づくと、鼻をヒクつかせながら呟いた。リメイラは心配顔で溜め息をついた。
「やっぱりドゴロ兄ぃたち、ここに来たんだわ」
「行こう」
リオスは仲間を顧みると短く言った。狩人が頷く。四人は坑道の入り口に足を踏み入れていった。
だが、少年はすぐに足を止めた。
何かが地面に落ちている。それは子供くらいの大きさのものだった。
機械亜人の遺骸だ。しかも、ひとつやふたつではない。点々と散らばっているのだ。
「なっ...どういうことなの、これ?」
リメイラは動揺したのか、目を見開きながら辺りを見回している。
「皆...逃げる...倒れる。奥から...出口へ」
ラジーブは人差し指で死体を指しながら呟く。狩人は用心深い視線を周囲に投げかけると弓を肩から下した。
テツジが腰の物入れからカンテラを取り出して点灯する。狩人の言うとおりだった。どの死体も、坑道の奥から逃げて来たところで背中を攻撃されて倒れたような姿勢だった。
四人が少しづつ前進すると、坑道は下っていく。そしていつしか支柱の立ち並ぶ回廊となった。
「確かに...デケェな」
リオスが呟く。するとテツジが鼻を動かしながら言った。
「なんか...魔物の匂いがしねぇか?」
「魔物?そりゃちょっとはいるかも知れないけど...」
リメイラが周囲を見渡しながら答える。
「でもドゴロ兄ぃたちが来てたら大人しくしてるはずよ。百何十人のゴロン戦士を前にしてイキってられる魔物なんてそうそういないもの」
ふと横を見ると、壁に横穴が空いていて、扉がついている。リオスが扉の間から覗くと、中には小部屋があった。
小部屋の中では、壁にもたれ掛かるようにして機械亜人が死んでいる。その手には本のようなものが握られていた。
「いずれにしても様子がヘンだぜ..なんか手がかりが欲しいとこだな」
四人は小部屋に入ると、その中を調べた。殺風景な空間だ。その機械亜人の遺体以外には木箱と工具が散らばっているだけだ。そして、部屋の隅には井戸が掘られていた。だが天井からバケツを吊り下げるロープは蜘蛛の巣まみれになっている。
リオスは何気なく機械亜人の握っていた本を手に取って開いてみた。
几帳面に細かい字が書きこまれている。どうやら日記のようだ。
「読める?」
リメイラが尋ねてきた。少年は戸惑いながらも目を走らせた。どうやら寺子屋で教わった字と同じだ。彼は声に出して読み上げた。
「『私....RS-133208は...ここに記す』...なんだこりゃ。記号みたいな名前だな」
「機械亜人はみんなそうなのよ。できた順番から記号がつくんだって」
リメイラが答えた。薄暗がりの中、目を凝らして文字を拾い上げる。
「『...この...倉庫...に...隠れてから十日が経過。充電が必要だが、電源はない。...だが...外は鬼が歩き回っている。逃げても追いつかれるのは分かっている...。坑道に戻れば...壊れるまで強制的に働かされる...。絶望...しかない。...』いったいなんなんだこれ?」
少年は困惑して目を上げた。だがリメイラもまた混乱した表情で見返してくるばかりだ。
「なあ姉さん。この坑道ってゴロンが掘ったものを埋め戻したんだろ?どうして機械亜人とかボコブリンどもが...」
「...わらんない。あたしもわかんないわ」
その時だった。リオスたちのただ中に青白い光が浮かび上がったかと思うと、たちまちケープを纏った少女の姿をとった。
『警告します。この坑道をスキャンしたところ多数の魔力源を認識。いくつかはそれまでにない強力な魔力源です。このまま探索を続ければ敵との遭遇可能性82パーセント。十分な警戒が必要です』
「ま...魔力源?」
リメイラが驚いて声を上げた。
「...多数ってどれくらい?それに...強力ってどういうこと?」
『数は数百。そのうちいくつかの魔力についてはボコブリンの数倍。ひとつは数十倍です』
ファイが答える。四人の間に緊張が走る。テツジが後退りしながら呟いた。
「お...おいおめぇら。やっぱ戻ろうぜ。こんなところにいたら命がいくつあっても....」
だが、モグマ青年の背後には井戸があった。テツジの背負ったリュックが蜘蛛の巣だらけのバケツに当たると、それは井戸の中に落ちていった。
井戸は空井戸だった。金属製のバケツがけたたましい音を立てて落下していく。
―――ガランッ...ガランッ...ガランッ...―――
その音は剥きだしの岩壁に反響し何度も何度もこだました。
「ちょっと!魔物だらけだっていうのに大きな音出してどうすんのよ」
リメイラが咎めるとモグマ青年は情けない声を出した。
「そ...そんなこと言ってもよぉ...わざとじゃねぇって.....」
その刹那だった。
鬼の汚らしい喚き声が聞こえた。号令をかけるような怒号が壁に反響して近づいてくる。
そして、吊り下げた装備がぶつかり合う物音もだ。
「まずいな。敵が押し寄せてきたら袋の鼠だぜ」
リオスは呟くと、日記を放り出して小部屋の出口に向かった。
だが、外に顔を出そうとした瞬間、狩人が警告の叫びを発した。
リオスは反射的に顔を引っ込めた。ほぼ同時に風を切る音。木製の扉に矢が突き刺さる。そして坑道の奥に鬼どもの影。
「来たぞ!」
リオスは叫ぶと剣を抜き放った。狩人が弓矢を構え、リメイラはハンマーを肩から下す。
足音とともにボコブリンの群れがたちまち廊下に走り込んできた。リオスは剣を構えると部屋の中に引き下がりながら叫んだ。
「テツジさんも下がって!」
傍らにいた狩人が矢を放った。戸口に殺到してきたボコブリンが額に喰らって倒れる。だが数えきれないほどの新手が扉に群がってきた。
リオスは押し入ってきた個体にいきなり突きを喰らわせ、素早く蹴り離した。だがその次が押し寄せる。ラジーブの矢が次々と放たれそれらが倒れても、また次の個体が死体を踏み越えて迫ってくる。
「ふたりともどいて!あたしが行く!」
リメイラが叫ぶと、少年と狩人は素早く後ろにさがった。
唸り声ととともにリメイラが飛び出し、ハンマーを横に振り抜いた。喰らった鬼がたまらず吹き飛ぶ。
ハンマーのヘッドが唸りを上げて空気を斬り裂くと同時に、ボコブリンどもが倒れていく。だがそれでも到底間に合わない数だ。
奮戦するゴロン娘の左右から鬼どもが侵入してくる。リオスと狩人は左右に別れた。
一匹の鬼が突進してくる。リオスは身体を半身にしてサイドステップすると、相手の鉈を躱した。身体が泳いだところで首に斬撃を叩きつける。だが二匹目が突っ込んでくる。剣で鉈の軌道を逸らせ柄頭で相手の鼻柱を痛打すると、頭から縦斬りを浴びせ、胸を一突きし葬った。
だが三匹目が躍りかかってきた。リオスは剣を差し上げて斬撃を受け、刃を回転させカウンターの突きを放った。だが敵の勢いが強い。腹に剣が突き刺さったままのボコブリンに押し迫られ、少年は躓いて尻もちをついた。
鬼が口から血を吐きながらも、目を血走らせ鉈を振り上げる。だがその途端に鈍い音がして、そのボコブリンは白目を剥き動きを止めた。
「リオス!大丈夫か!」
テツジが震える手で工具を構えながら尋ねてくる。
「恩に着るぜテツジさん!」
敵を押しのけ立ち上がると、矢が空気を裂く音がした。横からだ。見ると、狩人が頭頂部に矢の突き刺さった鬼の肩の上に立って矢を放ったところだった。テツジを狙って鉈を振り上げようとしたボコブリンがこめかみに一撃を喰らって倒れた。
「リオス!お前、モグマ、守る!」
狩人はボコブリンから飛び降りながら叫んだ。飛び降りざま逆手に持った短剣でそいつの首を掻き斬り、次いで接近してきた新手に至近距離で矢を放ち射殺した。
「おうよ!わかってる!」
リオスは剣を構えると、続々と踏み込んでくる新手の先頭に向き直った。横ざまに払われた鉈を頭を下げて躱す。逆袈裟斬りを浴びせ、首に突きを喰らわせると刃をこじった。
「みんな!壁際に下がって!」
リメイラの叫び声が聞こえた。見ると、ゴロン娘はハンマーを横に差し伸ばし、身体を縦軸から回転させ始めた。
―――ドゴッ...ドゴッ...ドゴッ...ドゴッ...―――
鈍い音とともに次々とボコブリンが倒れる。免れた鬼どもも風圧を喰らってよろめいた。リオスはテツジを伴って壁際に下がりながらも、近くにいた鬼を前蹴りで突き放した。ハンマーを喰らったその個体が紙細工のように吹き飛んだ。
―――ギャアッ...ギャアッ...ギャアッ...―――
鬼どもの狼狽した喚き声が洞窟にこだまする。床は死体だらけだ。多数の仲間を失ったボコブリンたちは勢いを失い、じりじりと下がり始めた。
「姉さん!」
リオスは部屋のど真ん中で仁王立ちになったリメイラに声をかけた。ハンマーを構えたまま激しく肩を上下させている。
「あたしは平気。これくらい序の口よ」
彼女は前を向いたまま不敵に笑った。だが、傍らに行ったリオスには、その笑顔が徐々に消えていくのが見えた。
重い足音が近づいてきている。リオスは尋ねた。
「なんだ?...ボコブリンじゃないのか?」
「....モリブリンよ...。上等じゃないの」
リメイラが武器を持ち直しながら呟く。
開いた戸口に、その足音の主がヌウッと姿を現した。
そこに現れたのはゴロンと見まごうほどの巨体。
しかもそれが三体並んでいた。