―――――パチンッ。
乾いた指の鳴る音が響き、リオスは反射的に振り返った。
そこには若い男が立っていた。体にぴったりと貼りついた白い衣装と赤黒いマントを纏っている。
ギラヒムだ。
そしてその傍らには少女がいた。イリーナだ。
若い男は、少女の肩に手を置くと、薄く微笑んだ。
「さあ、武器を捨てたまえ。この少女を傷つけたくなければね」
男がもう一度指を鳴らすと、その右手に刃の反った剣が現れた。ギラヒムは優雅な手つきでその刃をイリーナの首に押し当てた。
「て......てめぇッ!」
リオスは剣を構えた。身体中の血が沸騰し、頭髪が逆立つのを感じた。イリーナは怯えた表情で身じろぎしようとしたが、ギラヒムの左手が容赦なくその髪の毛を掴み、押さえつけた。
「リ....リオス、ごめんね...。ファイさまの声が聞こえたような気がしたから、ついバリケードを開けちゃって...」
「ふふふ...僕は彼女の兄だからね。声真似なんてお手のものさ」
少女が言うとギラヒムは余裕たっぷりで微笑む。少年はギリギリと歯ぎしりした。
「汚ねぇぞギラヒム!」
「汚い?これは戦争だ。汚いもなにもないよ。君たち人間だっていつもそうしてきただろう?」
男は嘯くと畳みかけた。
「さぁ、少年。今すぐここで選びたまえ。罪のない少女を見捨てるか。武器を捨てるか。それとも.....」
ギラヒムの手がぐいとイリーナの頭を引っ張った。少女の白い喉首が露わになる。そこに刃が押し付けられ、薄く血が滲むのが見えた。
「―――血を見なければ事態を理解できないようなお馬鹿さんなのかな、君は?」
「クソォッ!」
リオスは手に持った剣を床に叩きつけた。けたたましい金属音がした。
「お利口だ。それに免じて君は罪一等を減じてあげるよ。親子二代にわたって僕の邪魔をした罪は重いが....そうだな。全治三百年くらいの怪我で....」
ギラヒムがそう言ったその瞬間だった。上空から、いまや聞き慣れたあの音が近づいてきた。
―――――ゴフゥッ....ゴフゥッ....ゴフゥッ....―――――
顔を上げると、ナリシャの巨体がみるみるうちに迫ってくる。
次に、突然の突風が襲ってきた。竜巻のような風だった。
その場にいた三人の髪の毛と服が猛烈な勢いではためく。
広場にある全てのものが、竜巻に吸い寄せられていく。
リオスは思わず床に倒れ伏した。目を上げると、ギラヒムの剣がその手から吹っ飛び、宙を舞うのが見えた。目で追っていると、ナリシャの巨大鯨のような口がすぼめられていて、剣がその中に飛び込んだ。
そして、今度は竜巻に巻き込まれるようにしてギラヒムもイリーナも空中に浮き上がった。
「キャァァァァッ!」
イリーナの悲鳴が響く。少年は立ち上がるとダッシュした。ナリシャの巨大な口にギラヒムと少女のふたりが吸い込まれていく。
だが、その寸前でナリシャは器用に唇を動かしてイリーナを吹き出すと、ギラヒムをその顎に捕えた。
――――バグ.....ン......――――
恐ろしい音が響いた。それと同時に、イリーナの身体が竜巻から解放されて落下してきた。
「大丈夫だ!俺が受け止める!」
リオスは両腕を広げて待ち構えた。不思議なことに、少女の身体は地面に叩きつけられる寸前にフワリと舞い上がり、少年の腕の中にすっぽりと納まった。
「ギラヒム.....こんのクッソガキがぁ..........」
雷鳴のようなナリシャの声が響く。
「てめぇはおいらの胃袋の中で反省してろ!三千年くらいな!」
少年がイリーナを抱き抱えなが目を上げると、ナリシャの口が開閉するたびに、その中にギラヒムの姿がちらりと見えた。
だが、当初の澄ましかえった表情は影も形もない。
「だ...出せ!ここから出せ!この老いぼれめ!」
恐慌状態に陥った様子で手足をばたつかせている。だがナリシャは満足そうに口を閉じ、その喉をゴクリと鳴らした。
「―――やぁれやれ。こういう奴は痛い目を見ねぇと物事の善し悪しを理解できねぇのさ。ま、おいらがよぉく言い聞かせとっからよぉ」
リオスはイリーナの身体をそうっと床に降ろした。だが、その時少年の口から叫びが迸り出た。
「待ってくれ爺っちゃん!」
少年は進み出ると、上空にいた老精霊に言った。
「爺っちゃん!頼みがある!俺に...俺にカタをつけさせてくれ!」
* * * * * * * * * * * * * * * * *
「ま...そう言うと思ってたけどな、坊主」
広場の上で浮遊するナリシャは呟くように言った。リオスとイリーナの前には、吐き出されたギラヒムが立っている。彼は体中についた胃液をさも忌々しそうにハンカチで拭っていた。
「ふんッ!この老いぼれ精霊が。いつまでも出世できないハイリアの御用聞きのクセして。覚えていろ!」
ようやく気が済んだのか、ギラヒムはハンカチを仕舞うと、ナリシャに向かって罵声を吐いた。
「...ん?なんか言ったか?」
老精霊は鷹揚に呟くと、リオスに声をかけた。
「ま...こいつが汚ねぇ真似しねぇよう見張っといてはやるが、助太刀はしねぇぞ。男と男の決闘だからな」
「わかってる。それで十分だよ、爺っちゃん」
リオスは剣を拾い上げると、右手に持って一振りし、傍らのイリーナに声をかけた。
「危ねぇからちょっと下がってろ。俺のことは心配ねぇから。何しろこの1週間以上地獄の特訓続きだったからな」
それを聞いた少女は心配そうな表情をしながらも頷き、数歩下がった。するとギラヒムが再び指を鳴らした。その手に新たな剣が現れた。刃の反った剣だ。
「君は君で一生後悔することになるだろうね。この僕と一対一の対決だって?バカバカしい」
彼はそう鼻で笑うと、剣の刃を確かめながら続けた。
「せいぜい切り傷だらけになって最後は僕に哀願するのが関の山さ。『ギラヒムさま、命ばかりはお助けください』ってね」
「余計なおしゃべりはいい。始めようぜ」
だがリオスは短く言う。ギラヒムも答えた。
「面白い。そんなに痛い目に遭いたいなら、その願望、僕が叶えてあげるよ」
二人は広場の上で向き合った。
リオスは片手に剣をだらりと下げる。相手もまたゆったりと剣を構えた。
* * * * * * * * * * * * * * * *
晴れ渡った空の下、爽やかな風が吹く。雨が上がったばかりのすがすがしい空気がその場に広がっていた。
だが、二人の剣士はじっと動かず対峙し続けている。
上空では巨大クジラのような老精霊が見守り、広場の隅では少女が固唾を飲んで見つめていた。
数秒が経過した、その瞬間。
リオスは剣を下段にしたまま駆け出した。
距離が詰まる。間合いが近づいても少年は剣を上げない。敵を見つめたまま突進していく。
三メートル。二メートル。
「ふん...隙だらけだ!」
そう言うとギラヒムは自分の剣を払った。
ギリギリの瞬間でリオスは身を沈めて回避し突きを繰り出した。
だがギラヒムも身体を僅かに半身にさせて躱し、上段から強烈な袈裟斬りを放った。
―――ガキィ....ンッ!―――
鋭い金属音が響く。少年は剣を横向きに掲げ、ギラヒムの刃を防いでいる。金属と金属が嚙み合うギリギリという音がした。
「....てめぇだけは...絶対に許さねぇ」
左手を刀身に添えて剣を支えながら、呟くようにリオスが言う。
「フン...ッ。父親の仇とでも言いたいのかい?」
ギラヒムは両手で剣を持ち、体重をかけながら冷笑した。
「怒りが原動力とは浅はかな人間らしいね。理想の世界を造るとか、僕のようなもっと高尚な動機で戦うことはできないのかい?」
その穏やかな口調とは裏腹に、ギラヒムの瞳には嗜虐的な色が浮かんでいた。剣を押す力も強い。彼は続けた。
「‥それに、少年。怒りは判断力を鈍らせるよ?」
「判断力もクソもねぇ。一分一秒でも早くてめぇをぶっ倒す。それだけだ」
そう言うと、歯を食いしばって少年が剣を押し上げた。応えるようにギラヒムが一層体重をかける。
その刹那。
リオスは自分の剣を回転させ相手の体重を受け流した。誘導されたギラヒムの刃が泳ぐ。
少年はそのまま袈裟斬りを浴びせた。だが思いもよらぬ敏捷な動作でギラヒムが飛び下がる。リオスの刃が数ミリの差で相手を逃した。
だが息をつく間もなくリオスは追撃した。踏み込んで横斬り、縦斬り、逆袈裟斬りと連続で繰り出す。
ギラヒムはそれを見切ったように躱す。身にまとった赤黒いマントが靡いた。
「単調な攻撃だねぇ。目をつぶっていても避けられ...」
彼が呟いた瞬間、リオスは左手を伸ばしてマントの裾を掴むと思い切り引っ張った。
「なッ....」
ギラヒムの動きが止まると同時に、少年が踏み込んで剣を薙ぎ払う。
―――ガキィ....ンッ!―――
再び金属音が響く。今度はギラヒムが剣を立て、防御した。だがリオスは片足を突き出して相手の脚につっかける。
「クソッ...」
素早く脚を上げ、足払いを回避するギラヒム。だが今度はリオスがその脚目掛けて剣を振り下ろした。
―――ズバッ....
刃が布地を裂く音。
ギラヒムは跳躍して飛び下がると、マントを脱ぎ捨て、苛立った表情でリオスを睨みつけた。
「小賢しい手ばかり使うんだな、少年。だがそんな小手先の技ばかりで僕を倒せると思うかい?」
「これは戦争なんだろ?卑怯とかは言いっこなしだぜ」
リオスは剣を肩に担ぐと言った。ギラヒムは汚い物でも見たかのように顔をしかめ首を振り、太腿の辺りに手をやった。服が切り裂かれているが、血は出ていない。
やがて余裕を残した表情でギラヒムは顔を上げた。
「....それに君の剣は乱暴そのものだ。効率ばかり考えているのだろうが、優雅さというものがないねぇ」
「優雅さなんて地獄で語ってろ。てめぇと違って俺は遊びでやっちゃいねぇんだ」
「いいだろう」
少年が応酬すると、ギラヒムは鼻を鳴らした。
「なら僕の本当の恐ろしさを教えてあげるよ」
パチンと指が鳴る音とともに、もう一本の剣が出現しその手に握られた。
再び対峙する。だが、今度はリオスは慎重な摺り足で距離を詰めていった。
右手の剣を中段に構え、軽く左手を柄に添える。
ギラヒムは悠然と片方の上の剣を掲げ、もう片方を立てている。
隙がないように見える。だがリオスは気づいていた。
相手の高慢さ。こちらを見下げた態度。
そこにこそ、付け入る隙がある。
少年は地面を蹴って踏み込んだ。
たちまち袈裟斬りが襲ってくる。だが少年は膝の力を抜いて上体を反らし、それを躱した。二本目の斬撃が横から。リオスはそれを自分の剣で思い切り弾くと突進した。
「なにッ...!」
もはや息遣いが感じられるほどの至近距離。ギラヒムは泳いだ剣の方向を変え、少年を両脇から刺そうとした。
――――ゴキッ...ッ!――――
だが少年の剣の柄がギラヒムの顎を捕えた。相手がのけぞったところで、リオスは喉を狙った横斬りを放った。
その瞬間、ギラヒムの姿が掻き消すように見えなくなった。
―――――消えた―――――
リオスはほんの一瞬だが狼狽した。
その瞬間。狩人の言葉が脳裏に蘇った。
―――――敵、右、左、後ろ、上、下。お前、知らない―――――
「上だ!」
少年は弾かれたように前転した。上方から振り下ろされた刃が後頭部をかすめる。後ろ髪が切断され宙に舞う。
リオスは転がりながら距離を取り、片膝立ちになって剣を構えた。
「なるほど。多少の心得はあるようだね、少年」
さっきまでリオスがいた場所にギラヒムが立っている。両手に剣を持ったまま、片方の手の親指で自分の顎をさすっている。薄っすらと痣がついている。
「...だが調子に乗らないでおくんだな。万が一にでも僕の美しい顔に傷でもつけたら、どれほどの怒りを引き起こすか....」
「そいつは楽しみだな。怒りってのは判断力を鈍らせるんだろ?」
リオスは立ち上がると最後まで聞かずに吐き捨てた。するとギラヒムは言葉に詰まった。その目に激しい苛立ちと残忍さが燃え盛るのが見えた。
「くっ‥‥」
一方で、リオスの脳裏には狩人との特訓が思い返されていた。
―――――二刀流。―――――
一撃を弾けば、もう一撃が襲ってくる。一撃を躱しても、もう一撃が避けられない間合いで飛んでくる。
―――――なら、剣を振るえない間合いに入ればいい―――――
少年は剣を握り直した。背後にいたイリーナが叫んだ。
「リオス...頑張って!」
少年はほんの僅かに頷く。今度は下段気味に構え、大きな歩幅を取りながら摺り足で近づく。
ギラヒムの目を見る。その目には明らかな焦りが浮かんでいる。自分の思い通りに物事が進んでいない。そんな感情から来る濁った色の目だ。
あともう少し。崩せる。少なくともその心は。
「ぬ゛ぁ゛ッ゛!」
リオスは気合いの声を放つと突進し斬り上げた。
だがギラヒムの剣が喉目掛けて飛んでくる。剣と剣が衝突し火花が散った。
しかし、横からもう片方の剣。避けられない。
少年は咄嗟に身体を倒した。刃が背中をかすめる。地面を転がりながら剣を薙ぎ払った。
ギラヒムがすんでのところで脚を跳ね上げ、後ろに飛び退く。
リオスは立ち上がると、再び突進した。
「汚らしいッ!地面を転げ回ってまるで芋虫じゃないか!」
ギラヒムは罵りながら剣を振り下ろしてきた。リオスがそれを剣で受ける。
「いい加減にしたまえ!君の戦い方は見てるだけでイライラするよ!」
「そいつはてめぇの問題だな。勝手にイラついてろ。こちとら命かけてんだよ」
ギラヒムが叫び、リオスは静かに言う。すると相手はもう片方の剣を引いて突きの体勢を取った。
「ほざけ!これで終わりだよ!」
だが少年は前にあった脚を跳ね上げた。つま先が相手の股間に命中する。ギラヒムが一瞬息を詰まらせ動きを止めた瞬間、リオスは全体重をかけて強引に刃を押した。
ガードが崩れた。そう思った瞬間、剣を横に薙ぎ払った。
その刹那、またギラヒムの姿が消えた。
――――次はどこだ――――
だがリオスは慌てなかった。右、左、後ろ、上、下。どこから来るか。自分は知らない。
だが、数知れない鬼の群れと戦ったとき、敵が死角から襲ってくる時に感じた、肌を撫でる空気の流れ。音。
――――後ろだ。
異変を感じた少年は振り向きざま回転斬りを放った。
手応えがあった。布と、さらにはその奥の湿った何かが切り裂かれる音。
「グアッ...」
押さえきれない呻き。目の前に現れたギラヒムが、腹を押えながら後じさりしていく。
「そこだぁ゛ッ゛!」
リオスはここを先途とばかりに殺到し突きを放った。だがまたもやギラヒムの姿が消えた。
数秒すると、離れた場所にその姿が現れた。
「こ...この...小僧がぁ.....」
彼の目は怒りにランランと燃えていた。頬にはうっすらと切り傷がつき、赤い血が滲んでいる。
その声にはもはや以前纏っていた優雅さの欠片もなく、屈辱で震えていた。
「よくも...よくも僕をこんな目に遭わせてくれたなぁ....許さない!」
彼は片手の指を鳴らした。
すると不思議なことが起こった。空中に突然短剣が現れたのだ。それも複数だ。全てがリオスを包囲するように宙空に浮かび、赤い光を纏っている。
「死ね!」
ギラヒムが叫ぶと短剣がリオスに向かってまっしぐらに向かってきた。咄嗟に身を沈め回転斬りを放つ。金属同士が衝突してけたたましい音が鳴り、短剣が叩き落された。
だが目を上げると、ギラヒムの姿がない。
――――俺だったら、どこから相手を襲う?――――
リオスの脳裏にそんな考えが浮かんだ。次の瞬間少年は咄嗟に後ろに倒れた。後転して立ち上がる。同時に何かが上から降りてきて、彼がさっきまで立っていた場所に剣を突き刺した。
ギラヒムだ。野獣のような呼吸をし、目を上げた。だがその瞳には狼狽の色が浮かんでいる。
少年は跳躍した。ジャンプ斬りを浴びせ、着地した瞬間回転斬りを放つ。
相手がよろめいた瞬間に、滑るように進み出て縦斬り、横斬り、さらに袈裟斬りを放つ。全て手応えがあった。
またもやギラヒムが消えた。リオスは剣を下げながらも周囲の気配を探った。
数メートル離れた背後に再びギラヒムは現れた。踵を返すと少年は突進した。
「ちいッ!」
指が鳴る音がした。ギラヒムの前の空中に赤い光を纏った短剣の群れが現れた。横並びに浮遊している。
短剣の群れが真っすぐにこちらに飛んでくる。リオスは寸前で見切って前転した。背中を刃がかすめチュニックが裂かれる。だが止まらなかった。そのまま殺到すると、大きく振りかぶって斬りつけた。
「グアッ...!」
悲鳴が響き、相手の姿が消えた。
* * * * * * * * * * * *
数秒の時間が経過した。少年は相手の姿を探した。だがどこにも見当たらない。
すると、唐突に含み笑いが聞こえてきた。目を上げると、塔の台座の上だった。
ギラヒムはそこに立っていた。その額の傷から血が流れ、顔を赤く染めている。胸や肩や腹にも斬り傷ができており、引き裂かれた布地の背後から滲む血が白い服に広がりつつあった。
「...どうやら君は僕が思っていたようなただの子どもではなかったようだね。いいだろう。それなら、もっと周到な仕掛けを用意しておくことにするよ」
彼の口調こそは慇懃だったが、その目は憎悪と屈辱に赤く燃えていた。
「君か...あるいは君の子孫を破滅させるためにね。では...いずれまた会おう。五百年後...いや。千年後....くらいかな...?」
ギラヒムは傲然と顎を上げると続けた。
「覚えておき給え。君の子孫は未来永劫、永遠に逃れられない。この僕と魔族による呪いからね。楽しみにしておくんだな。彼らが地獄を見るその時を」
「おい!逃げんのか!まだ終わっちゃいね...」
リオスが叫んだ瞬間、ギラヒムは踵を返した。台座の端に立つと、そのまま躊躇うこともなく身を投げた。
少年は息を呑んだ。彼が飛び降りた先は、竜とナリシャの戦いによって広場そのものが引き裂かれてできた奈落だ。
リオスはダッシュした。広場の端に辿り着くと、荒い呼吸をしながら下を覗き込む。
だが、その頃にはもうギラヒムの姿はなかった。
そこにはただ果てしないほどの白い雲が広がっているだけだった。