二日目の業務も終了した。手元で書類をパラパラしながら、社内寮へ退勤していく。
「お疲れ二人とも。どうだった初日は」
「いやー、あの子超いい子でしたよー。可愛かった」
「アブノーマリティにそういう感覚で接しちゃダメって、言われてませんでしたっけ?」
じとり、とコートニーがノルンを責める視線を向ける、が。
「……花守り相手なら……しょうがないかな……」
「エインさん……!?」
『いたずら看板』を俺が担当してた以上、今日二人が接したのは『花守り』だ。同じZAYINという枠組みではあるが……まぁ、彼女は別枠だろう。無害すぎるし、まぁその。正直言うと可愛いし。
ノルンがだよねーとでも言うように頷き、コートニーが驚愕に目を見開いている。って、いやいや。
「コートニーお前、そんな顔してるがな、花冠着いてるぞ。花守りのギフトだろう、それ」
そう、コートニーの頭には白い花と茎で編まれた花冠が載っている。明らかに『花守り』から渡されたE.G.Oギフトだ。
装飾品の形態を取っているものの、本質としてはアブノーマリティの自我の断片。概念的なものである為、こうして社内寮でも外せない。
というか、既にコートニーという存在にくっ付いているんじゃないだろうか。
「あ、へぇ。これギフトって言うんだ……通りで外せないわけだねぇ」
「そ、そうだったんですか……!?」
「おう。俺も実際に貰った訳じゃないが……あの子の自我の断片で、今はお前にくっ付いてるからな。身体の一部って訳だ」
「えぇー?あんな可愛い子から、そんな贈り物貰っておいて。さっきの態度は酷くないかなぁー?」
「そうだそうだー」
ノルンのことは気に食わないが『花守り』の扱いに関しては同意だ。罪善さんと同じ初日枠だから、というメタ視点もあるが……彼女は温厚で善良である。人類の味方枠と言っても良い。
人類の味方アブノマは丁重に扱うのだ。俺も管理人だったからな!!
「う、うぅ……っ!何ですかいきなり二人揃って!!」
思い出したかのように頭上の花冠を隠しながら、コートニーは後ずさる。
「ま、アブノマに対して危機感を持てっていうのは正しい。その上で、場合によっては良い関係を築けるアブノマだっているんだ」
「そもそも、あの子は私たちに不利益なこと、しようとも出来るとも思ってなさそうだもんねー」
「そういうこった。あんま肩肘張りすぎず、適度に力抜いてけよ」
「…まぁ、はい。分かりましたよ……」
ばつが悪そうにコートニーが俯く。彼自身『花守り』への態度に思うところはあったらしい。
「あ。でもまぁ今日来た看板は割と雑で良いと思うぞ。一日付きっきりで作業してみて分かったが、中身割とクソガキだから」
「……看板なんですよね?」
「おう。これ資料な」
適当な机に資料を置く。ノルンがおもむろに捲り始めて、それからケラケラと笑い出した。
「うわっ、ホントだ。やってることが近所に居たガキどもすぎるわー、これ」
ちょっと気になることを言っている。L社に入る前はどういう生活をしていたのか、一部だけ知るともうちょっと知りたくなる。流石に聞き出すのはやめるべきだろうが。
「ちょっと、僕も見せてください……明日は僕らで担当するでしょうから」
「おー、んじゃ今のうちにしっかり見とけよ。明日も新人は入るらしいが、基本は俺たち三人で回すらしいから」
「はいはーい。おやすみ先輩、後で寝起きドッキリ仕掛けに行くね」
「来んなアホ」
二人と別れて自室に戻る。念の為部屋の鍵を入念に確かめてからかけておいた。
いくら生意気な言動してるノルンも、わざわざ俺の部屋まで来ることは無いだろうが、念の為だ。……来ないよな?大丈夫だよな?なんかアイツならやる気もしてきた。
まだ知り合って一日目なのに、何故か負の信頼が既に築かれている。ノルンの影に怯えながら、戦々恐々と今日は眠りにつくのだった。
明日はどんなアブノーマリティが来るのか、考えながら。
***
思うに、この時の俺は少し浮かれていたんだ。
知らないアブノーマリティが相手とはいえ、二日連続で安全な奴らが相手だった。
そいつらも上手く、適切に管理して、早期に情報を引き出せた。
きっと、俺には慢心があったんだ。俺なら上手くやれる。次も上手くいくさ、なんていう慢心が。
だからこの次の日。エージェントを一人、死なせることになった。