中堅が好きだ。
低すぎれば雑に使われ、高すぎれば身の程に合わない。
ほどほどがいい、何に置いても。
だから俺は中堅が好きなんだ。
───
今夏の王都は噂に事欠かない。
あるパーティがダンジョンを攻略し、Aランクへ昇格した、だとか。
北地から迫る超巨大生物を大規模ギルドが討伐した、だとか。
魔物の大軍団を王国軍と冒険者が協力して討伐した、とか。
その噂のうちの一つ。
Aランク冒険者、【赤炎】のサーマルドのパーティ、巨大鉄人形を撃破!!
酒の卓上で英雄譚は交わされる。
「鉄人形は鉄を喰らって増える。剣も矢も効かなかった。おまけに追い詰めると集まって巨人になった。」
「どうやって勝ったんだよ。」
「鉄が溶ければ核が出る。…【赤炎】、奴は自分の持つ魔剣を燃料に焚べて、信じられないくらいの大規模な炎魔術を出した。山肌が溶け落ちるほどかと思ったよ。」
あいつ、自分の炎だと熱も感じない上、燃えもしないんだ。そうして、溶け落ちた鉄の海から姿を現した核を、そのまま叩き割ったのさ。
「それなら、楽勝だったな?」
「バカ言うな。巨人は鞭みたいに鉄を振り回すんだ。溶けるまでは時間がかかるし、あの炎も噴火みたいで生きた心地がしなかったよ。」
そのうち、1人が言い出す。
「赤炎のは、Sランクにふさわしいのでは?」
「……流石に魔剣を失ったサーマルドさんには務まらないのでは?」
「流石に討伐の報酬で新しい奴取り寄せるだろ。」
「まぁ確かに、あいつが逃げ帰ったなんて報告聞いたことがないな。」
───
「サーマルド=プロメウス殿。この度のご功績に対し、王国より深く感謝の意を表します。王国総括ギルド長、シルド=マルクンドより。」
「光栄です。」
「この度、サーマルド殿の活躍によって、大災厄になりつつあった鉄人形…【エンギド】を打ち倒すことができました。これほどの働きは、サーマルド殿以外では成し遂げられなかったことでしょう。よって、その功績を称え、ギルドはここにサーマルド殿をSランク冒険者に任命します。」
「謹んでお断りいたします。」
一瞬、誰もが呼吸を忘れた。
静寂は、次の瞬間、大広間を揺るがすどよめきへと変わる。
「今…断ると?」
「はい。誠に申し訳ありませんが、私にはSランク冒険者としての勤めを十分に果たすことができないと存じます。」
「Sランク冒険者は称号です。サーマルド殿、あなたの今までの働きを評価して、Sランクと認定したのです。決して今以上の働きをしろなどと強要するためのものではありません。その上で、この任命を断ると言うのですか?」
Sランク冒険者になれば、ギルドからの扱いも高くなる。
自分の意見も通りやすいし、予算も出してもらえる。
クエスト遂行に必要なメンバーを無理矢理招致することすらもできるだろう。
ギルド内での絶対的な権限を、Sランク冒険者は持つのだ。
だが、俺の返事は決まっていた。
「はい。このような場を用意していただいて申し訳ないのですが…。」
「……承知しました。」
総括ギルド長は一度目を閉じ、そして開けた。
「本件については後日改めて協議するとしましょう。それでは、式典を続行します。」
総括ギルド長は顔色一つ変えず、手元の式次第へと視線を落とした。
ざわめきは一旦静まった。しかし、その衝撃はあまりにも大きなものだった。
「今回サーマルド殿の働きに関してギルドが用意した報酬は───。」
──────
赤炎のサーマルドがSランク冒険者への任命を断ったことは王国中でニュースとなった。
当のサーマルドと言うと、新しい魔剣を仕入れるための材料を見繕っていたのであった。
「…地底火岩竜の炎石か…。おっ、これは流星悪魔の熱核。…太陽鳥の炎眼も捨て難いな。全部くれ。」
「あなたがSランクになってたら、素材も工房も、専属鍛治士まで無料で用意できたんですからね?」
ため息をつく専属ギルド職員、ハリス。サーマルドとはBランクからの付き合いだ。渋い顔で配送の手続きをしながら、ハリスはサーマルドに訴えた。
「なんでSランク蹴っちゃったんですか。なってくれたら私だってお給金上がったんですよ?サーマルドさんがあんなことするから、ギルド内でも針の筵で…。少しくらいは小言を言わせて欲しいです。いや!聞くだけじゃダメ!実践してください!」
「俺はSランクに相応しくないんだ。だから受けない。」
「今までの功績で、既にあなたは信頼されてるんですよ!その信頼を蹴ったというとこです!権限を持つSランク冒険者なんて、実績があって振る舞いが良い人なら誰でもいいんですよ!…なんで断っちゃったんですかあぁぁ……。Sランクになる予定を聞いた時は、真面目に嬉しかったのに…。」
「…すまない。ハリス…。」
無用な混乱を招いた事に、思うところがないわけではない。
しかし、だ。
俺は身の丈にあった冒険者生活がしたかったのであって、組織のトップに立ちたいわけじゃない。
責任を背負えないわけじゃない。だが、俺は人の上に立つ器ではないのだ。
「……まぁ別にいいですよ。冒険者、続けていただけるのでしょう?私、辞めるかもと思ってたので…。」
「そのつもりだ。」
(冒険者を辞めるつもりはない。この手に力がある限りは。)
これは、中堅でありたい冒険者…【赤炎】のサーマルドの物語。