あーあ、やっちゃったね?って話です。
<<< 翌日 >>>
その日は朝から大忙しだった。
まず、朝一番にミリムを起こした。
ぐずるミリムに服を着替えさせ、身支度を整えた。
昨日のうちに用意してもらった女の子らしい可愛い衣服だが、良く出来ている。
「何で早起きせねばならんのだぁ!」
「ホラ、ぐずってないで顔洗え」
などと舐め腐ったことを言っていたが……。
「おはようリムルさん。今日はパンとジャムに野菜スープと牛鹿の牛乳だよぉ」
「……オッス、おはようレイタロウさん」
「おはようなのだレイタロウ!」
朝食を食べる頃には機嫌が良くなっていた。
子供って、本当に単純である。
そんなミリムが朝食を食べている間に考える。
ミリムを連れていけるだろうか?
ちょっと自信がない。
……いや、訂正しよう。全然自信がない!
魔王レベルの危険な子供を連れて、行ったことも無い場所へ行くなど、とてもじゃないが無理。
かと言って、置いていくのも不安が大きい。
ミリムがこの国にいる間は、人間の国に行くのは見合わせたほうが良さそうだ。
さて、どうしたもんか……。
「ミリム。ご飯を食べ終わったらリムルさんに製作工房へ連れて行ってもらったらどうだ?……可愛い服が沢山あるから、好きなだけ見繕ってもらうといいよぉ」
「おぉ!分かったのだ!」
オイオイオイ、俺の予定が勝手に決められたよ……。
その時だった。レイタロウさんから『思念伝達』で言葉短く用件が伝えられる。
回復薬の進捗状況を見に行こう、と。
「レイタロウ様!おはようございます!」
「おぅ。おはよー」
リムルさんに言葉短く『思念伝達』を送った俺ことレイタロウは、回復薬の研究所へ赴くべく、リムルさんより先んじて歩を進めていた。
王者の風格を漂わせる白黒マントは羽織っていない。
……有事ならともかく、今はプライベート故に比較的ラフな格好で出歩いているワケだ。
「レイタロウ様ー!焼きたてどうですかー!?」
「レイタロウ様!こちらの
「レイタロウ様〜!美味しい
「レイタロウ様レイタロウ様ぁ!新しく
「ハハハ……おいおい、俺は一人しかいないぞぉ?」
飯屋が軒を連ねるエリアを歩いてしまったばかりに、色んな売り子からの熱烈な売り込みに遭ってしまったが。
……まぁいいか。ベスターへのいい手土産にはなるだろ。
「その串を十本に、おにぎりも十個、
「「「「 ありがとうございまーす!! 」」」」
これはあくまで余談だが、うちは今試験的に〝功労ポイント制度〟という人事・給与制度を導入している。
この制度は、真面目に頑張った者はキチンと報われるべきという考えの元立ち上げた、謂わばプロトタイプに相当する骨子制度である。
ユニークスキル『
その上で真面目に働いている者とそうでない者を選別し、付与すべきポイントの高低を決めるというワケだ。
月一回のペースで固定ポイント+働きに応じたポイント*1を合算したポイントを魂に刻み込み、買い物をする時などにそのポイントを消費することで物を購入できるという仕組みを作り上げたばかりのところだ。
各々に割り振られている固定ポイントは、リムルさんとシュナが8,000ポイント、侍大将を務めるベニマルほか有力な重鎮は7,000ポイント、一般兵士は3,000ポイント、一般住民は1,000ポイントという具合。
ポイントの換金制度も近々組み立てる予定だ。
これには〝四方の王の陣〟の機能の一部を流用している。
ちなみに、それと並行して平日や休日を制定し、加えて月七日以上の有給休暇を義務付けている。
もし休日に働いたとしてもポイントは追加されず、事情次第ではポイントの没収も視野に入れるという次第だ。
労働時間も細かく取り決めており、基本的に朝の七時に労働が始まり、夕方の五時頃には労働を終了させねばならない。
無論、午前三十分、昼一時間、午後三十分と休憩を挟むことも忘れない。
もし時間を超過して残業したい場合は、あらかじめ指定の書類に残業の時間と理由を細かく書き記さねばならず、万一これを怠って独断で残業をした場合も、上記のように没収の対象となる。
業務の効率化を狙ってのことだったが、これが思いのほか上手く行っており、限られた時間の中で如何に効率的に業務を回すか、皆が頭で考えて徹底的に無駄を削ぎ落とすことで業務の質が向上したと実感している。
まぁ勿論、国家の根底を揺るがす有事の際は例外だ。
他国からの侵略行為が確認された日には、皆の休日はあっという間に終わりを迎える。
むしろ、有事のために皆には余計に休んでもらっているところもあるんだけどねぇ。
それと、国境警備やインフラ整備等の重要職に就いている者には、適度に休息を挟むようにと忠告はしているが、そこら辺は何とも難しい話だ。
今度は、この骨子に肉付けできるだけの画期的なアイディアを考えなくちゃいけないなぁ……。
「ご馳走さん。うどん美味しかったよぉ」
「ありがとうございました〜!」
両手にズシリと中身の詰まった風呂敷をぶら下げ、俺は目的の場所である回復薬の研究所へ歩を進めた。
ちなみに俺自身は、固定10,000ポイント+働きに応じた9,000ポイント前後をもらっている。
今回の場合、結構食べたり持ち帰りしたワケだが、これでも合計消費ポイントは50を下回っていた。
正直持て余し気味であり、俺に割り振るポイントはもう少し下げてもいいかなぁと思っている。
それはそうとベスターだ。
彼は、最初ドワーフの国に滞在した時に俺達やカイジンさんを罠に嵌めようとしたイジワル大臣
だったと言ったのは、現在の彼はまるで別人のように我が国で働く有能な研究者に変化していたからだ。
『来てやったぞレイタロウよ!』
調印式が終わり、ガゼル王一行が
『ほれ、約束の技術者を連れてきたぞ。好きに使え』
それで乱雑に俺の前に転がされたのは、簀巻きにされて目を回していたベスターであった。
曰く、有能なこいつを遊ばせるには勿体ないが、自分の元で仕えることを許すワケにもいかない。
故に、うちに預けたほうが賢明であると判断したそうな。
勿論カイジンさんは止めようとしたが……技術流出をしていった本人の言葉に力などありはしなかった。
『そのための盟約よ。ここでの成果はきっちり我が国でも享受させてもらう。……ベスターよ』
『はっ……はい!』
『貴様の本分を活かし、腐ることなくここで精一杯に生きてみせよ』
『っ……はっ!今度こそ、今度こそご期待に応えてご覧に入れます……!』
『フッ……存分に励め。ではサラバだ』
嵐のようにやってきて、嵐のように去って行った。
全く、自由なおじさんだよ。
その後小一時間ほど平謝りして、面倒になって全部許すことにしたが、今となってはその顔にかつての険しさは張り付いていなかった。
ただまぁ、ベスターは有能な働き者ではあるんだけど、根詰めすぎて働きすぎるきらいがあるんだよねぇ。
この前なんか、残業申請をほっぽり出して一日中研究に没頭した挙げ句、過労でぶっ倒れるなんていう醜態を晒しちゃったんだよねぇ。
故に謹慎七日間を言い渡し、反面教師としてベスターの例を文面に残して永久保存することにした。
既に完成した学校の、良き学習教材となることだろう。
そして、今日がベスターの謹慎明けだ。
昨日まではガビル達が回復薬の研究業務を一手に引き受けていたため、ほぼ滞りなく回せていた。
ベスターの指導を受けたガビルの成長は目覚ましく、そう遠くないうちに単独で
両手にぶら下げたこの風呂敷は、いわゆる謹慎祝いという奴である。
……ついでに労働時間は守れよと釘を差すのも忘れない。
とはいえ、流石に時間をかけすぎたな。
早う行かねばリムルさんとすれ違いになってまう。
「ここはいい町だな。……魔王カリオン様が支配するに相応しい」
……ん、どなた?
後ろから声をかけられたため振り返ると、そこには
いや、見知らぬというのは語弊だな。
そいつらは魔王カリオンが遣わした使者。
俺が昨日『裁定者』で捕捉した三組のうちの一組である。
「そうは思わんか?……
リザードマンって俺のこと……だよなぁ。
俺、正確にはリザードマンじゃなくて怪人なんだけど。
まぁいいや、一応答えておこう。
「いい町であることには同意するが、他所の魔王に支配されるのは御免被る―――」
「口の聞き方には気を付けろ、トカゲ風情が」
右手に持っていた風呂敷の中身……肉串やおにぎりがボトボトと地面に零れ落ちていく。
脅しのつもりで放ったであろう爪による一撃は、風呂敷を切り裂くだけに留まらず、切り口を起点に焦げた臭いすら漂わせており、炎熱効果が付与されていることも窺える。
「貴様らごとき弱小の魔物が、栄えある魔王カリオン様に直々に支配されるのだ!それを断ろうなどと万死に値する行いよ!」
……ヤバいな。これはかなりヤバい。
「何なの急に……」
「せっかく皆で育てた食物を……!」
「あいつ、レイタロウ様を侮辱しやがった……」
「許せない……」
俺自身はいたって問題ないけど、リーダー格とその取り巻きがかなりヤバい状況に置かれている。
「分かったならさっさとこの町の代表を連れ、て、くる、が、がが、がががが、がががががががが」
「フォビオ様?……フォビオ様!?」
この衆目環視の中で、あまりにも悪目立ちしすぎてる。
「え、
「嘘、なんでスキルが使えないんだ!?」
それも、国王である俺を侮辱して……。
「がががが―――っ、な、んだと、
あーあ、やっちゃったね?
〝四方の王の陣〟の犠牲者第一号、ご案内ぃ!
「だから言わんこっちゃないのだ。この町で不興を買うとマズいことになるとな。……あ、そういえば言ってなかったのだった」
これでもまだ軽いほうなんですよ。
……魔素とスキルの没収。