魔王が何か企んでるよって話です。
「くっ、なんで俺がこんなことを……!」
「フォビオ様、どうか耐えてください。……
「分かっている!分かっているが……ッ」
「はいそこー。私語は厳禁だよぉ。ちゃんと汚した道路の清掃に従事しなさーい」
「っ〜〜〜!!(なんで俺が雑用の真似事をせねばならんのだ!おかしいだろッ!!?)」
やぁどうも。俺の名前はレイタロウだよぉ。
何故かって?……そりゃあアンタ、国王である俺がお土産として持ち歩いていた肉串やらおにぎりを爪で引っ掻いて台無しにして、あろうことか道路に盛大にぶち撒けたんだから、当然清掃させるに決まってるでしょ。
その使者殿も今となっては魔素やスキルを持たない見た目通りの一般的成人男性になっているし、抵抗したり逃げたりすることはほぼ不可能だ。
実際チラリと
……にしても、こいつら全然手際が良くないな。
力任せにデッキブラシを押し付けてるだけだし、これじゃあ道路の舗装が剥がれるだけで全然清掃とは呼べない。
「ほらほら、キチンと誠意を見せないと没収された魔素とスキルは戻ってこないよぉ?」
「っ〜〜〜、っ〜〜〜!!」
でも仕方ないよね。
当事者であるこいつらが自分のケツを拭かないことには、住民達は納得できないし許さない。
住民達が許さないってことは、それはつまり〝四方の王の陣〟の結界効果が永続するってことだ。
ガッツリそのまんまの名前なんだけど、この結界は以前紹介したように内と外を分断しない、いわゆる閉じない結界を目指してシュナ達に準備させていたモノである。
閉じないって言うのはそのまんまの意味で、この結界には外層に相当する部分は一切存在しない。
水を入れる
俺にはその不可能を実現できるという確信があったため、シュナと記憶を共有することで無理やりその感覚を掴ませた次第だ。
んで、出来上がったのがこの結界だが、これには従来の結界には無い幾つかの利点が存在する。
一つ、物理的に内と外が遮断されていないため、国内外への自由な往来が可能なこと。
交易路としてこれからどんどん発展していく我が国にとって、自由な国境線の往来は
二つ、物理的に破壊される心配がほぼない。
従来の結界であれば、術者や結界の外層を攻撃するなり結界の維持を司る結界石を破壊することで結界そのものを解除することが出来るが、この結界には攻撃すべき術者や外層がそもそも存在せず、結界の維持を司る結界魂石は配下の魔物の魂と名前に打ち込まれている。
つまり物理的・魔法的にこれを無力化することは至難を極めるということだ。
一応、結界の維持に必要な
ちなみに〝功労ポイント制度〟のポイントも、元を辿れば配下の魔物達の幸福な感情から生じた魔素によって成り立っており、シエル先生の協力があれば、溜まりに溜まったそのポイントを次なる進化や新たなるスキル発現の
「クソッ!やってられるかこん、な、こ、とぉ……?」
「「「 フォ、フォビオ様ぁぁぁ!!? 」」」
「責任を投げ出さない。償いの放棄は罪悪感の欠如と見做すよー。ほら立った立った」
「く、そ、足腰に、ちからが、はいら、ねぇ……!」
使者達のリーダー格フォビオ君は、部下の助けを借りながらなんとか立ち上がり、地面に叩き付けたデッキブラシを拾って清掃を再開する。
メチャクチャ悔しがってるのが丸わかりだけどねぇ。
……前置きが長くなったが、そろそろこの〝四方の王の陣〟の真の恐ろしさについて話そうと思う。
前述したように、この結界への出入り自体は自由だ。
……もし、この国に対する悪意や害意を抱いていたとしても、結界はその人物に
結界の排斥対象は、国を脅かし侮辱する
そして、結界の攻撃性は住民の感情によって変わる。
フォビオ君とその取り巻きがいい例だろう。
あの爪の攻撃がもし、食べ物の入った風呂敷ではなく俺自身だったならば、フォビオ君達は今頃
清掃活動という名の償いも出来ないまま、一生苦しみ続ける羽目になっていたかもねぇ。
それを考えれば、今の状況は生易しいもんだ。
罪に対する償いシステムも組み込んでおり、償いをキチンと果たして周囲の皆を納得させることが出来たならば、結界もまたそいつを許し、没収していた魔素やスキルを返却するというカラクリだ。
身内同士で喧嘩することもあるかもしれんし、もしそうなった時に互いに互いを許し合うことが出来なければ国家運営などあっという間に立ち行かなくなる。
勿論抜け道というか裏技的なものもあり、この国の頂点に君臨する俺が全てを許してしまえば、住民達の感情をよそに結界は無条件でそいつを許してしまう。
フォビオ君は魔王カリオンが直々に遣わした使者だ。
許す許さないに関係なく、彼をキズモノにするのは今後のためにも非常によろしくない。
「……ちなみに、償いもせずにこの結界より外に出たら二度と君達の
「「「「 っ〜〜〜!!? 」」」」
「このまま清掃に従事して恥をかくか、すごすごと国許へ帰って部下とともに一生笑い者にされるか、よく考えながら手を動かすことだな」
「っ〜〜〜!!」
俺の言葉を証明するものなどない。
だがしかし、現実に力の大半を奪われているこの状況でこれ以上の反抗はマズいと理解したのか、フォビオ君は顔を真っ赤に染めながらも黙々と清掃に集中してくれた。
にしても手際が良くない。
こんな汚れ、俺の配下なら五分くらいでちょちょいと落とすというのに、こいつらときたら一時間もかけて汚れを拡大させてやがる。
やれやれ、ここは本日の掃除当番の出番かなぁ?
「俺はフォビオ。ここへはカリオン様の命令で来た……来ました」
「ほぅ……やはりな」
「特に黒いリザードマン。おま……あなたを部下に勧誘するようにと言われて来たんです」
清掃活動にしっかりと従事させ、至らぬ点は掃除当番のゴブリンの指導を受けることで、二時間かけてなんとか住民の皆に納得してもらえたフォビオ君。
応接間に通されたフォビオ君の身には本来の
……が、それで増長するような大馬鹿者では流石に無かったらしい。
部下のことを話題に出したことがよほど効いたのか、その態度は最初の時と打って変わって
……語尾に無礼が付きそうなのが残念ポイントだが。
取り敢えずベニマル、そんな怖い目でフォビオ君を見ないであげて。反省はしたんだから一応。
そしてシオン、剛力丸に手をかけるのはやめなさい。
……洒落になんないのよ。
ソウエイ、君は笑わないで。怖いよぉ!
「紹介が遅れたな。俺はジュラの森大同盟の盟主にして、ジュラ・スターモンズ連邦国の国王を務めるレイタロウ・スターモンズという者だ。……現在進行形で魔王クレイマンに喧嘩を売っている自称魔王でもある」
「っ、あの話は本当だったのか……!?」
一応、魔王カリオンにも水晶を送りつけといたから、クレイマンへの宣戦布告のことを指した反応だと思われるが、にしたって使者に向いてないなこいつ。
使者がそんな分かりやすい反応をするなっての。
「さてフォビオ殿、まずは結論から先に述べるとしよう。俺は、いや我が国は、魔王カリオンの軍門に下るつもりは一切ない」
「なっ……!?」
「だがしかし、対等な〝同盟〟の締結であるならば、いつでも交渉の扉は開かれている。……我々はそれだけ貴殿の国に引けを取らない軍事力を有しているということだ」
話し合いなんてのは、話し合う前に決着が着いているもんだし、決着を着けなくちゃいけないことなのだ。
一方の頭を力ずくで押さえ込んで、地面に擦り付けるまでが話し合いの大前提である。
そして実際に、フォビオ君は
この話し合いの勝者は既に決まっているのだ。
「……だがまぁそうだな。いきなり同盟を結べと言われても、それは明らかに貴殿の権限を逸脱した行為であるのは明白だ。俺も少々結論を急ぎすぎた」
「あ、いや、それは……」
「この国に展開した結界の禁忌に抵触したとはいえ、貴殿達の手を煩わせたのは事実。……であるならば、ここは一つ詫びを入れるのが筋というものだろう」
そう言って俺は手をパンパンと打ち鳴らし、あらかじめ部屋の外に呼び寄せておいた配下の入室を許可する。
「お呼びッスかレイタロウ様ー?」
「っ〜〜〜(な、なんだこの、ゴブリンなのか?俺の数十倍の
団子っ鼻が特徴的なムードメーカー、ゴブタの登場。
我が国の精鋭たる〝
……タジタジになっている理由は、自分の約二十倍もの
ゴブタでも
長い尻尾を右に左に揺らしながらゴブタが近付いてくる。
「我が国が誇るゴブリンライダーの副長ゴブタだ。彼を案内役とし、是非ともこの国を堪能してもらいたい」
「我々の滞在を、許されると……?」
「魔王カリオンに報告せねばならんことは多岐にわたるだろう。今後結ぶ友誼の足掛かりとして、我が国の素晴らしさに触れ、是非ともその宣伝役となっていただきたい」
「……承知した」
フォビオ君からしてみても、断る理由はないだろう。
町の内部を詳しく調べることで、うちがどれだけ技術的に発達しているのかを思い知らせるためにも、断らせるつもりはないとも言うが。
「……えーと、レイタロウ様。オイラは具体的にどうすればいいんッスか?」
「なぁに、君は彼らの世話を焼くだけでいい。……ホイ、ポイント」
「わぉ!?……い、10,000ポイント!!いいんスか!?」
「返さなくていいし、もし足りなくなったらシュナに申請してくれ。ハクロウには俺から言っておくから、それで彼らの身の回りの世話をしてやってくれ」
「承知したッス!……えーと、お兄さん方、名前は?」
「……フォ、フォビオだ」
「オイラはゴブタッス!よろしくお願いするッス!早速町を案内するッスよ!」
「あ、あぁ……」
国王の名の下に合法的に修行をサボれると考えたのか、ゴブタはウキウキとした足取りでフォビオ君達を外へと連れ出した。
ま、万が一のことがあってもあの四人程度ならゴブタ一人で楽々制圧できるだろ。結界抜きで。
「話は終わったか?……モクモグゴックン……ならばレイタロウよ!早速ワタシと戦うのだ!!」
……そうだった。
さりげなくこの場に居合わせていたミリムのことをすっかり忘れていたよ。
サイズぴったりの白いワンピースを着こなし、椅子に座りながらモグモグと
「……勿論だミリム。俺は約束を違えない」
「うむ!流石はレイタロウなのだ!では始め―――」
「だがその前に、一つ頼まれごとを聞いてくれるか?」
「……む?なんだ?」
怪訝な表情を浮かべるミリム。
俺が勝負をほっぽり出して逃げだすような臆病者でないことは十分理解してもらえたはずだが、俺が何を言い出すのか、その二の句を待っているようだった。
「何、そう難しい話じゃない。……君の魔王友達フレイの悩みを、友達の友達である俺が取り除いておきたいと思っての頼み事だ」
「フレイの?一体なんなのだ―――おぉ!!?」
驚くミリムを差し置いて、『気』を急速に起動・回転させていき、
〝創造〟したそれは、俺の片手にスッポリ収まるサイズの人形であった。
「スゴい、スゴいのだ!レイタロウはこんなことも出来るのだな!………む、ビクンビクンと脈打っているぞ?」
「これは俺の『気』を流し込んで創った生きた肉人形だ。ま、知性もないし魂と呼べるモノもない、本当の意味での人形だけどね」
「……しかし、この人形からは果てしない〝怒り〟を感じるのだ。感情だけは存在するとは歪なものだな」
「鋭いねぇ。まさにそうさ」
「え?」
「こいつはあくまで依り代。この森のとある場所に封印されている
「…………あ、そうか!」
ようやく分かってくれたようだねぇ。
伊達に数千年も生きてないな。
「
「「「「 え"っ!!? 」」」」
「分かったのだ!」
「それと、観客は一人でも多いほうがいいから、
「「「「 な"っ!!? 」」」」
「分かったのだ!」
「カリュブディスの封印は解けかかっているっていうし、どうせなら復活させて俺が一撃で葬り去ろうと思ってるんだ」
「「「「 ハァァァァ!!? 」」」」
「分かったのだ!」
「で、その後にミリムとの決闘に移ると。……勿論結界の外でね」
「「「「 ………( ゚д゚) 」」」」
「スゴく面白そうなのだ!ならばワタシは、魔王っぽく登場してやるのだ!」
「ハッハッハ、いいねいいねぇ。俺も久しぶりに本気を出そうかなぁ!」
「……ソウエイ、至急トレイニー殿に連絡しろ。我が王がカリュブディスをオモチャにしようとしているとな」
「……今向かわせている」
「レ、レイタロウ様、常識外れにも程があります……!」
「常識がないだけじゃね?」
む、リムルさん酷いなぁ。
常識なんかにかまけてたら、この時代生き残れないのよ?
なら、少しでも楽しまなきゃいけないよねぇ!
ハッハッハ、いやー楽しみだなぁ!
……魔王っつっても、クレイマンとは限らない。
またしても出し抜かれるクレイマンに合掌!