色んな人達が来るよって話です。
挿絵あります。
ファルムス王国。
その大国は、領土の一部がジュラの大森林に接していた。
唐突だが、暴風竜ヴェルドラの天災級の暴れっぷりはもはや全ての国が知るところであり、その暴風竜が縄張りとしていたのがジュラの大森林である。
そんなある意味天然の火薬庫を抱えているとも言える森と領土が接してた伯爵の元に、凶報が舞い込んできた。
そして、それを率いる
魔物の活発化でただでさえ町の警備を強化しなければならないのに、暴風竜特別対策援助金の打ち切りと密かに行っていた援助金の着服によって、自業自得とはいえ本格的に首が回らなくなってしまっていた伯爵。
……その問題は既に解決していたのだが、真相を知るのは
とはいえ伯爵は悩んだ。
騎士は町の警備に必要だし、調査団を組織するには人員と金が足りない。
そこで伯爵が閃いた考えは、自らの保身に走った非人道的なものであった。
矯正施設に収容されていた者達を強制的に駆り出し、荒くれ者のみで組織された辺境調査団に森の調査をするよう命じたのである。
「森の調査ねぇ……こりゃあアレか」
「っ……」
「強欲な伯爵サマにとって、俺達は捨て駒かよ」
そんな荒くれ者ばかりの調査団を纏め上げる男ヨウムは、伯爵への悪態を吐き捨てながらも心は森の奥底を見据えていた。
全ては生まれ故郷のために。
荒んだ言動に隠れながらも、その心は正しく熱く燃え盛っているのだ。
……うんうん、彼らのような芯が真っ直ぐな連中に観てもらったほうが好ましい。
予定通り、リムルさんに出迎えを任せるとしよう。
「「「「 うおぉぉぉおおお!! 」」」」
ジュラの大森林の、割と奥深く。
四人の人間の男女が奇声を発しながら物凄い勢いで猛ダッシュしていた。
それは、ある理由から首都リムルを目指す一行が窮地に陥っている場面であった。
「なんでこんな目にぃぃぃぃぃ!?」
「お前が
どうやら、リーダーを名乗る男カバルのミスによってナイトスパイダーに追いかけられているようだった。
「死んだらカバルの枕元に出てやるんだからね〜!」
「そりゃ無理ってもんだ!……って、このやりとり前にもしたな!」
そんな下らないやりとりをした直後、ナイトスパイダーの前脚がやや後方に引き絞られるのを目撃したカバル。
猛烈に嫌な予感を覚え、咄嗟に仲間のエレンを自分ごと突き飛ばす。
刹那、エレンのいた箇所に突き刺さる鋭利な前脚。
前脚による一撃は地面をやすやすと抉り、その威力を物語るように小さなクレーターが生じていた。
しかし、それだけでは終わらなかった。
ナイトスパイダーは、その複数ある前脚を器用に駆使し、更なる追撃をカバルとエレンに仕掛けていく。
これには堪らず情けない悲鳴を上げるカバル。
エレンのほうも黙ってはいなかった。
「この〜〜〜っ、調子に乗らないでよね〜〜〜!!」
カバルに担がれながらも、杖を媒介にあっという間に魔法を構築するエレン。
速射性に優れた、殺傷力特化の土の弾丸を形成する。
「
ナイトスパイダーの周囲に展開されたそれら土の弾丸は、エレンの思いに応えるように一斉射出される。
物凄い勢いで射出された土の弾丸がナイトスパイダーの全身に突き刺さり、その余波で辺り一帯を土埃が覆う。
やったか……!?
その場にいた四人誰もが、そう確信した。
「やっ……てない!!?」
……が、無情にも土埃の奥から健在のナイトスパイダーが現れてしまう。
「姐さん全然効いてやせんぜ!!」
「見れば分かるわよぅ!!(あぁもぅ!ゴブゾウさんみたいにもっと射出速度があればなぁ!!)」
再び逃避行を始める四人であったが、油断して足を止めてしまったのが良くなかった。
既にナイトスパイダーとの距離は、走って振り切れるギリギリを超えていたのだ。
その前脚がカバルの足元に深々と突き立てられる。
「ふぎぃぃぃ!」
「いやぁぁぁ!」
堪らず転倒し、地面を転がりまわることとなった。
「チッ、頑強な上に魔法も効かんとは……!」
四人の中で最も手練れ感を漂わせていた中年の男フューズは、覚悟を決めたように腰の剣を抜き、ナイトスパイダーと相対する。
「このままじゃ魔物の町の主とやらに会う前に全滅だ……!」
……リムルさん、彼らヤバそうだよ。何してるの?
え、シオンの手料理の試食?ンなもん断れよ普通に。
「うおぉぉぉぉぉ無理!無理だってこんなん!相手は八本足だぞ!?……ギド!てめー手伝いやがれ!」
「短剣で捌けるワケねーでしょうが!」
「目の前の敵に集中しろカバル!俺かお前がしくじれば四人とも死ぬんだぞ!!」
ナイトスパイダーの猛攻は激しさを増す。
前衛のカバルとフューズが必死でナイトスパイダーの前脚を剣で弾いていたが、その防御網がすぐにでも突破されるのは目に見えていた。
「シズさ――――――ん!!」
「隠居した英雄に頼るなッ!!(……しかし、シズさんとまではいかなくとも、せめてもう一人剣士がいりゃあ良かったんだがな……!!)」
フューズの脳裏を過る一つの報告。
それは、自分のすぐ傍にいる三馬鹿からもたらされた、あまりにも信じがたいモノであった。
「(その情報の真偽を確かめる前に力尽きようとは、あまりに無念だ)……ッ!?」
フューズが諦めかけたその時、横合いから突然見知らぬ男が現れ、手に持った長剣によって事も無げにナイトスパイダーの前脚を弾き返してしまった。
男の技量の高さに感心するよりも、自分達以外にもこの森に人間がいたことに驚愕するフューズ。
「なっ……誰だあんた?」
「ヨウムだ」
カバルの問いかけに簡潔に答えた男……ヨウムは、油断することなくナイトスパイダーと相対する。
「無理しないほうがいいわよぅ!こいつ魔法も効かないんだからぁ!」
「っ、厄介なことだな。……どうしてあんなのに追われているのか後で問い詰めるからなっ!」
どちらにしても避けられない責任の追求に、当事者のカバルは冷や汗を垂らしながらもナイトスパイダーの猛攻を防いでいく。
ヨウムやフューズもまた、各々の得物でもってナイトスパイダーの猛攻を凌いでいく。
「……で、あんたらの名前は!?」
「……フューズだ!」
「カバル……だよッ!!」
「援護するのよぅ!」
「はい!」
前衛が三人になったことで余裕が生まれたのか、各々が自己紹介をしていきながら、フューズはヨウムへ疑問を口にする。
「何故こんな場所にいる!?ここは魔物の森だぞ!!」
「そういうのはアトだ。まず、こいつを何とかしないと……ッ!!?」
大上段に振るわれた鋭い一撃を受け止めた瞬間、ヨウムの剣は綺麗に叩き割られてしまった。
「(しまった……剣が保たなかったッ)」
ヨウムの一瞬の隙を見逃すほど、ナイトスパイダーは甘くはなかった。
まずは一匹。
そう言わんばかりに非情な一撃が繰り出される。
狙いは勿論、ヨウムの脳天だ。
「ヨウムさんッ!!」
ナイトスパイダーの一撃は地面を深く抉り貫き、着弾地点にいたヨウムを突き刺しにして―――
「いやぁ悪い悪い、遅れちまった。怪我はないか?」
……突き刺しにしてなどいなかった。
ナイトスパイダーが抉ったのは地面だけ。
そこにはヨウムの姿はなく、代わりに聞こえてきたのは、可愛げのある少女とも、中性的な美少年とも言える
抉られた地面から少し離れた場所に立っていたその小柄な魔人の手元には、何をされたのか理解できずに困惑しているヨウムの姿があった。
「よ、久しぶりだなお前ら。まーた魔物の巣でも突っついたんだろきっと。やれやれ、しょーがないヤツらだ」
「「「 リムルさん!! 」」」
「リ、リムル……?」
「っ、まさか彼が―――来るぞッ!!」
ナイトスパイダーの標的が、目障りな
急速に接近するナイトスパイダー相手に、リムルは何をするでもなく自然体のまま立っていた。
……手元には、剣が折れて使い物にならなくなっているヨウムがいる。
「っ、いかん!(彼を死なせてはマズい)……ッ!!?」
「後は任せろ」
フューズは、自らの目を疑った。
左手はヨウムの肩に手を添えており、もう一方の右手には何にも武器を装備していなかった。
つまりは無手。
そんなガラ空きな状態でナイトスパイダーの攻撃を防げるはずがない。死んでしまう。
……そう思っていた時期が、フューズにはあった。
「どうした大蜘蛛?……
ナイトスパイダーの前脚による連撃がリムルを襲う。
それはフューズの目でも追いきれない速度に達していた。
……そんな死の嵐とも形容できる怒涛の猛撃を、リムルは片手だけで軽く受け流してしまっているのだ。
大上段から迫る攻撃も、横合いから挟み込むように迫る攻撃も、どれだけ速度を上げた攻撃も、その全てがリムルの右手によって川の流れのように滑らかに受け流され、敢え無く明々後日の方向へ向かってしまう。
ヨウムというお荷物を抱えながら、である。
……リムルさん、そろそろ終わらせてこっちに皆を案内してちょーだいよ。
「……だってよ。残念だが時間いっぱいだ」
リムルの虚を突くように死角から放たれた前脚。
それはリムルの脇腹を狙った必殺の一撃でもあった。
だがしかし。
無作法にも放たれたその凶悪な前脚は、あらかじめ先を読んで突き出していたリムルの脚と接触し、ものの見事に受け流される……だけでは終わらなかった。
流れる川のようにごく自然に軌道を狂わされたナイトスパイダーの前脚は、その矛先を本体に向けることとなり、勢いそのままに急所ごと本体を刺し貫いてしまったのだ。
苦悶の絶叫を上げる間もなく、仰向けに転倒して絶命したナイトスパイダー。
ヨウムやフューズ達があれほど苦戦していたナイトスパイダーとの戦いは、
「うっそだろ……」
「あんな子供が、一人でナイトスパイダーを?」
「そうよぅ!リムルさんは凄いんだから!」
ナイトスパイダーの無残な亡骸を呆然と見つめるのは、ヨウム率いる荒くれ者揃いの辺境調査団。
自分の前脚で自分の胴体を刺し貫いている異様な絵面に、思わず夢か?と疑いたくなってしまう。
「ありがとよ嬢ちゃん。助かったぜ」
「俺別に女じゃないんだけど」
がしかし、自分達が団長と認めるヨウムがリムルに頭を下げている様子を見て、これは現実であると思い知らされることとなった。
「……失礼、あなたはカバル達の言っていたリムルさん、ですね?」
「ん、そうだけど?……えーと」
「挨拶が遅れました。私はフューズと申す者。ブルムンド王国の
「それはご丁寧にどうも。あなた方がうちの王様の言っていたお客さんですね?」
「……口ぶりから察するに、我々が来ることは分かっておられたと?」
「えぇ。……ついでに、カバル達がきっとやらかすだろうから戦闘準備もしておけと言われましてね。まぁ案の定だったワケですが」
リムルの指摘に、目を泳がせながら下手くそな口笛を吹くカバル。
そんなカバルをジト目で見やったフューズは、気を取り直して本題を切り出す。
「何の知らせもなく訪れたことをまず謝罪させてもらいたい。何分、どうしても確かめなければならないことがありましたので。……ただ、その前に一つだけ、あなた自身にお尋ねしたいことがあります」
「……シズさんのことですか?」
「っ、まさにそうです!彼女はその……無事なのでしょうか?」
無事かどうか。
なんとも返答に悩む質問だと、顔を
生きているのかどうかを尋ねているのであれば、それは間違いなく無事だと言えるだろう。
何不自由なく生活できているのかどうかを尋ねているのであれば、それもまた無事であると言える。
「……シズさんは生きてますよ。それもかなり元気にしてます」
「っ、そ、そうですか……」
リムルの言葉を聞いて安堵したのか、息を吐いて緊張を解いたフューズ。
「ただまぁカバル達からも聞いているでしょうけど、シズさんも紆余曲折ありましてね。俺達が保護をしている状態なんですよ」
「っ……やはり、そうなのですね」
「積もる話もあるでしょうけど、続きは俺達の国でやっていきませんか?……茶菓子も用意してありますよ」
「……かたじけない。お言葉に甘えさせてもらいます」
「ほんじゃあ団体様ごあんなーい!」
「「「「 え"っ、スライム!!? 」」」」
人型から元のスライムボディーに戻ったリムルを見て、ヨウムと彼が率いる辺境調査団は驚きを露わにした。
そんな彼らのリアクションを無視してポヨンポヨンと跳ねながら歩いていくリムルに置いていかれないよう、フューズとカバル達は足早にその後をついていった。
魔物の国スターモンズに、様々な人間が集っていく。
区切りがいいのでここまでにします。