同時展開は小説より漫画やアニメのほうが分かりやすいです
同時刻――裏山の断崖から施設広場へ
――ドゴォォォォンッ!!!
「がはっ……あぁっ!?」
緑谷くんの身体が、圧倒的な質量の一撃によって弾き飛ばされた。
マスキュラーの『筋肉増大』――それは緑谷くんの身体能力強化を遥かに凌駕する、文字通りの肉の防壁であり暴力だった。
圧倒的な上位互換を前に、緑谷くんは大苦戦を強いられていた。腕の骨が悲鳴を上げる中、彼は恐怖に目を見開く洸汰くんをその胸に強く抱きかかえる。
「まだ死ぬなよ!?遊ぼうぜ!!もっと血を見せてくれ!!」
「絶対に……死なせないッ!」
緑谷くんは『ワン・フォー・オール フルカウル』の稲妻を最大出力で爆発させ、マスキュラーの猛追を紙一重で回避しながら、命からがら裏山の秘密基地からスピナーたちのいる開墾広場へと一直線に吹き飛ばされていった。
同時刻――施設近くの森
「……チッ、手応えがねえな」
相澤先生が捕縛布で荼毘の首を締め上げ、地面に叩きつけた瞬間、その身体がドロドロとした黒い液体へと姿を変えた。
「おめでとう!残念!それは本物じゃない!」
物陰から拍手をしながら現れたのは、覆面をつけたヴィラン・トゥワイス。彼の個性『2倍』によって生み出された分身だったのだ。
トゥワイスがさらに個性を発動すると、森の闇から次々と「荼毘の分身」が形作られていく。
「というわけで、もういっちょ増やすぜ! 」
「「「「「――焼き尽くせ」」」」」
一気に5人に増殖した荼毘の分身たちが、一斉に青い業火を吹き荒らし、相澤先生の行く手を阻んだ。
同時刻――森の遊歩道
――シュパパパパパンッ!!!
「ウザってぇ!!」
「くっ、どこからでも刃が伸びてきやがる……!」
爆豪くんと轟くんの目の前で、常闇くんを暴走させたムーンフィッシュの歯の刃が生き物のように四方八方から襲いかかる。派手な爆破や広範囲の氷結は、周囲の木々を巻き込んで毒ガスを拡散させる恐れがあり、二人は思うように火力を出せず防戦一方になっていた。
「爆豪くん、轟くん、ここは任せたよ!」
「私達は障子くんと常闇くんのところへ!」
その隙に、白煙くんは透ちゃんの手を強く引き、自身の白い煙で背後をカバーしながらさらに森の奥へと突き進んでいた。
(目標は、この先の障子くんと常闇くんのところだ! 急がなきゃ……!)
同時刻――森の開けた場所
「あはっ、強いなぁ! でもでも、もっと血を見せて!」
トガヒミコが狂気の笑顔でナイフを振り回すが、梅雨ちゃんは冷静だった。バックドラフト事務所での徹底的なスピード訓練の成果が、ここで完全に活きている。
「麗日ちゃん、後ろに下がってて!」
「気を付けて!」
梅雨ちゃんは長い舌を鞭のようにしならせ、トガの死角から的確にナイフを叩き落とす。さらに俊敏な跳躍でトガのパニックを誘い、近接戦闘のスペシャリストであるはずのトガヒミコを、驚くべき強さで苦戦させていた。
同時刻――毒ガスの深部
「なかなか倒れないな、ヒーロー」
「チィッ!!クソガキが……!!」
「ごほっ……! ガ、ガスマスクをしてるのに、どんどん霧が濃くなっていく……!」
B組の拳藤さんと鉄哲くんは、毒ガスの元凶であるガスマスクを被った少年ヴィラン・マスタードと対峙していた。しかし、マスタードが個性を強めるにつれ、周囲の酸素濃度が急激に低下していく。
(くそ……っ! こんな時、あいつが……あの『白煙くん』が来てくれれば、このガスを一瞬で吸い尽くして反撃できるのに……!!)
拳藤さんは心の中で叫ぶが、白煙くんは別ルートの救出に向かっている。視界も体力も奪われゆく中、二人はかつてない大苦戦を強いられていた。
同時刻――森の境界付近
「B組の皆さん、立ってくださいまし!」
八百万さんと耳郎さんは、倒れたB組の生徒たちを安全な場所へ引きずりながら、必死に救出活動を続けていた。
しかし、その安堵の瞬間を、巨大な影が遮る。
――ドシィィィィンッ!!!!
地響きとともに二人の前に舞い降りたのは、異形の怪物『脳無』だった。それも、以前USJで戦ったものとは違う、複数の武器を身体から生やした殺戮特化型の個体。
「なっ……何だ、この化け物は……!?」
「脳無!?」
耳郎さんが恐怖に息を呑み、八百万さんはガスマスクの奥で、冷や汗を流しながら即座に次の『創造』の構成を練り始める。
誰もが限界の戦いを強いられる中、林間合宿の夜はさらに深く、残酷な混沌へと沈んでいくのだった。
同時刻――開墾広場
「ステインの刃を軽んじるな!」
「どうやってここが分かったか知らないけど、ヴィランは私達が倒す!!」
「そして生徒を守るッッッ!!」
スピナーが巨大な大刀を振り回し、プッシーキャッツのピクシーボブやマンダレイと激しい白兵戦を繰り広げる。そのすぐ傍らでは、マグネが巨大な磁石を操り、圧倒的なパワーを持つ『虎』の肉体と真正面からぶつかり合っていた。
そこへ、裏山から凄まじい衝撃とともに緑谷くんとマスキュラーが乱入する。
「フルカウル100%ッ!!スマッシュ!!!!」
「うおおおおおッ!?!?」
緑谷くんはボロボロの腕でマスキュラーの筋肉の防壁に拳を叩き込み、広場を巻き込む死闘を展開。その隙に、緑谷くんに背中を押された洸汰くんは、駆けつけた飯田くんと口田くんにがっしりと保護され、涙を拭って合宿所へと走り出した。
その瞬間、マンダレイの個性が全員の脳内に直接響き渡る。
『プッシーキャッツより全員へ!! 戦闘を許可する! 自衛のために、全力を尽くしなさい!!』
同時刻――森の遊歩道
「障子くん!!」
ガスマスクを抱えた白煙くんと透ちゃんが、ついに障子くんと合流を果たす。しかし、目の前の光景に二人は息を呑んだ。
「あ、あれは……」
「ダークシャドウ……!? なんで、あんなに大きくなって……!」
闇の中で、かつてないほど巨大に膨れ上がった黒い怪物が、狂ったように周囲の木々をなぎ倒して暴れている。
血を流す腕を抑えながら、障子くんが歪む視界の中で二人を見た。
「白煙、葉隠……! 来るな、常闇が闇の深さと恐怖で個性を制御できず、完全に暴走している……! 近づけば無差別に殺されるぞ!」
同時刻――森の開けた場所
「あはっ、強いなぁ! 楽しくなっちゃう!」
梅雨ちゃんの圧倒的なスピードに押されたトガヒミコは、不気味に笑いながら身を翻し、森の奥へと逃走を始めた。あえて隙を見せるような、不自然な誘導の走り方。
「ケロ。追うべきかしら、それとも一旦退くべきかしら……」
「他のみんなのことも心配だし……」
梅雨ちゃんと麗日さんが一瞬の迷いを見せた、その時。
「トガちゃん見っけ! 大変大変、敵がいっぱいだよ!」
「仁くん」
物陰からトゥワイスが飛び出し、トガヒミコと合流した。トゥワイスが瞬時に個性を発動すると、トガの身体がドロドロと分裂し、一気に「3人のトガヒミコ」へと増殖する!
「「「私が増えたら、友達がもっと出来るね!!」」」
「――そこまでだ、ヴィラン連合」
さらにその背後から、トゥワイスの分身(荼毘)を撃破して追ってきた相澤先生が、捕縛布を鋭くしならせて合流した。赤く光る眼が、トゥワイスとトガたちの個性を一瞬でロックする。
同時刻――森の境界付近
――ドガァァァンッ!!!
殺戮特化型の『脳無』が、身体から生やしたチェーンソーや鋸を振り回して大暴れしていた。
「ぎゃあああ!!」
「助けてくれええ!!」
「逃げろおおおお!!」
八百万さんが『創造』した盾や、耳郎さんの『音響壁(ハートビートフォール)』で必死に応戦するが、ガスのダメージが残るB組のメンバーたちは、脳無の圧倒的な暴力の前に次々と力なく倒されていく。
「ヤバいよ、ヤオモモ……!!」
「くっ……! このままでは全滅しますわ……!」
八百万さんが歯を食いしばり、決死の表情で巨大な大砲の『創造』を始めた。
同時刻――ムーンフィッシュのエリア
「肉……歯……もっと肉を、刻ませておくれ……!」
「ちィッッッ!!」
「爆豪、あまり前に出すぎるな!!」
「命令してんじぁねえよ、半分野郎ォ!!」
伸縮する刃の義歯で猛攻を仕掛けるムーンフィッシュ。爆豪くんと轟くんは、相手の異常な間合いの広さに一歩も前に出せない。
刃の隙間から、ムーンフィッシュの狂気に満ちた目が爆豪くんを捉え、不気味な声で呟いた。
「爆豪?……見つけた……『爆豪勝己』……。死柄木が言っていた……お前を、連れ去る、と……! 誘拐……回収の……ターゲットだ……!」
「あァ!? 誰が誘拐されるってぇ!?」
爆豪くんの額に青筋が浮かび、両手から激しい火花が爆発する。轟くんもまた、その言葉の裏にあるヴィラン連合の本当の『目的』を察し、ガスマスクの奥で戦慄するのだった。