雄英高校・1-Aの教室
数々の激動の夜を乗り越え、A組のメンバーにとっては本当に久しぶりとなる通常の授業が再開された。
教壇に立つ相澤先生の顔の腫れは少し引いていたが、その眼光の鋭さは相変わらずだ。
「これからの当面の目標は、林間合宿の本来の課題だった『ヒーロー仮免許』を取得することだ。ヒーロー資格を持たないお前たちは、たとえ緊急事態であっても個性の使用を法的に禁じられている。だが、仮免があれば、救助活動や万が一のヴィラン襲来の際にも、超法規的ではなく正当な防衛・救助として対応することが可能になる」
相澤先生の言葉に、神野区で己の無力さを痛感した生徒たちの目に一斉に熱い闘志が宿る。
「そのために――お前たちにはこれから、**『必殺技』**を構築してもらう」
「「「「「必殺技……!!」」」」」
待ち望んでいたその言葉に、クラス中が待ってましたとばかりに沸き立った。
訓練場・体育館ガンマ(T.D.L.)
授業の舞台は、あらゆる環境を再現できる最先端の訓練場「体育館ガンマ」へと移る。
「まずは私がフィールドを作る。各々、自分の個性を最大限に活かせる環境を構築しろ!」
セメントス先生が地面に手を突くと、凄まじい地鳴りとともにコンクリートの柱や壁が次々とそびえ立ち、立体的な特訓場が完成していく。
「そして、私が全員の相手をしよう。出し惜しみはするなよ!」
エクトプラズム先生が大量の分身を生み出し、A組の生徒一人ひとりに同時に襲いかかる。肉体的にも精神的にも追い詰める、超高密度の「圧縮訓練」の開始だ。
フィールドのあちこちで、生徒たちがそれぞれの課題に直面していた。
「無茶は出来ない……」
緑谷くんはこれまでの無理が祟り、リカバリーガールや医者から「これ以上両腕を酷使すれば二度と使い物にならなくなる」と宣告され、腕を使わない新しい戦闘スタイル(対策)を必死に模索していた。
「オラァ!!」
一方で、爆豪くんは神野区での屈辱を晴らすかのように、さらに凶暴で容赦のない、より強力な爆破の応用技を周囲に轟かせている。
「サポート科に行こう!!」
「電気をぶっ放しだから、コントロールしてぇなー」
「俺はより硬くなる方法を探す!!」
また、個性の強化やスタイルの変更に伴い、発目さんのいるサポート科へコスチュームの改良相談に赴く者たちも出始めていた。
そんな熱気渦巻く訓練場の中で、白煙くんもまた、自身の『個性』と真っ直ぐに向き合っていた。
「白煙はしばらく身体をゆっくり動かせ。トリガーの後遺症は無くなったとはいえ、病み上がりの身体に負担をかけないことだ」
「はい、エクトプラズム先生」
「お前はすでに必殺技の基礎ができているな。林間合宿では見事だったと聞いているぞ」
襲いかかるエクトプラズムの分身を躱しながら、白煙くんは鋭く息を吐き出す。
「はい! 技のベースは、あの時に掴んでいます!」
白煙くんには、すでに攻防の型が存在していた。
拳に高密度の煙の質量を纏わせて放つ突進攻撃、『ホワイトスマッシュ』。
そして、あらゆる攻撃を受け止める強固な白い煙の壁、『ホワイトシールド』。
「僕の個性は、形を自由に変化させられる煙です。だからこそ、もっとアイデアを増やして、どんな状況の救助にも対応できるようにしなきゃいけないんだ!」
白煙くんは技の威力を高めるだけでなく、煙を細い糸状にして人命を救助するロープに変えたり、煙のクッションを作って落下者を防いだりといった、レスキューのアイデアを次々と具現化していく。
「次だ、次ィ!!」
「炎を氷と同じコントロールを……」
さらに、周囲で爆豪くんや轟くんたちが激しい戦闘訓練を行うたびに、フィールドには黒煙や塵混じりの「爆煙」が大量に巻き起こっていた。
「みんな、頑張ってるいるなぁ。僕も出来るところから頑張ろう。1番身体の負担がかからない煙を全て吐き出す訓練――」
白煙くんはその不要な煙を自らの体内にすべて急速に**「吸収」**し、周囲の視界をクリアに保ちつつ、自身のエネルギーへと変換して個性の持続力を伸ばしていく。個性伸ばしと必殺技の練習を同時に行えて、まさに一石二鳥の特訓だ。
「えいっ! やぁっ!」
そのすぐ近くでは、透ちゃんが文字通り泥臭い特訓に励んでいた。
『透ちゃん、みんなをよろしくね……』
『エンちゃん〜〜〜〜〜〜〜!!!!』
合宿で襲われた経験、そしてエンちゃんを目の前で奪われたあの夜の無力感。それが彼女を突き動かしていた。
透ちゃんは今、お茶子ちゃんと一緒に習った『ガンヘッド・マーシャルアーツ』の基礎に加え、プッシーキャッツの虎から叩き込まれたブートキャンプ並みの格闘技術など、あらゆる近接格闘技を必死に身体に叩き込んでいる最中だった。
「エンちゃん、見ててね! 私、ただ隠れるだけじゃない、エンちゃんを前線で守れるくらい強いサイドキックに絶対になってみせるから!」
見えない身体から放たれる、鋭く重い回し蹴りがエクトプラズムの分身を捉える。その必死な姿に、白煙くんも「負けてられない」と微笑み、さらに真っ白な煙を激しく燃え上がらせた。
皆が前を向き、泥をすすりながらも強くなろうと足掻く。
ハイツ・アライアンス(A組宿舎)
必殺技の習得に向け、全員が泥泥になりながら限界に挑んだ一日が終了した。
ヘトヘトになりながらも充実感を顔ににじませ、生徒たちはそれぞれの部屋へと戻っていく。
夕食を終えた後、白煙くんはベランダ越しに隣の部屋の透ちゃんに声をかけ、自分の部屋へと誘った。
「透ちゃん、ちょっと座って。……大事なお話があります」
少し改まった白煙くんのトーンに、透ちゃんは見えない身体をピクッと跳ね上げた。
「えっ、大事な話!? もしかして……結婚!?」
「ま、まだ早いよー! 高校生だし!」
赤面して頭からポワポワと白い煙を噴き出す白煙くんに、透ちゃんはケラケラと笑う。
「あはは、冗談だよ! それで、大事なお話って?」
「うん。実はね……昨日から、すごく体の調子が良くなったんだ。トリガーの残滓みたいな重苦しい感覚が、完全に消えたっていうか」
「……! ほんと!? よ、良かったぁ……っ!」
透ちゃんは胸をなでおろし、本当に一安心したようにへなへなとクッションに座り込んだ。
しかし、白煙くんの表情はどこか真剣なままだ。
「それでね、ちょっと聞きたいことがあるんだ。僕は『黒煙』になっていた時の記憶が、本当にすっぽり抜け落ちていて……。あの時の僕って、一体どんな感じだったのかな?」
白煙くんの問いかけに、透ちゃんは少し顎に手を当てる仕草(シルエット)をして考え込んだ。
「うーん、そうだなぁ……。一言で言うなら、仕事人? あるいは、すごく有能な秘書さん?」
「えっ、秘書……!? そうなの?」
「うん。ニュースで見るような、凶暴で破壊を楽しむヴィランとは全然違ったよ。黒霧さんの命令を淡々と、でも完璧にこなしてて……。それにね、私が煙の中に飛び込んで抱きしめた時、私の頭をすっごく優しく撫でてくれたんだ」
「僕が、透ちゃんを撫でた……?」
「そう。見えなくても分かったよ。あれは、私の大好きなエンちゃんと全く同じ、優しくて温かい手だった」
この後、白煙くんは念のために障子くんと梅雨ちゃんも部屋に誘って同じ質問をしてみたが、二人からも「確かに雰囲気は不気味だったが、無駄な殺生や破壊はしていなかった」「ケロ。私たちを弾き飛ばした時も、怪我をさせないように加減されていた気がするわ」と、似たような答えが返ってきた。
「そっか……。ひとまず、誰も傷つけていなくて本当に良かった……」
白煙くんはホッと息を吐き、胸のつかえが取れたように微笑んだ。
「うん! 姿や色は違っても、どっちもエンちゃんだったよ。根本にある『人を救ける性格』は、変わってなかったんだね」
「ありがとう、透ちゃん」
透ちゃんの言葉に救われ、白煙くんはすっきりと前を向くことができた。自分の知らない自分もまた、誰かを傷つける怪物ではなかったのだと。
同時刻――神野区から遠く離れた、地方の工業地帯
――ドゴォォォォォンッ!!!!
とある化学工場で、突然のガス爆発が発生した。
夜間、無人のはずの工場から激しい炎と、有害物質を含んだドス黒い爆煙がモクモクと立ち上る。
「た、助かった……ッ! 誰だか知らねえが、ありがとう……!」
夜間警備をしていた数名の作業員たちが、炎の中から次々と外へ這い出してきた。彼らを抱え、安全な場所まで送り届けたのは――全身を闇のような衣服に包んだ、頭部から禍々しい黒い煙を立ち上らせた少年。
雄英高校の宿舎から消え去った、**『黒煙』**だった。
黒煙は作業員たちを一瞥すると、再び燃え盛る工場へと向き直る。
そして、ゴォォォと音を立てて、周囲に充満する有害な爆煙を自らの体内にすべて急速に「吸収」し始めた。
「………………あ、あー。うん。言語機能、確認。思考回路、正常」
黒煙の口から、冷徹だがハッキリとした声が漏れる。
彼が持つ個性は、本物の白煙くんと全く同じ。周囲の煙を吸収することで、トリガーの後遺症で不安定だった身体の機能を完全に回復させ、自らのエネルギーへと変換したのだ。
爆煙が吸い尽くされ、工場の火災は酸素を奪われて鎮火していく。結果として、彼は多くの命と工場を救った。
「機能を回復。……さて、次の景色を見に行こう」
黒煙は小さく呟くと、再び完全な煙と化して夜空へと溶けていった。
彼の目的は、この「世界を見る」こと。
白煙薫という光の少年の影として生まれ、理性を奪う薬物によって形作られた存在。
自分はこれから、人々を守る『ヒーロー』になるのか。それとも、社会を脅かす『ヴィラン』になるのか。あるいは、どちらにも属さない全く別の何かになるのか――。
それは、世界のどこへ向かうかも決めていない、黒煙自身すらもまだ知らない。
黒煙くん完全復活
黒煙が正式にレギュラーになりました
黒煙(白煙くんの別人格)
白煙くんが特別製トリガーで変簿した姿とは別の存在
fgo風に言うと、アルターエゴ
見た目は似ているが本人ではない別人格
メタい話すると、白煙くんは神野区決戦より先の事件にはあまり関われないです。
白煙くんはレスキューヒーローであって、戦闘は皆無です。
事件の終盤もしくは終了後にやってくるヒーローです。
なので、事件に関われて戦闘も出来る黒煙くんがこれから物語を引っ掻き回します。
いわゆるダブル主人公ものです。
もちろん白煙くんは変わらず透ちゃんとイチャイチャしています。
なんやかんやな物語ですが、これからもよろしくお願いします。