黒煙も同じ素顔です
体育館ガンマ(T.D.L.)
ヒーロー仮免許試験の日が刻一刻と近づく中、A組の必殺技特訓はさらに熱を帯びていた。
白煙くんは自身の個性の引き出し(アイデア)を増やすため、クラスメイトたちの必殺技を自分の煙で再現するという、一見するとお茶目だが極めて高度な「技の模倣」を行って遊んでいた。
「それっ、『もぎもぎ・スモーク』!」
白煙くんが頭から千切るようにして放ったのは、峰田くんの個性を模した粘着性のある硬質の煙玉。それを目にも留まらぬ速さで連射し、エクトプラズム先生の分身の足元を絡め取る。
さらに、障子くんの複製腕をヒントに、背中から無数の煙の腕を生やして掴み取る**『スモーク・テンタコル』**。瀬呂くんのテープを参考にして、煙の密度を限界まで高めて強固なワープロープのように射出する応用技。耳郎さんのイヤホンジャックのように両手の指先から細い煙のラインを伸ばし、対象を絡め取る精密コントロールまで披露してみせる。
「エンちゃん、すごーい!!」
「自由自在な個性だからこそ、みんなのアイデアが全部僕の力になるんだ。必殺技と言うより、レスキュー用の補助技だね」
白煙くんが頭の煙をぽわぽわと弾ませながら楽しそうに特訓する姿に、クラスメイトたちも「器用すぎるだろ!」と良い刺激を受けていた。
数日後――B組の特訓場
さらなる発想を求めて、白煙くんたちは1年B組の必殺技特訓の見学へと赴いた。
しかし、突然の来訪にB組の男性陣は「手の内を明かすかよ!」と大反対。特に物間くんの煽りは凄まじかった。
「おやおやァ? A組が僕たちの素晴らしい技を盗みに来たのかい? 誘拐事件に殉職事件、色々と大変だったから焦っているのかなァ!?」
「物間、不謹慎だぞ!!」
――パァンッ!!
言いかけた物間くんの首筋に、B組の学級委員長・拳藤さんの鋭い手刀が炸裂。白目を剥いて崩れ落ちる物間くんを、拳藤さんは「ごめんねー!」と手慣れた様子で引きずっていく。
実は、今回B組の特訓を見学できたのには一つの『条件』があった。それは、「白煙くんが煙を外して素顔を見せること」。
何故そんな条件になったのか。それは、B組の女性陣の強い要望(という名の圧力)があったからだ。体育祭や合宿で噂になっていた「バックドラフト事務所の超絶美少年」を一目見たいという、彼女たちの純粋かつ強い好奇心に男子陣は抗えなかったのである。
白煙くんが少し照れくさそうにマスクを外すと、B組の女子たちから「本当に美少年……!」「透ちゃん、ずるい!」と黄色い悲鳴が上がった。
そんな中、白煙くんは拳藤さんの個性『大拳』の扱いに強い衝撃を受けていた。
「すごい……! 拳藤さん、ただ手を大きくするんじゃなくて、攻撃が当たる『その瞬間』にだけ巨大化させてるんだ……!」
「他のA組には秘密にしてくれる?」
「分かりました、約束します」
最初から大きくするのではなく、インパクトの瞬間に質量を爆発的に増やすことで、巨大化に伴うエネルギーをそのまま破壊力へと変換する高等技術。
「これ、僕のホワイトスマッシュにも応用できる! 煙を突進させる瞬間に密度を最大にすれば、もっと威力が上がる!」
B組の面々もまた、それぞれが必死に個性を、戦術を考えている。白煙くんは深く感銘を受け、大きなノートにびっしりとメモを取った。
特訓漬けの毎日の合間、白煙くんの癒やしはやはり透ちゃんとの時間だった。
食堂で並んでご飯を食べたり、夜には宿舎の屋上に忍び込んで、涼しい夜風に吹かれながら二人きりでデートをしたり。
「エンちゃんの誕生日っていつ?」
「3月14日」
「ホワイトデーじゃん!?」
「あははっ、よく言われる。透ちゃんは?」
「6月16日!!」
「あっちゃー、もう過ぎちゃったね。来年は誕生日プレゼント用意するよ」
「嬉しい!!エンちゃん大好き!!」
白煙くんと透ちゃんはお互いのことを話し合って何でもない雑談したりしている。
「エンちゃん、B組の女子に見とれてなかった?」
「僕は透ちゃんが世界で一番可愛いと思ってるよ」
「もうっ、見えないのにそういうこと言うんだからー!」
「透ちゃんだって見えないじゃん!」
透ちゃんが嬉しそうに白煙くんの腕に抱きつき、白煙くんの頭から温かい桃色の煙がふわりと立ち上る。ヴィランに誘拐された悲しみを少しずつ楽しい思い出で癒していく。
「透ちゃんー、白煙との屋上デート楽しかった?」
「ふぇっ!?」
「あんな美少年と恋人なんて羨ましーい!」
女子ルームに戻ると、三奈ちゃんがいきなり話してきた。
エンちゃんと一緒のところ見られた!?
ば、ば、ば、バレた!?
「つつつつ梅雨ちゃん!?」
「ケロ。私は何も話していないわ」
「蛙吹さんは関係ありませんよ」
ヤオモモ(八百万さん)が否定する。
梅雨ちゃんは無罪。
まあ、周りに言いふらすような人じゃないのは分かっているけど。
じゃあ、なんでバレたの?
「寮生活に入ってから、ずーっと白煙の側にいるからバレバレだよ。まあ、あんなこと(白煙誘拐事件)があったから仕方ないけどね」
「恐らく男性陣の皆様も気付いておられます。その上で黙っているのでしょう」
耳郎ちゃんに、ヤオモモが追撃してくる。
そんなー!?
エンちゃんと結構本気で隠密していたよ!
「いや、2人ともらぶらぶオーラが分かりやすいくらい溢れていたって」
なん……だと……。
仕方ない。
あとで、エンちゃんに伝えなきゃ。
「はい……エンちゃんと恋人同士になりました」
「「「きゃあああああああああー!!!」」」
耳郎ちゃん。
ヤオモモ。
三奈ちゃん。
黄色い歓声をあげる。
「どっちから告ったの!!」
「私から。でも、状況が状況だったし、エンちゃんも倒れていたからノーカン。全部が終わってデートしている時に、エンちゃんから告白してくれた」
「「「おおーっ!」」」
「ノーカンなのは無理もありませんが、きちんと返事をしてくださるのは白煙さんの素晴らしいところです」
三奈ちゃんが聞いてくる。
私が答えると、嬉しそうに三奈ちゃんが歓声をあげて、ヤオモモがエンちゃんを褒めてくれる。
恋バナは盛り上がる。
それも同じクラスメイト同士のカップル。
年頃の女の子なら当然だよねー。
「麗日さんもお聞きになられては?」
「どう、お茶子ちゃんは?何か聞いておくことは?」
「…………」
「ケロ?……お茶子ちゃん?」
「うひゃん!?」
梅雨ちゃんがお茶子ちゃんに話題を振ったけれど、どうにもお茶子ちゃんは上の空。
エンちゃんとの恋バナにも全然話してこなかったし。
梅雨ちゃんがつんって肩をつついたらびっくりして飲み物噴き出しちゃってた。
「最近ムダに心がザワつくんが多くてねぇ」
「恋だ」
「ギョ」
ぎょって魚?
「な、何!?故意!?濃い!?鯉!?知らん知らん!!」
「恋だね、間違いなく恋ですね。今の私がそうだから!」
「透ちゃんが言うと説得力あるわね」
梅雨ちゃん、その通りだけどー。
今はお茶子ちゃんの話だよ。
「緑谷か飯田!?一緒にいる事多いよねぇ!!」
「チャウワチャウワ!チャウワー!」
「浮き始めちゃった」
余りに動揺して自分の体を触ってしまい、個性「無重力」でふわふわと浮き始めるお茶子ちゃんを見てみんなで盛り上がる。
「誰ー!?どっち!?誰なのー!?」
「ゲロっちまいな?自白した方が罪は軽くなるんだよ」
「大好きなエンちゃんのいる私なら相談に乗るよー?」
「「「さらっと惚けてる!?」」」
耳郎ちゃんヤオモモ三奈ちゃんナイスツッコミ。
「違うよ本当に!私そういうの本当わからんし……」
「ケロ、無理に詮索するのはよくないわ」
そんな穏やかで、愛おしい、高校生らしい時間を噛み締めながら、時間はゆっくりと、しかし確実に流れていった。
失った過去を背負い、隣にいる大切な人を守るため。
白煙くんは仲間たちと共に、ヒーロー仮免許試験という大きな試練の舞台へと、一歩ずつ近づいていく。
みんなにバレました(寮生活の最初から)