ヒーロー仮免許試験 当日
会場である広大なマルチプラザには、全国から名だたるヒーロー高校の猛者たちが一堂に集結していた。
名門・雄英高校をはじめ、西の雄・士傑高校、実力派の傑物学園高校、さらには勇学園、誠刃高校、聖愛学園――。
バスから降り立った総勢1500人ものヒーローの卵たちが放つ、独特の熱気とピリついた空気感がエリア全体を包み込んでいる。
「うわぁ……すごい人数……」
「これが全員、今日のライバルってわけか」
周囲の圧倒的な雰囲気に、さすがのA組メンバーにも緊張が走る。
特に白煙くんは、人生初の大舞台を前に完全にガチガチになっていた。緊張のあまり、頭の先から無意識に純白の煙が「もくもく、もくもく」と勢いよく噴き出し、周囲の視界をうっすら白く染め始めてしまう。
「あ、あれ……? 止まらない……どうしよう、みんなに迷惑が……」
焦ってますます煙を出す白煙くん。その時、見えない手が白煙くんの手をそっと包み込み、指をきゅっと絡ませた。
「エンちゃん、大丈夫だよ。深呼吸、すーはー、ね?」
透ちゃんだった。彼女の温かい手の温もりと優しい声が、白煙くんの胸にスッと染み渡っていく。
「……うん。ありがとう、透ちゃん」
白煙くんが息を吐き出すと、もくもくとした煙は次第に収まり、いつもの穏やかなポワポワとした煙に戻った。二人の様子を後ろから見ていた障子くんと梅雨ちゃんも、微笑ましそうに目を細める。
そんな中、全国区の有名人となった「雄英高校1-A」を見つけ、他校の生徒たちが次々とミーハー心丸出しで群がってきた。
「おい、あれ爆豪だろ! ヴィランに誘拐されたっていう……」
「あぁ!? んだよテメェ、ぶっ殺すぞ!! カスが触れてんじゃねえ!!」
事件の張本人である爆豪くんは、地雷を踏まれて即座に両手から火花を散らしてブチギレる。切島くんが必死にそれを羽交い締めにして止める。
「あっちにはエンデヴァーの息子の轟もいるぞ!」
「……」
轟くんは相変わらずのクールさで、群がる視線をどこ吹く風と受け流していた。
そして、他校の視線は白煙くんにも向けられる。
「おい、あいつがバックドラフト事務所の……ヴィランに変えられてたって噂の白煙薫か?」
「えっと、それは……」
デリケートな話題に白煙くんが困惑した表情を浮かべると、すかさず彼の前に「盾」が並んだ。
「ケロ。その話はもう終わったの。これ以上エンちゃんに無遠慮に触れないで」
「後ろにいろ白煙」
「私もいるよエンちゃん」
梅雨ちゃんが鋭く牽制し、障子くんが大きな複製腕を広げて白煙くんを背後に隠す。さらに透ちゃんが見えない身体で白煙くんの腕をがっちりホールドし、他校の生徒たちを強い視線(シルエット)で睨みつけた。仲間の鉄壁のガードに、他校の連中もそれ以上は踏み込めず引き下がっていく。
ピリピリとした交流ばかりではない。1500人もいれば、奇妙な「同志」との出会いも生まれる。
「お前、体育祭の決勝戦のガッツ、マジで魂震えたぜ!! カッコよすぎる男気だ!」
「おう! 分かってくれるか! お前もいい漢の顔(ツラ)してんじゃねえか!!」
切島くんは、同じく熱い「漢気」を持った他校の熱血生徒と一瞬で意気投合し、ガシッと固い握手を交わしていた。
一方、その影では――。
「ククク……お前、制服の下に『それ』を仕込んでいるな? 素晴らしい……我が漆黒の闇(ダークシャドウ)が共鳴している……」
「フッ、お前もまた、深淵を覗き込む側の人間か。常闇踏陰、我が真名をせいぜい覚えておくがいい……」
常闇くんが、独特の「厨二病」の波長が完璧に一致した他校の生徒と出会い、何やら怪しげな秘密の儀式のような自己紹介を始めていた。
「おい……お前、あの聖愛学園の女子の太もも見たか……? けしからん、実にもぎもぎしたい……」
「フ、まだまだ甘いな雄英生。誠刃高校の女子のスカートの絶対領域こそが至高だぞ……」
「師匠!!! 一緒にスカウター(覗き)の修行させてください!!!」
峰田くんは、全国から集まった最低最悪な「やらしい同志」たちと一瞬で固い絆を結び、邪悪な笑顔で固い握手を交わしていた。それを見たA組の女子陣から「即刻失格にしてほしいケロ」「ゴミを見るような目」を向けられていることには、本人は全く気づいていない。
「――梅雨ちゃん!!」
「……ケロ! 万里ちゃん!?」
少し離れた場所では、梅雨ちゃんが勇学園のジャージを着た、かつての親友・万里ちゃんと奇跡の再会を果たし、お互いに手を取り合ってぴょんぴょんと喜びを爆発させていた。
混沌と熱気が渦巻く、1500人のヒーローの卵たちの戦場。
それぞれがそれぞれの想いと絆を胸に抱きながら、いよいよ運命の仮免許試験の第1次選考の幕が、今まさに上がろうとしていた。