『第1次選考通過者は以上100名。……続いて、これが最後の試験となります。内容はテロや災害を想定した『救助演習(レスキュー)』……。HUC(ヘルプ・アス・カンパニー)の方々を要救助者とし、皆さんの行動を減点形式で審査します。……では、10分後に開始します……』
「救助演習(レスキュー)……!!」
公安委員会の目良さんのアナウンスが響いた瞬間、白煙くんを纏う空気がガラリと変わった。
その瞳に宿ったのは、かつて神野区の闇のなかで見た「黒煙」の冷徹なまでの集中力。いや、それ以上に、命を懸けて自分を救ってくれた師・バックドラフトから受け継いだ、本物の『レスキューヒーロー』の熱い意志だった。
「……A組のみんな、集まってくれ! 指示を出したい。透ちゃん、障子くん、梅雨ちゃん、サポートをお願い!」
白煙くんの凛とした声に、チーム放課後のメンバーが即座に動く。
「エンちゃんのスイッチが入った……! プロの顔だ!」
「ああ、俺たちの救助訓練をやろう。バックドラフト事務所で培ったすべてをここで出すぞ」
「ケロ。頼もしいわ」
――第2次選考、スタート!!!!
サイレンと共に、神野区の惨劇を彷彿とさせる、崩壊した市街地ステージの扉が開いた。
A組20人が一斉に駆け出す中、白煙くんの的確な大声がフィールドに響き渡る。
「まず爆豪くん! ステージ南東エリア、半径10メートルの瓦礫を爆破して一気に整地してほしい!そこを救護本部のベースにする!」
「あァ!?テメェが俺に命令すんじゃねえボケが!!」
「できないなら轟くんの氷結で平らにしてもらうよ?時間がないんだ!」
「出来らあああ! ナメんじゃねえぞ白煙!!」
爆豪くんは激昂しながらも、最高精度の爆破で瞬時に指定された南東エリアの瓦礫を粉砕し、完璧な平地を作り出した。その見事な操縦術に、周囲を走るメンバーから驚きの声が上がる。
「す、すごい……かっちゃんを完全に使いこなしてるよ、白煙くん……!」
「あはは、白煙くんってば、ああ言えば爆豪くんが言うこと聞いてくれるって分かってるね!」
緑谷くんと麗日さんが感心しながら配置につく。白煙くんの指示は止まらない。
「峰田くんは『もぎもぎ』、瀬呂くんはテープを使って!周りの倒れかかっている危険な建物の補強と、立ち入り禁止区域のロープ張りを優先して!」
「おっし、二次災害を防ぐってわけだな!」
「任せろ、一瞬でガチガチにしてやる!」
「砂藤くん、常闇くん、口田くん、パワー組は大型の瓦礫の撤去を最優先!芦戸さんは救助の邪魔な鉄骨をガンガン酸で溶かして!麗日さんはそれを無重力(ゼログラビティ)で一箇所に集めて!」
「おう!」
「承知……! 黒影(ダークシャドウ)、力を貸せ!」
「う、うん……!」
「オッケー、任せて!
「浮かせるよ!」
「八百万さんは、今すぐここで『ダンボール』の創造をお願いします!」
「ダ、ダンボール、ですか……? 救急キットではなく?」
一瞬戸惑う八百万さんに、白煙くんは真剣な目で理由を告げた。
「ダンボールはブルーシートの上に敷けば簡易ベッドになる、立てればプライバシーを守る壁になる、重ねれば雨風を防ぐ屋根になる!軽くて現場での再利用が一番効くんだ!」
「――!分かりましたわ!即座に量産いたします!」
「耳郎さんは索敵!瓦礫の下から聞こえる心臓の音が小さい人、呼吸が弱い人を優先して見つけて!上鳴くんは、もしもの時のために現場のAEDの電力をいつでも100%に維持できるようにスタンバイ!」
「分かった、やってみる……って、白煙ガチじゃん!」
「AEDの電力補給か……!了解、放電の出力を合わせて待機するぜ!」
そして、白煙くんは前線で動く俊足のメンバーたちを真っ直ぐに見据えた。
「緑谷くん、飯田くん、切島くん、青山くん、尾白くん。君たちは救助者をこの救護本部に連れてきて。その時に必ず確認してほしいことが4つある。一番初めに『歩行可能かどうか』、次に『呼吸の乱れ』、そして『痛いところを聞く』。最後に……『友人や家族の確認』をしてから、本部で待っていると励ますこと。君たちのトリアージと搬送が早ければ早いほど、救助者の命が助かる。……分かった!?」
そのあまりにも完璧で、血の通ったレスキューのシステム構築に、緑谷くんたちは鳥肌を立てて叫んだ。
「「「プロだっっっっ!!!!」」」
「ここに本物のレスキューヒーローがいる……!!行こうみんな!!」
飯田くんの号令で、救助チームが電光石火の速さで散っていく。
「梅雨ちゃんは水辺と狭い隙間の救助へ!障子くんは耳を増やして耳郎さんと連携する索敵チームの隊長をお願い!そして、透ちゃんは僕のサポートを!」
「「「了解!!!!」」」
全員が、白煙くんという一人の少年が作り出した「完璧な救助組織」の歯車となり、目を見張るような無駄のない動きでHUCのプロたちを救助していく。その姿は、減点する隙など微塵もない、完璧なプロの現場そのものだった。
――バックドラフトさん、サイドキックの先輩たち。見ていてください。
白煙くんは頭部から純白の煙を優しくたなびかせ、透ちゃんの手を借りて重傷者のもとへと駆け出す。
これが、僕を救ってくれたあなたたちに恥じない、僕なりの――『白煙薫』のレスキューです!
観戦席視点
「ちょっと相澤ー!アレは何だよー!完璧じゃん、ずるいぞこんちくしょー!」
ミス・ジョークが頭を抱えながら叫んだ。HUC(ヘルプ・アス・カンパニー)のプロたちを、高校生が完璧なシステムで顎で使っている。減点どころか加点要素しか見当たらないその光景に、彼女の口は開きっぱなしだった。
「……バックドラフトの愛弟子だ。あいつはあの事務所で、本物の修羅場と救助の全てを叩き込まれてきた」
相澤先生の静かな、しかし誇らしげな声に、ジョークはハッと息を呑んだ。神野区の裏で起きた悲劇――一つの事務所が丸ごと殉職したあの事件は、プロの間でも箝口令が敷かれつつも衝撃を与えていた。
「………あ、ごめん。うん、すみませんでした」
いつものおふざけを完全に引っ込め、ジョークが真剣に頭を下げる。
「気にするな……俺のほうが、あの男にあいつらの前で謝り続けている」
相澤は包帯の巻かれた顔を隠すように、ただグラウンドの白煙くんをじっと見つめ続けた。
救護本部(要救護者視点)
「この方は歩行可能、バイタル正常です。ダンボールシートへ誘導してください」
「この方は骨折の疑いあり。ダンボールベッドへ固定!」
「この方は精神的ショックが大きいです。プライバシー確保のためダンボールハウスへ!」
テキパキと的確な指示が飛び交う救護本部。怪我人役を演じていたベテランのHUCのお爺さんは、寝そべりながら感心していた。
(一人だけ、完全にレベルの違うルーキーがいるな……)
お爺さんはこの少年を知っていた。テレビの報道で見た、あのバックドラフト事務所の期待のルーキー。大した実力だ、バックドラフトの組織論がそのままここに再現されている。
(だが少年。これを見抜けるか?)
「エンちゃん、このお爺さんは歩行可能だからシートに移動させるね!」
透ちゃんがお爺さんの腕を引こうとした、その時。
「………待って、透ちゃん。触らないで!」
白煙くんの鋭い声が響いた。
「え?でも、偽物の血だよ?」
「違う……その傷は、役としての演技じゃない。本物の怪我だ。わざと塗っている偽物の血と違って、血生臭さと凝固の仕方が生々しすぎる。……お爺さん、試験の直前にどこかで本当に転んで、怪我を隠したまま参加しましたね?」
「嘘!?」と透ちゃんが驚愕して口を覆う。
試験のシチュエーションとしての偽物の負傷の中に紛れ込んだ、本物のリスク。それを、白煙くんの鋭い観察眼が完璧に見抜いた。
お爺さんは一瞬呆気に取られた後、ふっと目元を緩めて笑った。
「………お見事。さすがはバックドラフトの愛弟子だ」
「えっ……師匠を知っているの!?」
「長年この仕事(要救護者役)をやっているからな。あの男がまだペーペーの新人だった頃から知っとるわい。……そうか。あのバカのレスキュー魂は、ちゃんとここに受け継がれていたんだな。安心したわい」
お爺さんが嬉しそうに呟いた、その瞬間――。
――ドゴォォォォォォォォォンッッ!!!!
突如として、救護本部のすぐ近くのエリアで凄まじい爆発が発生した。巻き起こる爆風と炎。
『――ハイ、ここで緊急アナウンスです……。テロの混乱に乗じて、ヴィランが襲来しました……。受験者の皆さんは、救助と戦闘、その両方を同時に解決してください……』
公安委員会の目良さんの眠そうな、しかし無慈悲な声が響き渡る。
爆煙の向こうから現れたのは、巨躯にスーツを纏った不気味な影。No.10ヒーローでありながら、今回は最高に凶悪なヴィラン役を買って出た、ギャングオルカの襲来だった!
「……これだけの規模の災害だ。ヒーローが救助だけに専念できると思うなよ、雛鳥ども」
凄まじい殺気が会場を支配する。
しかし、白煙くんは怯まない。その目の前には、本物の怪我を負ったお爺さんと、守るべき仲間たちがいる。
「透ちゃん、お爺さんをお願い!……みんな、第二陣を迎え撃つよ!」
頭から純白の煙を激しく噴き上げ、白煙くんは迫り来る脅威へと立ち向かうのだった。
白煙くん本領発揮回でした
原作では救出活動をポイント加算して基準値を超えればクリアですが、ここでは減点方式にしています
レスキューに相応しくない行動や失敗すればするほど失格になってます