サー・ナイトアイ事務所
サー・ナイトアイは以前から、極道組織『死穢八斎會』の若頭・治崎廻たちの動向をマークし、密かに監視を続けていた。そしてついに、彼らが裏社会で急速に台頭しつつあるヴィラン連合と接触したという確実な情報を掴む。
そんな中、ナイトアイ事務所でインターン活動を行っていた緑谷くんと通形ミリオ先輩は、市街地のパトロール中に、怯えた様子で路地裏から飛び出してきた小さな女の子――エリちゃんと出会う。
全身に包帯を巻かれ、異常なほどに震える彼女を保護しようとしたその瞬間、路地の奥から不気味な足音と共に、死穢八斎會の若頭・治崎廻本人が姿を現した。
「うちの娘が迷惑をかけてすまないね。さあ、おいでエリ」
治崎が放つ圧倒的な威圧感と、エリちゃんの手を引くその冷徹な眼光。緑谷くんは不審を抱きつつも、その場は一般市民やエリちゃんの安全を最優先に考え、治崎の出方を伺うしかなかった。治崎は不穏な空気を残したまま、エリちゃんを連れてその場を去っていった。
その日の夕方――死穢八斎會の地下アジト
ヴィラン連合と死穢八斎會による、張り詰めた「腹の探り合い」が続いていた。
死柄木弔と治崎廻が冷酷な視線を交わす中、対等な同盟の証(という名目の出向)として、連合側からトガヒミコ、トゥワイス、そして黒煙の3名が八斎會の拠点へと移動させられることになる。
「えーー! 何で私たちがこんな清潔ぶったヤクザの男のところに行かなきゃいけないんですかぁ? つまんない!」
「最高だ! 最悪だ! 大歓迎だバカヤロー!!」
不満をぶちまけるトガとトゥワイスに対し、背後からドス黒い煙を静かに漂わせながら、黒煙が落ち着いたトーンで割って入った。
「トガ様、トゥワイス様、落ち着いてください。これも死柄木様の『計画』の一部です。八斎會が私たちを利用しようとしているのなら、こちらも彼らを内側から利用し尽くせばいいだけのこと……違いますか?」
黒煙の冷徹で合理的な言葉に、トガもトゥワイスも「……確かに」「黒煙は間抜けで賢いねぇ!」と毒気を抜かれ、渋々と納得する。
表面上は協力関係を結びつつも、水面下では互いを喰らい尽くそうとするヴィラン連合と死穢八斎會。不穏な協力体制がここに構築された。
翌日――とある大都会のオフィスビル
ヒーローインターンに向かった緑谷くん、麗日さん、梅雨ちゃん、切島くんの4人は、偶然にも同じ方向の電車に乗り、同じ目的地へと向かっていた。
「あれ? みんなもこっちの方向なの?」
「緑谷くんも?」
「ケロ。ええ、なんだか大きな招集がかかったみたい」
「何で俺まで?」
たどり着いた会議室の重い扉を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
各事務所から集結した名だたるプロヒーローたちの姿――。
主催であるサー・ナイトアイをはじめ、バブルガール、ファットガム、リューキュウ、ロックロック、さらにはグラントリノや、彼らの担任であるイレイザーヘッド(相澤先生)までが一堂に会していたのだ。
重苦しい沈黙の中、ナイトアイが眼鏡を指先で押し上げ、鋭い眼光を全員に向ける。
「集まってもらったのは他でもない。指定敵団体『死穢八斎會』……彼らが裏社会で流通させようとしている『ある恐るべき計画』についてだ。これより、八斎會壊滅に向けた合同会議を始める」
緑谷くんたちが息を呑む中、巨悪の打倒に向けたヒーローたちの本格的な作戦会議が幕を開けた。そしてこの会議の波紋は、すぐ近くで別のレスキュー特化の訓練に励む白煙くんたちの元へも、間もなく届こうとしていた。
サー・ナイトアイ事務所・合同会議室
プロヒーローたちの収集した情報を統合し、サー・ナイトアイは死穢八斎會の若頭・治崎廻の危険性を静かに、かつ理路整然と説明していった。
その張り詰めた空気の中、実戦主義のプロヒーロー・ロックロックが異議を唱えるように声を荒らげる。
「おいおい、そんな危ねえ現場に、まだライセンスを取ったばかりの学生のガキどもを巻き込む気か!? 足手まといだ、今すぐ出ていかせろ!」
「待ってくれロックロック! この赤髪の少年――切島は大事な参考人や!」
ファットガムが切島くんの肩を叩いて前に出した。
切島くんが先日、ファットガム事務所のインターン中に戦ったヴィラン。そいつが使用し、切島くんが「硬化」で弾き返した注射器の中身……。
「それは――受けた人間の『個性そのものを破壊する薬』です」
その言葉が響いた瞬間、会議室にいたヒーローや学生たちの背筋にゾッと冷たい戦慄が走った。
「個性を……破壊……!?」
驚愕する一同に対し、相澤先生(イレイザーヘッド)が補足するように口を開く。
「俺の『抹消』はあくまで一時的に個性の因子を止めるだけだ。だが、その薬は因子の根元そのものを傷つけ、破壊する。まったくの別物……悪質極まりない兵器だ」
ナイトアイはさらに冷徹に事実を告げる。その薬の製造元が八斎會であること。そして、事前にナイトアイが個性の『予知』で視た八斎會の部下の未来の映像――。
そこから導き出された最悪の結論は、緑谷くんと通形先輩が出会ったあの小さな女の子、エリちゃん自身が『個性を破壊する薬』の原材料にされているという事実だった。
「彼女の肉体をすり潰し、薬を作っている……。人道実験という名の、明確な禁忌(タブー)だ」
その悍ましい真実に、緑谷くんと通形先輩は強い後悔と激しい怒りに震えた。あの時、もし無理にでも連れて帰っていれば――。2人は拳を血がにじむほど固く握り締め、今度こそ絶対にエリちゃんを救い出すと、心の中で強く誓うのだった。
雄英高校・ハイツ・アライアンス(A組宿舎)
合同会議を終えて学校に戻ってきた緑谷くんは、いつになく元気がなく、どんよりとした暗いオーラを纏っていた。
リビングのソファで深く俯く彼を見つけ、新生レスキュー事務所での研修からたまたま帰ってきていた白煙くんと透ちゃんが、心配そうに駆け寄る。
「緑谷くん……大丈夫? 何かものすごく辛いことがあったの?」
白煙くんの頭から心配そうにポワポワと波打つ煙が出る。透ちゃんも見えない身体で緑谷くんの顔を覗き込んだ。
「そうだよ緑谷くん、顔色が真っ青だよ? 私たちで良ければ、いつでも話を聞くからね」
「……ううん、ありがとう、白煙くん、葉隠さん。……僕は、大丈夫だから」
緑谷くんは無理に笑顔を作ろうとしたが、その声は痛々しいほど震えていた。守るべき命の重さと、自分の無力さに押し潰されそうになっている友人を見て、白煙くんたちはそれ以上深く追及することはできず、ただそっと寄り添うことしかできなかった。
その頃――サー・ナイトアイ事務所
会議が終わった後も、ナイトアイは自室で自問自答を繰り返していた。
八斎會の計画は分かった。だが、肝心のエリちゃんが今どこに監禁されているのか、正確な居場所が分からなければヒーローは動けない。時間が経てば経つほど、あの少女の肉体が削られていく。
「どこだ……どこに隠している、治崎……!」
焦燥感が部屋を支配したその時、デスクの上のFAXと、1通の「匿名の手紙」が事務所のポストへと同時に届けられた。
不審に思ったナイトアイがその手紙を開封し、書かれていた内容を目にした瞬間、その鋭い眼光が大きく見開かれた。
『明日、オーバーホールこと治崎廻は、エリちゃんを八斎會本部の地下最深部にて大規模な人体実験にかけます。ヒーローの皆様、もしお暇とご予定があれば、歓迎いたします』
差出人の名前はない。ただ、インクの代わりに薄く煤けたような黒い粒子が紙面に付着していた。
「そんな、バレた!?」
「これは……! 我々が動いていることが敵に露見したというメッセージか!?」
バブルガールが戦慄するが、ナイトアイは手紙の文面を凝視したまま動かない。
「いや……待て。情報の精度が高すぎる。何より、私が『予知』で視た明日の八斎會の部下の行動スケジュールと、この手紙に書かれている日時は完全に一致している。罠の可能性はあるが……この情報は本物だ!」
八斎會の内部から漏れたものか、あるいは第三者の介入か。
どちらにせよ、躊躇している時間はない。明日、確実にあの少女の命が危機に瀕する。
「至急、先ほどの合同会議に参加した全ヒーロー、および雄英高校へ連絡を! 明朝決行、死穢八斎會本部への強制ガサ入れ(突入作戦)を開始する!!」
ナイトアイの緊迫した怒号が事務所内に響き渡り、事態は一気に、一分一秒を争う最終決戦へと加速していくのだった。
基本的には原作通りですが、黒煙くんが少し掻き回しています