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「はぁーあ。ねえねえ黒煙ちゃん、あの潔癖症のマスク野郎くん(オーバーホール)さ、なんかこう……ギャフンって言わせられないかなぁ?」
八斎會の地下通路を歩きながら、トガヒミコが不満げにナイフの柄を弄んでいた。
「あいつ、人を見下してばっかりで本当にムカつく! 私たちのこともただの駒としか思ってないんだもん!」
「ギャフンと言わせる、ですか」
黒煙が薄暗い闇の中でマスクの奥の瞳を細める。
「おいおい! あいつを後ろから刺しちゃえよ! いや、でも契約違反は良くない! 良くないけどアイツは嫌いだ!!」
トゥワイスは「自分」と「自分」で激しく脳内喧嘩をしており、全く話がまとまらない。
「ふむ……」
黒煙は少し考え、現状を分析した。
「現在、ヒーローの主力である通形ミリオが地下室で治崎と交戦中です。一番簡単なのは、治崎があらかじめ用意している地上への『脱出口』を、私の煙で完全に塞ぐこと。これで彼は袋のネズミとなります」
「うーん、それじゃあただのヒーローの手助けだし、あいつが『ギャフン』って顔するのを見られないじゃん! もっとこう、盛大にぐちゃぐちゃにしたいの!」
トガが不満そうに頬を膨らませる。
「……なるほど。それならば、地上にいるリューキュウ(ドラゴンのヒーロー)を、今戦っている地下室へ叩き込むというのはどうでしょう?」
「それ!! すっごくいい! 採用!!」
トガの顔にパッと狂気的な笑みが浮かんだ。
「でも、どうやってあんなでっかい竜を地下まで連れてくるの?」
「地上への隠し脱出ルートは、私の煙で既に確保・マーキングしてあります。地上からの天井の厚さが最も薄くなっている地点へ、彼女たちを誘導すれば容易です」
「きゃはは! 黒煙ちゃん、本当に便利ー! 気が利くねぇ!」
「お役に立てれば幸いです。トガ様」
一礼する黒煙の背後で、ドス黒い煙が怪しくうねった。
地下最深部――絶望の『個性消失』
その頃、最深部の地下広場では、通形ミリオ先輩が治崎と死闘を繰り広げていた。
「透過」の個性と、これまでの弛まぬ努力で培った「予測」と「経験」。それらすべてを総動員し、ミリオ先輩は治崎の猛攻を完璧にいなし、ついにその手からエリちゃんを奪還することに成功した。
だが、治崎は冷酷だった。
傷つき、血を流すミリオの姿を見せつけ、エリちゃんに激しい「呪い」の言葉を突きつける。
「お前がそうやって我が儘を言うから、周りの人間が傷つくんだ」
「お前のせいで、周りは壊れていく」
「お前のせいで、周りは居なくなる。……お前が全てを奪うんだ、エリ」
人体実験の恐怖、そして自分の存在自体が他者を不幸にするという絶望の植え付け。
さらに治崎は、部下に持たせていた切り札――『個性消失弾』を込めた銃を、エリちゃんを庇うミリオへと向けさせた。
「――危ないっ!!」
銃声が響く。
ミリオ先輩は、エリちゃんを守るために自らの身体を盾にした。
赤い液体が、先輩の身体に染み込んでいく。
その瞬間、彼が限界まで鍛え上げてきた最強の個性『透過』の因子は――音を立てて永遠に消失した。
無個性となってもなお、ミリオ先輩はエリちゃんを守り、素手で治崎の攻撃に耐え続けた。
そこへ、ようやく壁を突き破って緑谷くん、サー・ナイトアイ、そして相澤先生(イレイザーヘッド)が合流する。
「ミリオ……!!」
ボロボロになったミリオ先輩とエリちゃんを緑谷くんが保護し、ナイトアイが怒りを燃やして治崎を食い止める。
だが、ナイトアイの「予知」すら超える治崎の執念。彼は敗北した部下の肉体を個性で一度『分解』し、自らの肉体へと『融合』。異形の化け物となり、本気でエリちゃんを奪還しにかかる。
「エリを……返せェェェェ!!」
「絶対に……渡さないっ!!」
緑谷くんがワン・フォー・オールを限界まで引き上げ、必死の防戦を繰り広げる。
混沌(カオス)の地上爆撃
その戦いの最中、地上ではドラゴンの姿をしたリューキュウが活瓶を抑え込んでいた。
「リューキュウさん! あっちの道路の下に、ヒーローたちが取り残されています!!」
泥まみれの「緑谷くん」の姿に変身したトガヒミコが、息を切らせて叫んだ。
「えっ!? 緑谷くん!? 地下はどうなっているの!?」
「天井が崩落しかけて、このままだとみんな下敷きになります! 上から衝撃を与えて、一気に穴を開けて救出してください!」
「わかったわ、任せて!」
リューキュウがその強靭な爪で、トガが指し示した道路の薄い地面を思い切り叩き壊した。
――ドオォォォォォォォォンッッッ!!!
凄まじい轟音と共に道路が陥没し、アスファルトと土砂が地下室へと雪崩れ込んでいく。
光が差し込んだ地下最深部。治崎は、想定外の「上空からのヒーローたちの乱入」と、最悪のタイミングでの天井崩落に、顔を歪めて苛立ちを爆発させた。
「おのれ……ヒーローどもめが……!! 鬱陶しい!!」
その壊滅的な光景を、陥没した穴のフチから見下ろしながら、トガヒミコは手を叩いて大笑いした。
「あはははは! 見て見て黒煙ちゃん! オーバーホールくん、すっごくイラついてる! ギャフンって言ってる! 最高!」
「ふふ、実に見事な『プルスケイオス(更なる混沌)』ですね。この言葉、私たちヴィランを表すのにぴったりだとは思いませんか?」
黒煙は怪しく笑いながら、手元のスマートフォンを操作し、ある番号へと発信した。
「……誰に電話してるの?」
トガが不思議そうに首を傾げる。
「少々、退屈しのぎのスパイスをね。……あ、もしもし。新生レスキュー事務所でしょうか? 指定ヴィラン団体の住宅区の地下エリアにて、大規模な陥没および火災が発生、要救護者多数。――今すぐ向かえば、面白い『レスキュー』が見られますよ」
電話を切り、黒煙は仮面の奥で静かに微笑んだ。
(おいでなさい、ホワイト。……そして、透さん。あなたたちの『力』を、この混沌の中で見せてごらんなさい)
光と闇の思惑が絡み合い、八斎會の戦場はさらなる激動の渦へと巻き込まれていく――。
『指定ヴィラン団体「死穢八斎會」の突入現場付近で、大規模な崩落と救援要請が来ました!! 消防からの正式な応援要請よ!!』
「白煙くん、合図!!」
「は、はい!! 新生レスキュー事務所、出動します!!」
「「「「――了解!!」」」」
ラグドールの切迫した声が、新生レスキュー事務所の管制室に響き渡った。
プッシーキャッツの面々と白煙くん、透ちゃんは、朝から一つの過酷な救助活動を終えたばかりだった。現場ではテレビのアナウンサーに囲まれ、インタビューされるアクシデントもあったが、一息つく間もなく次の現場へ出動となる。
今から自分たちが駆けつける場所が、緑谷くんや梅雨ちゃんたちのいるヒーローチーム、そしてあの「黒煙」のいるヴィラン連合、さらにはエリちゃんを巡るオーバーホールとの最終決戦の地であるなど、彼らは知る由もなかった。
現場の地下深さは、凄惨を極めていた。
先行した通形ミリオは個性を失い負傷。サー・ナイトアイは治崎の容赦ない一撃を受け、致命傷の重体。ロックロックも負傷し、相澤先生(イレイザーヘッド)は八斎會の不意打ちで捕らえられていた。
Aルートの切島くんとファットガムは満身創痍の重傷、天喰環は軽傷であるものの消耗が激しい。
対する八斎會もほぼ全滅。しかし、追い詰められた若頭・治崎廻は部下の肉体を取り込み、異形の姿へと超巨大化を遂げていた。
地上へと突き抜けた、超巨大化治崎と緑谷くんの一騎打ち。
緑谷くんの背中には、恐怖の涙を流すエリちゃんがいた。
彼女の個性は『巻き戻し』。
「理を壊す。それが――壊理(エリ)だ!!!!」
治崎の絶叫が響く。人間の存在を猿にすら巻き戻せるほどの、あまりにも強大で呪われた暴走。コントロールの効かないその個性を相殺するため、緑谷くんは自身の肉体をあえて『ワン・フォー・オール 100%』の負荷で破壊し続け、エリちゃんの巻き戻しと釣り合わせるという、命懸けの超限界戦闘を選択した。
「すべてを元通り(分解・修復)にしてやるッ!!」
巨大化した治崎は、周囲の住宅街を狂ったように分解。アスファルトも、民家も、あらゆるものを質量兵器へと変えて緑谷くんに襲いかかる。
だが、今の緑谷くんの速度と破壊力は、かつての平和の象徴・オールマイトに匹敵していた。超高速の風圧が治崎の巨躯を粉砕し、治崎がそれを瞬時に分解・修復していく。
凄まじい神々の闘い。しかしその余波で、のどかだった住宅街は跡形もなく破壊され、治崎の都合の良い「武器」として再構成されていく。
崩壊した地下室の瓦礫の底で、サー・ナイトアイは薄れゆく意識のなか、治崎に発動した『予知』の光景を見ていた。
視えた結果は――治崎が緑谷を殺し、エリを連れ去る「ヒーロー敗北」の未来。
自身の命の灯火が燃え尽きていくのが分かる。結局、私が視た凄惨な未来は、誰にも変えられないのか。あのオールマイトが迎えるはずの、凄惨な死の未来も……。
「ナイトアイさん! しっかりしてください、ナイトアイさん!!」
傍らで必死に叫ぶ麗日さん。しかし、致命傷を負った彼を前に、自分ができるのは傷口を押さえることだけだった。何もできない自分が情けない。あの時、白煙くんが仮免試験で見せたような、重体者への完璧な医療知識を、もっと、もっと覚えておくべきだったのに――!!
ポロポロと悔し涙を流す麗日さん。
その絶望の底に、突如として、奇跡のサイレンが住宅街に鳴り響いた。
――ウゥゥゥゥゥゥンッッッッ!!!!カンカンカン!!
煙を吹き散らし、猛スピードで突っ込んできたのは、見覚えのある一台の消防車両。
新生レスキュー事務所が、最悪の戦場に到着したのだ!
「がはっ……! 頼む、誰か……ッ! 地下のナイトアイさんが危ないんだ!!」
上空で治崎の猛攻を弾き飛ばしながら、緑谷くんが声を枯らして叫ぶ。その声を聞き逃さず、車から飛び出した二つの影があった。
「任せて、緑谷くん!!」
「透ちゃ……、インビジブルガール、トリアージキット展開! 救急搬送ルートを確保する!」
「了解!! エンちゃ、ううん!!スモークドラフト!!」
最新の医療完全装備を身に纏った、白煙くんと透ちゃんだ! バックドラフトの技術と、プッシーキャッツの機動力、13号先生の教えをすべて詰め込んだ最新のレスキューギアが、陽光を浴びて輝く。
「白煙くん!? 葉隠さん!?」
麗日さんが驚愕に見開いた目の前で、白煙くんの頭部から純白の煙が爆発的に噴き上がった。
「麗日さん、そこを動かないで! 煙で血圧を維持しつつ、気道を確保する! 透ちゃん、心肺蘇生と止血の補助を!」
「了解!!」
絶望に染まりかけていた地下室に、頼もしすぎる本物の「救済の風」が吹き荒れる。
死なせはしない。たとえ未来がどうであれ、目の前の命を絶対に救い出す。白煙くんと透ちゃんの参戦により、最悪の因果が、今度こそ大きく狂い始めようとしていた。
最悪の未来は捻じ曲がった
スモークドラフト
白煙薫のヒーロー名
新しいコスチュームはバックドラフトの消防士コスチュームを受け継いでいる
バックパックにはセントラル病院お墨付きの最新医療道具がぎっしり詰まっている
インビジブルガール
白煙くんとお揃いコスチューム
お揃いコスチュームは恋人そしてサイドキックとして、白煙くんを本気で支える決意の表れである