エージェント、見滝原の夜を征く   作:伊勢村誠三

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CASE.14 壊れる

<ブレイカムキャノン!>

 

色のない炎を噴き上げて魔女が沼状の結界の底に沈んでいく。

ノクスナイトは足場代わりにしていた死にかけの使い魔にとどめを刺して天面にできた穴から現実に帰還した。

同時に排出されたグリーフシードを掴み外に出る。

 

「精が出てんな」

 

賢政が擬装を解除すると、背後から佐倉杏子が声をかけてきた。

 

「ここは見滝原駅より風見の駅の方が近いが、まだ見滝原だ。

お前のテリトリーを犯してはないぞ」

 

「わかってる。お前、最近さやかのこと見たか?」

 

「学校ではほぼ毎日。

最近は魔女狩りの途中でも会わないから話してないが……何かあったのか?」

 

「この前見た時から、随分と戦い方が荒っぽくなってきててさ。

アンタならなんか知ってるかもと思ったんだけど」

 

「そうだったのか。俺の方でも調べておく」

 

そう言って賢政はイレイスカプセムで非活性化状態にしたグリーフシードを杏子に投げ渡す。

 

「いいのかよ」

 

「情報料だ。何かあったら連絡する」

 

賢政はナイトインヴォーカーを外してレム睡眠からノンレム睡眠に切り替える。

その様子をキュウべぇがビー玉のような赤い眼で見ていた。

 

「なるほど。意識体を実体化させて遠隔でそうさしていたのか。

本来なら同じ無意識化の誰かの精神内に潜入することしかできないだろうけど、魔法少女の縄張りのような魔女結界複数を常に許容している環境ではビーコンさえあればあのような活動も可能。

本来なら魔女、というより人間の精神が魔女のような定型を持ってしまった場合に現実に干渉する前に排除するために開発されたシステムなのかな?」

 

君はどう思う?と言いながらキュウべぇが振り返ると長い黒髪をなびかせた不機嫌そうな少女が、暁美ほむらがいた。

 

「そんな情報を私に教えて何を企んでいるの?」

 

「企んでいるなんてとんでもない。

こちらとしても彼の所属する組織の戦力や技術力を知っておいて損はないという話さ。

君の反応を見るに、君とノクスナイトたちは別件のイレギュラーなようだけど」

 

「……」

 

ほむらは何も言わずにその場を去った。

 

-----

 

翌日、俺はカバンだけ自分の席に置くと隣の鹿目たちのクラスに向かった。

 

「あれ?小鷹。うちのクラスに何か用?」

 

ドアの前に立った瞬間反対側から開けられた。

出てきたのは去年同じクラスだった南雲(なぐも)だ。

 

「おはよう。美樹は今日来てるか?」

 

「さやか?今日はまだ来てないけど、もしかして?」

 

「馬鹿言え。上条に殺される」

 

「なんで?上条が付き合ってるの仁美じゃん」

 

「……そうか。邪魔したな」

 

来た道を戻りながら俺は従兄の宗馬(しゅうま)の言葉を思い出していた。

 

『いいかい賢政。

君は告白が失敗しただの恋人と破局しただのと浮ついたことで平常心を保てなくなる軟弱な男になってはいけないよ。

ああいった手合いは勉学に身が入らないどころか、好き好んでやっているはずの短時間労働すら休もうと……アルバイト?

我々には美しい母国語がある。

母なる言語を愛そうじゃないか』

 

いや、宗馬の極右思想は今はいい(このせいで学校では品行方正な剣道部部長にも関わらず『日本語』とあだ名されて若干馬鹿にされているらしい。ぶっちゃけ仕方ないと思う)。

問題は美樹が一回きりの願いを使ってまで夢を叶えた結果、その最大の利益を受け取った者が本人でないということだ。

 

「これは荒れるぞ……」

 

-----

 

「あはは……あーっはっはっはっは!」

 

案の定美樹は荒れていた。

被弾覚悟とかそんなレベルを超えた肉体が千切れ飛ぶのも構わない猪武者のような獰猛極まる近接戦で魔女を屠っていた。

 

「美樹、お前その戦い方……」

 

「いいでしょ?魔法少女の身体って、その気になれば痛覚とか全部オフにできるんだ」

 

「お前、死にたいのか?」

 

「そんなこと、考える必要ないんだよ……」

 

変身を解除して薄く笑う美樹の顔は未だかつて見たことのないくらい笑みだった。

 

「私は見返りなんて求めない!

魔女になっちゃった子たちも全員ちゃんと悼んでる!

魔女のことを食い物としか思ってない連中とは違う!

だーよね!マミさん!」

 

狂った笑みのままガンカプセムに話しかけながら去っていく美樹を俺は追えなかった。

いいや、白状しよう。

追いかけたくなかった。

 

「誰だ初恋はレモン味とか言ったやつ……」

 

口に出せば宗馬に怒られる気がするが、こんな胃にずしりと来るようなものが甘酸っぱい物か。

まだココナッツ味とメタル味とか言った方が適切な気がする。

 

「あれが真実を知った大体の魔法少女の末路よ」

 

俺が次にとるべき行動を見失っていると、いつの間にか暁美が背後に立っていた。

 

「ああいう女が腐ったようなのばかりが奇跡にすがるからこうなる。

これ以上嫌な思いをしたくなかったら手を引くことね」

 

「お前が何かしたところでどうにかなる気もしないがな」

 

「なんですって?」

 

「まるで自分ならもっとうまくやれる……いや、自分でも無理なんだから俺には無理だと言わんばかりだったからな」

 

「……そうよ、だから諦めなさい」

 

そう言って去っていく暁美を見送り、俺はコードフォンを取り出す。

 

「もしもし鹿目か?話がある」

 

-----

 

「本当にここであってるの?」

 

「どの道俺たちはあいつのテリトリーに入っている。

向こうも遅かれ早かれ気付くさ」

 

また翌日、俺と鹿目は旧佐倉教会(仮称)に来ていた。

暫く待つと佐倉がお菓子の箱片手に入ってくる。

 

「あ、杏子ちゃん」

 

「よう。そっちの二つ結び連れて来たってことはさやかについてか?」

 

「ああ。いろいろと思ったより酷い」

 

手土産の弁当を渡し、俺は知り得る限りの情報を喋った。

 

「マジかよ……本当にひでぇな」

 

「杏子ちゃん、小鷹君も改めておねがい!

どうかさやかちゃんを助けてあげて!

さやかちゃん、口では強がってるけどギリギリのはずなの!」

 

「見ればわかる。

だが現実問題志筑と上条を破局させる訳にもいかないだろう?

かと言って倫理以前の手段でどうにかするにはあいつの中で上条の存在は大きすぎる」

 

「それ、お前が何時も変身に使ってる玉っころだよな?

なんでそれ使うとどうにかなるんだよ?」

 

「イレイスはこの世の色を消すカプセム。記憶も消せる」

 

「却下だ却下!

それで魔法少女になった理由まで消えちまったらさやかがどうなるか分からないだろ!」

 

「わかってる。

言ってはみたが魔女化の真相を知っただけならともかく、今の状態で使ったら美樹を精神崩壊させかねない」

 

「せ、精神崩壊……」

 

そうなった美樹を想像したのか、身震いする鹿目。

 

「兎に角、今あいつを一人にしておくのはまずい。

鹿目、佐倉。携帯電話出してくれ」

 

持ってなかった佐倉には俺の私用の携帯電話を貸してコードフォンからデータを送信する。

 

「これでガンカプセムの位置が分かる。行こう」

 

今思えば、まだ俺たちは軽く考えていたのかもしれない。

夢がかなった後から悪夢が追い付くという絶望を。

 

「あたしって、ほんとバカ」

 

その日、見滝原に人魚が生まれた。




See you next mission.
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