エージェント、見滝原の夜を征く   作:伊勢村誠三

15 / 15
────Who are you?


CASE.15 変わる

俺と鹿目が着いた時には、もうすでに佐倉は来ていた。

 

「希望と絶望のバランスはいつだって差し引きゼロ、だっけ?

いつだったかそんなこといってたよね?

今ならそれ、よくわかるよ」

 

そして美樹はこっちに気付いていない様子だった。

 

「さやかちゃん!」

 

「美樹!」

 

「まどか、小鷹……」

 

こちらを見た彼女の顔は酷く憔悴している。

当然だ。

ろくに回復しないまま戦い続けて心身を擦り減らせばこうもなる。

 

「いい加減休め、それから回復もしておけ。

じゃないとお前……」

 

「やめてよ。私にそんな資格はない」

 

そう言って美樹はグリーフシードを差し出す俺にガンカプセムを渡して来た。

 

「お願いだよさやかちゃん。

今日だけでいいからちゃんと話を聞いて。

今のさやかちゃん、頑張り過ぎてるよ。

無理して救い続けても……」

 

「救った?あたしが!?

……確かに何人かは救えたと思う。

けど、心はどんどん恨みや妬みが溜まっていって、一番大切な友達のまどかさえ傷つけた」

 

「さやかちゃん、私は全然……」

 

「あたしが気にする。気にしちゃうんだよ。

そして誰かの幸福を祈った分と同じだけ誰かの不幸を願わずにはいられない」

 

「夢と悪夢は紙一重だ。

別にお前だけの話でもない」

 

「戦い続けても化物になるわけじゃないあんたに言われたくない!」

 

勢いよく立ち上がった美樹がこちらを振り返る。

 

「もう駄目みたい」

 

そう言ってさやかは自身のソウルジェムが変貌してしまったグリーフシードを見せる。

 

「お前、それ……」

 

「あたしって、ほんとバカ」

 

「伏せろ鹿目!」

 

黒い突風が吹き抜け、その場には抜け殻になったさやかの死体だけが残された。

 

-----

 

そこから数日、俺たちは佐倉に美樹の死体を保存してもらいつつ、魔女と化した美樹を探した。

 

『現在CODEはブラックケースに完全に取り込まれた人間の救出方法を確立していない。

引き続きミッションを継続せよ』

 

コードフォン越しの無機質な返答と指令に通信をきって舌打ちする。

組織の方は当てにできそうにない。

 

「地道に足で探すしかないか」

 

既に美樹でなかった魔女を4体は倒しているが、本命は手がかりすら見つけれていない。

 

「また空振りか?」

 

「ああ。ずっと見滝原にとどまり続ける保証もない。

お前だって別に余力があるわけじゃないだろ?」

 

「お前がグリーフシード持ってきてくれてるから大分マシだよ。

まどかの方は?」

 

「本来戦えないあいつにそこまでさせられない。

ガンカプセムも直前で返却されたからな。

どっちみち人間の身体から抜けて魔女化する以上、持っていても追えたかは微妙だが」

 

「まあ、過ぎたことを言っても仕方ない。

それに、そう悲観することもないんじゃない?」

 

「どうしてそう思う?」

 

「愛と正義の物語ならさ、砕けたあいつのグリーフシードからまたソウルジェムが出てきたみたいな、そんな笑っちゃうようなハッピーエンドだろ?」

 

そう言って出かけて行った佐倉を見送る。

彼女は今、期待している。期待出来てしまっている。

 

「悪夢が、牙をむかないように祈るしかないな」

 

だがこの夜俺は思い知った。

悪夢とは人によってももたらされると

 

「かつて美樹さやかと呼ばれていた魔女は、私が倒したわ」

 

連れだって美樹を探しに行こうとした俺たちにキュウに現れた暁美が告げた。

そして見覚えのあるグリーフシードを見せる。

 

「な……ん……テメェ!さやかを殺したのかよ!」

 

「そんな……どうして?」

 

「彼女はどうせ助からなかった。

それにノクスナイトは兎も角、ソウルジェムの力の弱っているあなたが戦っていたら最悪命を落としていた」

 

淡々と告げる暁美に俺はイレイスカプセムを取り出し臨戦態勢をとる。

今はまだ自分を抑えれているが、これ以上は分からない。

 

「こっちを心配したとでもいうつもりか!?

冗談は大概にしろ!

てめーにあたしのなにがわかる!?」

 

そしてもう佐倉は限界だった。

淡い希望を、理不尽なシステムではなく人間に打ち砕かれたのだ。

当然だろう。

 

「許さねぇ……あたしは絶対許さねぇ!

さやかを……あたしに残された最後の希望をよくも!

よくも、てめー!」

 

「やめなさい。無駄な戦いは……」

 

「回避できると思っているのか?俺は、できない」

 

ナイトインヴォーカーを装着する。

今の佐倉が手品の種がまだ見えないこいつと戦っても勝てない以上、俺も共に戦うしかない。

我慢できないというのも本当だ。

 

「杏子ちゃん、ソウルジェムが!」

 

だが鹿目の一言で我に返った。

もう佐倉のソウルジェムが濁り切り、グリーフシードに変わっている。

 

「佐倉、お前……」

 

「杏子ちゃん!杏子ちゃんお願い!自分を取り戻して!」

 

泣きじゃくり懇願する鹿目だが、佐倉の耳には届いていない。

 

「あたしは一番大切だった家族を救えなかった……。

マミさんも死んじまった……そしてこの上、さやかまで……」

 

どんどん黒く濁っていくソウルジェム。

ああ、巴先輩の時と一緒だ。

 

「だから呪いを振りまき悪夢を叶えるのか?」

 

「あたしにはもう、なにもない!

なにもないんだ!

ああ、呪ってやる!

あたしはこの世界のすべてを呪ってやる!」

 

絶望の涙と憎悪の相貌でこちらを睨む佐倉。

俺は鹿目にバリアーカプセムを握らせ、前に出た。

 

「だったら俺が、お前が全てを呪う前にお前を悪夢に沈める!」

 

<イレイス!>

 

<オ オ オン・ユア・マーク!>

 

「小鷹くん?」

 

「すまん鹿目。俺は、美樹も佐倉も、誰も彼もを救えない。……擬装」

 

<インヴォーク・ナイトシステム!イレイス!>

 

俺が鹿目を突き飛ばすと、魔女結界が完成する。

馬に乗った蠟燭の頭の騎士のような魔女が、そこにいた。

 

「はっ!」

 

馬上から振るわれる大槍を交わしながら俺は銃形態に変形したブレイカムバスターを撃ち続ける。

生まれたばかりの魔女だからか、使い魔の数はそこまで多くない。

ならば速攻で片を付ける。

 

<ガン!>

 

俺の影の中から無数のリボンが伸びる。

それを足場に使い魔と魔女の攻撃を躱し肉薄する。

 

<カリバーモード!>

 

しかしブレイカムバスターの刀身は空を切った。

魔女の身体が陽炎の様に揺れたかと思えば二つに分かれていたからだ。

 

(分身?今まで使わなかった……いや、使えなかったのか)

 

彼女は常に絶望していたのかもしれない。

それを虚勢で包んで、露悪で覆って、なんとか自分を保っていたのだろう。

そんな状態で良質なコンディションなど保てるはずもない。

きっと、固有魔法抜きで戦い続けたのだろう。

 

「だが、それでも言おう。お前は魔法少女の時の方が強かった」

 

<ナイトメア!ヴァニッシュ!>

 

俺はインヴォーカーにガンカプセムをセットして能力を発動。

出現した巨大なリボンが分身ごと本体を拘束する。

ガンカプセムをブレイカムバスターにセットして変形。

スコープに魔女たちの胴体を合わせる。

 

「ティロ……フィナーレ!」

 

<ブレイカムキャノン!>

 

カプセムの力を帯びた一条の光が佐倉の魔女を貫く。

獣の唸り声とも誰かの悲鳴ともつかない絶叫をあげて魔女が炎に包まれる。

武器のソケットからガンカプセムを外すと、俺はその様子を最後まで見届けた。

そして滅びゆく魔女の体がヴォイドカプセムに集まり、黄色いカオスやガンと同型のカプセムに変化する。

 

<ウルフ!>

 

「慰めにもならんだろうが、これで巴先輩とずっと一緒だ。

きっとさみしくは……なに?」

 

かすかな違和感の次の瞬間、ナイトインヴォーカーが火花を噴き上げ破損し、強制擬装解除されてしまった。

 

「一体なんで!?」

 

俺は取り出したリカバリーカプセムを起動させてバックルに押し当てるが、中途半端にしか能力を発揮できないまま青白いスパークを発してヴォイドカプセムに戻ってしまった。

結界を失い、現実に戻るはずの景色が見滝原やそうでない街を滅茶苦茶に切った貼ったしたような景色にかわり、佐倉の魔女の使い魔が追いかけてくる。

 

「くそっ!」

 

俺は無用の長物になったカプセムを捨てると、ブレイカムバスターを手に走り出した。

鹿目に貸したバリアーカプセムにさっき壊れたリカバリーカプセムは使えない。

イレイスも使ったところでリカバリー同様に機能が死んでしまうだろう。

魔女を封じたカプセムは……どうなんだろう?

分からないが下手に使って使いきりでした、なんてなったら目も当てられない。

 

「まさか、夜に捕らわれるとはな」

 

疲労を押して俺は走った。

追い付かれれば、命はないからだ。

 

-----

 

いつの間にかほむらの握っていたグリーフシードに、壊れたナイトインヴォーカーが全てを物語っていた。

それを見たまどかはひとしきり泣き叫び、ほむらに連れられて彼女の家までやってきた。

 

「ここまで来てしまったら、あなたには知る権利があるわ」

 

奥に通されたまどかにほむらは今までのすべての事情を明かした。

 

「私の魔法は時間操作。

これを使って私はこの約一か月を延々と繰り返している」

 

かつて暁美ほむらは虚弱で、意気地なしで、自分が大嫌いだった。

退院しても転校しても何も変わらない。

そんな時、助けてくれたのがまどかだった。

同じ魔法少女として活動していたマミとも知り合い、くしゃくしゃな心で過ごしていた毎日に光が差した。

しかし、そんな毎日は終わりを告げた。

 

「ワルプルギスの夜。

結界を必要とせず世界中を渡り歩き、あまりの力から魔女を認知できない人々からもスーパーセルと認識されている最強の魔女。

私が最初に出会ったまどかはそれに敗れた」

 

ほむらがキュウべぇと契約したのはその直後だ。

魔法少女となり、時間を超えて、何度でもワルプルギスの夜に挑み、そして敗れ続けた。

 

「今度こそ、私が貴方を救って見せる。

だからまどか、あなたは何者かになる必要なんてないの」

 

-----

 

「やあ、まどか」

 

「キュウべぇ……」

 

家に帰り私室に戻ると、まどかのベッドの上に白い獣が、愛らしくもガラス玉のようにぬくもりのない瞳の使い魔が寝そべっていた。

 

「もう知っていると思うけど、そう遠くないうちにワルプルギスの夜が来る。

このままほむらだけで戦っていても勝てはしないだろう」

 

感情としては否定したかったまどかだが、事実として失敗と敗北を重ねていると外ならぬほむらから聞かされたばかりとあっては反論の言葉は出てこなかった。

 

「もし、誰か一緒に戦ってくれる誰かがいたら勝てると思う?」

 

「どうだろうね。

マミに杏子、それにさやかがいれば少なくとも勝負にはなったかもしれない」

 

彼女達しか見たことないまどかだが、新米のさやかすら魔法少女全体で見れば上積みに位置する強さだったらしい。

 

「だが現状、見滝原にはほむら以外の魔法少女はいない。

神浜をはじめとした周辺の都市もなにやらワルプルギスの夜とは別件で動けなさそうだ。

ノクスナイトも生きてるだけで戦士としては現状再起不能。

はっきり言って絶望的状況だよ」

 

キュウべぇの容赦なく告げられる事実に、胸に痛みが走る。

自分は、何も出来ないままなのだろうか?

 

「ん?まってキュウべぇ、その言い方……小鷹君は生きてるの?」

 

「ああ。だが彼の精神は無数の魔女結界と人間の無意識の折り重なった空間に潜行したまま戻る術を失っている。

ほむらが破壊したあのベルトに代わる物が必要だ。

外部から彼の肉体に運ばれた病院の医者以外誰も何もしていない辺り、ノクスナイトは彼の所属組織とまともにコンタクトをとれる状態にない。

今のところ、彼を助ける術はないよ」

 

そこまで話を聞いて、まどかの心は決まった。

渡されたままずっと手元に残っていたバリアーカプセムを取り出す。

 

「ねえキュウべぇ。本当に私の因果ならどんな願いも叶えられるの?」

 

「ああ。君の因果なら、世界を救うも滅ぼすも思いのままといってもいいほど自由に願いを叶えられる。

さあ!君の願いは何だい?」

 

「キュウべぇ、私の願いは───」

 

-----

 

それは明日に備えて自作爆弾を作り終え、床に就いた瞬間だった。

 

「おやすみ、暁美ほむら」

 

振り向き、いつも魔女と対峙するのと同じようにニューナンブM60を構える。

しかし安全装置を外すより早く腕を掴まれたほむらは拳銃を奪われ蹴飛ばされた。

起き上がると、周囲の景色は以前カオスカプセムにより作られた結界となっていた。

中央の広場には銀髪の少女、マミに続いて杏子が磔になってさらされている。

 

「小鷹賢政……なぜあなたがここにいるの?!」

 

「どうやらお前のお姫様が愚かな悪夢を叶えたらしい」

 

そう言って賢政はナイトインヴォーカーとは違う白いベルトを取り出し、胸部に当てる。

ベルトパーツが自動で動き、彼の身体にバックルを固定する。

 

「そのベルトは……まさか、まどかが願いで?」

 

「名付けるなら、夜の駆動器(ノクスドライバー)と言ったところか」

 

<シャドウ!>

 

まどかがキュウべぇと契約したことを悟り、打ちひしがれるほむら。

賢政はドライバーと共に授かった紫色のカプセム、シャドウカプセムをセット。

ドライバーのスイッチを押してロックを解除する。

 

「ぎそ……いや、変身(へんしん)

 

バックルを360度回転させると、カプセムが真ん中で二つに割れるように展開され亜人に向かって走り、飛び蹴りを放つ戦士の絵柄が浮かび上がる。

 

<ハッハッハッハッハッハッ!>

 

悪夢と魔女の力が同時抽出され、賢政の足元から延びた二本の影が重なり、白と青にレンジのラインが走るミッションスーツを与える。

 

<ライダー! ノクス! ノクス! ノクス! シャドウ!>

 

「新しい、ノクスナイト?」

 

「お前のお姫様が残りの人生全てを悪夢に変えて生み出したシステムだぞ?

今までの物差しになんて収まらない。

これはナイトシステムを超えた俺の仮面……」

 

彼は、自身の夢を壊した少女に告げた。

 

「俺は仮面ライダーノクス。夜を征き、夢を彷徨うエージェント。

これより人類の自由と平和のため、ミッションを再開する!」




I'm a KAMEN-RIDER.
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

スリーさんは透き通るCODEを作りたい(作者:頂きに立った)(原作:ブルーアーカイブ)

よりにもよってキヴォトスにCODEを作っちゃった偽スリーのお話


総合評価:445/評価:8/連載:2話/更新日時:2026年07月25日(土) 12:33 小説情報

夢の力で青春を手助け(作者:ライダー志望)(原作:ブルーアーカイブ)

何故かゼッツ由来の夢の力を持ってキヴォトスで生活する青年の日記。


総合評価:1175/評価:8.71/連載:43話/更新日時:2026年09月16日(水) 11:19 小説情報

ゼンレスゾーンゼロ 〜夜明けの虚狩り〜(作者:アキ1113)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

 今から約100年前、7人の人物が初代虚狩りの称号を得た……が、それとは別に歴史には記されていない1人の番外の虚狩りが存在した。▼ 一方で現代――――プロキシのパエトーンとして、様々な出来事に巻き込まれていたアキラとリンの2人は、ある時『ジーク』という青年に出会うことになる……。▼ どうも、作者のアキ1113です。この小説ではゼンゼロと仮面ライダーゼッツのク…


総合評価:236/評価:7.67/連載:6話/更新日時:2026年08月22日(土) 22:00 小説情報

夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~(作者:妄想めっちゃ代理人)(原作:仮面ライダー)

一人のライダー好きがダンジョンのある日本に落ちてしまう話▼ライダーがファンタジーで活躍するのが読みたかったので作って貰いました▼作:俺の妄想を形にしてくれたAI様▼校正と編集:自分▼です。AIとインターネットの集合知へ感謝を捧げます▼07/13追記:ちょっとだけタイトル変えました


総合評価:1300/評価:8.92/連載:25話/更新日時:2026年08月07日(金) 00:45 小説情報

型月世界で雷の夢のライダー(作者:ALMS913)(原作:Fate/)

投稿しているほうに行き詰まったので書いてみました▼1発ネタ▼感想をだれか俺にくださーい!!!▼正直に言っちゃうと俺Fateにわかなので ▼二次創作から魅力に取りつかれた感じなのでストーリーはある程度分かるんですけど▼細かなとこまではわからないんです ▼だからstaynight編は時間かかると思います


総合評価:573/評価:8/連載:16話/更新日時:2026年08月03日(月) 01:55 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>