【本編完結】転生したら八千年の遠回りをしていた件 〜生まれ変わっても、君と出会う〜 作:蠱毒は孤独
本日2話目
二人はやった。
次は、僕だ。
雷さんの大楯が押し込んでくる。さっきまでより深い。アキラさんが落ちたことで、二人とも僕を抜かせない方へ比重を寄せたらしい。僕が翼を開けば乃依さんの矢が先に上下の逃げ道を削り、雷さんは追いかけずに降りる場所を塞ぐ。最初に見せた組み合わせでは、もう崩れない。
大剣を雷さんへ振る。盾が受ける。剣先をわずかに乃依さんへ向けると、彼は射線を残したまま位置をずらした。
ビームを警戒している。なら、撃たない。
翼を一度だけ振り、雷さんの盾が上へ向きかけたところで踏み込む。地上から、もう一度大剣を叩きつけた。
「またそれか」
雷さんは慌てずに盾を戻した。同時に乃依さんの矢が横を切る。避ける先まで塞がれていた。すぐに下がり、追ってきた矢を大剣で弾いて、今度こそビームを乃依さんへ返す。
「はいはい、今度はそっちね」
乃依さんが横へ逃げる。その動きに合わせて雷さんも位置をずらし、二人の距離がまた元へ戻った。
固い。第一戦で僕を落とした形に、第三戦の僕へ合わせた修正が加わっている。
それなら、こっちも同じ順番を使わなければいい。大剣で近づいてから翼を使うんじゃない。先に翼で上を意識させる。乃依さんの矢が上を押さえ、雷さんの盾も少しだけ角度を変えた。
そこで、剣先からビーム。
狙うのは二人じゃない。二人の間だ。
光が空間を割り、雷さんと乃依さんが別々の側へ避ける。その瞬間だけ、二人の距離が開いた。
翼を畳んで落ちる。乃依さんは追わない。雷さんへ大剣を振り、大楯に受けさせる。もう一度。今度は押し切らず、接触したところからビームを放った。雷さんが盾を立て直した時には、僕はもう翼で横へ抜けている。
その先から、乃依さんの矢。
読まれてる。大剣で弾いた。
『激しい! 帝選手が落ちても雷・乃依ペアは崩れない!』
『イッキ選手も攻撃の順番を変えていますが、二人もその場で修正しています。翼だけ、ビームだけ、大剣だけを見ているわけではありませんね』
まさにそれだった。一つ外せば次が来る。一人を追えばもう一人が入る。だから片方だけを倒そうとはしない。
二人まとめて動かす。
その間にも、マップの反対側ではかぐやと彩葉さんの表示がブラックオニキスの陣地へ伸びていた。
『帝選手を落としたかぐや・いろP、そのまま天守閣へ向かう!』
『止まる理由はありません。帝選手が戻る前に、できるだけ深く入っておきたいところです』
向こうも止まっていない。僕も止まれない。
雷さんへ斬り込みながら、剣先を少しだけ外す。乃依さんがビームを警戒して横へずれた。
でも、撃たない。
翼を開く。今度は雷さんの横でも乃依さん側でもなく、二人から少し離れるように高度を取った。追ってくる乃依さんの射線へ、ビームを返す。矢を消すためじゃない。撃たせる角度を変えるためだ。
乃依さんが位置を直し、雷さんも僕の降りる先へ回る。また合わせてきた。それでも、少しずつ動かせている。
その時、別の戦場からかぐやの声が飛んできた。
「彩葉、このまま二人で突っ込も!」
「ちゃんと周り見ながらね」
「名づけて、超最強二人で突っ込む作戦!」
「そのまんますぎる」
「じゃあ超最強二人でめっちゃ突っ込む作戦!」
「増えただけ!」
「改良版!」
「どこが!?」
一拍。
「……っ、あはは!」
「っ!!!うっひゃああああーっ!さいこーーーっ!」
二人の表示は、そのまま天守閣へ向かって伸びていく。
雷さんの盾が来た。大剣を合わせながら、口元が少し緩みそうになるのをそのままにする。向こうは向こうで、ずいぶん楽しそうだ。
だったら、こっちも終わらせる。
翼を大きく開く。乃依さんの射線がすぐ上へ向いた。そのまま上がる。来た矢を大剣で弾くのと同時に、ビームを乃依さんへ返した。彼が横へ退く。
雷さんは乃依さんを追わない。僕が降りる場所へ、先に盾を置いている。やっぱり、そこまで合わせてきた。
降りれば止められる。なら、降りない。
高度を保ったまま、雷さんへビームを振る。盾が上を向いた。
その瞬間、翼を畳んで一気に落ちる。雷さんの横を抜けて大剣を振り、乃依さんの射線が戻ってくるのを見てから、もう一度翼を開いた。身体を横へ逃がすと、直前まで僕のいた場所を矢が抜けていく。
「また順番変えた!」
乃依さんがすぐに位置を直し、雷さんも盾を戻す。遅くはない。それでも、さっきより二人の間が開いた。
勝ちたい。だから焦らない。
でも、時間を掛けていいわけでもない。
『イッキ選手、少しずつ二人を押し広げている!』
『雷・乃依ペアとしては、ここでイッキ選手を止め続ければ帝選手の復帰まで時間を作れます。イッキ選手は急ぎたい。ただ、急いで連携へ飛び込めば第一戦の繰り返しです』
分かっている。矛盾しているようで、やることは一つだった。
最短で、崩す。
『そして帝選手の復帰も近い! かぐや・いろPはもう敵天守閣へ迫っています!』
『両方とも時間がありませんね』
その瞬間、視界の端に通知が点いた。
帝アキラ、復帰。
『戻ったぁぁぁ! 帝アキラ、再臨です!』
反射的にマップへ目をやる。アキラさんの表示は、ブラックオニキスの天守閣へ向かっていない。
防衛じゃない。
『――帝選手、自陣へ戻らない! 敵天守閣へ直行だぁぁぁ!』
『かぐや選手といろPを迎え撃つより、自分たちが先に大将落としを取る判断ですね』
表示の速度が跳ねた。
超加速。
まずい。追いたい。でも、目の前にはまだ二人いる。雷さんも乃依さんも、背中を向けてそのまま通してくれる相手じゃない。
だったら、ここで使う。
ウルトを起動する。大剣へ光が集まり、いつものビームとは比べものにならない光量が刃へ圧縮されていく。
『来たぁぁぁ! イッキ選手、ここで〝エクス◯リバー〟!』
『いわゆるビーム兵器ですね。大剣から放出されるビームへ火力を集中させて、一点を撃ち抜くタイプです』
雷さんが即座に大楯を構える。乃依さんは盾の後ろへ隠れず、外へ開いて僕へ射線を残した。
一点へ撃ち込めば、雷さんが受ける。
だから、振る!
正面へ撃ち抜くのと同時に、大剣ごと横へ薙いだ。巨大な光が雷さんの盾を押し込み、そのまま乃依さん側まで戦場を掃いていく。
『振ったぁぁぁ!? エクスカリ◯ーを横に振ったぁぁぁ!』
『通常の一点集中放射じゃありません。横へ振ることで、二人とも対応を強いられます』
狙いを一点へ絞らない分、火力は落ちる。それでいい。今欲しいのは二人に与えるダメージじゃない。同時に動かすことだ。
「それを振るの!?」
乃依さんが射線を切って大きく離れる。雷さんも盾ごと押される。二人の位置が、初めて大きくずれた。
ここだ。
光が消えるより先に翼を開き、上へ抜ける。乃依さんの矢。今度は弾かずに、通常のビームを返す。矢と光が交差し、乃依さんがさらに位置を変えた。
雷さんはもう盾を戻して、僕が降りる先へ向けている。だから、その手前で翼を振った。横へ。大楯の外へ。
大剣の間合いに入る。
雷さんが身体ごと向き直る。そこへ斬り込む。戻ってきた乃依さんの矢を大剣で流し、刃を返して剣先からビーム。乃依さんが避ける。翼を開き、今度は追わずに反対側へ抜けた。
二人がまた、別々に僕へ向き直る。ウルトで作ったずれが、まだ戻っていない。
雷さんの盾。乃依さんの射線。どちらか一つを消すんじゃない。二人が同時に守れない角度を、戻される前に作り続ける。
翼で軸を変える。ビームで向きを変えさせる。その先へ大剣を通す。
雷さんの盾が割り込む。乃依さんの矢がその外から来る。最後まで、二人とも止まらない。
僕も止まらない。
翼を振って射線から外れる。剣先のビームで二人の位置を分ける。その間へ踏み込む。
大剣を振り抜いた。
次の瞬間、二つの撃破表示が重なって視界に開いた。
雷。乃依。
撃破。
『葛原イッキ、二人とも落としたぁぁぁぁ! 第一戦で自分を仕留めた雷・乃依ペアを、第三戦では一人で突破したー!』
終わった。
でも、試合は終わってない。
すぐにマップへ目を戻す。アキラさんはもうかなり先まで進んでいる。
そして反対側。かぐやと彩葉さんは、ブラックオニキスの天守閣まで来ていた。
『かぐや選手、大将落としへ到達! ハンマーを振り被ったぁぁぁ!』
彩葉さんもすぐ近くにいる。アキラさんは、まだこっちの天守閣へ向かう途中だ。
僕にも分かった。このまま振り抜ければ取れる。
「勝ち確~!」
次の瞬間。
爆発した。
轟音がオープンチャットまで震わせ、かぐやの表示が止まる。
『地雷ぃぃぃぃ!? 雷選手の地雷です! かぐや選手、直撃!』
『フラグ回収早すぎぃ!! いつ置いた!?』
『今じゃありません! 雷選手は今の今までイッキ選手と交戦していた! もっと前から盤面に残されていた一手です!』
雷さんはもう倒した。それでも、あの人の一手は残っていた。
そして、彩葉さんは止まらない。
『いろPは続行! かぐや選手が止められても、自分で大将落としへ向かう!』
僕も止まれない。アキラさんはもう走っている。
翼を全開にした。
追う。
『帝選手が速い! イッキ選手も雷・乃依を突破して追撃へ入ったぁぁぁ!』
『かぐや側は地雷で一手止められた! それでもいろP選手は敵陣を進む! 完全な最終レースです!』
翼を打って距離を詰める。アキラさんの表示は、まだ先だ。もう一度。速い。超加速を乗せた移動で、戦場の距離を一気に削っていく。
僕も飛ぶ。
縮める。
まだ届かない。
向こうでは、彩葉さんがもう大将落としの目前まで来ている。
両方とも、あと少し。
『両陣営、大将落とし目前! どっちだ! どっちが先だぁぁぁぁ!』
アキラさんの背中が見えた。
大剣を構える。間合いまでは、まだ少し。
翼を振る。近づく。アキラさんも止まらない。
もう一度。
届く。
いや。
あと一歩。
マップの端で、彩葉さんが大将落としへ到達した。
僕は前だけを見る。
アキラさんが、こっちの大将落としへ踏み込む。
僕も踏み込む。
間に合え。
勝ちたい。
この試合を、三人で。
だけど、目の前で大将落としが自陣の天守閣へ叩き込まれた。
『――取ったアアア! 勝者、ブラックオニキス!』
視界いっぱいに結果表示が開いた。
ブラックオニキス。
二勝。
僕たち。
一勝。
【ROKAの観戦ログ:一番綺麗な瞬間】
スタジアムの特等席。
横で真実がポップコーンのカップを握りしめて「帝様ー!」「かぐやちゃーん!」と叫び、案の定ジュースをこぼしかけているのを手で押さえながら、私はずっと画面の中の三人を見ていた。
イツキさん――葛原イッキの戦い方は、やっぱり凄かった。
あの一点突破用のウルトを、まさか二人を同時に動かすためだけに横へ薙ぎ払うなんて。普通なら威力を落としたくないからあんな使い方しないのに、今この瞬間、二人の陣形を崩すためだけに迷わず振っちゃうあたり、本当に勝ちに行くための判断が早すぎる。敵に回したら一番嫌なタイプだよね。
かぐやちゃんは、もう相変わらず。
天守閣の前でハンマーを振りかぶって「勝ち確~!」って叫んだ瞬間、見事に地雷を踏んで大爆発した時は、客席にいた私も思わず頭を抱えちゃった。あんな綺麗なフラグ回収、狙ってもなかなかできないよ。
でも。
今日の試合で、私が一番息を呑んだのはそこじゃない。
突撃の途中。
かぐやちゃんのめちゃくちゃな作戦名を聞いて、彩葉が笑った。
「……っ、あはは!」って。
あの瞬間、スタジアムの歓声が一瞬だけ遠くなった気がした。
彩葉はずっと頑張り屋で、責任感が強くて、一人で何でも抱え込んじゃう子だ。
笑う時だって、いつも控えめに小さく口元を緩めるくらいで、あんなふうに声を上げて楽しそうに笑う姿なんて、最近の彩葉からは全然見られなかった。
それを、あんな戦場のど真ん中で。
あんなに屈託なく、心から笑わせちゃうんだから。
……かぐやちゃんには、ほんのちょっとだけ敵わないなって思っちゃうよね。
かぐやちゃんが地雷で吹っ飛んだあと、彩葉は迷わず一人で敵陣へ走った。
イツキさんも翼を全開にして帝を追って、最後は本当に、コンマ何秒の差。
帝が大将落としを叩き込んだ瞬間、隣で真実が崩れ落ちて、スタジアム全体が揺れるみたいに歓声が爆発した。
2対1。
負けちゃった。ものすごく悔しい。
あと一歩、本当にあと一歩だったのにね。
でもね、彩葉。
負けちゃったけど――今日の彩葉、今まで見てきた中で一番いい顔してたよ。