80歳のハリーポッターが11歳に戻った場合   作:金縛り

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2年目 名付け親への手紙

 シリウス・ブラックの無罪判決は、翌朝の『日刊予言者新聞』一面を飾った。

 

 大きな見出し。

 

『十三年間投獄された無実の男』

 

『ピーター・ペティグリュー、生存』

 

『魔法省の歴史的誤判』

 

 記事の中央には、法廷を出るシリウスの写真。

 

 痩せた身体。

 

 長い髪。

 

 その隣を歩くハリー。

 

 二人が一瞬だけ顔を見合わせる場面が、繰り返し動いている。

 

「写真を撮られていたのか」

 

 大広間で新聞を見ながら、ハリーは呟いた。

 

「有名人は大変だな」

 

 ロンが言う。

 

「君も写ってるぞ」

 

 写真の端。

 

 ハリーの後ろに、赤毛の一部が見えている。

 

「これ、僕か?」

 

「髪だけなら、ウィーズリー家の誰でも同じだろ」

 

「失礼だな」

 

 ハーマイオニーは記事を真剣に読んでいた。

 

「魔法省が、正式に謝罪するそうよ」

 

「ファッジが?」

 

「魔法省として、ですって」

 

「本人は謝らない?」

 

「記者会見では、当時の判断に直接関与していなかったことを強調しているわ」

 

「逃げたな」

 

 ファッジはシリウスが収監された時点では大臣ではない。

 

 直接の責任はない。

 

 それでも、再調査を遅らせた責任はある。

 

「補償金も出るらしい」

 

 ロンが記事を覗く。

 

「すごい額だぞ」

 

「ブラック家は元から金持ちだ」

 

 ハリーが言う。

 

「じゃあ、いらないのか?」

 

「金の問題じゃない。でも、受け取るべきだ」

 

「どうして?」

 

「魔法省に失敗の代償を払わせるため」

 

 賠償は、失われた時間を戻せない。

 

 それでも、間違いを記録へ残す意味がある。

 

 支払い。

 

 謝罪。

 

 責任者の処分。

 

 再発防止。

 

 何もしなければ、同じことが起きる。

 

「シリウスは、どこに住むの?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「ブラック家の屋敷」

 

「家族は?」

 

「母親は亡くなってる。弟も」

 

「一人なの?」

 

「屋敷しもべ妖精がいる」

 

 クリーチャー。

 

 ブラック家に仕える老いた妖精。

 

 前世では、シリウスとの関係が最悪だった。

 

 シリウスは実家を嫌う。

 

 クリーチャーは、純血主義のブラック家へ忠実。

 

 互いに憎しみを向け合った。

 

 その結果、クリーチャーはベラトリックスへ情報を渡し、ヴォルデモートの罠に利用された。

 

「大丈夫か?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「何が?」

 

「屋敷しもべ妖精と二人で」

 

「大丈夫ではないかもしれない」

 

 今回、シリウスはまだ三十代。

 

 前世より長くアズカバンへいたわけではないが、早く出られた分、回復の可能性も高い。

 

 それでも、嫌悪する実家へ戻れば精神的な負担が大きい。

 

 そして。

 

 ブラック家には、重要な物がある。

 

 サラザール・スリザリンのロケット。

 

 正確には、ヴォルデモートが分霊箱にしたロケット。

 

 前世では、レギュラス・ブラックが本物を洞窟から盗み出した。

 

 クリーチャーへ破壊を命じたが、方法が分からず失敗。

 

 ロケットはグリモールド・プレイス十二番地に残された。

 

 その後、マンダンガス・フレッチャーが盗み、ドローレス・アンブリッジの手へ渡った。

 

 今回は、まだブラック家にあるはずだ。

 

「行く必要があるな」

 

 ハリーは呟いた。

 

「シリウスの家へ?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「ああ」

 

「遊びに?」

 

「表向きは」

 

「表向き?」

 

「何でもない」

 

 ロンが疑わしそうに見る。

 

「また危険な物があるのか?」

 

「少し」

 

「少しって?」

 

「分霊箱」

 

「全然少しじゃない!」

 

 ロンの声が大広間へ響いた。

 

 近くの生徒たちが振り返る。

 

「声を抑えて」

 

「先に言えよ!」

 

「今言った」

 

「そういう意味じゃない!」

 

 ハーマイオニーが周囲を確認する。

 

「どの分霊箱?」

 

「スリザリンのロケット」

 

「ブラック家にあるの?」

 

「ある可能性が高い」

 

「どうして?」

 

「シリウスの弟、レギュラスがヴォルデモートから盗んだ」

 

 ロンが目を丸くする。

 

「死喰い人だった人だろ?」

 

「最初は」

 

「途中で裏切ったの?」

 

「ああ」

 

 レギュラス・アークタルス・ブラック。

 

 前世では長く、単なる死喰い人として語られていた。

 

 実際には、ヴォルデモートがクリーチャーを洞窟の罠へ使ったことを知り、分霊箱の存在へ気づいた。

 

 自ら洞窟へ入り、本物のロケットを偽物と交換。

 

 クリーチャーを逃がし、自分は亡者に引きずり込まれた。

 

「シリウスは知ってるの?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「知らない」

 

「弟が何をしたかも?」

 

「おそらく」

 

「なら、教えた方がいいわ」

 

「そう思う」

 

 シリウスは弟を、両親に従った臆病者だと思っていた。

 

 真実を知れば、少しは過去への見方が変わるかもしれない。

 

「どうやって破壊する?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「バジリスクの牙を借りる」

 

「日記の時みたいに、悪霊の炎は?」

 

「二度と学校内では使うなと言われた」

 

「当然よ」

 

 ハーマイオニーが即答する。

 

「必要の部屋でも駄目だったの?」

 

「制御を失いかけた」

 

「駄目に決まってるでしょう!」

 

「だから牙を使う」

 

 バジリスクは魔法省の保護区。

 

 毒牙は、一本が危険物として保管されている。

 

 日記の破壊前に申請していたもの。

 

 届く前に悪霊の炎で決着してしまったが、申請自体は残っている。

 

 正当な用途を説明すれば、もう一度借りられる可能性がある。

 

「ダンブルドア先生には?」

 

「まだ言ってない」

 

「どうして?」

 

「日記の件がある」

 

「でも、反省したでしょう?」

 

「反省と、同じ失敗をしないことは別だ」

 

 ダンブルドアは約束した。

 

 分霊箱と一人で接触しない。

 

 情報を抱え込まない。

 

 救えなかった相手への罪悪感で、判断を誤らない。

 

 今回は信じたい。

 

 それでも、ロケットの存在を知れば、自分で調べようとする可能性がある。

 

「先生を外すの?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「外しはしない。場所を確認してから話す」

 

「勝手に持ち出さない?」

 

「触らない。開けない。話しかけない」

 

「約束?」

 

「約束する」

 

「一人で探さない?」

 

「シリウスの家だ。本人がいる」

 

「分霊箱の危険を知らない人を、協力者に数えないで」

 

 厳しい。

 

 正しい。

 

「では、ロンかハーマイオニーにも来てもらう」

 

「私が行くわ」

 

 ハーマイオニーが即答した。

 

「僕も行く」

 

 ロンも続く。

 

「夏休みの予定は?」

 

「母さんに聞く」

 

「私も両親へ説明する」

 

「遊びに行くと?」

 

「危険な闇の魔法道具を探すとは言えないでしょう」

 

「それでよく僕を責めるな」

 

「あなたの影響よ」

 

 教育に悪いらしい。

 

 年度末が近づく。

 

 ロックハートの捜査も進展した。

 

 彼の著書に登場する事件のうち、三件で本来の解決者が見つかった。

 

 一人はアルメニアの老魔女。

 

 一人は北欧の魔法使い。

 

 もう一人は、ウェールズに住む兄妹。

 

 全員、事件後に記憶障害を起こしていた。

 

 聖マンゴの専門家が調べた結果、強力な忘却術の痕跡が確認された。

 

 術式の特徴は、ロックハートが授業中に使用しかけた忘却術と一致。

 

 さらに、彼の私室から、被害者の名前と事件内容を記した取材記録が見つかった。

 

「ギルデロイ・ロックハート」

 

 授業中。

 

 教室の扉が開き、アメリア・ボーンズと二人の魔法法執行部職員が入ってきた。

 

 ロックハートの笑顔が固まる。

 

「これはこれは、取材ですかな?」

 

「逮捕状だ」

 

 アメリアが羊皮紙を広げる。

 

「複数の魔法使いおよび魔女に対する違法な忘却術、功績の窃取、虚偽出版、詐欺の容疑で拘束する」

 

 教室が静まり返る。

 

「何かの間違いだ」

 

「被害者が見つかった」

 

「私が救った者たちだ!」

 

「彼らは、あなたに会う前の記憶を一部取り戻した」

 

 ロックハートの顔から血の気が引く。

 

「誤解だ。私は話を聞いただけで」

 

「授業記録から、あなたの忘却術の魔力特性も確認した」

 

「記録?」

 

 天井を見る。

 

 今さら気づいた。

 

「ハリー・ポッター!」

 

 ロックハートが叫ぶ。

 

「君だな!」

 

「何がです?」

 

「私を嵌めた!」

 

「先生が犯罪をしなければ、嵌まりません」

 

「私は君に協力した!」

 

「量刑で考慮されるかもしれません」

 

「その言葉は聞き飽きた!」

 

 ロックハートが杖を抜く。

 

 教室内で。

 

 生徒たちの前。

 

 アメリアへ向ける。

 

「オブリビエイト!」

 

 忘却術。

 

 アメリアが盾で弾く。

 

 同時に、二人の職員が拘束呪文を放つ。

 

 ロックハートの身体が縄で縛られ、床へ倒れた。

 

「公務執行妨害と、魔法法執行部長への攻撃を追加する」

 

「待ってくれ!」

 

「法廷で話せ」

 

「私は英雄だ!」

 

「それも法廷で確認しよう」

 

 ロックハートは連行された。

 

 教室に沈黙が残る。

 

 ロンが手を上げる。

 

「今日の授業は?」

 

 アメリアが答えに困る。

 

 扉の外から、スネイプが入ってきた。

 

「私が引き継ぐ」

 

 教室中から小さな呻き声。

 

「不満がある者は出ていけ」

 

 誰も動かない。

 

「教科書を閉じろ。ロックハートの本は、防衛術の教材として価値がない」

 

 ハリーは少しだけ同情した。

 

 年度末まで持たなかった。

 

 だが、犯罪者が教師を続けるよりはよい。

 

 臨時担当はスネイプとフリットウィック。

 

 授業内容は、以前より遥かに改善された。

 

 年度末試験。

 

 寮対抗杯。

 

 二年目は、前世とは全く違う結果となった。

 

 秘密の部屋による襲撃はない。

 

 生徒の石化もない。

 

 学校閉鎖の危機もない。

 

 バジリスクとアクロマンチュラの処理により、ホグワーツの安全管理は大幅に見直された。

 

 魔法省による査察。

 

 禁じられた森へ生徒を罰則で入れることは禁止。

 

 危険区域には、新しい結界と警告表示。

 

 魔法生物の定期調査。

 

 立入禁止区画の記録作成。

 

 ダンブルドアは大量の書類に追われていた。

 

「ハリー」

 

 終業式前日。

 

 校長室に呼ばれたハリーは、机に積まれた羊皮紙を見た。

 

「何です?」

 

「少し手伝ってくれんかの?」

 

「何を?」

 

「安全管理報告書じゃ」

 

「嫌です」

 

「未来では管理職だったのじゃろう?」

 

「今は生徒です」

 

「便利な時だけ十二歳になるの」

 

「マクゴナガル先生に学びました」

 

 ダンブルドアが深くため息をつく。

 

「来年度から、森の定期調査も必要になった」

 

「よいことです」

 

「予算申請が通らん」

 

「魔法省と交渉してください」

 

「君も原因の一人では?」

 

「情報提供者です」

 

「責任を取ると言っておらんかったかの?」

 

「生徒として取れる範囲で」

 

「言葉を覚えたの」

 

「先生からです」

 

 しばらく、互いに見つめ合う。

 

 ダンブルドアが先に諦めた。

 

「シリウスから手紙が来ておる」

 

「僕宛て?」

 

「学校の梟便へ届いた」

 

 封筒。

 

 黒いインク。

 

 少し乱れた文字で、ハリーへと書かれている。

 

 手紙を開く。

 

『ハリーへ。

 

 聖マンゴの治療師たちは、俺を子供のように扱う。食事を残すな、薬を飲め、夜に勝手に病棟を抜け出すな。最後のものは一度しかしていない。

 

 退院は七月半ばになるらしい。

 

 グリモールド・プレイスへ戻ることになった。正直、あの家には帰りたくない。だが、ブラック家の財産や書類を整理する必要があるそうだ。

 

 お前が来てくれるなら、少しはましになる。

 

 夏休みに遊びに来ないか。

 

 名付け親らしいことを、何もできていない。何をすればいいかも分からないが、まずは一緒に食事でもしたい。

 

 友達を連れてきてもいい。

 

 シリウス』

 

 ハリーは手紙を二度読んだ。

 

 自分から送る前に、向こうから招待された。

 

「よかったの」

 

 ダンブルドアが言う。

 

「はい」

 

「行くのじゃろう?」

 

「もちろん」

 

「何か別の目的もある顔じゃが?」

 

 鋭い。

 

「ブラック家に、分霊箱があります」

 

 隠すつもりだったが、ここで話すことにした。

 

 ダンブルドアの表情が変わる。

 

「何?」

 

「サラザール・スリザリンのロケット。レギュラス・ブラックが、ヴォルデモートの隠し場所から盗み出した」

 

「シリウスの弟が?」

 

「はい」

 

「なぜ今まで」

 

「日記の件が終わってから話すつもりでした」

 

「日記は、かなり前に破壊したがの?」

 

「先生の反省が本物か見ていました」

 

「試されておったのか」

 

「結果は?」

 

「どうじゃろうな」

 

「先生一人では取りに行かないでください」

 

「約束しよう」

 

「先にシリウスへ説明します」

 

「危険性を伝えた上で、家を調査するべきじゃ」

 

「はい」

 

「ワシも同行を」

 

「駄目です」

 

「なぜじゃ?」

 

「シリウスは、先生にも複雑な感情があります」

 

 ダンブルドアは、シリウスを疑った。

 

 裁判を求めなかった。

 

 無実を確認できなかった。

 

 今回助けたとはいえ、十三年を消せるわけではない。

 

「まず、僕が話します」

 

「分かった」

 

「意外に素直ですね」

 

「反省中なのでの」

 

「継続してください」

 

 ダンブルドアは髭の奥で苦笑した。

 

「ただし、分霊箱へは一人で近づかないこと」

 

「ロンとハーマイオニーにも来てもらいます」

 

「十二歳を三人集めても、成人の代わりにはならんよ」

 

「シリウスもいます」

 

「まだ治療直後じゃ」

 

「では、スネイプ先生を?」

 

「シリウスが受け入れると思うかの?」

 

 思わない。

 

 前世でも、二人の関係は最悪だった。

 

「マクゴナガル先生」

 

「その方がよかろう」

 

「本人の許可を取ってから、日程を決めます」

 

「バジリスクの牙も用意する」

 

「借りられますか?」

 

「前回の申請が、ようやく通った」

 

「遅い」

 

「書類というものは、そういうものじゃ」

 

 これで破壊手段は確保できる。

 

 ロケットを発見。

 

 封印。

 

 バジリスクの牙。

 

 一つずつ。

 

 ホグワーツ特急がロンドンへ到着した日。

 

 ダーズリー家は、時間通りに迎えへ来ていた。

 

 バーノン。

 

 ペチュニア。

 

 ダドリー。

 

 昨年よりも、魔法界の荷物を見る目が落ち着いている。

 

「今年は問題を起こしていないだろうな」

 

 バーノンが尋ねる。

 

「教師が逮捕されました」

 

「お前が何かしたのか?」

 

「証拠を集める手伝いを少し」

 

「問題を起こしてるじゃないか!」

 

「犯罪を解決した側です」

 

「学校という場所は、教師が逮捕されるものなのか?」

 

「毎年ではありません」

 

「去年の教師は?」

 

「ヴォルデモートに憑依されていました」

 

 バーノンの顔が固まる。

 

「普通の学校へ移れ」

 

「検討します」

 

「本当にしろ!」

 

 ダドリーがハリーのトランクを見る。

 

「菓子は?」

 

「ある」

 

「普通の?」

 

「蛙の形のチョコレート」

 

「動く?」

 

「少し」

 

「食える?」

 

「逃げる前なら」

 

 ダドリーの目が輝く。

 

 ペチュニアが嫌そうな顔をした。

 

「家の中で蛙を放さないで」

 

「チョコレートです」

 

「動くのでしょう」

 

「はい」

 

「外で食べなさい」

 

 車へ乗る。

 

 プリベット通りへ戻る。

 

 母の守り。

 

 この家を自分の家と認識し、定期的に帰ることで維持される古い魔法。

 

 未来では十七歳までハリーを守った。

 

 今回も、すぐに捨てるつもりはない。

 

 少なくとも、ヴォルデモートの本体と残りの分霊箱を処理するまでは。

 

 自室へ戻る。

 

 荷物を解く前に、机へ便箋を置いた。

 

 シリウスへの返事。

 

 何と書くか迷う。

 

 名付け親。

 

 前世では、まともに一緒に暮らせなかった。

 

 シリウスが名付け親として何かをしたいと言っている。

 

 なら。

 

 今のハリーは、十二歳の子供として振る舞うべきか。

 

 八十歳を超えた記憶を持つ者として接するべきか。

 

「無邪気に、か」

 

 少しくらいは、子供らしく頼ってもよいのかもしれない。

 

 羽根ペンを取る。

 

『シリウスへ。

 

 手紙をありがとう。

 

 退院できると聞いて安心しました。

 

 夏休みに、そちらへ遊びに行ってもいいですか。

 

 ロンとハーマイオニーも一緒に行けるかもしれません。

 

 ブラック家のことや、父と母の話も聞きたいです。

 

 それから、家にある古い物を一緒に整理したいです。危険な魔法道具が残っている可能性があります。

 

 無理はしないでください。

 

 ハリー』

 

 読み返す。

 

 少し硬い。

 

 十二歳の手紙ではない。

 

 最後に一文を加える。

 

『名付け親の家へ遊びに行くのは初めてなので、楽しみにしています。』

 

 これなら少しは子供らしい。

 

 封筒へ入れる。

 

 梟を呼ぶ。

 

 窓から飛び立つ姿を見送る。

 

 机の引き出しには、残りの分霊箱を記した羊皮紙がある。

 

 日記。

 

 破壊済み。

 

 指輪。

 

 ゴーント家の廃屋。

 

 ロケット。

 

 グリモールド・プレイス。

 

 カップ。

 

 グリンゴッツにあるレストレンジ家の金庫。

 

 髪飾り。

 

 ホグワーツの必要の部屋。

 

 ナギニ。

 

 まだヴォルデモートのもとにはいない可能性が高い。

 

 そして、ハリー自身。

 

 ロケットの次。

 

 カップ。

 

 前世では、レストレンジ家の金庫にあった。

 

 ナルシッサの金庫ではない。

 

 ただし、グリンゴッツへ入るには、マルフォイ家との接点が役立つ可能性がある。

 

 ベラトリックスはナルシッサの姉。

 

 純血家同士の財産管理。

 

 古い委任状。

 

 家系上の権利。

 

 調べる価値はある。

 

「マルフォイ家には、まだ世話になりそうだな」

 

 日記を盗んだ。

 

 次は、姻戚であるレストレンジ家の金庫。

 

 ルシウスが知れば、怒るだろう。

 

 もっとも、彼は分霊箱の正体を知らない。

 

 ヴォルデモートから預かった危険物を、嫌がらせのために子供へ渡そうとしただけ。

 

 浅はかさでは、かなりのものだ。

 

 ロケットを壊した後。

 

 カップ。

 

 指輪。

 

 髪飾り。

 

 順番は調整できる。

 

 その前に。

 

 シリウス。

 

 今度こそ、家族として過ごす。

 

 ロケットを探すだけではない。

 

 父と母の話を聞く。

 

 シリウスの治療を支える。

 

 クリーチャーとの関係を悪化させない。

 

 レギュラスの真実を伝える。

 

 やることは多い。

 

「夏休みくらい、休めないのか?」

 

 自分で呟き、自分で答える。

 

「無理だな」

 

 それでも。

 

 前世とは違う。

 

 シリウスは生きている。

 

 無罪。

 

 自由。

 

 手紙を送れば返事が来る。

 

 会いに行ける。

 

 その事実は、分霊箱を一つ壊すことよりも、ハリーにとって大きかった。

 

 翌朝。

 

 窓を叩く音で目を覚ます。

 

 黒い梟。

 

 早すぎる返事。

 

 封筒を開く。

 

『もちろんだ!

 

 いつでも来い。

 

 友達も連れてきていい。

 

 家は陰気で、母の肖像画はうるさく、クリーチャーは俺を嫌っている。だが部屋だけは余っている。

 

 危険な魔法道具があるなら、一緒に全部捨てよう。

 

 名付け親らしいことが何なのかは分からないが、お前が来るまでに考えておく。

 

 シリウス』

 

 文字の最後。

 

 追伸。

 

『父親の代わりにはなれない。だが、必要なら何にでもなる。』

 

 ハリーは長い間、その一文を見ていた。

 

 前世では。

 

 シリウスに父を求めすぎた。

 

 シリウスも、ハリーにジェームズを重ねた。

 

 今回は違う関係を作れる。

 

 父親の代わりではない。

 

 名付け親。

 

 家族。

 

 それでいい。

 

「頼みますよ、シリウス」

 

 手紙を丁寧に畳む。

 

 両親の写真帳と同じ箱へ入れた。

 

 夏休み。

 

 プリベット通りで、母の守りを満たす。

 

 その後、グリモールド・プレイス十二番地。

 

 ブラック家のロケット。

 

 二つ目の分霊箱。

 

 そして、十三年遅れて始まる、シリウスとの生活。

 

 二度目の三年目を迎える前に、やるべきことはまだ残っていた。

 

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