80歳のハリーポッターが11歳に戻った場合   作:金縛り

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3年目 来年の教師と、再来年の敵

 ロケットを破壊した翌日から、グリモールド・プレイスの掃除が始まった。

 

 当初、シリウスは魔法で一気に片づけるつもりだった。

 

「全部、庭へ出して燃やせばいい」

 

「駄目です」

 

 ハリーが即座に止める。

 

「なぜだ?」

 

「分霊箱が一つあった家です。他にも危険な魔法道具があります」

 

「だから燃やす」

 

「燃やした結果、毒や呪いが広がる可能性があります」

 

「では、箱へ入れて捨てる」

 

「箱を開けた人が死ぬかもしれない」

 

「面倒だな、この家」

 

「今気づいたんですか?」

 

 クリーチャーも、屋敷の品をすべて捨てることには反対した。

 

「ブラック家の歴史ある品々でございます」

 

「人を噛む嗅ぎ煙草入れも?」

 

「歴史ある品でございます」

 

「血を吸う銀器も?」

 

「歴史ある品でございます」

 

「呪われたオルゴールも?」

 

「大変、歴史ある品でございます」

 

「危険物しかないのか、うちは」

 

「ご先祖様方は、闇の魔術へ造詣が深く」

 

「言い方を変えても駄目だ」

 

 最終的に、三種類へ分類することになった。

 

 安全な品。

 

 調査が必要な品。

 

 即座に封印すべき品。

 

 ハーマイオニーが一覧を作り、ロンが箱へ番号を振る。

 

 シリウスとハリーが魔法を確認し、クリーチャーが由来を説明する。

 

「これは?」

 

 ロンが、干からびた手を指した。

 

「栄光の手でございます」

 

「何に使う?」

 

「持ち主だけが見える光を放ちます」

 

「便利じゃないか」

 

「盗賊に好まれます」

 

「やっぱり危険だな」

 

「これは?」

 

 ハーマイオニーが緑色の液体入り瓶を示す。

 

「ブラック家の敵対者から採取した胆汁でございます」

 

「なぜ保管しているの?」

 

「女主人様の趣味でございます」

 

「封印箱へ」

 

 作業は進まない。

 

 一つ確認するたび、別の問題が見つかる。

 

「この家を安全にするだけで、夏休みが終わりそうだ」

 

 シリウスが言う。

 

「終わりません」

 

 ハリーは答えた。

 

「他にも予定があります」

 

「何をする?」

 

「今後のヴォルデモート対策」

 

「やっぱり仕事か」

 

「シリウスには、しばらく働いてもらいます」

 

「十三年ぶりに自由になったばかりだぞ」

 

「だから自由に働けます」

 

「意味が違う」

 

「嫌ですか?」

 

 シリウスは少し考える。

 

「嫌ではない」

 

「では、決まりです」

 

「決め方がダンブルドアに似てきてないか?」

 

「不吉なことを言わないでください」

 

 午後。

 

 応接室の大きな机に、残りの分霊箱に関する資料を広げる。

 

 参加者はハリー、シリウス、クリーチャー。

 

 ロンとハーマイオニーも同席しているが、二人には夏休みの宿題もある。

 

 ハーマイオニーは資料を読みながら、魔法史の論文を書いていた。

 

 ロンは三行書くたびに手が止まる。

 

「日記」

 

 ハリーは一覧の最初を指す。

 

「破壊済み」

 

「ロケット」

 

「昨日破壊した」

 

「次は?」

 

 シリウスが尋ねる。

 

「マールヴォロ・ゴーントの指輪」

 

 羊皮紙へ、場所を記す。

 

 リトル・ハングルトン近郊。

 

 ゴーント家の廃屋。

 

「指輪には、ヴォルデモートの母方の家系に伝わる石が嵌められています」

 

「ただの宝石ではない?」

 

「死の秘宝の一つ。蘇りの石です」

 

 シリウスの表情が変わる。

 

「死者と話せる石?」

 

「本当に生き返らせるわけではありません。死者の影を呼ぶ」

 

「ジェームズとリリーも?」

 

「呼べる可能性があります」

 

 シリウスが指輪の位置を示す文字を見る。

 

 ハリーは、その反応を見逃さない。

 

「触らないでください」

 

「まだ見てもいない」

 

「見つけても、絶対に直接触らない」

 

「分かった」

 

「装着しない」

 

「しない」

 

「石を使おうとしない」

 

「……分かった」

 

「今、間がありました」

 

「親友と話せる石があると聞いて、何も思わない方がおかしいだろ」

 

「だから危険です」

 

 前世のダンブルドアは、指輪を見つけた。

 

 そこに蘇りの石があると気づいた。

 

 妹アリアナ。

 

 両親。

 

 失った家族へ会いたいという気持ち。

 

 一瞬、分霊箱であることを忘れ、指輪を嵌めた。

 

 呪い。

 

 スネイプが進行を遅らせても、余命は一年。

 

 それがダンブルドアの死へ繋がった。

 

「ダンブルドア先生には場所を教えない方がいい」

 

 ハリーが言う。

 

「校長を信用してないのか?」

 

「味方としては信用しています」

 

「判断は?」

 

「危険物が絡むと信用していません」

 

「ひどい評価だな」

 

「実績があります」

 

「日記か」

 

「あれもありますし、指輪でも自滅します」

 

「未来では?」

 

「はい」

 

 シリウスが頭を抱える。

 

「世界最強の魔法使いが、呪われた指輪を自分で嵌めるのか?」

 

「妹に会えると思って」

 

 シリウスは黙った。

 

 親友に会えると言われれば、自分も同じことをするかもしれない。

 

 そう理解したのだろう。

 

「俺が行く」

 

「だから話しています」

 

「クリーチャーも?」

 

「はい」

 

 妖精魔法なら、ゴーント家の防護を越えられる可能性が高い。

 

 シリウスは古い純血家の魔法に詳しい。

 

 ハリーが学校にいる間でも、二人で調査を進められる。

 

「分霊箱の正確な位置は?」

 

「廃屋の中。床下か、箱の中だったと思います」

 

「曖昧だな」

 

「前世では、ダンブルドア先生が一人で回収しました」

 

「また一人か」

 

「そうです」

 

「本当に何でも一人でやる爺さんだな」

 

「だから、先回りします」

 

 クリーチャーが地図を見る。

 

「ゴーント家は、スリザリンの血を引く家系でございます」

 

「知ってる?」

 

 シリウスが尋ねる。

 

「ブラック家とは、遠い親戚にございます」

 

「純血家は、どこも親戚だな」

 

「狭い社会ですから」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「血統を守ると言いながら、近い家同士で婚姻を繰り返している」

 

「ゴーント家は、その弊害がかなり強く出ていました」

 

 ハリーが続ける。

 

「精神的にも不安定で、暴力的。廃屋にも罠が残っている可能性があります」

 

「クリーチャーが先に確認いたします」

 

「一人では駄目」

 

「クリーチャーは屋敷しもべ妖精でございます」

 

「だから?」

 

「人間の罠には掛かりません」

 

「ヴォルデモートは妖精魔法を軽視していましたが、まったく対策していないとは限りません」

 

 ロケットの洞窟でも、クリーチャーを殺せると考えていた。

 

 妖精の帰還能力を知らなかった。

 

 だが、その後に同じ失敗を繰り返さない可能性はある。

 

「シリウスと一緒に行く」

 

「承知いたしました」

 

「そして、触らずに位置を確認。箱ごと封印。僕へ連絡」

 

「学校にいるお前へ?」

 

「スネイプ先生とマクゴナガル先生には伝えます」

 

「ダンブルドアは?」

 

「発見後に」

 

「そこまで信用がないのか」

 

「妹が関わると、判断力が消えます」

 

 自分自身にも同じ危険がある。

 

 シリウス。

 

 両親。

 

 死者を呼ぶ石。

 

 ハリーも触れたいと思わないわけではない。

 

 だから、一人では行かない。

 

「分かった」

 

 シリウスは真剣に頷いた。

 

「俺も、絶対に触らない」

 

「約束?」

 

「約束する」

 

「クリーチャー、シリウスが触ろうとしたら止めて」

 

「いかなる手段を用いても?」

 

「必要なら気絶させて」

 

「承知いたしました」

 

「おい」

 

「命の方が大切です」

 

「主人を気絶させる屋敷しもべ妖精がいるか?」

 

「命令でございますので」

 

 クリーチャーは少し嬉しそうだった。

 

「次」

 

 ハリーは別の資料へ移る。

 

「レイブンクローの髪飾り」

 

「場所は?」

 

「ホグワーツ。必要の部屋」

 

「なら、お前が取れる」

 

「バジリスクの牙が届いたので、学校へ戻ったら破壊します」

 

「今持ってる牙で壊せば?」

 

「魔法省から借りた危険物を学校外へ持ち出したことが知られると面倒です」

 

「昨日使っただろ」

 

「ロケットの破壊は、ダンブルドア先生とアメリアさんへ事前に報告しています」

 

「いつの間に?」

 

「手紙で」

 

「俺は知らなかったぞ」

 

「シリウスが緊張すると思ったので」

 

「俺の家で行うのに?」

 

「結果的に成功しました」

 

「そういう問題じゃない」

 

 シリウスが不満そうにする。

 

 ハリーは話を進めた。

 

「ハッフルパフのカップ」

 

「グリンゴッツだな」

 

「レストレンジ家の金庫」

 

「ベラトリックスの?」

 

「はい」

 

 シリウスの顔が険しくなる。

 

「俺の従姉妹だ」

 

「知っています」

 

「金庫へ入るのは、簡単じゃないぞ」

 

「前世では違法な方法で入りました」

 

「何をした?」

 

「ベラトリックスへ変身したハーマイオニーと、グリンゴッツの小鬼を脅して」

 

「私はそんなことをしたの?」

 

 ハーマイオニーが宿題から顔を上げる。

 

「必要だった」

 

「他の方法はなかった?」

 

「時間がありませんでした」

 

「今回は合法的な方法を探しましょう」

 

「そのつもりです」

 

「変身は?」

 

「最終手段」

 

「脅迫は?」

 

「さらに最終手段」

 

「最終手段が二つあるわ」

 

 グリンゴッツの問題は後回し。

 

 シリウスがブラック家の当主として復帰したことで、純血家間の財産管理や相続関係を調べられる。

 

 ベラトリックスは未婚ではない。

 

 ロドルファス・レストレンジの妻。

 

 だが、ブラック家側の権利や、収監者の財産管理規定に隙がある可能性もある。

 

「俺が調べてみる」

 

 シリウスが言う。

 

「ブラック家の弁護士と、小鬼に話を聞く」

 

「無理に金庫へ入ろうとしないでください」

 

「分かってる」

 

「カップの名前も出さない」

 

「分かってる」

 

「ヴォルデモートの分霊箱とも言わない」

 

「分かってるって!」

 

「確認です」

 

「俺は子供じゃない」

 

「勢いで行動するところがあります」

 

「お前に言われたくない」

 

 その通りなので、ハリーは黙った。

 

「ナギニ」

 

 次。

 

「大蛇です」

 

「今どこにいる?」

 

「不明」

 

「未来では?」

 

「ヴォルデモートのそば」

 

「今はいない?」

 

「まだ分霊箱にしていない可能性もあります」

 

 ヴォルデモートがナギニを分霊箱にした時期は明確ではない。

 

 バーサ・ジョーキンズを殺した際だった可能性。

 

 あるいは、それ以前。

 

「ヴォルデモート本体が戻る場所は?」

 

「リドル家の屋敷」

 

「リトル・ハングルトン?」

 

「はい」

 

 老いた庭師、フランク・ブライス。

 

 未来では、ヴォルデモートの会話を聞き、殺された。

 

「クリーチャーに定期的に見張ってもらう」

 

「承知いたしました」

 

「危険を感じたら、すぐに戻る。接触しない」

 

「クリーチャーは、闇の帝王など」

 

「接触しない」

 

「……承知いたしました」

 

 クリーチャーにも、レギュラスの仇という感情がある。

 

 暴走する可能性は考えなくてはいけない。

 

「僕が学校にいる間、二人には指輪とリドル家の監視をお願いします」

 

「俺が働く年というのは、こういう意味か」

 

 シリウスが言う。

 

「はい」

 

「名付け親らしいことは?」

 

「十分です」

 

「一緒に箒で飛んだり」

 

「時間があれば」

 

「クイディッチを見たり」

 

「僕はチームに入っていません」

 

「なぜだ?」

 

「時間がないので」

 

「ジェームズの息子が?」

 

「父とは別人です」

 

「それは分かってるが、飛ぶのは好きだろ?」

 

「好きです」

 

「じゃあ一日くらい」

 

「分かりました」

 

 シリウスの顔が明るくなる。

 

「明日」

 

「早い」

 

「忘れないうちに」

 

「遊びの予定だけは早いですね」

 

「仕事ばかりのお前が悪い」

 

 分霊箱の話が一段落したところで、シリウスが尋ねた。

 

「今年の学校は、どうなる?」

 

「何がです?」

 

「去年は秘密の部屋。その前は賢者の石」

 

「今年は、本来ならあなたがアズカバンを脱獄します」

 

「俺が?」

 

「はい」

 

「なぜ?」

 

「ピーターが生きていると知ったから」

 

「今は捕まってる」

 

「だから、今年の大きな事件は一つ消えました」

 

「平和になる?」

 

「防衛術の教師がリーマス・ルーピンです」

 

 シリウスの表情が止まる。

 

「リーマス?」

 

「はい」

 

「ホグワーツに来るのか?」

 

「本来の未来では」

 

「今は?」

 

「ダンブルドア先生が雇うと思います」

 

「なぜ知ってる?」

 

「未来で教わりました」

 

「元気なのか?」

 

「生きています」

 

「それは分かってる。どこにいる?」

 

「正確には知りません」

 

 前世のハリーは、シリウスと再会するまで、ルーピンのその後を詳しく知らなかった。

 

 狼人間への差別。

 

 職に就けない。

 

 各地を転々。

 

 貧しい生活。

 

「連絡を取ってないんですか?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

 シリウスの顔が曇る。

 

「アズカバンから出て、最初に手紙を書いた」

 

「返事は?」

 

「来た」

 

「では?」

 

「まだ会ってない」

 

「どうして?」

 

「リーマスは、自分を責めている」

 

 シリウスを疑った。

 

 ポッター夫妻を裏切ったと思った。

 

 十二年間、無実を確かめなかった。

 

「俺も、あいつを疑ってた」

 

「スパイがいると知った時?」

 

「ああ」

 

 戦争中。

 

 仲間の中に裏切り者がいる。

 

 シリウスはリーマスを疑った。

 

 リーマスもシリウスを疑った。

 

 ピーターだけが、信頼されないと思われながら、最も信用されていた。

 

「会った方がいい」

 

 ハリーが言う。

 

「分かってる」

 

「今年の教師になるなら、その前に」

 

「お前からダンブルドアへ聞けるか?」

 

「雇う予定かどうかをですか?」

 

「ああ」

 

「聞きます」

 

 ルーピンは、前世で最も優秀な防衛術教師の一人だった。

 

 知識。

 

 実技。

 

 生徒への接し方。

 

 恐怖へ向き合う方法を教える。

 

 問題は狼人間であること。

 

 満月。

 

 毒狼薬。

 

 スネイプとの関係。

 

「続投させたい」

 

 ハリーが言う。

 

「一年だけじゃなく?」

 

「はい」

 

「防衛術教師は一年で辞めるんだろ?」

 

「呪いがあります」

 

 ヴォルデモートが教職を拒否された後、職へ呪いを掛けたと言われている。

 

 毎年、教師が交代する。

 

「呪いを解除できないのか?」

 

「ダンブルドア先生でもできていません」

 

「本当に優秀なのか、あの爺さん」

 

「魔法使いとしては」

 

「教育者としては?」

 

「問題があります」

 

「管理者としては?」

 

「今年、魔法省の査察を受けています」

 

「駄目じゃないか」

 

 シリウスが嬉しそうにダンブルドアを批判する。

 

「でも、ルーピン先生は続投させたい」

 

 ハリーは続けた。

 

「来年の本来の教師は、アラスター・ムーディに変身したバーティ・クラウチ・ジュニア」

 

「クラウチの息子?」

 

「ああ」

 

「アズカバンで死んだはずだ」

 

「母親と入れ替わって脱獄しています」

 

 シリウスが完全に黙った。

 

「何?」

 

「ポリジュース薬。母親が息子の姿でアズカバンへ残り、死亡。クラウチ・ジュニアは父親の家で服従の呪文を掛けられ、監禁されています」

 

「待て」

 

 シリウスが手を上げる。

 

「一つずつ話せ」

 

「全部話しました」

 

「情報量が多い!」

 

「以前、スネイプ先生も同じことを言っていました」

 

「魔法省の元トップが、息子を脱獄させた?」

 

「はい」

 

「ファッジは?」

 

「知りません」

 

「ダンブルドアは?」

 

「まだ話していません」

 

「何でだ!」

 

「シリウスの裁判と、日記と、ロケットがあったので」

 

「今すぐ話せ!」

 

「話します」

 

 ハリーは羊皮紙へ、バーティ・クラウチ・ジュニアの情報を書く。

 

 死喰い人。

 

 ロングボトム夫妻への拷問。

 

 アズカバン。

 

 母親との入れ替わり。

 

 クラウチ邸での監禁。

 

 ウィンキー。

 

 クィディッチ・ワールドカップ。

 

 ムーディへの変身。

 

 三大魔法学校対抗試合。

 

 ハリーをヴォルデモートのもとへ届ける計画。

 

「一人で全部やったのか?」

 

 シリウスが尋ねる。

 

「ほぼ」

 

「ダンブルドアのすぐ近くで?」

 

「一年間」

 

「生徒から信用されて?」

 

「はい」

 

「最後まで気づかれず?」

 

「僕を墓地へ送るまで」

 

 シリウスは羊皮紙を見る。

 

「敵ながら有能すぎないか?」

 

「そうなんです」

 

 狂信的。

 

 忍耐強い。

 

 演技力。

 

 計画遂行能力。

 

 ムーディの人格を一年間再現。

 

 教師としても、有能だった。

 

「こいつは危険だ」

 

「今年中に何とかします」

 

「魔法省へ言えばいいだろ」

 

「問題があります」

 

「またか」

 

「クラウチ・シニアは、魔法省の元法執行部長。息子の脱獄を隠しています」

 

「シリウスの冤罪が出た直後に?」

 

「はい」

 

「魔法省の信用が完全に終わるな」

 

「だから、内部で揉み消す可能性があります」

 

「アメリア・ボーンズなら?」

 

「信頼できます。ただ、正面から話しても証拠がありません」

 

 未来の記憶だけ。

 

 クラウチ邸の捜索には根拠が必要。

 

「家へ入って確認すれば?」

 

「妖精魔法なら可能です」

 

「なら」

 

「正面から捕まえることもできます」

 

「何が問題だ?」

 

「魔法省が証拠を隠すこと」

 

 クラウチ・ジュニアを見つけても、事実が公表されなければ意味がない。

 

 父親の権力。

 

 魔法省の面子。

 

 シリウスの冤罪に続く大失態。

 

「外から圧力を掛ける」

 

「どうやって?」

 

「新聞」

 

 ハリーは答えた。

 

「日刊予言者新聞。リータ・スキーター」

 

「最悪の記者じゃないか」

 

「だから使えます」

 

 事実より話題性。

 

 権力者の秘密。

 

 魔法省の不祥事。

 

 リータが飛びつかない理由がない。

 

「情報はすべて真実です」

 

「情報源を聞かれる」

 

「匿名の内部告発」

 

「信用されるか?」

 

「母親と入れ替わった日。アズカバンの面会記録。遺体の確認記録。クラウチ邸の使用人。具体的な情報を流す」

 

「ウィンキーか」

 

「名前は最初から出しません」

 

「なぜ?」

 

「クラウチ家に処罰される可能性がある」

 

 ウィンキーは主人へ忠実。

 

 クラウチ・ジュニアを管理している。

 

 だが、命令に従っているだけ。

 

「記事が出れば、魔法省は無視できない」

 

「シリウスの件で世間の目が厳しいからな」

 

「はい」

 

「俺がリータへ接触する?」

 

「ブラック家当主からでは、意図を疑われます」

 

「お前は?」

 

「有名すぎます」

 

「誰が流す?」

 

 二人の視線が、クリーチャーへ向く。

 

 クリーチャーが不快そうな顔をする。

 

「クリーチャーに、卑しい新聞記者のもとへ行けと?」

 

「姿を見せなくていい」

 

 ハリーが言う。

 

「資料だけ机に置く」

 

「クリーチャーは、ブラック家のしもべでございます」

 

「だから頼む」

 

 シリウスが言った。

 

「ヴォルデモートの復活を助ける男を止めるためだ」

 

 クリーチャーは少し考える。

 

「レギュラス様の無念を晴らすためであれば」

 

「ありがとう」

 

「ただし、下品な記事へクリーチャーの名を出すことは許しません」

 

「出さない」

 

「ブラック家の名も」

 

「最初は出さない」

 

「最初は?」

 

「必要になれば、シリウスが公に調査を求めます」

 

「俺が?」

 

「無実のまま投獄された人間として、再び魔法省の隠蔽を許さないと」

 

 シリウスの表情が変わる。

 

「なるほど」

 

「シリウスが言えば、世論は動きます」

 

「俺を使う気だな」

 

「今年はシリウスに働いてもらう年です」

 

「本当に遠慮がないな」

 

「家族なので」

 

 その言葉に、シリウスは一瞬黙った。

 

「そうか」

 

「はい」

 

「なら、使われてやる」

 

 今後の大まかな方針が決まる。

 

 指輪。

 

 シリウスとクリーチャーが調査。

 

 髪飾り。

 

 ハリーがホグワーツで破壊。

 

 リドル家。

 

 クリーチャーが定期監視。

 

 クラウチ・ジュニア。

 

 証拠を集め、匿名で新聞へ流す。

 

 ルーピン。

 

 シリウスが直接会い、ホグワーツ続投への意思を確認する。

 

「続投できると思うか?」

 

 シリウスが尋ねる。

 

「問題はスネイプ先生です」

 

「スニベラス?」

 

「その呼び方はやめてください」

 

「なぜだ?」

 

「大人でしょう」

 

「俺はあいつが嫌いだ」

 

「あちらも同じです」

 

「なら平等だ」

 

「前世では、スネイプ先生がルーピン先生が狼人間であることを生徒へ漏らしました」

 

「やっぱり最低じゃないか!」

 

「ただ、今考えると疑問があります」

 

「何が?」

 

「単なる私怨だけで、生徒と学校へ混乱を起こすことをするか」

 

「するだろ、あいつなら」

 

「シリウスの評価は信用できません」

 

「なぜ?」

 

「私怨があるので」

 

「向こうもだ」

 

「だから、双方の評価を信用しません」

 

 スネイプは執念深い。

 

 ジェームズたちへの恨み。

 

 ルーピンが満月に狼人間となり、スネイプを殺しかけた過去。

 

 シリウスが仕掛けた。

 

 ルーピン本人が望んだことではない。

 

 それでも恐怖と怒りは残る。

 

「でも、わざわざ正体を広めれば、優秀な教師を失う」

 

「自分が教師になれると思ったんじゃないか?」

 

「ダンブルドア先生は、スネイプ先生を防衛術へ就かせたがりません」

 

「何で?」

 

「闇の魔術へ戻る危険を考えていた」

 

「今は?」

 

「未来の記憶を話したので、関係は変わっています」

 

「なら、スネイプが口を滑らせなければ大丈夫か」

 

「毒狼薬も、必ず飲ませる」

 

「俺が確認する」

 

「シリウスとルーピン先生が一緒にいると、学生時代へ戻る可能性があります」

 

「戻らない」

 

「本当に?」

 

「たぶん」

 

「不安です」

 

 狼人間であることが知られず、満月の管理が徹底され、教師職の呪いを解除できれば、続投の可能性はある。

 

 問題は最後。

 

「防衛術の職に掛かった呪いを、どうする?」

 

 ハーマイオニーが尋ねた。

 

「今年中にヴォルデモートを弱らせれば、呪いも消える?」

 

「術者が死ねば消える可能性はあります」

 

「でも、まだ分霊箱が残ってる」

 

「本体だけ倒しても、完全には消えない」

 

「呪いだけ解除する方法は?」

 

「ダンブルドア先生とスネイプ先生に調べてもらう」

 

「信用しないと言いながら、頼るのね」

 

「魔法の研究は任せます。危険物を単独で触らせないだけです」

 

 役割分担。

 

 何でも一人でしない。

 

「それに」

 

 ハリーは言った。

 

「ルーピン先生が続投できなかった場合でも、来年のクラウチ・ジュニアは先に潰します」

 

「再来年は?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「ドローレス・アンブリッジ」

 

「誰?」

 

「魔法省の役人です」

 

「強いの?」

 

「別の意味で厄介」

 

 ガマガエルのような外見。

 

 甘い声。

 

 猫の皿。

 

 生徒へ自分の手で文字を刻ませる罰。

 

 教育令。

 

 ダンブルドア軍団への弾圧。

 

「犯罪者?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「未来では」

 

「なら、事前に捕まえる?」

 

「現時点では罪を犯していません」

 

「権力を持たせない方法は?」

 

「ファッジの立場を弱める」

 

「魔法省の不祥事を公表すれば?」

 

 ハーマイオニーが羊皮紙を見る。

 

 シリウス冤罪。

 

 ピーター逃亡。

 

 クラウチ・ジュニア脱獄。

 

 連続すれば、ファッジ政権への信頼は落ちる。

 

「結果的に、アンブリッジが学校へ来る未来も消えるかもしれない」

 

 ハリーが答える。

 

「その翌年は?」

 

 ロンが聞いた。

 

「死喰い人」

 

「誰?」

 

「スネイプ先生」

 

「先生じゃないか」

 

「当時は、ヴォルデモート側へ戻ったように見えます」

 

 実際にはダンブルドアの命令。

 

 二重スパイ。

 

「結局、まともなのはルーピン先生だけ?」

 

「ほぼ」

 

「ロックハートより?」

 

「比べる方が失礼です」

 

「クィレルより?」

 

「ヴォルデモートを頭に載せていません」

 

「すごく低い基準だな」

 

 防衛術教師の歴代人選を並べると、ダンブルドアへの疑問がさらに強くなる。

 

「やっぱり、教育者としてどうなんだ」

 

 ハリーが呟く。

 

「本人へ言うなよ」

 

 シリウスが言う。

 

「もう何度も言っています」

 

「言ったのか?」

 

「改善を求めました」

 

「強いな、お前」

 

「今年の日記で失敗しましたから」

 

「それは聞いた」

 

「誰から?」

 

「マクゴナガル」

 

「先生と連絡を?」

 

「お前がどれだけ危険なことをするか、説明された」

 

「余計なことを」

 

「お前を預かる名付け親として必要な情報だ」

 

「預けられていません」

 

「夏休み中は俺が保護者だ」

 

「ダーズリー家が」

 

「形式上はな」

 

 シリウスの顔が少し険しくなる。

 

「ハリー」

 

「はい」

 

「本当に、あの家へ戻る必要があるのか?」

 

「母の守りがあります」

 

「俺の家に同じ守りを移せない?」

 

「ダンブルドア先生が調べています」

 

「またあいつか」

 

「魔法に関しては優秀です」

 

「失敗しないか?」

 

「監視します」

 

「誰が?」

 

「スネイプ先生とマクゴナガル先生」

 

「完全に信用を失ってるじゃないか」

 

 ハリーは否定しなかった。

 

 話し合いが終わる頃には、外は暗くなっていた。

 

 クリーチャーが夕食を用意する。

 

 昨日より品数が多い。

 

 シリウスは、クリーチャーへ一つずつ料理の名前を尋ねた。

 

 クリーチャーも、嫌味を挟まず答える。

 

 まだ距離はある。

 

 だが、会話は成立している。

 

「明日は箒だ」

 

 シリウスが言う。

 

「覚えています」

 

「近くに、ブラック家が持ってる土地がある。マグル避けも掛かってる」

 

「危険な呪いは?」

 

「ない」

 

「確認しましたか?」

 

「クリーチャー」

 

「安全でございます」

 

「なら行きます」

 

「俺よりクリーチャーを信用してないか?」

 

「屋敷のことは」

 

「俺が当主だぞ」

 

「就任二日目でしょう」

 

「言い方」

 

 食後。

 

 ハリーは自室として用意された部屋へ戻る。

 

 壁には、ブラック家の古い星図。

 

 ベッド。

 

 机。

 

 窓の外には、ロンドンの夜。

 

 壊した分霊箱の一覧を開く。

 

 日記。

 

 破壊済み。

 

 ロケット。

 

 破壊済み。

 

 指輪。

 

 調査予定。

 

 髪飾り。

 

 ホグワーツ帰還後。

 

 カップ。

 

 グリンゴッツ。

 

 ナギニ。

 

 不明。

 

 ハリー自身。

 

 方法を研究中。

 

 前世より、はるかに早い。

 

 二年目の夏。

 

 すでに二つを破壊。

 

 シリウスは自由。

 

 ピーターは収監。

 

 クリーチャーは味方。

 

 ルーピンとも、もう一度関係を作れる。

 

 順調だった。

 

 順調すぎる。

 

 未来の知識は、すでに大きく外れている。

 

 ピーターがいない。

 

 ヴォルデモートは、前世と同じ方法では復活できない。

 

 クラウチ・ジュニアも、先に処理する予定。

 

 その結果。

 

 ヴォルデモートが、何を選ぶか分からない。

 

 クィレルのような、心の弱い者へ寄生する。

 

 アルバニアで別の協力者を探す。

 

 ルシウスたち元死喰い人へ接触する。

 

 あるいは。

 

 未来の知識にない方法を使う。

 

「それでも」

 

 ハリーは羊皮紙を畳む。

 

「来いよ、ヴォルデモート」

 

 前世では、多くを失った。

 

 今回は違う。

 

 一人ではない。

 

 シリウス。

 

 クリーチャー。

 

 ロン。

 

 ハーマイオニー。

 

 教師たち。

 

 魔法省の信頼できる者。

 

 情報を共有し、役割を分け、先回りする。

 

「その蛇ごと、また霧散させてやる」

 

 翌朝。

 

 窓を叩く音。

 

 ダンブルドアからの手紙だった。

 

『ハリーへ。

 

 リーマス・ルーピンへ、今年度の闇の魔術に対する防衛術教授職を正式に打診した。

 

 彼は、シリウスとの再会を条件の一つとして挙げておる。

 

 また、君が未来について何を知っているのか、本人へ説明してほしいとのことじゃ。

 

 なお、バーティ・クラウチ・ジュニアに関する君の報告について、至急話し合いが必要である。

 

 追伸。

 

 教育者としてのワシへの評価については、本人のいない場所でも手加減してくれると嬉しいの。

 

 アルバス・ダンブルドア』

 

 ハリーは最後の一文を読む。

 

「誰が伝えた?」

 

 シリウスしかいない。

 

 廊下へ出る。

 

「シリウス!」

 

「何だ?」

 

 下から声。

 

「ダンブルドア先生へ何を話しました?」

 

「事実だけだ!」

 

「教育者として三流以下と言ったことを?」

 

「俺は同意しただけだ!」

 

「本人へ言う必要はありません!」

 

「お前は直接言ってるだろ!」

 

「それとこれは別です!」

 

 グリモールド・プレイスに、二人の声が響く。

 

 廊下の肖像画が目を覚ます。

 

 ウォルブルガ・ブラックの怒鳴り声。

 

 クリーチャーの注意。

 

 ロンの笑い声。

 

 ハーマイオニーのため息。

 

 ブラック家の屋敷は、長い間忘れていた騒がしさを取り戻していた。

 

 二度目の三年目。

 

 本来なら、アズカバンの囚人を追う一年。

 

 だが、その囚人はすでに無罪となり、今はハリーの名付け親として朝食を食べている。

 

 未来は大きく変わった。

 

 次に何が起きるかは、もう分からない。

 

 それでも。

 

 変えたことを、後悔するつもりはなかった。

 

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