80歳のハリーポッターが11歳に戻った場合   作:金縛り

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3年目 名付け親の初仕事

 シリウスとクリーチャーがゴーント家の廃屋へ向かったのは、ヒポグリフの審査が終わった翌朝だった。

 

 ハリーは同行していない。

 

 学校がある。

 

 授業。

 

 課題。

 

 訓練。

 

 生徒としての生活。

 

 分霊箱を探すためだけに、自由に外へ出ることはできない。

 

 だから任せた。

 

 シリウス。

 

 クリーチャー。

 

 ブラック家当主と、屋敷しもべ妖精。

 

 古い純血家の魔法を知る者。

 

 人間の結界を越えられる者。

 

 適任だ。

 

 理屈では分かっている。

 

 それでも。

 

「地図を見すぎよ」

 

 図書室。

 

 ハーマイオニーが言った。

 

 ハリーの手元には足跡の地図。

 

 ホグワーツの外は表示されない。

 

 シリウスの位置も分からない。

 

「見ても何も出ないでしょう」

 

「分かってる」

 

「なら閉じて」

 

「何かあれば、クリーチャーが来る」

 

「それも分かってる」

 

「任せるって決めたのでしょう」

 

「ああ」

 

「だったら信じる」

 

 簡単に言う。

 

「ハーマイオニーは、タイムターナーをマクゴナガル先生から預かった時、先生を信じて使っているのか?」

 

「話を逸らさないで」

 

「信じてる?」

 

「……ある程度は」

 

「僕も、ある程度は信じてる」

 

「シリウスを?」

 

「クリーチャーを」

 

「本人が聞いたら傷つくわよ」

 

「だから言わない」

 

 シリウスは、指輪の誘惑に弱い可能性がある。

 

 死者。

 

 ジェームズ。

 

 レギュラス。

 

 失った家族。

 

 その一方。

 

 クリーチャーは、レギュラスの命令を果たすためなら、主人を気絶させてでも止める。

 

「クリーチャーの方が信用できるんだな」

 

 ロンが言った。

 

「任務に関しては」

 

「シリウス、名付け親なのに」

 

「だからこそ、感情が入る」

 

 その日の防衛術。

 

 最初の授業。

 

 リーマスは、実際に魔法生物を扱った。

 

 まね妖怪。

 

 ボガート。

 

 生徒の最も恐れる姿へ変わる。

 

 対処法。

 

 恐怖を笑いへ変える。

 

 未来と同じ授業。

 

 ただし。

 

「ハリー」

 

 リーマスが言う。

 

「君は最後にしよう」

 

「出さなくて構いません」

 

「なぜ?」

 

「僕の恐怖は、生徒向けではない可能性があります」

 

 前世では吸魂鬼。

 

 今回は何になる。

 

 死んだ仲間。

 

 ヴォルデモート。

 

 未来の失敗。

 

 あるいは、何も守れず一人だけ生き残る自分。

 

「自分でも分からない?」

 

「はい」

 

「なら、今日はやめておこう」

 

 リーマスは無理をさせない。

 

 優秀だった。

 

 ネビルの前。

 

 ボガートはスネイプの姿へ変わる。

 

「リディクラス!」

 

 祖母の服。

 

 教室中が笑う。

 

 未来と同じ。

 

 授業後。

 

 廊下の角に、本物のスネイプが立っていた。

 

 ネビルの顔から血の気が引く。

 

「ロングボトム」

 

「は、はい」

 

「楽しそうな授業だったようだな」

 

「す、すみません」

 

「謝る必要はありません」

 

 ハリーが間へ入る。

 

「恐怖へ対処する授業です」

 

「私を恐れていることが問題だ」

 

「先生の授業方法の結果でしょう」

 

 スネイプの目が細くなる。

 

「減点してほしいのか?」

 

「今は防衛術の授業時間です」

 

「廊下へ出た時点で終わっている」

 

「では、グリフィンドールから?」

 

「五点」

 

 ネビルが青ざめる。

 

「僕の発言なので、ネビルからは引かないでください」

 

「ならばポッターから五点だ」

 

「構いません」

 

「もう五点」

 

「なぜ?」

 

「態度だ」

 

 相変わらずだった。

 

「ところで」

 

 ハリーは声を抑える。

 

「今夜、毒狼薬をルーピン先生へ渡す予定は?」

 

「今日ではない」

 

「満月は?」

 

「六日後だ」

 

「前日までに必ず」

 

「お前に言われるまでもない」

 

「忘れないでください」

 

「忘れると思うか?」

 

「未来では、飲む側が忘れました」

 

「薬を届けても、飲まなければ意味がない」

 

「だから先生にも確認を」

 

「私は子守ではない」

 

「生徒数百人の安全です」

 

 スネイプは答えない。

 

「先生」

 

「分かっている」

 

「約束?」

 

「なぜ、私はお前へ約束を求められている」

 

「ダンブルドア先生が、約束しても破るからです」

 

「私を校長と一緒にするな」

 

「では、約束できますね」

 

 スネイプは深く息を吐いた。

 

「毎月、ルーピンが薬を飲んだことまで確認する」

 

「ありがとうございます」

 

「その代わり」

 

「何です?」

 

「ブラックを学校へ入れる時は、事前に私へ知らせろ」

 

「なぜ?」

 

「廊下で突然顔を見ると、呪文を撃ちたくなる」

 

「大人でしょう」

 

「貴様に言われたくない」

 

 授業。

 

 訓練。

 

 ハーマイオニーの時間割問題。

 

 シリウスからの連絡を待つ。

 

 やることは多い。

 

 昼食後。

 

 大広間を出た瞬間。

 

 破裂音。

 

 クリーチャーが現れた。

 

「ハリー・ポッター様」

 

 ハリーは立ち止まる。

 

「見つかった?」

 

「はい」

 

「シリウスは?」

 

「ご無事でございます」

 

 まず、それ。

 

 息を吐く。

 

「指輪へ触った?」

 

「触れておりません」

 

「箱は?」

 

「グリモールド・プレイスへ、箱ごと移送いたしました」

 

「開けた?」

 

「開けておりません」

 

「声は?」

 

 クリーチャーが少し黙る。

 

「聞こえました」

 

「誰の?」

 

「シリウス様には、ジェームズ・ポッター様のお声が」

 

 やはり。

 

「何と言ってた?」

 

「助けてくれ、と」

 

「シリウスは?」

 

「三分間、箱の前で動かれませんでした」

 

「三分?」

 

「二分だ!」

 

 背後から声。

 

 シリウス本人が、階段の陰から出てきた。

 

「なぜ学校に?」

 

「クリーチャーに連れてきてもらった」

 

「許可は?」

 

「ダンブルドアへ手紙を出した」

 

「返事は?」

 

「来る前には出た」

 

「それは許可ではありません」

 

「もう来た」

 

「そういうところです」

 

 ハリーはシリウスを観察する。

 

 顔色。

 

 目。

 

 手。

 

 呪いの兆候はない。

 

「本当に触ってない?」

 

「触ってない」

 

「開けようとした?」

 

「してない」

 

「声に返事は?」

 

「少し」

 

「何と?」

 

「ジェームズなのか、と」

 

「返事をしたんですか!」

 

「反射的にだ!」

 

「危険だと」

 

「分かってる!」

 

 シリウスの声が大きくなる。

 

 周囲の生徒たちが見る。

 

「場所を変えます」

 

 空き教室へ入る。

 

 ハリー。

 

 シリウス。

 

 クリーチャー。

 

 ロン。

 

 ハーマイオニー。

 

「何が起きたか、最初から」

 

 ハリーが言う。

 

 シリウスは椅子へ座った。

 

「ゴーント家の廃屋は、ひどい場所だった」

 

 森。

 

 朽ちた家。

 

 蛇の死骸。

 

 古い純血家の紋章。

 

 幾重もの呪い。

 

 マグル避け。

 

 侵入者を迷わせる魔法。

 

 血統を確認する結界。

 

「ブラック家の血で、一部は通れた」

 

「ゴーント家と親戚だから?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「遠いがな」

 

「クリーチャーは?」

 

「結界をほとんど無視した」

 

 やはり妖精魔法は強い。

 

「地下に、小さな箱があった」

 

 黒い箱。

 

 埃。

 

 封印。

 

 ヴォルデモートの魔力。

 

「触る前に、クリーチャーが止めた」

 

「シリウス様は、手袋をなされていれば問題ないとお考えでした」

 

「触ろうとしたんじゃないですか!」

 

「直接じゃない!」

 

「駄目です!」

 

「今は分かってる!」

 

「最初から言いました!」

 

「現物を見ると、考えが」

 

「それが危険なんです!」

 

 ハーマイオニーがハリーの袖を引く。

 

「落ち着いて」

 

「でも」

 

「触っていない。今は無事よ」

 

 事実。

 

 怒るだけでは意味がない。

 

「続けて」

 

 ハリーは言った。

 

「箱を浮かせた」

 

「クリーチャーが?」

 

「ああ。俺は周囲の呪いを解除した」

 

「その時に声が?」

 

「家を出る直前だ」

 

 箱の中から。

 

 ジェームズの声。

 

『シリウス』

 

『俺だ』

 

『ここから出してくれ』

 

『暗い』

 

『助けてくれ』

 

「本物だと思った?」

 

「一瞬は」

 

「一瞬?」

 

「長く聞けば、違うと分かった」

 

「何が?」

 

「ジェームズは、助けてくれとは言うかもしれない」

 

 シリウスは答える。

 

「でも、自分だけ助けろとは言わない」

 

 箱の中の声は。

 

 自分を出せ。

 

 指輪を嵌めろ。

 

 誰にも言うな。

 

 ハリーにも隠せ。

 

 兄弟だけの秘密にしよう。

 

「ジェームズは、お前に隠れて自分と会えとは言わない」

 

「だから、偽物だと」

 

「ああ」

 

「三分間止まった?」

 

「それでも、声が似てた」

 

 シリウスの声が少し震える。

 

「十三年、あいつの声を忘れないようにしてた」

 

 アズカバン。

 

 吸魂鬼。

 

 幸福な記憶を奪う。

 

 それでも、シリウスはジェームズの無実を知っているという事実へしがみついた。

 

「聞きたかった」

 

 正直な言葉。

 

「もう一度」

 

 ハリーは、怒りを引っ込めた。

 

「触らなかった」

 

「ああ」

 

「約束を守った」

 

「ああ」

 

「偉いです」

 

 シリウスが目を瞬く。

 

「今、褒めたか?」

 

「はい」

 

「もう一度」

 

「嫌です」

 

「クリーチャー、聞いたか?」

 

「記憶しております」

 

「記録に残せ」

 

「ブラック家の記録へ?」

 

「そこまでしなくていい!」

 

 少し、空気が軽くなる。

 

「箱はグリモールド・プレイスの最深部へ封印しております」

 

 クリーチャーが言う。

 

「シリウス様お一人では入れぬように設定いたしました」

 

「俺の家だぞ」

 

「ハリー・ポッター様の命令により、指輪に関してはクリーチャーが責任者でございます」

 

「まだ有効なのか?」

 

「当然でございます」

 

「よくやった」

 

 ハリーが言う。

 

「ありがとうございます」

 

「次は破壊です」

 

 ダンブルドア。

 

 スネイプ。

 

 マクゴナガル。

 

 ハリー。

 

 シリウス。

 

 クリーチャー。

 

 必要ならリーマス。

 

 全員で監視しながら、バジリスクの牙を使う。

 

「今夜は無理です」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「学校外へ行くには、正式な許可が必要でしょう」

 

「校長先生へ話します」

 

「本人を連れていくのか?」

 

 シリウスが嫌そうに言う。

 

「はい」

 

「指輪を見たら触るぞ」

 

「全員で止めます」

 

「世界最強の魔法使いを?」

 

「事前に杖を預かります」

 

「渡すか?」

 

「渡さなければ連れていきません」

 

「それで納得するのか、あの爺さん」

 

「日記の件があります」

 

 ダンブルドアの立場は弱い。

 

 校長室。

 

 事情を説明すると、ダンブルドアは長い沈黙の後、頷いた。

 

「指輪を見つけたのじゃな」

 

「はい」

 

「石も?」

 

「確認していません。箱を開けていないので」

 

「見れば分かるかもしれん」

 

「見ません」

 

「ハリー」

 

「先生は、未来で触ります」

 

「聞いた」

 

「結果、呪いを受ける」

 

「それも聞いた」

 

「だから、破壊するまで杖を預かります」

 

 ダンブルドアの眉が上がる。

 

「ワシの杖を?」

 

「はい」

 

「それは、随分と」

 

「嫌なら来なくて構いません」

 

「ハリー」

 

「分霊箱の破壊に立ち会う権利より、全員の安全が優先です」

 

 マクゴナガルが隣で咳払いをした。

 

「アルバス」

 

「ミネルバまで?」

 

「日記の件をお忘れですか?」

 

「忘れてはおらん」

 

「ならば、条件を受け入れてください」

 

 スネイプもいる。

 

「杖を預けろ」

 

「セブルス」

 

「妹の幻を見せられた時、お前が正気を保てる保証はない」

 

 ダンブルドアの青い目から、笑みが消える。

 

「君も、リリーを見せられるかもしれん」

 

「私は杖を預ける」

 

 スネイプは即答した。

 

「先生も?」

 

 ハリーが尋ねる。

 

「日記の時とは違う。今回は破壊役ではない」

 

「では、誰へ?」

 

「ミネルバ」

 

 マクゴナガルが二本預かる。

 

 ハリー自身の杖は必要。

 

 バジリスクの牙を操作する。

 

 クリーチャーが空間を固定する。

 

 シリウスも杖を預けるよう求められた。

 

「俺まで?」

 

「ジェームズの幻に攻撃しない保証がない」

 

 ハリーが言う。

 

「偽物なら攻撃した方がいいだろ」

 

「感情的な魔法で箱を壊し、呪いが漏れる可能性があります」

 

「分かったよ」

 

 シリウスの杖も、マクゴナガルが持つ。

 

 夜。

 

 正式な外出許可。

 

 グリモールド・プレイス。

 

 地下。

 

 ブラック家の最深部。

 

 石造りの小部屋。

 

 中央には、黒い封印箱。

 

 クリーチャーが周囲へ結界を張る。

 

「これです」

 

 冷たい魔力。

 

 日記。

 

 ロケット。

 

 同じヴォルデモートの魂。

 

 ただし、さらに古く、荒々しい。

 

「開けます」

 

 ハリーが言う。

 

「待ってくれんか」

 

 ダンブルドア。

 

「何です?」

 

「ワシも、心の準備を」

 

「必要ありません」

 

「ハリー」

 

「幻は偽物です。会話しない。見ない。触らない。壊す」

 

 ダンブルドアは苦く笑った。

 

「君は容赦がないの」

 

「先生が容赦すると、全員が危険になります」

 

「返す言葉がない」

 

 箱が開く。

 

 中。

 

 金の指輪。

 

 黒い石。

 

 三角形と円と線を組み合わせた印。

 

 死の秘宝。

 

 蘇りの石。

 

 ダンブルドアの呼吸が止まる。

 

 シリウスも。

 

 スネイプも。

 

 指輪が動く。

 

 石の表面へ、複数の顔。

 

 アリアナ・ダンブルドア。

 

 ジェームズ・ポッター。

 

 リリー・ポッター。

 

 三人へ、それぞれ違う幻。

 

『兄さん』

 

 少女の声。

 

 ダンブルドアの身体が震える。

 

『アルバス』

 

『どうして、私を見捨てたの?』

 

「見ないでください」

 

 ハリーが言う。

 

『あなたが、あの人と争ったから』

 

「違う」

 

 ダンブルドアが小さく答える。

 

「会話しない!」

 

 ハリーが強く言う。

 

 別の声。

 

『シリウス』

 

 ジェームズ。

 

『俺だ』

 

『やっと会えた』

 

 シリウスが拳を握る。

 

「偽物だ」

 

『ハリーを、俺へ返してくれ』

 

「何?」

 

『お前では父親の代わりになれない』

 

 シリウスの顔が歪む。

 

『お前が守人を変えたから、俺たちは死んだ』

 

「黙れ」

 

『ハリーまで危険へ巻き込んでいる』

 

「黙れ!」

 

「シリウス!」

 

 ハリーが呼ぶ。

 

「それは父じゃない!」

 

 さらに。

 

『セブルス』

 

 リリー。

 

 スネイプの顔から血の気が消える。

 

『どうして助けてくれなかったの?』

 

「……リリー」

 

「先生!」

 

『私の息子を、ずっと憎んでいたでしょう』

 

「違う」

 

『ジェームズに似ているから』

 

「違う!」

 

『本当は、私の息子が死ねばよいと思っていた』

 

 スネイプが一歩出る。

 

 マクゴナガルが腕を掴む。

 

「セブルス!」

 

「離せ!」

 

「偽物です!」

 

 ハリーは叫ぶ。

 

「全員、聞くな!」

 

 指輪の呪いは、それぞれの罪悪感を正確に抉る。

 

 日記よりも会話は単純。

 

 だが、強い。

 

 分霊箱。

 

 蘇りの石。

 

 二つの魔力が重なっている。

 

 ハリー自身の前にも、幻が現れた。

 

 両親。

 

 シリウス。

 

 リーマス。

 

 フレッド。

 

 戦争で死んだ者たち。

 

『ハリー』

 

『お前が未来を変えたから、もっと多く死ぬ』

 

『知識を使わなければ、私たちは予定通り死ねた』

 

『お前が救おうとするほど、別の誰かが犠牲になる』

 

 ハリーの手が止まる。

 

 恐れていること。

 

 未来を変えた結果。

 

 知らない死。

 

 前世より悪い結末。

 

『今なら戻せる』

 

『指輪を嵌めろ』

 

『私たちへ聞けば、正しい未来が分かる』

 

「嘘だ」

 

 口にする。

 

『本当に?』

 

「未来を知ることと、支配することは違う」

 

 組分け帽子に言われた言葉。

 

「間違えることもある」

 

『なら、なぜ決める?』

 

「決めないことも、選択だからだ」

 

 ハリーは牙を浮かせる。

 

「僕は、僕が正しいと思う方を選ぶ」

 

『失敗する』

 

「その時は直す」

 

『死者は戻らない』

 

「知ってる」

 

『もう一度、失うぞ』

 

「だからといって、何もしない理由にはならない」

 

 バジリスクの牙を構える。

 

「クリーチャー!」

 

「承知しております!」

 

 妖精魔法。

 

 箱。

 

 指輪。

 

 空間固定。

 

 逃げられない。

 

「全員、目を閉じて!」

 

 マクゴナガルが叫ぶ。

 

 ダンブルドア。

 

 シリウス。

 

 スネイプ。

 

 全員が目を閉じる。

 

 それでも声は聞こえる。

 

 ハリーは牙を振り下ろした。

 

 指輪を貫く。

 

 金属音。

 

 黒い石に亀裂。

 

 絶叫。

 

 複数の死者の声が重なる。

 

「もう一度!」

 

 二撃目。

 

 指輪が割れる。

 

 黒い煙。

 

 蛇のような顔。

 

 ヴォルデモート。

 

『愚か者ども』

 

『死を受け入れられぬからこそ、人は私へ従う』

 

「君が一番、死を恐れている」

 

 ハリーは答える。

 

 三撃目。

 

 石が砕けた。

 

 黒い煙が弾ける。

 

 クリーチャーの結界が押さえる。

 

 ダンブルドアが目を開く。

 

 幻のアリアナが消える。

 

 シリウスの前から、ジェームズが消える。

 

 スネイプの前から、リリーが消える。

 

 ただの壊れた指輪。

 

 分霊箱の魔力はない。

 

「終わりました」

 

 ハリーが言う。

 

 誰も、すぐには動かなかった。

 

 ダンブルドアは、砕けた石を見ている。

 

「先生」

 

「分かっておる」

 

「触らない」

 

「触らんよ」

 

「本当に?」

 

「……本当にじゃ」

 

 シリウスが壁へ背を預ける。

 

「気分が悪い」

 

「偽物です」

 

「分かってる」

 

「父は、あんなことを言いません」

 

「分かってる」

 

「シリウスが守人の変更を提案したことだけで、全部を責めたりは」

 

「分かってる!」

 

 ハリーは黙る。

 

「悪い」

 

 シリウスが息を吐く。

 

「分かってるんだ。でも、声が」

 

「似ていましたか?」

 

「ああ」

 

「僕も聞きました」

 

「何を?」

 

「未来を変えるほど、別の人間が死ぬと言われました」

 

 シリウスがハリーを見る。

 

「信じたか?」

 

「少しは怖いです」

 

「お前でも?」

 

「当然です」

 

 完全な自信などない。

 

 未来の知識があるだけ。

 

 正解を保証されているわけではない。

 

「でも、前世と同じ未来を繰り返す気はない」

 

「そうか」

 

「シリウスを十三年間放置する未来も」

 

「……ああ」

 

「だから、壊しました」

 

 スネイプは、何も言わず壁を見ていた。

 

「先生」

 

「何だ」

 

「大丈夫ですか?」

 

「問題ない」

 

「リリーの幻は」

 

「口にするな」

 

「分かりました」

 

 問題はある。

 

 だが、今は追及しない。

 

 ダンブルドアが、壊れた指輪へ近づく。

 

「ハリー」

 

「触らないで」

 

「分かっておる」

 

「では、なぜ?」

 

「蘇りの石としての力が、完全に消えたか確認したい」

 

「後で、スネイプ先生とマクゴナガル先生が調べます」

 

「ワシも」

 

「今は駄目です」

 

「なぜじゃ?」

 

「一番影響を受けていました」

 

 ダンブルドアは反論しようとする。

 

 全員の視線。

 

 シリウス。

 

 スネイプ。

 

 マクゴナガル。

 

 ハリー。

 

 クリーチャー。

 

 五対一。

 

「……分かった」

 

 素直だった。

 

「本当に反省していますね」

 

「少しは評価を上げてくれるかの?」

 

「今ので少し」

 

「少しだけ?」

 

「積み重ねが大切です」

 

 指輪。

 

 三つ目の分霊箱。

 

 破壊。

 

 未来では、ダンブルドアの命を奪う呪い。

 

 今回は誰も触れなかった。

 

 誰も死なない。

 

「シリウス」

 

 ハリーが言う。

 

「初仕事、成功です」

 

 シリウスが顔を上げる。

 

「初仕事?」

 

「名付け親として」

 

「ヒポグリフと指輪、二つもやったぞ」

 

「かなり役に立ちました」

 

「かなり?」

 

「とても」

 

「今、聞いたか?」

 

 シリウスがクリーチャーを見る。

 

「記憶しております」

 

「記録へ」

 

「残しません」

 

「なぜだ!」

 

「恥ずかしいので」

 

「褒めた本人が恥ずかしがるな」

 

 少しだけ笑いが戻る。

 

 翌朝。

 

 ハリーたちはホグワーツへ戻った。

 

 ダンブルドアは、指輪の破片をスネイプとマクゴナガルへ預けた。

 

 自分では触らない。

 

 約束を守った。

 

 ハリーは、破壊済みの一覧へ線を引く。

 

 日記。

 

 ロケット。

 

 指輪。

 

 三つ。

 

 残り。

 

 レイブンクローの髪飾り。

 

 ハッフルパフのカップ。

 

 ナギニ。

 

 ハリー自身。

 

 ヴォルデモート本体。

 

 まだ多い。

 

 だが。

 

 前世より、遥かに早い。

 

 帰還した日の昼。

 

 ハリーはシリウスから届いた手紙を開いた。

 

『ハリーへ。

 

 指輪を破壊した後、クリーチャーとリドル家の屋敷を見張る準備を始めた。

 

 俺は指輪へ触らなかった。

 

 もう一度書く。

 

 触らなかった。

 

 名付け親として、もっと評価してよい。

 

 それから、リーマスとは話した。

 

 昔と同じには戻らない。

 

 今の俺たちとして、もう一度友人になる。

 

 お前に言われたからではない。

 

 少しは言われたからだ。

 

 次の仕事があれば送れ。

 

 ただし、たまには遊びの手紙も書け。

 

 シリウス』

 

 ハリーは返事を書く。

 

『シリウスへ。

 

 指輪の件は、本当に助かりました。

 

 触らなかったことも、約束を守ったことも評価しています。

 

 次はリドル家の監視をお願いします。

 

 ただし、ヴォルデモートらしき存在を見つけても接触しないでください。

 

 遊びの手紙として、今年の防衛術の最初の授業について書きます。

 

 ネビルのボガートは、スネイプ先生でした。

 

 祖母の服を着せられていました。

 

 本人も廊下で聞いていました。

 

 ハリー』

 

 これなら、仕事だけではない。

 

 数日後に届いたシリウスの返事は、羊皮紙の半分が笑った跡で滲んでいた。

 

 今年は。

 

 シリウスに頑張ってもらう年。

 

 始まったばかりだというのに、すでに予想以上に働いている。

 

 ハリーは、生徒として髪飾りの破壊へ進む。

 

 シリウスとクリーチャーは、学校外の分霊箱と敵を追う。

 

 全員が役割を持つ。

 

 一人で背負わない。

 

 その形が。

 

 ようやく少しずつ、でき始めていた。

 

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