シリウスとクリーチャーがゴーント家の廃屋へ向かったのは、ヒポグリフの審査が終わった翌朝だった。
ハリーは同行していない。
学校がある。
授業。
課題。
訓練。
生徒としての生活。
分霊箱を探すためだけに、自由に外へ出ることはできない。
だから任せた。
シリウス。
クリーチャー。
ブラック家当主と、屋敷しもべ妖精。
古い純血家の魔法を知る者。
人間の結界を越えられる者。
適任だ。
理屈では分かっている。
それでも。
「地図を見すぎよ」
図書室。
ハーマイオニーが言った。
ハリーの手元には足跡の地図。
ホグワーツの外は表示されない。
シリウスの位置も分からない。
「見ても何も出ないでしょう」
「分かってる」
「なら閉じて」
「何かあれば、クリーチャーが来る」
「それも分かってる」
「任せるって決めたのでしょう」
「ああ」
「だったら信じる」
簡単に言う。
「ハーマイオニーは、タイムターナーをマクゴナガル先生から預かった時、先生を信じて使っているのか?」
「話を逸らさないで」
「信じてる?」
「……ある程度は」
「僕も、ある程度は信じてる」
「シリウスを?」
「クリーチャーを」
「本人が聞いたら傷つくわよ」
「だから言わない」
シリウスは、指輪の誘惑に弱い可能性がある。
死者。
ジェームズ。
レギュラス。
失った家族。
その一方。
クリーチャーは、レギュラスの命令を果たすためなら、主人を気絶させてでも止める。
「クリーチャーの方が信用できるんだな」
ロンが言った。
「任務に関しては」
「シリウス、名付け親なのに」
「だからこそ、感情が入る」
その日の防衛術。
最初の授業。
リーマスは、実際に魔法生物を扱った。
まね妖怪。
ボガート。
生徒の最も恐れる姿へ変わる。
対処法。
恐怖を笑いへ変える。
未来と同じ授業。
ただし。
「ハリー」
リーマスが言う。
「君は最後にしよう」
「出さなくて構いません」
「なぜ?」
「僕の恐怖は、生徒向けではない可能性があります」
前世では吸魂鬼。
今回は何になる。
死んだ仲間。
ヴォルデモート。
未来の失敗。
あるいは、何も守れず一人だけ生き残る自分。
「自分でも分からない?」
「はい」
「なら、今日はやめておこう」
リーマスは無理をさせない。
優秀だった。
ネビルの前。
ボガートはスネイプの姿へ変わる。
「リディクラス!」
祖母の服。
教室中が笑う。
未来と同じ。
授業後。
廊下の角に、本物のスネイプが立っていた。
ネビルの顔から血の気が引く。
「ロングボトム」
「は、はい」
「楽しそうな授業だったようだな」
「す、すみません」
「謝る必要はありません」
ハリーが間へ入る。
「恐怖へ対処する授業です」
「私を恐れていることが問題だ」
「先生の授業方法の結果でしょう」
スネイプの目が細くなる。
「減点してほしいのか?」
「今は防衛術の授業時間です」
「廊下へ出た時点で終わっている」
「では、グリフィンドールから?」
「五点」
ネビルが青ざめる。
「僕の発言なので、ネビルからは引かないでください」
「ならばポッターから五点だ」
「構いません」
「もう五点」
「なぜ?」
「態度だ」
相変わらずだった。
「ところで」
ハリーは声を抑える。
「今夜、毒狼薬をルーピン先生へ渡す予定は?」
「今日ではない」
「満月は?」
「六日後だ」
「前日までに必ず」
「お前に言われるまでもない」
「忘れないでください」
「忘れると思うか?」
「未来では、飲む側が忘れました」
「薬を届けても、飲まなければ意味がない」
「だから先生にも確認を」
「私は子守ではない」
「生徒数百人の安全です」
スネイプは答えない。
「先生」
「分かっている」
「約束?」
「なぜ、私はお前へ約束を求められている」
「ダンブルドア先生が、約束しても破るからです」
「私を校長と一緒にするな」
「では、約束できますね」
スネイプは深く息を吐いた。
「毎月、ルーピンが薬を飲んだことまで確認する」
「ありがとうございます」
「その代わり」
「何です?」
「ブラックを学校へ入れる時は、事前に私へ知らせろ」
「なぜ?」
「廊下で突然顔を見ると、呪文を撃ちたくなる」
「大人でしょう」
「貴様に言われたくない」
授業。
訓練。
ハーマイオニーの時間割問題。
シリウスからの連絡を待つ。
やることは多い。
昼食後。
大広間を出た瞬間。
破裂音。
クリーチャーが現れた。
「ハリー・ポッター様」
ハリーは立ち止まる。
「見つかった?」
「はい」
「シリウスは?」
「ご無事でございます」
まず、それ。
息を吐く。
「指輪へ触った?」
「触れておりません」
「箱は?」
「グリモールド・プレイスへ、箱ごと移送いたしました」
「開けた?」
「開けておりません」
「声は?」
クリーチャーが少し黙る。
「聞こえました」
「誰の?」
「シリウス様には、ジェームズ・ポッター様のお声が」
やはり。
「何と言ってた?」
「助けてくれ、と」
「シリウスは?」
「三分間、箱の前で動かれませんでした」
「三分?」
「二分だ!」
背後から声。
シリウス本人が、階段の陰から出てきた。
「なぜ学校に?」
「クリーチャーに連れてきてもらった」
「許可は?」
「ダンブルドアへ手紙を出した」
「返事は?」
「来る前には出た」
「それは許可ではありません」
「もう来た」
「そういうところです」
ハリーはシリウスを観察する。
顔色。
目。
手。
呪いの兆候はない。
「本当に触ってない?」
「触ってない」
「開けようとした?」
「してない」
「声に返事は?」
「少し」
「何と?」
「ジェームズなのか、と」
「返事をしたんですか!」
「反射的にだ!」
「危険だと」
「分かってる!」
シリウスの声が大きくなる。
周囲の生徒たちが見る。
「場所を変えます」
空き教室へ入る。
ハリー。
シリウス。
クリーチャー。
ロン。
ハーマイオニー。
「何が起きたか、最初から」
ハリーが言う。
シリウスは椅子へ座った。
「ゴーント家の廃屋は、ひどい場所だった」
森。
朽ちた家。
蛇の死骸。
古い純血家の紋章。
幾重もの呪い。
マグル避け。
侵入者を迷わせる魔法。
血統を確認する結界。
「ブラック家の血で、一部は通れた」
「ゴーント家と親戚だから?」
ハーマイオニーが尋ねる。
「遠いがな」
「クリーチャーは?」
「結界をほとんど無視した」
やはり妖精魔法は強い。
「地下に、小さな箱があった」
黒い箱。
埃。
封印。
ヴォルデモートの魔力。
「触る前に、クリーチャーが止めた」
「シリウス様は、手袋をなされていれば問題ないとお考えでした」
「触ろうとしたんじゃないですか!」
「直接じゃない!」
「駄目です!」
「今は分かってる!」
「最初から言いました!」
「現物を見ると、考えが」
「それが危険なんです!」
ハーマイオニーがハリーの袖を引く。
「落ち着いて」
「でも」
「触っていない。今は無事よ」
事実。
怒るだけでは意味がない。
「続けて」
ハリーは言った。
「箱を浮かせた」
「クリーチャーが?」
「ああ。俺は周囲の呪いを解除した」
「その時に声が?」
「家を出る直前だ」
箱の中から。
ジェームズの声。
『シリウス』
『俺だ』
『ここから出してくれ』
『暗い』
『助けてくれ』
「本物だと思った?」
「一瞬は」
「一瞬?」
「長く聞けば、違うと分かった」
「何が?」
「ジェームズは、助けてくれとは言うかもしれない」
シリウスは答える。
「でも、自分だけ助けろとは言わない」
箱の中の声は。
自分を出せ。
指輪を嵌めろ。
誰にも言うな。
ハリーにも隠せ。
兄弟だけの秘密にしよう。
「ジェームズは、お前に隠れて自分と会えとは言わない」
「だから、偽物だと」
「ああ」
「三分間止まった?」
「それでも、声が似てた」
シリウスの声が少し震える。
「十三年、あいつの声を忘れないようにしてた」
アズカバン。
吸魂鬼。
幸福な記憶を奪う。
それでも、シリウスはジェームズの無実を知っているという事実へしがみついた。
「聞きたかった」
正直な言葉。
「もう一度」
ハリーは、怒りを引っ込めた。
「触らなかった」
「ああ」
「約束を守った」
「ああ」
「偉いです」
シリウスが目を瞬く。
「今、褒めたか?」
「はい」
「もう一度」
「嫌です」
「クリーチャー、聞いたか?」
「記憶しております」
「記録に残せ」
「ブラック家の記録へ?」
「そこまでしなくていい!」
少し、空気が軽くなる。
「箱はグリモールド・プレイスの最深部へ封印しております」
クリーチャーが言う。
「シリウス様お一人では入れぬように設定いたしました」
「俺の家だぞ」
「ハリー・ポッター様の命令により、指輪に関してはクリーチャーが責任者でございます」
「まだ有効なのか?」
「当然でございます」
「よくやった」
ハリーが言う。
「ありがとうございます」
「次は破壊です」
ダンブルドア。
スネイプ。
マクゴナガル。
ハリー。
シリウス。
クリーチャー。
必要ならリーマス。
全員で監視しながら、バジリスクの牙を使う。
「今夜は無理です」
ハーマイオニーが言う。
「学校外へ行くには、正式な許可が必要でしょう」
「校長先生へ話します」
「本人を連れていくのか?」
シリウスが嫌そうに言う。
「はい」
「指輪を見たら触るぞ」
「全員で止めます」
「世界最強の魔法使いを?」
「事前に杖を預かります」
「渡すか?」
「渡さなければ連れていきません」
「それで納得するのか、あの爺さん」
「日記の件があります」
ダンブルドアの立場は弱い。
校長室。
事情を説明すると、ダンブルドアは長い沈黙の後、頷いた。
「指輪を見つけたのじゃな」
「はい」
「石も?」
「確認していません。箱を開けていないので」
「見れば分かるかもしれん」
「見ません」
「ハリー」
「先生は、未来で触ります」
「聞いた」
「結果、呪いを受ける」
「それも聞いた」
「だから、破壊するまで杖を預かります」
ダンブルドアの眉が上がる。
「ワシの杖を?」
「はい」
「それは、随分と」
「嫌なら来なくて構いません」
「ハリー」
「分霊箱の破壊に立ち会う権利より、全員の安全が優先です」
マクゴナガルが隣で咳払いをした。
「アルバス」
「ミネルバまで?」
「日記の件をお忘れですか?」
「忘れてはおらん」
「ならば、条件を受け入れてください」
スネイプもいる。
「杖を預けろ」
「セブルス」
「妹の幻を見せられた時、お前が正気を保てる保証はない」
ダンブルドアの青い目から、笑みが消える。
「君も、リリーを見せられるかもしれん」
「私は杖を預ける」
スネイプは即答した。
「先生も?」
ハリーが尋ねる。
「日記の時とは違う。今回は破壊役ではない」
「では、誰へ?」
「ミネルバ」
マクゴナガルが二本預かる。
ハリー自身の杖は必要。
バジリスクの牙を操作する。
クリーチャーが空間を固定する。
シリウスも杖を預けるよう求められた。
「俺まで?」
「ジェームズの幻に攻撃しない保証がない」
ハリーが言う。
「偽物なら攻撃した方がいいだろ」
「感情的な魔法で箱を壊し、呪いが漏れる可能性があります」
「分かったよ」
シリウスの杖も、マクゴナガルが持つ。
夜。
正式な外出許可。
グリモールド・プレイス。
地下。
ブラック家の最深部。
石造りの小部屋。
中央には、黒い封印箱。
クリーチャーが周囲へ結界を張る。
「これです」
冷たい魔力。
日記。
ロケット。
同じヴォルデモートの魂。
ただし、さらに古く、荒々しい。
「開けます」
ハリーが言う。
「待ってくれんか」
ダンブルドア。
「何です?」
「ワシも、心の準備を」
「必要ありません」
「ハリー」
「幻は偽物です。会話しない。見ない。触らない。壊す」
ダンブルドアは苦く笑った。
「君は容赦がないの」
「先生が容赦すると、全員が危険になります」
「返す言葉がない」
箱が開く。
中。
金の指輪。
黒い石。
三角形と円と線を組み合わせた印。
死の秘宝。
蘇りの石。
ダンブルドアの呼吸が止まる。
シリウスも。
スネイプも。
指輪が動く。
石の表面へ、複数の顔。
アリアナ・ダンブルドア。
ジェームズ・ポッター。
リリー・ポッター。
三人へ、それぞれ違う幻。
『兄さん』
少女の声。
ダンブルドアの身体が震える。
『アルバス』
『どうして、私を見捨てたの?』
「見ないでください」
ハリーが言う。
『あなたが、あの人と争ったから』
「違う」
ダンブルドアが小さく答える。
「会話しない!」
ハリーが強く言う。
別の声。
『シリウス』
ジェームズ。
『俺だ』
『やっと会えた』
シリウスが拳を握る。
「偽物だ」
『ハリーを、俺へ返してくれ』
「何?」
『お前では父親の代わりになれない』
シリウスの顔が歪む。
『お前が守人を変えたから、俺たちは死んだ』
「黙れ」
『ハリーまで危険へ巻き込んでいる』
「黙れ!」
「シリウス!」
ハリーが呼ぶ。
「それは父じゃない!」
さらに。
『セブルス』
リリー。
スネイプの顔から血の気が消える。
『どうして助けてくれなかったの?』
「……リリー」
「先生!」
『私の息子を、ずっと憎んでいたでしょう』
「違う」
『ジェームズに似ているから』
「違う!」
『本当は、私の息子が死ねばよいと思っていた』
スネイプが一歩出る。
マクゴナガルが腕を掴む。
「セブルス!」
「離せ!」
「偽物です!」
ハリーは叫ぶ。
「全員、聞くな!」
指輪の呪いは、それぞれの罪悪感を正確に抉る。
日記よりも会話は単純。
だが、強い。
分霊箱。
蘇りの石。
二つの魔力が重なっている。
ハリー自身の前にも、幻が現れた。
両親。
シリウス。
リーマス。
フレッド。
戦争で死んだ者たち。
『ハリー』
『お前が未来を変えたから、もっと多く死ぬ』
『知識を使わなければ、私たちは予定通り死ねた』
『お前が救おうとするほど、別の誰かが犠牲になる』
ハリーの手が止まる。
恐れていること。
未来を変えた結果。
知らない死。
前世より悪い結末。
『今なら戻せる』
『指輪を嵌めろ』
『私たちへ聞けば、正しい未来が分かる』
「嘘だ」
口にする。
『本当に?』
「未来を知ることと、支配することは違う」
組分け帽子に言われた言葉。
「間違えることもある」
『なら、なぜ決める?』
「決めないことも、選択だからだ」
ハリーは牙を浮かせる。
「僕は、僕が正しいと思う方を選ぶ」
『失敗する』
「その時は直す」
『死者は戻らない』
「知ってる」
『もう一度、失うぞ』
「だからといって、何もしない理由にはならない」
バジリスクの牙を構える。
「クリーチャー!」
「承知しております!」
妖精魔法。
箱。
指輪。
空間固定。
逃げられない。
「全員、目を閉じて!」
マクゴナガルが叫ぶ。
ダンブルドア。
シリウス。
スネイプ。
全員が目を閉じる。
それでも声は聞こえる。
ハリーは牙を振り下ろした。
指輪を貫く。
金属音。
黒い石に亀裂。
絶叫。
複数の死者の声が重なる。
「もう一度!」
二撃目。
指輪が割れる。
黒い煙。
蛇のような顔。
ヴォルデモート。
『愚か者ども』
『死を受け入れられぬからこそ、人は私へ従う』
「君が一番、死を恐れている」
ハリーは答える。
三撃目。
石が砕けた。
黒い煙が弾ける。
クリーチャーの結界が押さえる。
ダンブルドアが目を開く。
幻のアリアナが消える。
シリウスの前から、ジェームズが消える。
スネイプの前から、リリーが消える。
ただの壊れた指輪。
分霊箱の魔力はない。
「終わりました」
ハリーが言う。
誰も、すぐには動かなかった。
ダンブルドアは、砕けた石を見ている。
「先生」
「分かっておる」
「触らない」
「触らんよ」
「本当に?」
「……本当にじゃ」
シリウスが壁へ背を預ける。
「気分が悪い」
「偽物です」
「分かってる」
「父は、あんなことを言いません」
「分かってる」
「シリウスが守人の変更を提案したことだけで、全部を責めたりは」
「分かってる!」
ハリーは黙る。
「悪い」
シリウスが息を吐く。
「分かってるんだ。でも、声が」
「似ていましたか?」
「ああ」
「僕も聞きました」
「何を?」
「未来を変えるほど、別の人間が死ぬと言われました」
シリウスがハリーを見る。
「信じたか?」
「少しは怖いです」
「お前でも?」
「当然です」
完全な自信などない。
未来の知識があるだけ。
正解を保証されているわけではない。
「でも、前世と同じ未来を繰り返す気はない」
「そうか」
「シリウスを十三年間放置する未来も」
「……ああ」
「だから、壊しました」
スネイプは、何も言わず壁を見ていた。
「先生」
「何だ」
「大丈夫ですか?」
「問題ない」
「リリーの幻は」
「口にするな」
「分かりました」
問題はある。
だが、今は追及しない。
ダンブルドアが、壊れた指輪へ近づく。
「ハリー」
「触らないで」
「分かっておる」
「では、なぜ?」
「蘇りの石としての力が、完全に消えたか確認したい」
「後で、スネイプ先生とマクゴナガル先生が調べます」
「ワシも」
「今は駄目です」
「なぜじゃ?」
「一番影響を受けていました」
ダンブルドアは反論しようとする。
全員の視線。
シリウス。
スネイプ。
マクゴナガル。
ハリー。
クリーチャー。
五対一。
「……分かった」
素直だった。
「本当に反省していますね」
「少しは評価を上げてくれるかの?」
「今ので少し」
「少しだけ?」
「積み重ねが大切です」
指輪。
三つ目の分霊箱。
破壊。
未来では、ダンブルドアの命を奪う呪い。
今回は誰も触れなかった。
誰も死なない。
「シリウス」
ハリーが言う。
「初仕事、成功です」
シリウスが顔を上げる。
「初仕事?」
「名付け親として」
「ヒポグリフと指輪、二つもやったぞ」
「かなり役に立ちました」
「かなり?」
「とても」
「今、聞いたか?」
シリウスがクリーチャーを見る。
「記憶しております」
「記録へ」
「残しません」
「なぜだ!」
「恥ずかしいので」
「褒めた本人が恥ずかしがるな」
少しだけ笑いが戻る。
翌朝。
ハリーたちはホグワーツへ戻った。
ダンブルドアは、指輪の破片をスネイプとマクゴナガルへ預けた。
自分では触らない。
約束を守った。
ハリーは、破壊済みの一覧へ線を引く。
日記。
ロケット。
指輪。
三つ。
残り。
レイブンクローの髪飾り。
ハッフルパフのカップ。
ナギニ。
ハリー自身。
ヴォルデモート本体。
まだ多い。
だが。
前世より、遥かに早い。
帰還した日の昼。
ハリーはシリウスから届いた手紙を開いた。
『ハリーへ。
指輪を破壊した後、クリーチャーとリドル家の屋敷を見張る準備を始めた。
俺は指輪へ触らなかった。
もう一度書く。
触らなかった。
名付け親として、もっと評価してよい。
それから、リーマスとは話した。
昔と同じには戻らない。
今の俺たちとして、もう一度友人になる。
お前に言われたからではない。
少しは言われたからだ。
次の仕事があれば送れ。
ただし、たまには遊びの手紙も書け。
シリウス』
ハリーは返事を書く。
『シリウスへ。
指輪の件は、本当に助かりました。
触らなかったことも、約束を守ったことも評価しています。
次はリドル家の監視をお願いします。
ただし、ヴォルデモートらしき存在を見つけても接触しないでください。
遊びの手紙として、今年の防衛術の最初の授業について書きます。
ネビルのボガートは、スネイプ先生でした。
祖母の服を着せられていました。
本人も廊下で聞いていました。
ハリー』
これなら、仕事だけではない。
数日後に届いたシリウスの返事は、羊皮紙の半分が笑った跡で滲んでいた。
今年は。
シリウスに頑張ってもらう年。
始まったばかりだというのに、すでに予想以上に働いている。
ハリーは、生徒として髪飾りの破壊へ進む。
シリウスとクリーチャーは、学校外の分霊箱と敵を追う。
全員が役割を持つ。
一人で背負わない。
その形が。
ようやく少しずつ、でき始めていた。