80歳のハリーポッターが11歳に戻った場合   作:金縛り

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3年目 優秀な魔女の壊し方

 ハーマイオニー・グレンジャーは、三年生になってからさらに優秀になった。

 

 それは間違いない。

 

 変身術では、マクゴナガルが説明を終える前に課題を完成させる。

 

 魔法薬学では、スネイプが黒板へ書いた手順の矛盾を見つける。

 

 呪文学では、授業で扱っていない応用方法まで質問する。

 

 魔法史では、ビンズ教授の講義に一度も眠らず、ほぼすべてを羊皮紙へ書き写していた。

 

 占い学。

 

 古代ルーン文字学。

 

 数占い学。

 

 マグル学。

 

 魔法生物飼育学。

 

 選択できる授業は、すべて受講している。

 

 提出する課題にも、遅れはない。

 

 授業中の発言も、以前より増えた。

 

 教師から見れば、理想的な生徒だった。

 

 少なくとも。

 

 遠くから見ている限りでは。

 

「ハーマイオニー」

 

 朝食の時間。

 

 ハリーは、隣に座るハーマイオニーを見た。

 

「何?」

 

 返事は速い。

 

 だが、本人は皿を見ていない。

 

 左手にはパン。

 

 右手には古代ルーン文字の教科書。

 

 パンを口へ運ぼうとして、頬へ押しつけた。

 

「口は、もう少し下だ」

 

「分かってるわ」

 

「分かってないから、頬へ付いてる」

 

 ハーマイオニーはパンを見た。

 

 次に、自分の頬へ触れる。

 

 ようやく状況を理解したらしい。

 

「少し考え事をしていただけよ」

 

「昨日は、インク壺へ砂糖を入れた」

 

「似た容器だったの」

 

「一昨日は?」

 

「何かあった?」

 

「ロンの宿題を自分の鞄へ入れて、そのまま提出した」

 

「どうりで戻ってこないと思った」

 

 ロンが向かい側から口を挟む。

 

「マクゴナガル先生から、筆跡が急に悪化したって書かれて返されたぞ」

 

「失礼ね」

 

「僕の筆跡だよ!」

 

 ハーマイオニーは教科書を閉じた。

 

 目の下に、薄い隈がある。

 

「私は大丈夫よ」

 

「まだ何も聞いてない」

 

「どうせ、授業を減らせと言うのでしょう」

 

「分かってるなら話が早い」

 

「減らさない」

 

「では、睡眠時間は?」

 

「取ってる」

 

「何時間?」

 

「必要なだけ」

 

「具体的に」

 

「人によって必要な睡眠時間は違うわ」

 

「何時間?」

 

 ハーマイオニーが答えない。

 

 ロンがソーセージを切りながら言った。

 

「昨日、僕が寝た時にはまだ談話室にいた」

 

「ロンが寝るのは早いでしょう」

 

「十二時過ぎ」

 

「たまには遅くなることもあるわ」

 

「朝は?」

 

 ハリーが尋ねる。

 

「普通よ」

 

「五時に談話室へ来た時、もう勉強してた」

 

「あなたこそ、なぜ五時に起きてるの?」

 

「訓練」

 

「なら、私も勉強よ」

 

「いつ寝た?」

 

「寝たわ」

 

「何時から何時まで?」

 

「尋問はやめて」

 

 ハーマイオニーは本を持って立ち上がる。

 

「次の授業があるから」

 

「変身術は二十分後だ」

 

「先に行って準備するの」

 

「ハーマイオニー」

 

 ハリーが呼ぶ。

 

 彼女は振り返らなかった。

 

「本当に大丈夫だから」

 

 そう言って、大広間から出ていった。

 

 ロンが、残されたパンを見る。

 

「大丈夫に見えるか?」

 

「見えない」

 

「止められる?」

 

「止める」

 

「どうやって?」

 

「まず時間割を確認する」

 

「見せてくれないぞ」

 

「知ってる」

 

 時間割そのものは、すでに大体把握している。

 

 前世と同じ。

 

 複数の授業が重なっている。

 

 タイムターナーを使い、一時間戻る。

 

 別の教室へ行く。

 

 同じ時間を二度過ごす。

 

 その分だけ、一日が長くなる。

 

 ただし。

 

 身体が増えるわけではない。

 

 疲労は残る。

 

 課題も増える。

 

 十三歳の少女が、成人魔法使いでも危険な時間魔法を日常的に使い、通常の生徒より多くの授業を受け続けている。

 

 改めて考えると、正気ではない。

 

 許可したマクゴナガル。

 

 承認したダンブルドア。

 

 貸し出した魔法省。

 

 全員、どこかおかしい。

 

 優秀だからできる。

 

 本人が望んだから。

 

 学ぶ意欲を尊重した。

 

 理由としては分かる。

 

 だが。

 

 意欲のある子供が、自分を壊すまで勉強しようとした時。

 

 止めるのが教育者ではないのか。

 

「長年教師をしていると、感覚が狂うのか?」

 

 ハリーが呟く。

 

「誰の?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「教師全体」

 

「マクゴナガル先生へ直接言うなよ」

 

「言う」

 

「何でだよ」

 

「時間割を作った本人だから」

 

 変身術の授業後。

 

 ハリーは教室へ残った。

 

 ロンも残る。

 

 ハーマイオニーは、終了の鐘が鳴る前から荷物をまとめ、廊下へ出ようとしている。

 

「グレンジャー」

 

 マクゴナガルが呼び止めた。

 

 ハーマイオニーの身体が僅かに固まる。

 

「はい、先生」

 

「次は、古代ルーン文字学ですね」

 

「はい」

 

「教室は反対側です。急ぎなさい」

 

「失礼します」

 

 ハーマイオニーは出ていった。

 

 マクゴナガルは、ハリーを見る。

 

「何か?」

 

「ハーマイオニーの授業数について話があります」

 

「本人から相談を受けたのですか?」

 

「いいえ」

 

「では、本人の問題です」

 

「十三歳の生徒が睡眠を削って、時間魔法を使い続けていても?」

 

 マクゴナガルの表情が変わった。

 

 ロンが周囲を見る。

 

 教室に他の生徒はいない。

 

「ポッター」

 

 マクゴナガルの声が低くなる。

 

「何の話です?」

 

「タイムターナー」

 

「どこで知りました?」

 

「未来で」

 

「その言葉を、便利に使いすぎではありませんか?」

 

「事実です」

 

「グレンジャーには、秘密を厳守するよう伝えています」

 

「本人は話していません」

 

「ならば、あなたも口外してはいけません」

 

「口外ではなく、使用方法への異議です」

 

 マクゴナガルは杖を振った。

 

 教室の扉が閉まる。

 

 防音。

 

「ロンまで知っているのですか?」

 

「ハリーが列車で普通に言った」

 

「声は抑えたよ」

 

 ロンが付け加える。

 

 マクゴナガルは目を閉じた。

 

「他に誰が?」

 

「いません」

 

「本当に?」

 

「たぶん」

 

「たぶんでは困ります」

 

「では、ハーマイオニーへ確認してください」

 

 ハリーは話を戻す。

 

「一日に何時間、時間を戻す許可を出しました?」

 

「授業の重複を解消するために必要な範囲です」

 

「一日二時間?」

 

「日によります」

 

「週に何回?」

 

「ポッター」

 

「本人の一週間が、実際には何時間増えているんです?」

 

「適切に管理されています」

 

「誰が?」

 

「私です」

 

「毎日の睡眠時間を把握していますか?」

 

 マクゴナガルが黙る。

 

「食事量は?」

 

「それは」

 

「課題に掛かる時間は?」

 

「グレンジャーは、非常に優秀な生徒です」

 

「質問の答えになっていません」

 

 マクゴナガルの眉が上がる。

 

「あなたは最近、教師へ対する態度が」

 

「ハーマイオニーは、パンを口ではなく頬へ押しつけました」

 

「何です?」

 

「昨日は、インク壺へ砂糖を入れた。一昨日はロンの宿題を自分のものとして提出した」

 

「それは単なる不注意では」

 

「授業中、居眠りしています」

 

「グレンジャーが?」

 

「魔法史で三分。天文学で五分。今朝の薬草学では、立ったまま目を閉じていた」

 

 ロンが驚いてハリーを見る。

 

「気づいてたのか?」

 

「ああ」

 

「何で先に言わなかった」

 

「本人が認めるか見てた」

 

 認めなかった。

 

「未来では、最後に限界が来ます」

 

 ハリーはマクゴナガルを見る。

 

「占い学で教師と喧嘩し、授業を辞める。魔法生物飼育学の課題も重なる。タイムターナーを返す」

 

「結果として、大きな問題は起きなかったのでしょう」

 

「壊れる直前まで行ってから止めれば問題ないと?」

 

「そのような意味では」

 

「では、何時間眠れば中止する。何回食事を抜けば減らす。どの程度成績が下がれば見直す。基準を決めていますか?」

 

 マクゴナガルは答えない。

 

「本人が望んだから?」

 

「学習意欲を尊重しました」

 

「子供が望めば、何でも許可するんですか?」

 

「彼女は責任感があり、規則を守れる」

 

「責任感が強すぎるから、全部やろうとしている」

 

 優秀。

 

 真面目。

 

 教師の期待へ応えようとする。

 

 一度選んだ授業を、自分から諦められない。

 

「ハーマイオニー自身に判断させるだけでは駄目です」

 

 ハリーは続けた。

 

「本人は、できると言い続けます。倒れるまで」

 

「あなたにも言えることでは?」

 

 マクゴナガルが返す。

 

「はい」

 

 即答した。

 

 マクゴナガルが僅かに驚く。

 

「だから、最近はシリウスや教師へ仕事を任せています」

 

「十分とは思えません」

 

「改善中です」

 

「では、グレンジャーも改善する可能性があるでしょう」

 

「そのために、大人が止めてください」

 

 教室に沈黙。

 

 マクゴナガルは机の上へ指を置き、しばらく考えた。

 

「グレンジャー本人と話します」

 

「僕も同席します」

 

「必要ありません」

 

「未来の結果を説明できます」

 

「彼女が望むなら」

 

「それで構いません」

 

「ただし」

 

 マクゴナガルの声が厳しくなる。

 

「タイムターナーの存在を、これ以上他者へ話さないこと」

 

「分かりました」

 

「ロンも」

 

「誰に話すんです?」

 

「それを私へ聞かないでください」

 

「分かりました」

 

 教室を出る。

 

 ロンが小声で言った。

 

「よく先生相手に、あそこまで言えるな」

 

「正しいと思ったから」

 

「減点されるかと思った」

 

「僕も」

 

「思ってたのかよ」

 

「マクゴナガル先生は、スネイプ先生ほど私情で減点しない」

 

「基準が低い」

 

 その日の夜。

 

 グリフィンドール談話室。

 

 ハーマイオニーは、机の上へ五冊の本を積んでいた。

 

 古代ルーン文字。

 

 数占い学。

 

 変身術。

 

 魔法薬学。

 

 占い学。

 

 同時に開いている。

 

 羽根ペンが三本。

 

 一つは自分で持ち、二つは魔法で動かしている。

 

「ハーマイオニー」

 

「後にして」

 

「マクゴナガル先生が話したいって」

 

 羽根ペンが止まる。

 

「何を言ったの?」

 

「見たまま」

 

「タイムターナーのことも?」

 

「ああ」

 

 ハーマイオニーが立ち上がった。

 

「誰にも言わないと約束したでしょう!」

 

「僕は約束していない」

 

「知っていること自体を隠すべきよ!」

 

「倒れそうな本人を守るためでも?」

 

「倒れない!」

 

「今朝、パンを頬へ」

 

「それは一度だけ!」

 

「居眠りも?」

 

「少し目を閉じただけよ!」

 

「一日に何時間寝てる?」

 

「またそれ?」

 

「答えて」

 

「あなたに管理される理由はないわ!」

 

 談話室の生徒たちが振り返る。

 

 ハリーは杖を振り、周囲へ防音を掛けた。

 

「管理したいわけじゃない」

 

「同じよ!」

 

「君が自分で止まれないから」

 

「私は止まれる!」

 

「なら、何を基準に?」

 

 ハーマイオニーが口を閉じる。

 

「何が起きたら、授業を減らす?」

 

「成績が下がったら」

 

「下がってない?」

 

「全部、上位よ」

 

「睡眠は?」

 

「足りてる」

 

「何時間?」

 

「人によって」

 

「具体的に」

 

 答えない。

 

「食事を忘れたら?」

 

「忘れてない」

 

「今日の昼、食べてない」

 

「時間がなかったの」

 

「なぜ?」

 

「数占い学の課題が」

 

「それが問題だ」

 

「一度昼食を抜いただけでしょう!」

 

「明日は?」

 

「食べるわ!」

 

「課題が終わらなければ?」

 

「終わらせる!」

 

「睡眠を削って?」

 

「必要なら!」

 

 言った。

 

 本人も気づいたらしい。

 

 顔が固まる。

 

「ほら」

 

「少しくらいなら」

 

「少しが続いてる」

 

「私は、皆より多く学びたいの」

 

「悪いとは言ってない」

 

「なら止めないで!」

 

「壊れるまで学ぶ必要はない」

 

「壊れない!」

 

「未来では壊れた」

 

「未来の私を、今の私へ押しつけないで!」

 

 声が震えている。

 

 怒りだけではない。

 

 悔しさ。

 

 不安。

 

「私はできる」

 

 ハーマイオニーは言った。

 

「マクゴナガル先生も、できると思ったから許可した」

 

「大人が間違えることもある」

 

「あなたは、いつも自分の判断が正しいと思ってる!」

 

「思ってない」

 

「未来を知っているからって、何でも先回りして!」

 

「今回は、先回りした方がいい」

 

「私は助けを求めてない!」

 

「求められてからでは遅いこともある」

 

 ハリーの言葉に、ハーマイオニーの目から涙が落ちた。

 

 本人は慌てて拭う。

 

「泣いてない」

 

「泣いてる」

 

「疲れてるだけよ」

 

「それを言ってる」

 

「あなたのせいで!」

 

「それもある」

 

 今は追い詰めるべきではない。

 

 ハリーは椅子を引いた。

 

「座って」

 

「嫌」

 

「では、立ったままでいい」

 

「偉そうにしないで」

 

「気をつける」

 

 ロンが、少し離れた場所で困っている。

 

 ハリーは視線で呼ぶ。

 

 ロンは嫌そうな顔をしたが、近づいてきた。

 

「僕も」

 

 ロンが言う。

 

「授業を全部取る必要はないと思う」

 

「ロンは、勉強が嫌いだからでしょう」

 

「嫌いじゃない」

 

「好きでもないでしょう」

 

「普通だよ」

 

「あなたには分からない」

 

「分からないけど」

 

 ロンは机の上の本を見る。

 

「最近、一緒に話してない」

 

 ハーマイオニーが止まる。

 

「食事も、授業も、ずっと本を読んでる。何か聞いても、後にしてって」

 

「忙しいの」

 

「分かってる」

 

「なら」

 

「寂しい」

 

 ロンが言った。

 

 ハーマイオニーの目が大きくなる。

 

 ロン本人も、言ってから恥ずかしくなったらしい。

 

 耳が赤い。

 

「三人でいるのに、二人みたいなんだ」

 

「ロン」

 

「別に、勉強をやめろとは言ってない」

 

「でも」

 

「全部取らないと、ハーマイオニーじゃなくなるのか?」

 

 単純な問い。

 

 だが、正しい。

 

「一つ辞めたら、負けたことになる?」

 

「負けでは」

 

「誰に?」

 

 ハーマイオニーは答えない。

 

 自分。

 

 教師。

 

 純血の生徒。

 

 魔法界。

 

 マグル生まれでも、誰より優秀だと証明したい。

 

 知らないことがあるのが怖い。

 

 学べるものを捨てるのが惜しい。

 

 理由はいくつもある。

 

「全部できると証明しなくても、君が優秀なことは皆知ってる」

 

 ハリーが言う。

 

「僕は知らないことが多いわ」

 

「誰でもそうだ」

 

「あなたは未来の知識がある」

 

「それでも知らないことだらけだ」

 

「でも、戦える。何でも対処できる」

 

「できないから、人へ任せてる」

 

「それでも」

 

「君が必要になる未来も知ってる」

 

 ハーマイオニーがハリーを見る。

 

「未来の君は、僕が知る中でも最高の魔女の一人だった」

 

「最高?」

 

「ああ」

 

「どの分野で?」

 

「全部ではない」

 

「なら」

 

「全部を学んだからではない」

 

 判断力。

 

 調査。

 

 計画。

 

 法律。

 

 魔法。

 

 人を説得する力。

 

 諦めない意志。

 

「必要なことを深く学び、使ったからだ」

 

「未来の私は、どんな仕事を?」

 

 以前は話していない。

 

「魔法大臣になった」

 

 ロンが口を開ける。

 

「ハーマイオニーが?」

 

「失礼ね」

 

「いや、ありそうだけど」

 

 ハーマイオニーは呆然としている。

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「私が」

 

「ただし、今と同じ未来になるとは限らない」

 

「分かってる」

 

「それでも、才能は同じだ」

 

「なら、もっと学ばないと」

 

「逆だ」

 

「どうして?」

 

「魔法大臣に、占い学の茶葉を読む力が必要か?」

 

 ハーマイオニーが黙る。

 

「マグル学は?」

 

「君はマグル社会で育った」

 

「魔法界から見たマグル研究には意味があるわ」

 

「興味があるなら続ければいい。でも、全部取る理由にはならない」

 

「古代ルーン文字は必要」

 

「同意する」

 

「数占い学も」

 

「使える」

 

「魔法生物飼育学は?」

 

「知識として役立つ」

 

「占い学」

 

 ロンが言う。

 

「いらないんじゃないか?」

 

「あなたは水晶玉に何も見えなかったからでしょう」

 

「ハーマイオニーも見えてないだろ」

 

「理論を学ぶ価値は」

 

「ほとんどない」

 

 ハリーが言った。

 

 ハーマイオニーが睨む。

 

「未来の知識で?」

 

「トレローニー先生は、本物の予言者だ」

 

「では、価値があるでしょう」

 

「生涯で、本当の予言は少なくとも二回」

 

「二回?」

 

「あとは、本人にも制御できない」

 

「どういうこと?」

 

「本物の予言をする時、本人の意識がない。終わった後も覚えていない」

 

 ハーマイオニーの怒りが、好奇心へ変わる。

 

「なら、なぜ教師を?」

 

「ダンブルドア先生が保護するため」

 

「保護?」

 

「ヴォルデモートと僕に関する予言をしたから」

 

 ロンの顔から笑いが消える。

 

「どんな?」

 

「一方が生きる限り、他方は生きられない」

 

「それって」

 

「ヴォルデモートが僕を殺そうとした理由の一つだ」

 

 正確には、予言の一部を聞いたスネイプが伝えた。

 

 ヴォルデモートが選んだ。

 

 結果として、ハリーを対等な者へした。

 

「トレローニー先生は、予言をしたことを知らない」

 

 ハリーは続ける。

 

「ヴォルデモートに知られれば狙われる。だからダンブルドア先生は、ホグワーツで雇い続けている」

 

「授業の能力とは別?」

 

「ああ」

 

「では、占い学を学んでも、本物の予言はできない?」

 

「少なくとも、授業の成績とは関係が薄い」

 

 ハーマイオニーは、机の占い学教科書を見る。

 

「最初から知っていたの?」

 

「未来で知った」

 

「どうして先に言わなかったの?」

 

「自分で授業を見た方が納得すると思った」

 

「私が疲れるまで?」

 

「そこまで待つつもりはなかった」

 

「もう疲れてるわ」

 

「知ってる」

 

「本当に腹が立つ」

 

「悪かった」

 

 ハーマイオニーは椅子へ座った。

 

 手で顔を覆う。

 

「占い学を辞めたら、一時間減る」

 

「課題も」

 

「マグル学も」

 

「興味があるなら、教科書だけ読めばいい」

 

「試験は?」

 

「受ける必要はない」

 

「でも」

 

「誰も、全科目の資格を求めない」

 

「私は取りたかった」

 

「なぜ?」

 

「取れるから」

 

「取れることと、取るべきことは違う」

 

 また沈黙。

 

「一日」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「一日だけ考える」

 

「分かった」

 

「勝手にマクゴナガル先生へ、辞めるとは言わないで」

 

「言わない」

 

「タイムターナーも、まだ返さない」

 

「一日なら」

 

「それから」

 

「何?」

 

「未来の私が魔法大臣だった話を、もっと聞かせて」

 

「全部は話さない」

 

「なぜ?」

 

「未来を縛るから」

 

「またそれ?」

 

「必要な範囲なら」

 

 ハーマイオニーは不満そうだったが、頷いた。

 

 翌日。

 

 マクゴナガルの執務室。

 

 ハーマイオニー。

 

 ハリー。

 

 ロン。

 

 三人で座っている。

 

「結論は?」

 

 マクゴナガルが尋ねる。

 

 ハーマイオニーは膝の上で手を握る。

 

「占い学を辞めます」

 

「理由は?」

 

「学問としての再現性に疑問があります」

 

「教師との相性ではなく?」

 

「それもあります」

 

「他には?」

 

「マグル学も、正式受講を取りやめます」

 

 マクゴナガルの眉が動く。

 

「興味を失ったのですか?」

 

「いいえ。教科書は読みます。でも、私はマグル社会で育ちました。試験のために時間を使うより、魔法界固有の科目を優先します」

 

「古代ルーン文字と数占い学は?」

 

「続けます」

 

「魔法生物飼育学も?」

 

「はい」

 

「授業の重複は?」

 

「一日二時間ではなく、最大一時間になります」

 

 ハーマイオニーはタイムターナーを取り出す。

 

 金色の砂時計。

 

「使用回数を減らします」

 

 マクゴナガルは、しばらく彼女を見る。

 

「本当に、それで納得していますか?」

 

「完全には」

 

 正直な答え。

 

「全部受けたい気持ちはあります」

 

「ならば」

 

「でも、全部受けることが最善とは限らないと考えました」

 

 マクゴナガルの視線がハリーへ向く。

 

「ポッターに説得された?」

 

「一部は」

 

「ロンにも」

 

「僕も?」

 

 ロンが自分を指す。

 

「寂しいと言ったでしょう」

 

「ここで言うなよ!」

 

 耳が真っ赤になる。

 

「それから」

 

 ハーマイオニーは続ける。

 

「ハリーが、授業で扱わない実務的な魔法を教えると約束しました」

 

 マクゴナガルの顔が険しくなる。

 

「何を?」

 

 ハリーは少し視線を逸らした。

 

「閉心術。戦闘時の判断。防護。応急処置。調査方法」

 

「いつ約束したのです?」

 

「昨日」

 

「私は聞いていません」

 

「今、報告しています」

 

「生徒が生徒へ、高度な魔法を教えることを許可した覚えは」

 

「では、教師が教えますか?」

 

 マクゴナガルが黙る。

 

「通常授業では扱わない内容です」

 

「年齢に適していないからです」

 

「未来では必要になります」

 

「未来の危険を理由に、生徒へ負担を」

 

「授業を減らした時間の一部を使うだけです」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「週に二時間」

 

「二時間?」

 

「占い学とマグル学を辞めることで、それ以上の時間が空きます」

 

「課題も減ります」

 

 ハリーが続ける。

 

「睡眠は最低七時間。食事を抜かない。週に一日は追加訓練なし」

 

「条件まで?」

 

「僕から出しました」

 

「あなたが?」

 

「自分にも適用します」

 

 マクゴナガルの目が鋭くなる。

 

「本当に?」

 

「シリウスにも監視されています」

 

「ならば、こちらでも確認します」

 

「僕も?」

 

「当然です」

 

 話が増えた。

 

「訓練内容は、事前に私とルーピン教授へ提出してください」

 

「スネイプ先生にも」

 

「なぜ?」

 

「閉心術は先生の方が詳しい」

 

「あなたとセブルスの二人で教えるのですか?」

 

「必要なら」

 

「ハーマイオニーへ開心術を使わせる気?」

 

「基礎だけ」

 

「駄目です」

 

「では、スネイプ先生と相談します」

 

「私も同席します」

 

「分かりました」

 

 マクゴナガルは、ハーマイオニーへ向き直る。

 

「タイムターナーは、引き続きあなたが管理します。ただし、使用記録を毎日提出。睡眠時間と体調も記載すること」

 

「はい」

 

「一度でも規定を破れば、返却させます」

 

「分かりました」

 

「それから」

 

 マクゴナガルの声が僅かに柔らかくなる。

 

「無理をしていたことに、もっと早く気づくべきでした」

 

 ハーマイオニーが顔を上げる。

 

「先生」

 

「あなたならできると思った。それは、あなたへ責任を押しつける理由にはなりません」

 

 ハリーは黙って聞く。

 

 マクゴナガルは認めた。

 

 大人の判断ミス。

 

「申し訳ありませんでした」

 

 ハーマイオニーは驚いている。

 

「私は、自分で希望しました」

 

「許可を出したのは私です」

 

「でも」

 

「責任は分けられる」

 

 ハリーが口にした言葉。

 

 マクゴナガルも使った。

 

「今後は、私も確認します」

 

「はい」

 

 ハーマイオニーの目に、少し涙が浮かぶ。

 

 今度は疲労だけではない。

 

「ありがとうございます」

 

 話し合いは終わった。

 

 執務室を出る。

 

 廊下。

 

 ハーマイオニーが大きく息を吐いた。

 

「緊張した」

 

「授業を二つ辞めるだけで?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「私にとっては大きいの」

 

「後悔してる?」

 

「少し」

 

「戻る?」

 

「戻らない」

 

 ハーマイオニーは、鞄の中を確認する。

 

 占い学の教科書。

 

 少し考え、取り出した。

 

「トレローニー先生へ返してくる」

 

「今?」

 

「次の授業前に」

 

「喧嘩しないで」

 

 ハリーが言う。

 

「未来と違って、まだ怒っていないわ」

 

「睡眠不足で判断力が」

 

「もう授業を減らしたでしょう!」

 

「今日からです」

 

「本当に腹が立つ」

 

 だが。

 

 前日より、顔色はよい。

 

「ハリー」

 

「何?」

 

「約束は守って」

 

「実務訓練?」

 

「そう」

 

「君が寝不足なら中止する」

 

「分かってる」

 

「課題が終わっていなくても中止」

 

「それは」

 

「条件だ」

 

「……分かった」

 

「それから、訓練内容は僕が決める」

 

「質問は?」

 

「受ける」

 

「教科書は?」

 

「用意する」

 

「参考文献は?」

 

「スネイプ先生とルーピン先生へ聞く」

 

「試験は?」

 

「ない」

 

「評価は?」

 

「実戦で生き残れるか」

 

 ハーマイオニーの顔が少し引きつる。

 

「やっぱり、普通の授業より重くない?」

 

「時間は短い」

 

「内容の話よ」

 

「有用だ」

 

「本当に?」

 

「未来で必要だった」

 

 ハーマイオニーは長くハリーを見た。

 

 そして、頷く。

 

「分かった」

 

 優秀な魔女を壊すのは簡単だ。

 

 期待する。

 

 任せる。

 

 できるから、さらに与える。

 

 本人が断らないことを利用する。

 

 だが。

 

 育てるなら。

 

 減らすことも必要だった。

 

 休ませる。

 

 選ばせる。

 

 学ばないことを許す。

 

 その上で。

 

 本当に必要なものを教える。

 

 今年だけ。

 

 ハリーは、前世で知る最高の魔女を、もう一度育てる手伝いをする。

 

 彼女が自分を壊さない形で。

 

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