ハーマイオニーへ約束した実務訓練は、翌週から始まった。
場所は必要の部屋。
参加者は、ハーマイオニーとロン。
「僕も?」
最初に聞かされた時、ロンは自分を指差した。
「ハーマイオニーだけに教えると、君が拗ねる」
「拗ねない」
「本当に?」
「少しは」
「だから参加」
「でも僕、授業を減らしてないぞ」
「週に一回だけでいい」
「ハーマイオニーは?」
「二回」
「差別だ」
「本人の希望」
「なら仕方ない」
初回。
必要の部屋は、闇払い局の訓練室に近い形となった。
広い石床。
動く標的。
遮蔽物。
模擬用の扉。
応急処置の道具。
壁際には、複数の人形。
ローブを着せられ、杖を持っている。
「思ったより本格的ね」
ハーマイオニーが周囲を見る。
「実務教育だから」
「最初は何を?」
「逃げる判断」
「戦闘ではなく?」
「戦わない方がいい状況を見極める」
ロンが安心した顔をする。
「それなら簡単そうだな」
「本当に?」
「危なくなったら逃げる」
「では」
ハリーは杖を振った。
部屋の中央へ、三つの扉が現れる。
「一つは安全な出口。一つは敵の増援がいる。一つは罠」
「どう見分ける?」
「調べる」
「魔法で?」
「時間は十秒」
「短い!」
「実戦では、もっと短いこともある」
十秒後。
ロンは最も近い扉を選んだ。
開けた瞬間、赤い塗料を浴びた。
「何だこれ!」
「死亡」
「塗料だろ!」
「模擬訓練なので」
ハーマイオニーは、三つの扉へ順番に探知呪文を使った。
時間切れ。
床から縄が伸び、足を拘束する。
「全部調べようとしない」
「でも、正確な判断には」
「時間内に得られる情報だけで決める」
「間違えたら?」
「間違える」
「それでは」
「完璧な情報が揃うまで待てる状況ばかりではない」
ハーマイオニーが不満そうにする。
未来でも同じだった。
すべてを調べる。
正しい答えを出す。
それ自体は強み。
だが、即断が必要な場面では弱点になる。
「ロン」
「何だ?」
「君は判断が速い」
「褒められた?」
「ただし根拠がない」
「駄目じゃないか」
「ハーマイオニー」
「何?」
「君は根拠を集めすぎる」
「悪いこと?」
「時間を使いすぎる」
「では、どうすれば?」
「二人で組む」
ロンが周囲を見る。
「僕と?」
「君が選択肢を絞る。ハーマイオニーが確認する」
「適当な僕と、細かいハーマイオニー?」
「言い方は悪いが、そう」
「適当って言わないで」
「僕が言ったんじゃない」
二回目。
ロンが、扉の蝶番と床の痕跡を見る。
「真ん中は、最近開いてない」
「なぜ?」
「埃がある」
ハーマイオニーが探知呪文を一つだけ使う。
「右は、向こう側に複数の魔力反応」
「なら左」
扉を開ける。
安全。
「成功」
「本当に?」
ロンが驚く。
「二人なら」
ハーマイオニーは少し考える。
「一人で全部できる必要はない」
「そういうこと」
「でも、ハリーは一人で」
「僕も、最近は任せてる」
「シリウスに?」
「ああ」
「指輪を回収した」
「成功してたな」
ロンが言う。
「かなり危なかったけど」
「触らなかったから成功だ」
実務訓練。
応急処置。
負傷者の優先順位。
敵へ勝つことより、味方を逃がす方法。
閉心術の基礎。
精神へ触れられた時、自分の記憶を整理する。
防護呪文。
一枚の強い盾ではなく、角度をつけて受け流す。
ハーマイオニーは、教えたことをすぐ覚えた。
質問も多い。
参考文献を求める。
訓練後には、自分で改善案をまとめてくる。
時間は減った。
だが。
学ぶ内容が減ったわけではない。
むしろ、本人の興味は強くなった。
ロンも意外に適性があった。
理論は雑。
呪文の説明も曖昧。
しかし。
盤面を見る。
相手の動きを予測する。
自分を犠牲にする判断が早すぎる点は、修正が必要。
「チェスと同じだな」
ロンが言う。
「相手の次を読む」
「ただし、自分を駒として捨てない」
ハリーが言う。
「必要なら」
「必要ではない方法を先に探す」
「でも、誰かが残らないといけない時は?」
「その時に考える」
「未来の僕は?」
「話さない」
「死ぬ?」
「今は話さない」
「皆に同じことを言ってるな」
「必要だから」
訓練は順調だった。
ハーマイオニーの顔色も戻った。
睡眠は七時間以上。
食事も取る。
タイムターナーの使用は、一日一回以下。
マクゴナガルへの記録。
週に一日は追加学習をしない。
最初の休日。
ハーマイオニーは、何をすればよいか分からず、談話室で三時間本棚を整理した。
「休んでない」
ハリーが言う。
「勉強ではないわ」
「作業してる」
「何もしないのは落ち着かないの」
「では、チェス」
「ロンに負ける」
「負けてもいい」
「嫌よ」
「だから休めないんだ」
結局、三人で散歩をした。
湖。
校庭。
危険のない範囲。
ハーマイオニーは最初、本を持ってきた。
ハリーが預かった。
帰る頃には、本人も少し笑っていた。
その一方。
ハリーには、別の仕事が残っていた。
レイブンクローの失われた髪飾り。
ヴォルデモートの分霊箱。
場所は、必要の部屋。
前世では、ドラコが物を隠すために使った部屋。
何世代もの生徒が、不要な物を積み上げた空間。
壊れた家具。
禁じられた本。
呪われた道具。
盗品。
忘れられた物。
その中に、髪飾りはある。
前世では。
ハリーは、六年目に一度見ていた。
古い胸像の頭。
色褪せた鬘。
その上に置かれた髪飾り。
当時は分霊箱だと気づかなかった。
今回は、場所を知っている。
問題は。
必要の部屋そのものだった。
ハリーたちは、訓練に使っている。
別の用途を求めれば、同じ時に同じ部屋へは入れない。
分霊箱を探す間、訓練室は消える。
そして。
髪飾りを破壊するなら、教師たちを呼ぶ必要がある。
ダンブルドア。
スネイプ。
マクゴナガル。
前回の約束。
分霊箱へは一人で近づかない。
放課後。
校長室。
三人の教師が揃っていた。
「レイブンクローの髪飾りを破壊します」
ハリーが言った。
「場所は?」
マクゴナガルが尋ねる。
「必要の部屋」
「君が訓練に使用している場所かの?」
ダンブルドアが言う。
「同じ部屋ですが、別の形です」
「必要の部屋に、物を保管する空間がある?」
「何百年分もの隠し物があります」
スネイプの表情が険しくなる。
「危険物の集積所か」
「はい」
「なぜ学校側が把握していない」
「必要の部屋だからでしょう」
「答えになっていない」
「望んだ者にしか現れません」
「校長にも?」
ダンブルドアが尋ねる。
「先生は、トイレを探している時に入ったことがあると言っていました」
「ワシが?」
「未来で」
「随分と締まらない使い方じゃの」
「必要な部屋だったのでしょう」
「その話は後だ」
スネイプが遮る。
「髪飾りには、日記や指輪と同程度の抵抗が予想されるか?」
「自律性は日記より低いと思います」
「根拠は?」
「前世では、最後まで姿を現しませんでした」
「なら、牙で刺せば終わり?」
マクゴナガルが言う。
「可能性は高いです」
「悪霊の炎は使わないのですね?」
「使いません」
「絶対に?」
「バジリスクの牙があります」
「答えになっていません」
「使いません」
「約束?」
「約束します」
マクゴナガルは頷いた。
「ハーマイオニーとロンは?」
「連れていきません」
「なぜ?」
「危険だから」
ダンブルドアの目が僅かに笑う。
「自分は行くのに?」
「場所を知っているのが僕だけです」
「案内後、外へ出る選択もある」
「破壊を確認します」
「ハリー」
「一人ではありません」
以前なら。
一人で入った。
先に破壊し、後から報告した。
今回は教師を呼んだ。
改善している。
「牙は?」
スネイプが尋ねる。
「危険物保管庫」
「私が持つ」
「僕が操作します」
「直接持たせるとは言っていない。箱を私が運ぶ」
「分かりました」
「校長は?」
マクゴナガルが見る。
「今回は杖を預ける必要はないと思うがの」
「髪飾りが誰の幻を見せるか分かりません」
ハリーが言う。
「レイブンクローに関係する物。知識。失った機会。過去の選択」
「ワシが誘惑されると?」
「日記と指輪で実績があります」
「耳が痛い」
「杖は預けてください」
「また?」
「嫌なら外で待ってください」
ダンブルドアは、スネイプとマクゴナガルを見る。
二人とも助けない。
「分かった」
ニワトコの杖は、マクゴナガルが預かる。
スネイプは自分の杖を持つ。
髪飾りの呪いを解析する役。
ハリーも杖を持つ。
場所を開き、牙を操作する。
夜。
七階。
人のいない廊下。
壁の前を三度歩く。
何世代もの生徒が、隠したい物を置いた部屋。
レイブンクローの失われた髪飾りがある場所。
扉が現れた。
「この中か」
スネイプが言う。
「はい」
「気配は?」
「部屋全体に魔力が多すぎて、分霊箱だけを探せません」
扉を開ける。
巨大な空間。
山。
物の山。
天井まで積み上がっている。
壊れた椅子。
箒。
机。
本。
薬品。
像。
古いローブ。
武器。
誰かが隠した巨大な蜘蛛の標本。
「学校の中に」
マクゴナガルの声が低くなる。
「これほどの物が?」
「長年分です」
「危険物の確認が必要ですね」
「全部?」
ダンブルドアが辺りを見る。
「数年掛かりそうじゃの」
「校長の仕事です」
ハリーが言う。
「君も原因を知りながら報告しなかったのでは?」
「今年、報告しました」
「今夜まで黙っておった」
「髪飾りを破壊する時に話す予定でした」
「似てきたな」
スネイプが呟く。
「誰に?」
「校長にだ」
「取り消してください」
場所を思い出す。
前世。
ドラコが消失棚を修理した場所。
その周辺。
胸像。
鬘。
「こちらです」
物の山の間を進む。
埃。
狭い道。
足元に、壊れた瓶。
中から紫色の煙。
スネイプが即座に封じる。
「触るな」
「触っていません」
「近づくな」
「道にあります」
「迂回しろ」
「先生、過保護になりました?」
「危険物の山で生徒を先頭へ歩かせている状況を理解しているだけだ」
「では先生が前へ」
「場所が分からん」
「だから僕が」
「二歩下がれ。指示だけ出せ」
スネイプが先頭へ出る。
ハリーが後ろから案内する。
ダンブルドア。
マクゴナガル。
四人。
途中。
古い鏡。
表面に、若いマクゴナガルの姿。
「見ないでください」
ハリーが言う。
「分かっています」
「何が見えました?」
「言いません」
「危険な物なら」
「昔の自分です」
「それだけ?」
「ポッター」
「分かりました」
さらに進む。
壊れた棚。
黒い箱。
血の付いたチェス盤。
呪われた可能性のある品々。
「本当に、全部調べる必要がありますね」
マクゴナガルが言う。
「魔法省へ協力を」
ハリーが提案する。
「学校内へ、これ以上介入させたくは」
ダンブルドアが言い掛ける。
三人の視線。
「……専門家の協力も検討しよう」
「改善していますね」
「少しは評価を?」
「少し」
目的の場所。
古い戸棚。
その上に胸像。
色褪せた鬘。
灰色の、くすんだ髪飾り。
鷲の形。
青い石。
失われたレイブンクローの髪飾り。
「これです」
ハリーの額の傷が疼く。
冷たい。
ロケットや指輪ほど、外へ向かう魔力は強くない。
長く眠っていた。
「触らないで」
マクゴナガルが言う。
「分かっています」
「確認です」
スネイプが探知呪文を使う。
髪飾りの周囲へ、薄い黒い膜。
「魂の欠片がある」
「分霊箱で間違いない?」
「ああ」
「防護は?」
「単純ではない」
スネイプの杖先から、銀色の糸。
髪飾りの周囲をなぞる。
「触れた者の精神へ働く」
「どんな?」
「知識への渇望」
レイブンクロー。
知恵。
学問。
「知りたいことを教えると?」
「その代わりに、何かを奪う」
「記憶?」
「可能性が高い」
ダンブルドアが髪飾りを見る。
「失われた知識が、ここにあるかもしれんの」
「先生」
「触らんよ」
「考えないでください」
「考えることまでは止められん」
「その考えを利用されます」
髪飾りが微かに光った。
声はない。
だが。
頭の中へ、言葉ではない感覚が入る。
知りたい。
分霊箱を安全に除去する方法。
ハリーの魂から、ヴォルデモートの欠片だけを切り離す方法。
死の呪文を使わない方法。
髪飾りは知っている。
レイブンクローの知恵。
千年の記憶。
一度だけ、身につければ。
「ハリー?」
マクゴナガルの声。
ハリーは、自分が一歩前へ出ていることに気づいた。
止まる。
「何が?」
スネイプが尋ねる。
「僕の中の魂を、安全に取る方法」
「見えたのか?」
「知っているように感じた」
「嘘だ」
スネイプが断言する。
「なぜ?」
「レイブンクローの髪飾りであっても、千年前の魔法道具だ。お前に付着した魂の状態を、調べずに知るはずがない」
「推測なら」
「分霊箱が、お前の望みを読んでいるだけだ」
正しい。
「下がれ」
ハリーは二歩下がる。
今度は。
スネイプの身体が僅かに動いた。
「先生?」
「問題ない」
「何を見ました?」
「何も」
「嘘ですね」
「黙れ」
リリーを生き返らせる方法か。
過去を変える知識か。
闇の魔術を完全に制御する方法か。
マクゴナガルも、髪飾りから視線を外す。
ダンブルドアは、目を閉じた。
「会話はしていない」
「誰も聞いていません」
ハリーが言う。
「先に報告した方がよいかと思っての」
「何を見せられました?」
「グリンデルバルドを止める、別の方法」
過去。
妹が死なない未来。
友が敵にならない道。
「偽物です」
「分かっておる」
「では、破壊します」
「待たんか」
ダンブルドアが言った。
全員が見る。
「なぜ?」
「髪飾りそのものは、歴史的価値がある」
「指輪でも同じことを言いませんでした?」
「言っておらん」
「言いそうでした」
「器を完全に壊さず、魂だけを」
「日記の再現になります」
ハリーの声が低くなる。
「先生」
「可能性を述べただけじゃ」
「破壊します」
「……分かった」
スネイプが封印を掛ける。
髪飾りの周囲へ透明な箱。
逃げ道を消す。
マクゴナガルが、周囲の物を退かせる。
燃焼。
爆発。
呪い。
何が起きても、他の危険物へ影響しないように。
「牙を」
スネイプが箱を開く。
バジリスクの牙。
長い。
黄ばんだ白。
先端には、今も毒が残る。
ハリーは妖精魔法で浮かせる。
「直接持たない」
「分かっています」
「手元へ近づけない」
「先生」
「確認だ」
「マクゴナガル先生に似てきましたね」
「減点するぞ」
「今は授業外です」
「いつでもできる」
髪飾りが光る。
今度は、声。
『ハリー』
女の声。
落ち着いている。
『私は知っている』
「聞かない」
『君の魂を救う方法』
「嘘だ」
『試さずに捨てるの?』
「不要だ」
『死の呪文を受けずに済む』
教師たちがハリーを見る。
未来で。
ヴォルデモートに撃たせた。
魂の欠片だけを破壊させる。
『君は怖い』
「当然だ」
『死にたくない』
「死ぬつもりはない」
『なら、私を使って』
「使わない」
『ダンブルドアには救えない』
「知ってる」
ダンブルドアが僅かに傷ついた顔をする。
「今のは、ワシへ言う必要が?」
「髪飾りへ答えただけです」
『スネイプにも』
「一人で考えさせない」
『マクゴナガルにも』
「専門外だ」
マクゴナガルが眉を上げる。
「事実です」
『なら、誰が君を救う?』
「全員で方法を探す」
『見つからなければ?』
「その時に考える」
『時間がなくなれば?』
「今はある」
『未来が変われば、方法も消える』
「未来の方法へ頼るつもりはない」
牙を上げる。
『私はロウェナ・レイブンクローの知恵』
「君はヴォルデモートの欠片だ」
『私は失われた知識』
「盗んだ器に入った殺人犯だ」
髪飾りが震える。
『愚かな子供』
「中身は年寄りだ」
『その身体は十三歳』
「知ってる」
『死ねば終わる』
「君は今終わる」
牙を振り下ろす。
青い石。
金属。
中央を貫く。
甲高い悲鳴。
黒い煙。
髪飾りから、女の顔が浮かぶ。
ロウェナではない。
ヘレナ・レイブンクロー。
血まみれ。
『母は私を許さなかった』
灰色のレディ。
ヴォルデモートが、髪飾りの場所を聞き出した相手。
『私は奪った』
『私は裏切った』
「それも偽物です」
マクゴナガルが言う。
「ハリー。続けなさい」
二撃目。
鷲の翼が折れる。
黒い煙が広がろうとする。
スネイプの封印。
透明な箱。
逃げられない。
『知識を捨てるのか!』
「魂の欠片ごとな」
三撃目。
青い石が砕けた。
煙が弾ける。
顔。
蛇。
少年。
ヴォルデモート。
形を変えながら、消えていく。
最後。
ハリーの頭へ、強い痛み。
額の傷。
繋がりが一つ切れる。
静かになる。
床には、壊れた髪飾り。
ただの金属。
「確認」
スネイプが言う。
複数の呪文。
魂の魔力。
残留思念。
呪い。
「消えている」
「完全に?」
「ああ」
四つ目。
日記。
ロケット。
指輪。
髪飾り。
破壊済み。
「終わりましたね」
マクゴナガルが息を吐く。
「ここは、これからじゃがの」
ダンブルドアが、物の山を見る。
学校中の隠し物。
危険物。
呪物。
違法な品。
「魔法省へ連絡を」
ハリーが言う。
「学校の自治が」
「バジリスクとアクロマンチュラの次に、呪物倉庫を放置したと知られたくない?」
「言い方が悪いの」
「事実です」
「アルバス」
マクゴナガルが言う。
「専門家を入れるべきです」
スネイプも頷く。
「この量を、教職員だけで確認するのは不可能だ」
三対一。
「分かった」
ダンブルドアが答える。
「アメリアへ相談しよう」
「本当に改善していますね」
ハリーが言う。
「何度も言わなくてもよい」
「褒めています」
「そうは聞こえん」
必要の部屋を出る。
扉が消える。
廊下。
夜。
「ハリー」
マクゴナガルが呼び止める。
「何です?」
「髪飾りが言ったことについて」
「魂の欠片を除去する方法?」
「はい」
「嘘です」
「それでも、あなたが恐れていることは本当でしょう」
「はい」
「一人で研究していませんね?」
「していません」
「本当に?」
「ダンブルドア先生、スネイプ先生と共有しています」
マクゴナガルが二人を見る。
ダンブルドアが頷く。
「研究を進めておる」
「具体的には?」
「魂の分離。犠牲の守り。分霊箱と宿主の結びつき」
スネイプが答える。
「まだ安全な方法はない」
「見つからなければ?」
マクゴナガルの声が硬くなる。
「見つけます」
ハリーが言う。
「根拠は?」
「一人ではないから」
ダンブルドア。
スネイプ。
マクゴナガル。
シリウス。
クリーチャー。
ハーマイオニー。
ロン。
前世より、多くの者が真実を知っている。
「僕だけで考えるより、可能性は高い」
マクゴナガルは、しばらくハリーを見た。
「分かりました」
「心配を?」
「当然です」
「僕は生徒なので?」
「そうです」
「中身は」
「関係ありません」
即答。
変わらない。
「それから」
マクゴナガルが続ける。
「グレンジャーへの訓練内容を確認しました」
「問題が?」
「実務的すぎます」
「実務訓練なので」
「十三歳の生徒へ、複数負傷者の優先順位を教える必要が?」
「未来では必要でした」
「未来を理由に、今の子供時代を奪わないでください」
ハリーは言葉を失う。
正しい。
ハーマイオニーを守るために、授業を減らした。
その空いた時間へ、戦争の準備を詰め込めば。
同じことになる。
「週二時間」
ハリーが言う。
「増やしません」
「試験期間は?」
「休み」
「休日は?」
「訓練しない日を作ります」
「本人が追加を求めても?」
「断ります」
「あなた自身も」
「僕も?」
「必要です」
「別の話では?」
「同じです」
マクゴナガルは厳しい。
「分霊箱を四つ破壊した。だからこそ、休む時間も取りなさい」
「まだ残っています」
「明日、すべて襲ってくるのですか?」
「可能性は」
「低いのでしょう」
「はい」
「ならば、一日くらい休みなさい」
「何をすれば?」
「それを自分で考えることも必要です」
ハリーは困る。
シリウスにも言われた。
学生らしいことをしろ。
遊べ。
箒。
クイディッチ。
「考えます」
「検討ではなく?」
「前向きに」
「ダンブルドアのような言い方をしない」
「分かりました」
翌日。
ハーマイオニーとロンへ、髪飾りの破壊を報告した。
「終わったの?」
ハーマイオニーが尋ねる。
「ああ」
「見たかった」
「危険だから連れていかなかった」
「実務訓練はするのに?」
「マクゴナガル先生にも言われた」
「何を?」
「子供時代を奪うなと」
ハーマイオニーは少し考える。
「私は、自分で選んでる」
「それでも、教える量は調整する」
「減らすの?」
「増やさない」
「今の内容は?」
「続ける」
「ならいいわ」
ロンが身を乗り出す。
「四つ壊したんだよな」
「ああ」
「残りは?」
「カップ。ナギニ。僕。ヴォルデモート本体」
「ナギニは、まだ分霊箱じゃないかもしれない」
ハーマイオニーが言う。
「そうだ」
「カップはグリンゴッツ」
「ああ」
「次は?」
「シリウスとクリーチャーが、リドル家を監視している」
「またシリウスの仕事?」
ロンが笑う。
「今年は働いてもらう」
「ハリーは?」
「学校」
「なら」
ロンが立ち上がる。
「今日、クイディッチを見に行こう」
「なぜ?」
「練習試合がある」
「僕はチームに入ってない」
「見るだけ」
「訓練が」
ハーマイオニーが睨む。
「休む日でしょう」
「今日とは」
「今日にすればいい」
「課題は?」
「終わってる」
「僕も」
ロンが言う。
「珍しい」
「実務訓練を受ける条件で、先にやった」
「なら」
断る理由を探す。
ない。
「分かった」
三人で競技場へ向かう。
秋の風。
箒。
歓声。
戦争とは関係のない時間。
分霊箱とも。
ヴォルデモートとも。
未来とも。
一時だけ離れる。
ハリーは空を見る。
箒に乗る生徒たち。
シリウスの言葉を思い出す。
少しくらい、学生らしいことをしろ。
「入ればいいのに」
ロンが言う。
「何に?」
「チーム」
「考えておく」
「本当に?」
「前向きに」
「ダンブルドアみたいだぞ」
「取り消す」
ハーマイオニーが笑った。
四つ目の分霊箱を破壊した日。
ハリーは、何も倒さなかった。
誰も救わなかった。
訓練もしなかった。
ただ、友人とクイディッチを見た。
それも。
未来を変えることと同じくらい。
今のハリーには必要なことなのかもしれなかった。