80歳のハリーポッターが11歳に戻った場合   作:金縛り

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3年目 戻ってきた闇の帝王

 リトル・ハングルトンにあるリドル家の屋敷は、長い間、誰も住んでいなかった。

 

 丘の上。

 

 荒れた庭。

 

 ひび割れた窓。

 

 蔦に覆われた石壁。

 

 村人たちは、昔この屋敷で起きた奇妙な殺人事件について、今でも時折噂している。

 

 父親。

 

 母親。

 

 息子。

 

 リドル家の三人が、一夜のうちに死んだ。

 

 外傷はない。

 

 毒物もない。

 

 ただ、全員が恐怖に顔を歪めていた。

 

 事件当時、庭師のフランク・ブライスが疑われた。

 

 証拠はなく、釈放された。

 

 それでも村人たちは彼を疑い続けた。

 

 老人になった今も、フランクは屋敷の管理を続けている。

 

 前世では。

 

 彼は屋敷へ戻ってきたヴォルデモートの会話を聞き、殺された。

 

 ハリーは、正確な時期を覚えていなかった。

 

 三年目だったか。

 

 四年目の夏に近かったか。

 

 少なくとも、三大魔法学校対抗試合が始まる前には、ヴォルデモートはリドル家へ戻っていた。

 

 だから。

 

 シリウスとクリーチャーには、屋敷を定期的に監視してもらっていた。

 

 接触しない。

 

 発見しても戦わない。

 

 庭師が危険に晒された場合は救出を優先。

 

 ナギニが確認できれば、分霊箱かどうかを調査する。

 

 ヴォルデモート本人へは、絶対に近づかない。

 

 何度も伝えた。

 

 何度も約束させた。

 

 それでも。

 

『見つけた』

 

 シリウスから短い手紙が届いたのは、十一月の終わりだった。

 

 朝食の時間。

 

 黒い梟。

 

 封筒には、ブラック家の紋章。

 

 中に入っていた羊皮紙は、一枚だけ。

 

『リドル家の屋敷に動きがあった。

 

 クリーチャーが、建物内部で人間ではない魔力を確認した。

 

 大蛇もいる。

 

 フランク・ブライスは無事だ。

 

 接触はしていない。

 

 今夜、グリモールド・プレイスで話す。

 

 シリウス』

 

 ハリーは三度読み返した。

 

「どうしたの?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「ヴォルデモートが戻った可能性がある」

 

 ロンがフォークを落とした。

 

 金属音。

 

 近くの生徒たちが振り返る。

 

「声を抑えて」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「僕は何も言ってない!」

 

「顔が言ってる」

 

 ハリーは手紙を畳む。

 

「大蛇もいる」

 

「ナギニ?」

 

「可能性が高い」

 

「もう分霊箱なの?」

 

「分からない」

 

 ナギニが、いつ分霊箱にされたのか。

 

 前世でも確定していなかった。

 

 バーサ・ジョーキンズを殺した時。

 

 あるいは、それ以前。

 

 ヴォルデモートは、魂を七つに分けることへ執着していた。

 

 ただし、意図した数と実際の数は違う。

 

 日記。

 

 指輪。

 

 ロケット。

 

 カップ。

 

 髪飾り。

 

 ナギニ。

 

 そして、本人。

 

 ハリーへ付着した欠片は、本人の計算外。

 

 ヴォルデモート自身が、魂の状態を正確に把握しているとは限らない。

 

「先生たちへ?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「話す」

 

「全員?」

 

「ダンブルドア先生。スネイプ先生。マクゴナガル先生。ルーピン先生」

 

「魔法省は?」

 

 ハーマイオニーの質問。

 

「まだ」

 

「なぜ?」

 

「霊体状態のヴォルデモートがいると言って、信じるか?」

 

「アメリアさんなら」

 

「証拠があれば」

 

 シリウスの冤罪。

 

 ピーター。

 

 分霊箱。

 

 魔法省の一部は、以前よりハリーの話を重く見るようになった。

 

 だが。

 

 丘の上の廃屋に、闇の帝王の霊体がいる。

 

 大蛇も分霊箱かもしれない。

 

 その情報だけで、闇払いを大量に動かすのは難しい。

 

 しかも。

 

 大規模な部隊を送れば、ヴォルデモートは逃げる。

 

 霊体。

 

 小動物。

 

 人間への憑依。

 

 姿を隠す方法はいくらでもある。

 

「まず、状況を確認する」

 

 ハリーは言った。

 

「今夜、外出許可を取る」

 

「私たちも?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「連れていかない」

 

「なぜ?」

 

「戦闘になる可能性がある」

 

「実務訓練をしているでしょう」

 

「訓練とヴォルデモートは別だ」

 

「でも」

 

「今回は、僕も屋敷へ近づかない」

 

 ハリー自身が行けば。

 

 魂の繋がり。

 

 額の傷。

 

 ヴォルデモートに感知される可能性がある。

 

 前世では、双方の感情や視界が繋がった。

 

 今は閉心術で遮断している。

 

 だが、近距離でどこまで通用するかは分からない。

 

「シリウスとクリーチャーの報告を聞く」

 

「それだけ?」

 

「映像記録があれば確認する」

 

「戦うのは?」

 

「準備してから」

 

 ロンが息を吐く。

 

「今年は、シリウスが本当に働いてるな」

 

「そのために自由にしたわけではない」

 

「でも、かなり働かせてる」

 

「本人がやると言った」

 

「ハリーが頼めば、何でもやるんじゃない?」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「だから、危険なことは止めている」

 

「止まる?」

 

「クリーチャーがいる」

 

「シリウス本人より、クリーチャーを信用してるのね」

 

「任務に関しては」

 

 校長室。

 

 ダンブルドアは、手紙を読み終えると、机の上へ置いた。

 

「ついに、現れたかもしれんの」

 

「前世より早いですか?」

 

 マクゴナガルが尋ねる。

 

「時期は、はっきり覚えていません」

 

「ピーターがいない以上、前回と同じ経緯ではない」

 

 スネイプが言う。

 

「誰が、闇の帝王を運んだ?」

 

「自力で移動した可能性もあります」

 

 ハリーは答える。

 

「霊体であれば、動物へ憑依できる」

 

「大蛇が運んだ可能性は?」

 

 ルーピンが尋ねる。

 

「ナギニが、すでに従っているなら」

 

「蛇は、人間ほど遠距離を移動できない」

 

「別の協力者がいるかもしれません」

 

 クィレル。

 

 心が弱い。

 

 力を求める。

 

 秘密を持つ。

 

 そうした人間へ、ヴォルデモートは入り込む。

 

「元死喰い人?」

 

 マクゴナガルが言う。

 

「可能性は低いと思います」

 

「なぜ?」

 

「ヴォルデモートは、彼らを信用していません」

 

 自分が消えた後。

 

 多くの死喰い人は、服従の呪文を受けていたと主張した。

 

 アズカバンを逃れた。

 

 社会へ戻った。

 

 ルシウス・マルフォイ。

 

 クラッブ。

 

 ゴイル。

 

 ノット。

 

 その他。

 

「自分を裏切った者へ、弱った姿を見せたくない」

 

 ハリーは続ける。

 

「協力を求めれば、立場が逆転する。ヴォルデモートの性格では耐えられない」

 

「ピーターは?」

 

 ルーピンが尋ねる。

 

「追い詰められていた。社会的な地位もない。自分一人では生きられない。ヴォルデモートへ戻るしかなかった」

 

「闇の帝王から見ても、支配しやすい」

 

 スネイプが言う。

 

「はい」

 

「では、代わりになる者は?」

 

「クィレルのような人間」

 

 完全な死喰い人ではない。

 

 自信がない。

 

 力への憧れ。

 

 秘密。

 

 ヴォルデモートにとって利用しやすい。

 

「候補が多すぎるの」

 

 ダンブルドアが言う。

 

「だから、まず監視です」

 

「シリウスへ続けさせる?」

 

 マクゴナガルの声が厳しくなる。

 

「危険です」

 

「クリーチャーだけにします」

 

「シリウスが納得すると思いますか?」

 

「させます」

 

 自信はない。

 

「ハリー」

 

 ルーピンが苦笑する。

 

「彼は、君が危険へ近づくなと言っても、同じように納得しないと思うよ」

 

「僕は生徒です」

 

「今、その理屈を使うのかい?」

 

「シリウスは治療中です」

 

「かなり回復した」

 

「ヴォルデモート相手には不十分です」

 

「君は?」

 

「前世で戦いました」

 

「身体は十三歳だ」

 

 また。

 

「今回は僕も接触しません」

 

 ハリーは言う。

 

「ナギニだけを、屋敷から切り離す方法を考える」

 

「蛇が分霊箱ではなかった場合は?」

 

「危険な大蛇として保護か処分」

 

「保護?」

 

 スネイプが鼻を鳴らす。

 

「闇の帝王に従う人食い蛇を?」

 

「意思が操られている可能性もあります」

 

「人を殺していても?」

 

「それは調査後です」

 

「バジリスクと同じか」

 

 ルーピンが言う。

 

「ヴォルデモートに従っているからといって、最初から殺すとは決めません」

 

「未来では、ロングボトムが首を切ったのであろう?」

 

 ダンブルドアの質問。

 

「戦闘中でした」

 

「今回は?」

 

「分霊箱なら破壊します」

 

 迷いはない。

 

「中身の魂を消すには、器である蛇の生命を断つ必要があります」

 

「牙は?」

 

 スネイプが尋ねる。

 

「魔法省から借りた一本が、まだ学校にあります」

 

「動物へ刺すのか?」

 

「バジリスクの毒は不要です。ナギニは生物なので、通常の致命傷でも分霊箱ごと破壊できる可能性があります」

 

「可能性?」

 

「生物を器とした分霊箱は例が少ない」

 

「なら確実な方法を」

 

「首を落とす。炎で焼く。魂の反応が消えたか確認する」

 

 マクゴナガルが険しい顔をする。

 

「十三歳の生徒が、淡々と言う内容ではありません」

 

「前世では見ました」

 

「それを基準にしないでください」

 

「必要な話です」

 

 ダンブルドアが手を上げる。

 

「まず、グリモールド・プレイスへ行こう」

 

 正式な外出許可。

 

 教師四人。

 

 ハリー。

 

 今回は、ロンとハーマイオニーは残す。

 

 夕方。

 

 グリモールド・プレイス。

 

 応接室。

 

 シリウスは、机の前を歩き回っていた。

 

「遅い」

 

「学校があります」

 

「ヴォルデモートが見つかったんだぞ」

 

「可能性です」

 

「クリーチャーが確認した」

 

「本人を待ちましょう」

 

「俺も見た」

 

 ハリーが止まる。

 

「接触しないと言いましたよね?」

 

「屋敷の外からだ!」

 

「どの距離?」

 

「丘の下」

 

「近い」

 

「姿隠しと、防護と、気配遮断も使った」

 

「感知されたら?」

 

「されてない」

 

「なぜ分かる?」

 

「攻撃されなかった」

 

「それを無事の根拠にしないでください!」

 

 声が大きくなる。

 

 廊下の肖像画が騒ぎ始める。

 

 クリーチャーが現れ、防音布を押さえた。

 

「シリウス様は、クリーチャーの制止を無視なさいました」

 

「クリーチャー!」

 

「事実でございます」

 

「接触してないだろ」

 

「丘の下まで近づく必要はございませんでした」

 

「見たかったんだ」

 

「だから危険だと言ってるんです!」

 

 ハリーは机を叩いた。

 

 部屋が静まる。

 

 シリウスも、少し驚いた顔。

 

「もし死んだら?」

 

「死んでない」

 

「次も?」

 

「ハリー」

 

「十三年待って、無罪にして、ようやく会えたのに」

 

 言葉が止まらない。

 

「数か月で死ぬつもりですか?」

 

 シリウスの表情が変わる。

 

「そんなつもりはない」

 

「なら、約束を守ってください」

 

「お前だって」

 

「僕も守っています」

 

「本当に?」

 

「分霊箱は教師と破壊した。一人でリドル家へ行っていない。今も報告を聞きに来ただけです」

 

 シリウスは黙った。

 

「僕が守っているのに、シリウスが破るなら」

 

「悪かった」

 

 早い謝罪。

 

 ハリーの言葉が止まる。

 

「悪かったよ」

 

 シリウスは椅子へ座った。

 

「俺が間違った」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「次から?」

 

「クリーチャーの許可なく、監視地点より先へ行かない」

 

「クリーチャーが責任者?」

 

「……ああ」

 

「記録いたしました」

 

 クリーチャーが言う。

 

「嬉しそうだな」

 

「主人の安全は、屋敷しもべ妖精の責任でございます」

 

 リーマスがシリウスの肩を軽く叩く。

 

「君は昔から、止められるほど進みたくなるからね」

 

「お前に言われたくない」

 

「私は、今は教師だ」

 

「ずるい立場を使うな」

 

 ダンブルドアが咳払いする。

 

「報告を聞いてもよいかの?」

 

「忘れてた」

 

「ワシもいるのじゃが」

 

 クリーチャーが机の中央へ、小さな水晶球を置く。

 

「記録でございます」

 

「映像を?」

 

 ハーマイオニーがいれば喜んだだろう。

 

「ブラック家の監視術です」

 

 シリウスが答える。

 

「対象へ直接魔法を掛けない。土地に残った光景を短時間だけ保存する」

 

「屋敷の防護に気づかれない?」

 

 スネイプが尋ねる。

 

「離れた丘から、窓に反射した像だけを拾った」

 

「音は?」

 

「一部のみ」

 

 水晶球が光る。

 

 暗い部屋。

 

 リドル家。

 

 暖炉。

 

 椅子。

 

 椅子の上に、小さな何か。

 

 人間ではない。

 

 赤黒い皮膚。

 

 細い手足。

 

 毛がない。

 

 赤ん坊のようであり、老人のようでもある。

 

 前世。

 

 復活前のヴォルデモート。

 

 ピーターが世話をしていた、仮初めの肉体。

 

「肉体がある」

 

 ハリーが呟く。

 

 おかしい。

 

 ピーターはいない。

 

 バーサ・ジョーキンズを利用した儀式も、まだ起きていない可能性が高い。

 

 それなのに。

 

 ヴォルデモートは、弱いながら身体を持っている。

 

 椅子の横。

 

 大蛇。

 

 太い身体。

 

 長い。

 

 ナギニ。

 

 映像の中。

 

 小さなヴォルデモートが、蛇語で何かを話す。

 

 ハリーには意味が分かる。

 

『まだ足りない』

 

『もっと強い身体が必要だ』

 

 ナギニが舌を出す。

 

『あの少年の血』

 

『母親の守り』

 

『だが、近づけない』

 

 映像が揺れる。

 

 別の人物。

 

 部屋の端に、人影。

 

 顔は見えない。

 

 黒いローブ。

 

 背は高くない。

 

 細い。

 

「協力者」

 

 ルーピンが言う。

 

 声。

 

『ご主人様。ポッターは、ホグワーツにおります』

 

 男か。

 

 若い。

 

 聞き覚えのない声。

 

『ダンブルドアのもとへ近づくのは危険です』

 

『だから、お前が必要なのだ』

 

『私では、城へ』

 

『城へ入れとは言っていない』

 

 ヴォルデモートの声。

 

 弱い。

 

 それでも、傲慢。

 

『少年を外へ出せ』

 

『どのように?』

 

『学校は、子供を閉じ込め続ける場所ではない』

 

 映像が途切れる。

 

 次。

 

 ナギニの目。

 

 黒い魔力。

 

 蛇の身体に、魂の痕跡。

 

 ハリーの額が痛む。

 

「分霊箱です」

 

 即座に分かった。

 

「確かか?」

 

 スネイプが問う。

 

「はい」

 

 傷。

 

 魂。

 

 同じ感覚。

 

「ナギニは、すでに分霊箱になっている」

 

 室内の空気が重くなる。

 

「協力者の顔は?」

 

 マクゴナガルが尋ねる。

 

「映りませんでした」

 

 クリーチャーが答える。

 

「魔法で隠していた?」

 

「いえ」

 

「なら、なぜ?」

 

「窓から見える位置へ、顔を向けなかったのでございます」

 

 慎重。

 

 偶然か。

 

 監視を警戒しているか。

 

「声に心当たりは?」

 

 ダンブルドアが全員を見る。

 

 誰も答えない。

 

 スネイプも首を振る。

 

「元死喰い人では?」

 

「少なくとも、私が知る者ではない」

 

 声を変えている可能性もある。

 

「問題は」

 

 ハリーは言った。

 

「ヴォルデモートが、すでに仮の肉体を得ていることです」

 

「前回は、どうやって?」

 

「ピーターが作りました」

 

「材料は?」

 

「ユニコーンの血。ナギニの毒。その他の闇の魔術」

 

「ピーター以外でも可能?」

 

「術式を知っていれば」

 

 協力者。

 

 ヴォルデモートから教わった。

 

 あるいは。

 

 最初から、その分野に詳しい。

 

「ナギニを先に破壊します」

 

 ハリーが言う。

 

「どうやって、屋敷から離す?」

 

 リーマスの質問。

 

「餌」

 

 スネイプが言った。

 

「蛇へ、外へ出る理由を作る」

 

「普通の餌では、ナギニだけが来る保証がない」

 

「ハリーの匂い」

 

 シリウスが言う。

 

 全員が見る。

 

「駄目です」

 

 ハリーが即答した。

 

「本人ではなく、血や衣服だ」

 

「僕の血を使えば、ヴォルデモートも気づきます」

 

「気づかせて、別方向へ誘導する」

 

「危険すぎる」

 

「お前が言うのか?」

 

「今は僕が止める側です」

 

「案としては使える」

 

 スネイプが言う。

 

「ただし、本物の血を使う必要はない」

 

「模造?」

 

「匂い。魔力。魂の痕跡」

 

「作れますか?」

 

「お前の血を一滴採取すれば」

 

「結局、本物を使うじゃないですか」

 

「一滴だ」

 

「ヴォルデモートへ渡る可能性は?」

 

「回収できる形にする」

 

 慎重な術式。

 

 偽の獲物。

 

 ナギニだけを、屋敷の防護外へ誘う。

 

 クリーチャーが空間を遮断。

 

 シリウスとリーマスが周囲を防護。

 

 スネイプが魂の反応を確認。

 

 ダンブルドアがヴォルデモート本人の介入を防ぐ。

 

 ハリー。

 

 ナギニを破壊。

 

「僕が必要ですか?」

 

 マクゴナガルが尋ねる。

 

「ナギニへ最後の一撃を入れる者が必要です」

 

「あなたである必要は?」

 

「魂の反応を見分けられます」

 

「スネイプにもできる」

 

「僕の方が、ヴォルデモートの魂を知っています」

 

「だから危険でもある」

 

 反対されると思った。

 

「では、スネイプ先生が攻撃。僕は距離を取って確認」

 

「それでよい」

 

 マクゴナガルが頷く。

 

 以前のハリーなら。

 

 自分が前へ出た。

 

 今回は譲る。

 

「ナギニを破壊すれば、ヴォルデモートは気づく」

 

 ダンブルドアが言う。

 

「こちらが、分霊箱をすべて把握していると確信するじゃろう」

 

「日記の時点で疑っています」

 

「今までは、偶然と考えていた可能性もある」

 

「それでも、残す方が危険です」

 

 ナギニは移動する。

 

 ヴォルデモートのそば。

 

 守られる。

 

 復活後は、さらに近づきにくい。

 

「今が最も弱い」

 

 ハリーは言う。

 

「ナギニを外へ出せるなら、今しかない」

 

 作戦は三日後。

 

 新月。

 

 夜。

 

 視界が悪い。

 

 リドル家から少し離れた森。

 

 クリーチャーが、土地の境界に小さな肉片を置く。

 

 スネイプが作った偽装。

 

 ハリーの血。

 

 一滴。

 

 魔力と匂いを増幅。

 

 ただし。

 

 触れた瞬間に消滅する。

 

 遠く。

 

 ハリーは、丘のさらに外側。

 

 マクゴナガルと共に待機。

 

「前へ出ない」

 

「分かっています」

 

「何が起きても?」

 

「必要なら」

 

「ハリー」

 

「……出ません」

 

「約束?」

 

「約束します」

 

 額の傷。

 

 まだ痛みはない。

 

 閉心。

 

 精神の壁。

 

 遠く。

 

 気配。

 

 蛇。

 

 巨大な身体が、森の影から現れる。

 

 ナギニ。

 

 舌。

 

 匂いを追う。

 

 慎重。

 

 周囲を確認。

 

 屋敷から離れる。

 

 境界を越える。

 

「今」

 

 クリーチャーの魔法。

 

 空間が閉じる。

 

 ナギニが振り返る。

 

 森。

 

 屋敷が見えない。

 

 隔離された空間。

 

 シリウスとリーマスの結界。

 

 スネイプが杖を構える。

 

「セクタムセンプラ!」

 

 銀色の刃。

 

 ナギニが身を捻る。

 

 鱗を裂く。

 

 血。

 

 だが浅い。

 

 蛇が飛びかかる。

 

 速い。

 

 スネイプは横へ避ける。

 

 リーマスが拘束。

 

 縄。

 

 蛇の身体へ巻きつく。

 

 ナギニが力任せに破る。

 

 シリウスの爆破呪文。

 

 地面。

 

 蛇の進路を変える。

 

「首を狙え!」

 

 ハリーの声は、魔法で届く。

 

 スネイプが二撃目。

 

 切断。

 

 ナギニの鱗が硬い。

 

 通常の蛇ではない。

 

 分霊箱。

 

 闇の魔力で強化されている。

 

 ナギニが口を開く。

 

 毒牙。

 

 スネイプへ。

 

 クリーチャーが指を鳴らす。

 

 蛇の頭だけが、半歩分横へ移動する。

 

 牙が空を噛む。

 

「シリウス様!」

 

「分かってる!」

 

 シリウスが杖を振る。

 

 地面から黒い鎖。

 

 蛇の胴体を固定。

 

 リーマスも重ねる。

 

 ナギニが暴れる。

 

 木が折れる。

 

 土が舞う。

 

 ハリーの額に、突然痛み。

 

 ヴォルデモートが気づいた。

 

 怒り。

 

 驚き。

 

 蛇を通じて。

 

『ポッター』

 

 声が頭へ入る。

 

 閉心。

 

 遮断。

 

『そこにいるな』

 

 痛みが強くなる。

 

「ハリー?」

 

 マクゴナガルが肩を掴む。

 

「大丈夫です」

 

「繋がった?」

 

「ヴォルデモートが、ナギニを通して見ています」

 

 蛇の目。

 

 ヴォルデモートも戦場を見ている。

 

『また私の魂を』

 

「先生!」

 

 ハリーは遠隔の声で叫ぶ。

 

「今すぐ!」

 

 スネイプが杖を両手で握る。

 

「ディフィンド・マキシマ!」

 

 強い切断呪文。

 

 ナギニの首。

 

 半分まで入る。

 

 蛇の絶叫。

 

 黒い煙。

 

 それでも切れない。

 

「もう一度!」

 

 シリウスとリーマスが、さらに拘束を強める。

 

 クリーチャーが空間を圧縮。

 

 蛇の首を動かせない。

 

 スネイプ。

 

 二撃目。

 

 首が落ちる。

 

 巨大な身体が地面へ倒れる。

 

 頭。

 

 胴体。

 

 痙攣。

 

 黒い煙が噴き出す。

 

 人の顔。

 

 蛇。

 

 赤い目。

 

 ヴォルデモートの魂。

 

『許さん』

 

 声。

 

 ハリーの頭の中。

 

『貴様だけは』

 

「知ってる」

 

 ハリーは閉心を強める。

 

「でも、今一つ減った」

 

 黒い煙が、ナギニの死体へ戻ろうとする。

 

 スネイプが炎。

 

 青白い火。

 

 蛇の頭と身体を焼く。

 

 クリーチャーの結界が魂を逃がさない。

 

 煙。

 

 悲鳴。

 

 消える。

 

 額の傷。

 

 繋がりが切れる。

 

 痛みが消えた。

 

「破壊されました」

 

 ハリーが言う。

 

「完全に?」

 

 マクゴナガルの質問。

 

「はい」

 

 ナギニ。

 

 五つ目。

 

 日記。

 

 ロケット。

 

 指輪。

 

 髪飾り。

 

 ナギニ。

 

 残り。

 

 カップ。

 

 ハリー。

 

 ヴォルデモート本体。

 

 作戦区域の向こう。

 

 リドル家から、強い魔力。

 

 怒り。

 

 屋敷の窓が割れる。

 

 小さなヴォルデモートが叫んでいる。

 

 だが。

 

 隔離空間へは来られない。

 

 身体が弱い。

 

 協力者も、屋敷から出ない。

 

「撤退!」

 

 ダンブルドアの声。

 

 全員。

 

 クリーチャーの魔法。

 

 グリモールド・プレイスへ移動。

 

 一瞬。

 

 戦場が消える。

 

 屋敷の地下。

 

 シリウス。

 

 リーマス。

 

 スネイプ。

 

 クリーチャー。

 

 遅れてダンブルドア。

 

 最後に、マクゴナガルとハリー。

 

「全員?」

 

 ハリーが確認する。

 

「いる」

 

 シリウスが答える。

 

「怪我は?」

 

「スネイプのローブが少し破れた」

 

「余計な報告をするな」

 

「噛まれてない?」

 

「問題ない」

 

 スネイプの腕。

 

 浅い擦り傷。

 

 毒牙ではない。

 

「治療を」

 

「自分でできる」

 

「確認だけでも」

 

「ポッター」

 

「分かりました」

 

 シリウスがハリーを見る。

 

「約束を守ったな」

 

「前へ出ませんでした」

 

「偉いぞ」

 

「子供扱いしないで」

 

「俺が褒めた時は受け取れ」

 

「では、ありがとうございます」

 

 今度はシリウスが驚く。

 

「素直だな」

 

「シリウスも、勝手にヴォルデモートへ向かわなかった」

 

「俺も褒められる?」

 

「はい」

 

「聞いたか、クリーチャー」

 

「記憶しております」

 

「記録に」

 

「残しません」

 

「なぜだ!」

 

 少しだけ。

 

 緊張が解ける。

 

 だが。

 

 まだ終わっていない。

 

「協力者」

 

 ルーピンが言う。

 

「屋敷に残った人物は、何者だ?」

 

「ナギニを奪われても、出てこなかった」

 

 スネイプが続ける。

 

「臆病か。闇の帝王を守ることを優先したか」

 

「有能です」

 

 ハリーは言った。

 

「ナギニを捨てても、ヴォルデモート本体を守った」

 

「次は、その者を特定する必要がある」

 

 ダンブルドアが言う。

 

「リドル家の監視は、続けます」

 

「クリーチャーだけで」

 

 ハリーがシリウスを見る。

 

「分かってる」

 

 不満そう。

 

「僕も近づきません」

 

「ならいい」

 

 ナギニを失った。

 

 ピーターもいない。

 

 ヴォルデモートは、弱い身体。

 

 協力者は一人。

 

 前世より追い詰めている。

 

 それでも。

 

 完全に倒せていない。

 

「次に動くとすれば」

 

 ハリーは考える。

 

「僕を外へ出す方法を探す」

 

「大会?」

 

 ダンブルドアが尋ねる。

 

「三大魔法学校対抗試合は、来年度です」

 

「前倒しになる可能性は?」

 

「主催国や他校の調整が必要です。ヴォルデモートが動かせる規模ではない」

 

「では?」

 

「学校行事。休暇。家族。魔法省」

 

 ハリーを外へ出す。

 

 手段はいくつもある。

 

「そして」

 

 もう一つ。

 

「クラウチ・ジュニア」

 

 前世で。

 

 最も完璧に、ハリーをヴォルデモートへ届けた男。

 

 今も、クラウチ邸にいる。

 

 服従の呪文。

 

 父親の管理。

 

 だが。

 

 ヴォルデモートが復活の準備を始めた。

 

 クラウチ・ジュニアが解放されれば。

 

 最も危険な駒になる。

 

「予定を早めます」

 

 ハリーは言った。

 

「クラウチ・ジュニアを、今年中に表へ出す」

 

「魔法省へ直接伝える?」

 

 シリウスが尋ねる。

 

「いいえ」

 

「なぜ?」

 

「隠される可能性がある」

 

 シリウスの冤罪。

 

 ピーターの生存。

 

 クラウチ・シニアによる、死喰い人の息子の脱獄。

 

 魔法省の信用は、完全に崩れる。

 

 内部で処理しようとする者が出る。

 

「だから」

 

 ハリーは、机の上に置かれた『日刊予言者新聞』を見る。

 

「魔法省が隠せない形で、先に世間へ知らせます」

 

 リーマスが嫌そうな顔をした。

 

「リータ・スキーターかい?」

 

「はい」

 

「信用できない記者だ」

 

「だから使えます」

 

 権力者の秘密。

 

 大事件。

 

 魔法省の失態。

 

 リータ・スキーターが食いつかない理由はない。

 

「真実だけを渡します」

 

 ハリーは言った。

 

「彼女が誇張する必要もないほど、十分に酷い真実を」

 

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