80歳のハリーポッターが11歳に戻った場合   作:金縛り

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3年目 新聞記者は真実を好まない

 リータ・スキーターは、真実を嫌っているわけではない。

 

 真実だけでは、足りないと思っている。

 

 人々が読みたいのは、事実の羅列ではない。

 

 善人。

 

 悪人。

 

 被害者。

 

 裏切り。

 

 涙。

 

 秘密。

 

 転落。

 

 見出しにした瞬間、読者の目を奪う物語。

 

 だから。

 

 真実が十分に刺激的なら、リータ・スキーターほど使いやすい記者はいない。

 

「本当に任せるの?」

 

 グリフィンドール談話室。

 

 ハーマイオニーは、ハリーが作った資料を読んでいた。

 

「任せるのではなく、利用する」

 

「同じように聞こえるわ」

 

「記事を書くのは彼女。内容を保証するのは証拠」

 

「誇張したら?」

 

「誇張する必要がない」

 

 資料。

 

 バーティ・クラウチ・ジュニア。

 

 死喰い人。

 

 フランクとアリス・ロングボトムへの拷問。

 

 アズカバン収監。

 

 母親との入れ替わり。

 

 母親が息子の姿で死亡。

 

 クラウチ・ジュニアは父親の屋敷へ戻る。

 

 服従の呪文。

 

 屋敷しもべ妖精ウィンキーによる管理。

 

 透明マント。

 

 長期間の監禁。

 

 すべて。

 

 前世でクラウチ・ジュニア本人が、真実薬を飲まされて話した内容。

 

「証拠は?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「今は状況証拠だけ」

 

「それで新聞に出すのか?」

 

「疑惑として」

 

「名誉毀損にならない?」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「魔法界にもあるでしょう」

 

「だから、断定はさせない」

 

 見出し。

 

 疑問。

 

『死んだはずの死喰い人は生きているのか?』

 

『クラウチ家に隠されたもう一人の住人』

 

『アズカバンで死亡した人物は本当にバーティ・クラウチ・ジュニアだったのか』

 

「これだけでも、魔法省は調べざるを得ない」

 

「でも、情報源を聞かれる」

 

「匿名」

 

「リータが守ると思う?」

 

「守らせる」

 

「どうやって?」

 

「彼女自身の秘密を使う」

 

 ハーマイオニーの顔が険しくなる。

 

「脅すの?」

 

「交渉」

 

「秘密って?」

 

「リータ・スキーターは、違法な未登録アニメーガス」

 

「何に変身するの?」

 

「甲虫」

 

 ロンが嫌そうな顔をした。

 

「虫?」

 

「眼鏡のような模様がある」

 

「どうして知ってる?」

 

「未来でハーマイオニーが捕まえた」

 

「私が?」

 

「ああ」

 

「どうやって?」

 

「秘密を盗み聞きしている方法を見抜いて、瓶に入れた」

 

 ハーマイオニーが少し考える。

 

「その方法は、今も使える」

 

「使える」

 

「なら、リータが私たちの会話を盗み聞きする可能性も?」

 

「ある」

 

 三人が周囲を見る。

 

 冬。

 

 窓は閉まっている。

 

 甲虫は見えない。

 

「談話室には入れないでしょう」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「生徒の服や荷物に付けば」

 

「気持ち悪いな」

 

 ロンがローブを払う。

 

「今はいない」

 

「分かるの?」

 

「周囲の生物反応を調べた」

 

「いつ?」

 

「話す前」

 

「最初に言えよ!」

 

 リータへ直接会う。

 

 危険。

 

 顔を知られる。

 

 情報源と結びつく。

 

 だから。

 

 最初の資料は、クリーチャーに届けてもらう。

 

 『日刊予言者新聞』本社。

 

 リータの机。

 

 封筒。

 

 差出人なし。

 

 中には。

 

 日時。

 

 アズカバンの面会記録。

 

 クラウチ夫人が息子へ面会した日。

 

 その後、体調を崩した記録。

 

 息子の死亡日。

 

 遺体の火葬。

 

 クラウチ邸で、食料と薬品の購入量が増えた時期。

 

 家の中に、一人分多い生活反応。

 

 ウィンキーが定期的に大量の食事を運んでいること。

 

 未来の記憶だけでは、新聞記者へ渡す証拠として弱い。

 

 そこで。

 

 クリーチャーが調べた。

 

「不法侵入では?」

 

 ハーマイオニーが尋ねた。

 

「屋敷の外から確認できる範囲」

 

「食料の購入記録は?」

 

「ブラック家の商取引網」

 

「生活反応は?」

 

「屋敷しもべ妖精同士の魔法的な繋がり」

 

「ウィンキーに聞いたの?」

 

「直接は聞いていない」

 

「なら?」

 

「屋敷しもべ妖精が主人へ隠れて他家の秘密を話すことはできない。でも、家に何人いるかは、訪問許可を判断するための情報になる」

 

 純血家。

 

 古い屋敷。

 

 屋敷しもべ妖精。

 

 人間が知らない仕組みがある。

 

「妖精魔法、便利すぎない?」

 

 ロンが言う。

 

「便利というより、魔法使いが知らなさすぎる」

 

 ハリーは答えた。

 

「本気で反逆されたら、魔法界は一日で終わる」

 

「笑えないわ」

 

「だから、待遇を改善するべきだ」

 

「ハリーが言うと、現実的な理由に聞こえる」

 

「両方だ」

 

 奴隷として扱うことが間違い。

 

 同時に。

 

 強力な魔法を持つ存在を、永遠に従うと思い込むのも愚か。

 

 資料を送ってから二日。

 

 『日刊予言者新聞』には、何も出なかった。

 

 三日目。

 

 何もない。

 

 四日目。

 

「食いつかなかった?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「確認している可能性がある」

 

「他の新聞へ?」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「まだ」

 

 五日目。

 

 朝。

 

 一面。

 

 大きな見出し。

 

『魔法省の英雄、息子を密かに脱獄させた疑惑』

 

 大広間が騒然となる。

 

 紙面中央。

 

 バーティ・クラウチ・シニアの写真。

 

 厳しい顔。

 

 その横。

 

 若いクラウチ・ジュニア。

 

 アズカバン収監前の写真。

 

『十二年前、死喰い人バーティ・クラウチ・ジュニアは、アズカバン内で死亡した。

 

 少なくとも、魔法省の公式記録ではそうなっている。

 

 しかし、本紙が独自に入手した記録によれば、その死には複数の不審点が存在する。

 

 死亡直前。

 

 クラウチ夫人は、息子へ面会している。

 

 その後。

 

 夫人は公の場から姿を消し、間もなく死亡したと発表された。

 

 一方。

 

 クラウチ家では、息子の死亡後も、一人分多い食料と薬品の購入が長期間続いている。

 

 そして。

 

 近隣住民は、夜間、クラウチ邸の窓に若い男の姿を見たと証言した――』

 

「近隣住民?」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「そんな証拠、渡してない」

 

「リータが作ったか、見つけた」

 

「作った方じゃない?」

 

「可能性は高い」

 

 記事は続く。

 

 断定は避けている。

 

 だが。

 

 疑問を積み重ねる。

 

 母親との入れ替わり。

 

 ポリジュース薬。

 

 吸魂鬼は、視覚ではなく感情を感知する。

 

 病に弱った母親と、弱った息子。

 

 区別できなかった可能性。

 

 遺体は火葬。

 

 身元確認が不十分。

 

『もし、この疑惑が事実ならば。

 

 バーティ・クラウチ・シニアは、法執行部長という立場を利用し、自らがアズカバンへ送った死喰い人の息子を、秘密裏に救出したことになる。

 

 シリウス・ブラック氏が裁判もなく十三年間投獄されていた事実が明らかになってから、まだ一年も経っていない。

 

 魔法省の正義は、権力者の家族にだけ別の形を取るのだろうか?』

 

「上手いな」

 

 ハリーは言った。

 

「嫌な書き方だけど」

 

 ハーマイオニーの顔は険しい。

 

「世間は動く」

 

 大広間。

 

 生徒たち。

 

 教師。

 

 全員が新聞を読んでいる。

 

 教職員席。

 

 ダンブルドアは目を閉じている。

 

 マクゴナガルは、ハリーを見た。

 

 明らかに。

 

 あとで来い。

 

 という顔。

 

「怒られるな」

 

 ロンが言う。

 

「なぜ僕だと?」

 

「先生、ずっと見てるぞ」

 

「偶然かもしれない」

 

「目を逸らしたら?」

 

「認めたことになる」

 

「今、新聞を畳んだ」

 

「授業の準備です」

 

 朝食後。

 

「ポッター」

 

 マクゴナガル。

 

 逃げられない。

 

「校長室へ」

 

「授業は?」

 

「公欠です」

 

「喜べない」

 

 校長室。

 

 ダンブルドア。

 

 マクゴナガル。

 

 スネイプ。

 

 ルーピン。

 

 さらに。

 

 シリウス。

 

 なぜいる。

 

「おはよう」

 

「何で?」

 

「新聞を見て、呼ばれた」

 

「僕は呼んでません」

 

「校長が」

 

 ダンブルドアが机の上の新聞を指す。

 

「説明してくれるかの?」

 

「記事に書いてある通りです」

 

「誰が情報を流した?」

 

「匿名の情報提供者」

 

「ハリー」

 

「僕です」

 

 すぐ認めた。

 

「もう少し粘ると思った」

 

 シリウスが言う。

 

「証拠があります」

 

「新聞へ?」

 

「記事に必要な範囲」

 

「魔法省へ先に相談するべきでした」

 

 マクゴナガルが言う。

 

「相談すれば、クラウチ邸を捜索しましたか?」

 

「アメリアなら」

 

「証拠が足りないと言います」

 

「なら、証拠を集めるべきです」

 

「その間に、クラウチ・ジュニアがヴォルデモートへ回収されたら?」

 

 ナギニを失った。

 

 協力者がいる。

 

 ヴォルデモートは、ハリーを外へ出したがっている。

 

 最も有能な実行者。

 

 クラウチ・ジュニア。

 

「時間がありません」

 

 ハリーは続ける。

 

「一度記事が出れば、クラウチ・シニアは息子を移動させる可能性もある」

 

 ルーピンが言う。

 

「分かっています」

 

「なら、なぜ?」

 

「すでに監視しています」

 

「誰が?」

 

「クリーチャー」

 

 全員がシリウスを見る。

 

「俺は、今回は行ってない」

 

「今回は?」

 

 マクゴナガルの声。

 

「クリーチャーだけだ」

 

「クラウチ・ジュニアが移動すれば、追跡する」

 

 ハリーが言う。

 

「魔法省へも、同時に証拠を送っています」

 

「新聞と同時に?」

 

「新聞が出る朝に届くように」

 

 アメリア・ボーンズ。

 

 封筒。

 

 資料。

 

 クラウチ邸を至急監視するよう依頼。

 

「先に送ればよかったのでは?」

 

「魔法省内部で、クラウチ・シニアへ情報が漏れる可能性があります」

 

「アメリアを信用していない?」

 

「彼女は信用しています。組織全体は別です」

 

 ダンブルドアが髭を撫でる。

 

「理屈は分かる」

 

「アルバス」

 

 マクゴナガルが睨む。

 

「肯定してはいけません」

 

「方法は問題じゃ」

 

「結果がよければよいという考え方ですか?」

 

「そうは言っておらん」

 

「でも、魔法省が正面から動かない可能性はありました」

 

 シリウスが言う。

 

「俺の時と同じだ」

 

「シリウス」

 

「裁判なしで俺を送った組織だ。クラウチ家の失態を、自分から公表すると思うか?」

 

 マクゴナガルが黙る。

 

「だからといって、新聞記者を使うことが正しいとは」

 

「正しいとは思っていません」

 

 ハリーは言った。

 

「必要だと思いました」

 

「リータ・スキーターは、情報を歪める」

 

 ルーピンが言う。

 

「記事にも、渡していない証言を追加しています」

 

「ならば、彼女を制御できていない」

 

「完全には」

 

「危険だよ」

 

「分かっています」

 

「今後、同じ方法を簡単に使わないと約束できるかい?」

 

 ハリーは答えない。

 

「ハリー」

 

「状況によります」

 

「それは、約束ではない」

 

「事実です」

 

 リータは危険。

 

 だが。

 

 権力者が情報を隠す場合。

 

 世論が必要なこともある。

 

「方法を選ばなければ、僕たちもヴォルデモートと同じになる」

 

 ルーピンが静かに言う。

 

「同じではありません」

 

「少しずつ近づくことはある」

 

「嘘は流していない」

 

「個人情報を、本人の同意なく公表した」

 

「犯罪を隠している人物です」

 

「クラウチ夫人は?」

 

 言葉が止まる。

 

 息子を助けた。

 

 自ら身代わりとなった。

 

 犯罪。

 

 同時に。

 

 病に侵された母親。

 

 すでに死んでいる。

 

「彼女の行動も、公にされた」

 

「必要な情報です」

 

「本当に、すべて必要だった?」

 

 答えに詰まる。

 

 母親との入れ替わり。

 

 脱獄の仕組みを証明するためには必要。

 

 だが。

 

 記事は。

 

 病。

 

 母の愛。

 

 悲劇。

 

 読者の感情を引く形で書いた。

 

「リータは、今後も掘り下げる」

 

 ルーピンが言う。

 

「クラウチ夫人の人生。家族。病気。親族。事件に無関係な部分まで」

 

「止めます」

 

「どうやって?」

 

「交渉します」

 

「弱みを使って?」

 

「必要なら」

 

 ルーピンの表情が曇る。

 

「やはり危険だ」

 

「では、放置すれば?」

 

「別の方法を探す」

 

「その間に復活したら?」

 

「未来の危険を理由に、今の人間を何でも犠牲にしてよいわけではない」

 

 厳しい。

 

 正しい。

 

 ハリーは、黙って考える。

 

 闇払い局長。

 

 情報。

 

 作戦。

 

 人命。

 

 国家。

 

 何度も。

 

 少数の犠牲と、多数の安全を比較した。

 

 大人として。

 

 責任者として。

 

 今も、その考え方を引きずっている。

 

「記事の続きを、こちらで制御します」

 

 ハリーは言った。

 

「訂正ではなく?」

 

「事実確認が終わるまで、家族の私生活を掘らないよう求める」

 

「リータが従うかの?」

 

 ダンブルドアが尋ねる。

 

「未登録アニメーガスの証拠を持っています」

 

「脅迫ですね」

 

 マクゴナガルの声。

 

「取引です」

 

「言い換えても同じです」

 

「なら、正式に魔法省へ通報する?」

 

 スネイプが言う。

 

「そうすれば、リータは逮捕される可能性がある」

 

「記事を止めるだけなら、それが正規の方法です」

 

「だが、今後使えなくなる」

 

「使う前提で考えないでください」

 

「有用な情報経路だ」

 

 スネイプは現実的。

 

「セブルスまで」

 

 マクゴナガルが呆れる。

 

「情報を得る手段は多い方がいい。ただし、管理できるなら」

 

「管理できる?」

 

 ルーピンが尋ねる。

 

「契約を結ばせる」

 

「魔法契約?」

 

「記事の情報源を明かさない。提供した事実と、推測を明確に分ける。関係のない家族情報を掘らない」

 

「破れば?」

 

「アニメーガスの証拠を魔法省へ」

 

 スネイプの提案。

 

「それでも脅迫です」

 

 マクゴナガルが言う。

 

「最初から犯罪を犯しているのは向こうです」

 

「だから、こちらが犯罪を利用してよい?」

 

「現実では、完全に清潔な手段だけでは動かないこともあります」

 

「ハリー」

 

 ダンブルドアが静かに呼ぶ。

 

「君は、未来で多くの部下を持っていた」

 

「はい」

 

「その時も、同じ判断を?」

 

「必要なら」

 

「後悔したことは?」

 

 ある。

 

 情報提供者。

 

 司法取引。

 

 犯罪者を使い、さらに大きな犯罪を止める。

 

 結果。

 

 救えた命。

 

 同時に。

 

 残った汚れ。

 

「あります」

 

「ならば、今回も後悔する可能性を忘れぬことじゃ」

 

「分かっています」

 

「それでも進める?」

 

「クラウチ・ジュニアは放置できません」

 

「ならば」

 

 ダンブルドアは立ち上がる。

 

「次は一人で決めぬこと」

 

「先生に相談していたら、新聞は止めましたか?」

 

「おそらく」

 

「だから話さなかった」

 

「そこが問題じゃ」

 

 互いに。

 

 相手が反対するから隠す。

 

 ダンブルドアが、過去に何度もしてきたこと。

 

 ハリーが批判したこと。

 

「同じになっていますね」

 

 自分で言う。

 

「気づいたかの?」

 

「はい」

 

「改善できる?」

 

「努力します」

 

「その言い方は、ワシに似ておるの」

 

「取り消します」

 

 その時。

 

 校長室の窓。

 

 鋭い音。

 

 赤い鳥ではない。

 

 魔法省の梟。

 

 ダンブルドアの机へ、封筒を落とす。

 

 アメリア・ボーンズ。

 

 緊急。

 

 ダンブルドアが読む。

 

 表情が変わる。

 

「何が?」

 

 マクゴナガルが尋ねる。

 

「魔法省が、クラウチ邸の捜索へ入った」

 

「ジュニアは?」

 

「発見された」

 

 室内が静まる。

 

「生きている?」

 

 ハリーが確認する。

 

「ああ」

 

「クラウチ・シニアは?」

 

「抵抗せず、事実を認めた」

 

「服従の呪文は?」

 

「ジュニアに掛けられていた痕跡を確認」

 

「ウィンキーは?」

 

「保護された」

 

 まず。

 

 終わった。

 

 クラウチ・ジュニア。

 

 前世で、最も有能だった死喰い人。

 

 ホグワーツへ来る前に。

 

 ムーディへ変身する前に。

 

 ハリーを墓地へ送る前に。

 

 捕まえた。

 

「ただし」

 

 ダンブルドアが続ける。

 

「問題がある」

 

「何です?」

 

「捜索時、ジュニアは自分では魔法を使えない状態だった」

 

「服従の呪文の影響?」

 

「それだけではない」

 

 手紙。

 

「左腕の闇の印が、最近焼けた痕跡がある」

 

「ヴォルデモートが呼んだ」

 

 スネイプが自分の左腕へ触れる。

 

 ローブの下。

 

 闇の印。

 

「私の印には、まだ明確な反応はない」

 

「なぜ、クラウチ・ジュニアだけ?」

 

 リーマスが尋ねる。

 

「忠誠心?」

 

 ハリーは言う。

 

「最も強く繋がっている者へ、先に呼びかけた」

 

「ジュニアは応えられなかった」

 

「父親に支配されていたから」

 

「なら、闇の帝王は、彼の居場所を知った可能性がある」

 

 スネイプが言う。

 

「魔法省へ移送される途中を狙う?」

 

「あり得る」

 

 アメリアも警戒している。

 

 通常のアズカバンではない。

 

 魔法省本部。

 

 高位の封印室。

 

 吸魂鬼は使わない。

 

 自殺防止。

 

 変身防止。

 

 憑依防止。

 

 それでも。

 

「ヴォルデモートには協力者がいる」

 

 ハリーは言う。

 

「クラウチ・ジュニアを救出しようとするかもしれない」

 

「魔法省へ行きますか?」

 

 マクゴナガルが尋ねる。

 

「今度は、正式に協力を求めます」

 

「ハリーは学校へ残る」

 

 シリウスが即座に言う。

 

「でも」

 

「約束しただろ。何でも自分で行かない」

 

「情報を持っています」

 

「ダンブルドアとスネイプが行く」

 

「シリウスも?」

 

「俺は魔法省の不当収監の被害者として、監視役になる」

 

「便利な立場ですね」

 

「今年は働く年らしいからな」

 

 マクゴナガルが頷く。

 

「ハリーは学校に残ります」

 

「僕の意見は?」

 

「却下です」

 

「まだ言ってません」

 

「行きたいのでしょう」

 

「はい」

 

「却下です」

 

 多数決ですらない。

 

 教師の命令。

 

「分かりました」

 

 今回は従う。

 

 ダンブルドア。

 

 スネイプ。

 

 シリウス。

 

 三人が魔法省へ。

 

 リーマスは学校。

 

 マクゴナガルも残る。

 

「新聞の件は、まだ終わっていませんからね」

 

 マクゴナガルが言う。

 

「リータとの交渉?」

 

「私も同席します」

 

「なぜ?」

 

「あなた一人では、条件を必要以上に厳しくする可能性があります」

 

「厳しい方が」

 

「脅迫にならない範囲を守ります」

 

「すでに脅迫だろ」

 

 シリウスが言う。

 

「言わないでください」

 

「俺はブラック家の法務担当も出せるぞ」

 

「それは助かります」

 

 リータ・スキーターとの面会は、翌日。

 

 ホグズミード。

 

 三本の箒の奥。

 

 個室。

 

 ハリー。

 

 マクゴナガル。

 

 ブラック家の法務代理人、オクタヴィウス。

 

 リータ。

 

 鮮やかなローブ。

 

 宝石を嵌めた眼鏡。

 

 羽根ペン。

 

「ハリー・ポッター」

 

 リータは満面の笑み。

 

「まさか、情報提供者があなたとは」

 

「声を抑えて」

 

「もちろん。記者には、情報源を守る義務があります」

 

「あなたが守るとは思っていません」

 

「失礼ね」

 

「未登録アニメーガス」

 

 リータの笑顔が止まる。

 

「何の話?」

 

「甲虫」

 

「随分と可愛らしい想像力」

 

「触角。眼鏡に似た模様。小さな虫として会話を盗み聞きする」

 

 リータの指が、机の下へ動く。

 

「杖を抜かないでください」

 

 マクゴナガルが言う。

 

「変身して逃げても、部屋は封鎖しています」

 

「これは、罠?」

 

「交渉です」

 

 ハリーは契約書を出す。

 

「記事は有効でした」

 

「当然でしょう」

 

「クラウチ・ジュニアは発見された」

 

 リータの目が輝く。

 

「本当に?」

 

「魔法省が、間もなく発表します」

 

「独占取材を」

 

「それはアメリアさんへ」

 

「あなたは、まだ知っている」

 

「次の記事について条件があります」

 

「条件?」

 

「事実と推測を分ける。情報源を明かさない。クラウチ夫人の事件に無関係な私生活を掘らない。ウィンキーの名前を出さない」

 

「屋敷しもべ妖精でしょう?」

 

「命令に従っていただけです」

 

「事件の中心人物よ」

 

「被害者でもある」

 

「読者は知りたがる」

 

「必要ありません」

 

「あなたが決めることでは」

 

「拒否すれば、未登録アニメーガスとして通報します」

 

 リータの笑顔が消える。

 

「脅迫?」

 

「事実の通知です」

 

「あなた、十三歳でしょう」

 

「身体は」

 

「ハリー」

 

 マクゴナガルが低く呼ぶ。

 

「余計なことを言わない」

 

「はい」

 

 オクタヴィウスが契約書を前へ出す。

 

「違法な契約ではありません」

 

「私の秘密を材料にしている」

 

「未登録アニメーガスであること自体が違法です」

 

「あなたたちも、情報を利用した」

 

「その点を含め」

 

 代理人は冷静。

 

「スキーター氏が契約を履行する限り、ブラック家およびハリー・ポッター氏は、現在保有する証拠を魔法省へ提出しない」

 

「ブラック家?」

 

「シリウス・ブラック氏は、本件契約の保証人です」

 

「彼まで?」

 

「新聞を利用した責任があります」

 

 実際には、シリウスは記事の前に詳しく知らなかった。

 

 だが。

 

 ハリーの保護者として、後処理へ参加した。

 

「契約期間は?」

 

「一年」

 

「短いわね」

 

「一年後、再交渉」

 

「その間、あなたから情報を?」

 

「必要な時に」

 

「独占?」

 

「内容によります」

 

「他紙へ流さない?」

 

「約束しません」

 

「それでは」

 

「拒否しますか?」

 

 リータは契約書を見る。

 

 記事。

 

 大事件。

 

 クラウチ・ジュニア。

 

 魔法省の失態。

 

 記者として、手放せない。

 

「一つ追加」

 

 リータが言う。

 

「ハリー・ポッターへの正式な取材機会」

 

「内容は?」

 

「学校生活。未来の知識。ヴォルデモート」

 

「未来の知識は話しません」

 

「では、シリウス・ブラックとの関係」

 

「本人の同意があれば」

 

「年に三回」

 

「一回」

 

「二回」

 

「質問は事前提出」

 

「記事の修正権は渡さない」

 

「事実誤認の訂正権」

 

「見出しは私が決める」

 

「構いません」

 

「ハリー」

 

 マクゴナガルが言う。

 

「簡単に取材を受ける約束をしない」

 

「情報経路として維持するためです」

 

「あなた自身を商品にしないでください」

 

 言葉が刺さる。

 

 前世。

 

 有名人。

 

 英雄。

 

 闇払い局長。

 

 必要な時には、自分の名前を使った。

 

 世論。

 

 政策。

 

 予算。

 

 組織。

 

 今回も同じ。

 

「一回」

 

 ハリーは言う。

 

「シリウス同席。質問は事前提出。答えたくないことには答えない」

 

 リータは考える。

 

「写真撮影」

 

「一枚」

 

「三枚」

 

「一枚」

 

「二枚」

 

「一枚です」

 

「本当に可愛げがないわね」

 

「よく言われます」

 

 契約成立。

 

 魔法による署名。

 

 違反すれば、双方に通知。

 

 リータは羊皮紙をしまう。

 

「最後に一つ」

 

「取材ではありません」

 

「確認よ」

 

 眼鏡の奥。

 

 記者の目。

 

「クラウチ・ジュニアの次は、誰?」

 

 ハリーは答えない。

 

「あなたは、まだ何か知っている」

 

「知っています」

 

「記事になる?」

 

「場合によっては」

 

「連絡を待っているわ」

 

 リータは立ち上がる。

 

「それから、ハリー」

 

「何です?」

 

「あなたは、私を使っているつもりでしょうけれど」

 

「はい」

 

「私も、あなたを使う」

 

「分かっています」

 

「なら、よい関係になれそうね」

 

「必要な範囲で」

 

 リータは笑い、部屋を出た。

 

 マクゴナガルが深く息を吐く。

 

「胃が痛くなりました」

 

「すみません」

 

「本当に?」

 

「はい」

 

「今後、新聞へ情報を流す前に相談する」

 

「約束します」

 

「反対されても?」

 

「議論します」

 

「隠れて実行しない?」

 

「しません」

 

「本当に?」

 

「……緊急時を除いて」

 

「ハリー」

 

「相談する時間がない場合は」

 

「連絡手段はいくらでもあります」

 

「分かりました」

 

「約束?」

 

「約束します」

 

 学校へ戻る。

 

 その日の夕方。

 

 魔法省の公式発表。

 

 バーティ・クラウチ・ジュニアの生存。

 

 クラウチ・シニアの逮捕。

 

 違法脱獄。

 

 司法妨害。

 

 服従の呪文。

 

 魔法省は、独立調査委員会を設置。

 

 ファッジは会見で、厳正な調査を約束した。

 

 シリウスの冤罪に続く大失態。

 

 世論は荒れた。

 

 クラウチ・ジュニアは、吸魂鬼のいない特別施設へ収監。

 

 真実薬による尋問は、本人の権利と証拠能力を巡って議論。

 

 ただし。

 

 ヴォルデモートの復活計画へ関与していないか。

 

 闇の印が反応した理由。

 

 協力者。

 

 それらは、これから調べる。

 

 ハリーは、破壊済みの分霊箱一覧を見る。

 

 日記。

 

 ロケット。

 

 指輪。

 

 髪飾り。

 

 ナギニ。

 

 五つ。

 

 残り。

 

 カップ。

 

 ハリー自身。

 

 ヴォルデモート本体。

 

 敵の有力な駒。

 

 ピーター。

 

 収監。

 

 クラウチ・ジュニア。

 

 収監。

 

 クィレル。

 

 生存しているが、ヴォルデモートから分離済み。

 

 それでも。

 

 リドル家には、正体不明の協力者がいる。

 

 未来にいなかった者。

 

 あるいは。

 

 未来では、表へ出なかった者。

 

「改変の影響か」

 

 ハリーは呟く。

 

 前世の知識で、敵を先に潰す。

 

 そのたび。

 

 空いた場所へ、別の誰かが入る。

 

 未来は、埋め合わせるように形を変える。

 

 ヴォルデモートは、諦めない。

 

 ナギニを失った。

 

 クラウチ・ジュニアも失った。

 

 だから。

 

 次は、より予測できない方法を使う。

 

 扉が開く。

 

 ロンとハーマイオニー。

 

「夕食」

 

 ロンが言う。

 

「後で」

 

「駄目」

 

 ハーマイオニーが羊皮紙を取り上げる。

 

「食事を抜かない約束でしょう」

 

「それは君の」

 

「自分にも適用すると言ったわ」

 

「今、区切りが」

 

「未来の知識を理由に、今の生活を壊さない」

 

 マクゴナガルの言葉。

 

 ハーマイオニーも使う。

 

「分かった」

 

 ハリーは立ち上がる。

 

「今日は、何も起きてないよな?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「クラウチ・ジュニアが見つかった」

 

「大事件だろ」

 

「今、この瞬間は」

 

「なら夕食」

 

 三人で談話室を出る。

 

 廊下。

 

 階段。

 

 生徒の声。

 

 普通の学校。

 

 少なくとも。

 

 見た目だけは。

 

 大広間へ向かう途中。

 

 額の傷が、僅かに疼いた。

 

 弱い。

 

 一瞬。

 

 怒りではない。

 

 笑い。

 

 ヴォルデモート。

 

 何かを失った者の感情ではない。

 

 別の手段を見つけた者の感情。

 

 ハリーは足を止める。

 

「どうしたの?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「今、笑った」

 

「誰が?」

 

「ヴォルデモート」

 

 ロンの顔が引きつる。

 

「何が面白いんだ?」

 

「分からない」

 

 閉心。

 

 繋がりを切る。

 

 痛みは消える。

 

「先生へ?」

 

「ああ」

 

 夕食の前に。

 

 ダンブルドアへ報告。

 

 もう隠さない。

 

 もう一人で判断しない。

 

 ハリーは進行方向を変える。

 

「食事は?」

 

 ロンが言う。

 

「報告後」

 

「一緒に行く」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「必要ない」

 

「一人で行かない」

 

「校長室だぞ」

 

「それでも」

 

 ロンも頷く。

 

「食事が遅れるなら、僕らも一緒だ」

 

「なぜ?」

 

「三人でいるって言っただろ」

 

 いつ。

 

 明確に約束したわけではない。

 

 それでも。

 

 ハリーは反論しなかった。

 

「分かった」

 

 三人で校長室へ向かう。

 

 ヴォルデモートは。

 

 次の手を見つけた。

 

 だが。

 

 ハリーも、前世とは違う。

 

 一人ではない。

 

 情報を隠さない。

 

 仕事を分ける。

 

 失敗した方法も見直す。

 

 汚れた手段を使ったなら、その責任から逃げない。

 

 二度目の三年目。

 

 本来なら、アズカバンの囚人を追うはずだった一年。

 

 その囚人は、今やブラック家当主として働いている。

 

 未来でハリーを墓地へ送った男も、すでに捕まった。

 

 ナギニも死んだ。

 

 それでも。

 

 闇の帝王は、まだ笑っている。

 

「次は何をするつもりだ」

 

 ハリーは小さく呟く。

 

 答えはない。

 

 ただ。

 

 額の傷の奥に残った、冷たい感覚だけが。

 

 前世にはなかった戦いが、すでに始まっていることを告げていた。

 

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