80歳のハリーポッターが11歳に戻った場合   作:金縛り

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3年目 世界一安全な金庫への不法侵入

 三年目が終わる頃。

 

 ハリーの机の上には、一枚の羊皮紙が置かれていた。

 

 書かれているのは、ヴォルデモートの魂の所在。

 

 最初にこの一覧を作った時は、ほとんどの項目が手つかずだった。

 

 今は違う。

 

 トム・リドルの日記。

 

 破壊済み。

 

 マールヴォロ・ゴーントの指輪。

 

 破壊済み。

 

 サラザール・スリザリンのロケット。

 

 破壊済み。

 

 ロウェナ・レイブンクローの髪飾り。

 

 破壊済み。

 

 ナギニ。

 

 破壊済み。

 

 確認できていた分霊箱のうち、五つを消した。

 

 残っているのは。

 

 ヘルガ・ハッフルパフのカップ。

 

 ハリー自身に付着した魂の欠片。

 

 そして、ヴォルデモート本体。

 

「随分と減ったな」

 

 背後から、ロンが羊皮紙を覗き込む。

 

「勝手に見ないで」

 

「もう全部知ってるだろ」

 

「知っていることと、机の上の物を見ることは別だ」

 

「ハーマイオニーみたいなこと言うな」

 

「何の話?」

 

 本人が、机の反対側から顔を上げた。

 

 場所はグリフィンドール談話室。

 

 年度末試験は終わった。

 

 寮対抗杯も、今年は大きな事件の加点なしで決着した。

 

 グリフィンドールは優勝できなかった。

 

 ロンは少し不満そうだったが、ハリーはむしろ安心している。

 

 毎年、最後に数百点を追加して逆転する学校運営の方がおかしい。

 

「分霊箱が、あと三つだって話」

 

 ロンが言う。

 

「正確には、破壊すべき対象が三つ」

 

 ハーマイオニーが訂正する。

 

「ヴォルデモート本人は分霊箱ではないわ」

 

「同じようなものだろ」

 

「違う」

 

「最後に倒すんだから」

 

「分類の話よ」

 

「二人とも」

 

 ハリーが止める。

 

「最後に倒す順番とは限らない」

 

「どういうこと?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「本体より先に、僕の中の欠片を取れる可能性もある」

 

「方法が見つかったの?」

 

「まだ」

 

「では、カップが先?」

 

「ああ」

 

 羊皮紙の一番下。

 

 ヘルガ・ハッフルパフのカップ。

 

 保管場所。

 

 グリンゴッツ魔法銀行。

 

 レストレンジ家の金庫。

 

 前世では、ベラトリックス・レストレンジが保管していた。

 

 正確には。

 

 ヴォルデモートから預けられた。

 

 本人は、中身が分霊箱だと知らなかった可能性が高い。

 

 ただ。

 

 極めて重要な物。

 

 そう認識していた。

 

 だから。

 

 金庫へ侵入したハリーたちが、グリフィンドールの剣を持っていることよりも。

 

 他に何を盗んだのか。

 

 それを恐れた。

 

「グリンゴッツへ入る方法は?」

 

 ロンが聞く。

 

「前世と同じ方法は使わない」

 

「どんな方法だった?」

 

「ハーマイオニーが、ポリジュース薬でベラトリックスへ変身した」

 

 ハーマイオニーの顔が引きつる。

 

「私が?」

 

「ああ」

 

「本人の髪は?」

 

「マルフォイ邸で拾った」

 

「どうしてマルフォイ邸にいたの?」

 

「捕まっていた」

 

「何に?」

 

「死喰い人に」

 

「どうして?」

 

「話すと長い」

 

「いつもそう言って、重要なところを省くわね」

 

「今はカップの話だ」

 

 前世。

 

 ベラトリックスへ変身したハーマイオニー。

 

 透明マントの下に隠れたハリー。

 

 服従の呪文を使われた小鬼。

 

 グリンゴッツの地下。

 

 増殖する財宝。

 

 火傷させる呪い。

 

 ドラゴン。

 

 脱出。

 

 どれも。

 

 合法とは言い難い。

 

「今回は、もっと静かに入る」

 

 ハリーが言う。

 

「合法的に?」

 

 ハーマイオニーの質問。

 

「侵入する時点で違法だ」

 

「堂々と言わないで」

 

「でも、被害は最小限にする」

 

「小鬼を脅さない?」

 

「脅さない」

 

「服従の呪文も?」

 

「使わない」

 

「ドラゴンも逃がさない?」

 

「今回は、地下にドラゴンがいるかも確認しない」

 

「それで、どうやって?」

 

 ハリーは答える。

 

「妖精魔法」

 

 ハーマイオニーが黙る。

 

 ロンも黙る。

 

「また?」

 

「まただ」

 

「本当に、妖精魔法ですべて解決してない?」

 

 ロンが言う。

 

「分霊箱を壊しているのは、バジリスクの牙や普通の魔法だ」

 

「侵入と移動は、ほぼ妖精魔法よ」

 

「便利だから」

 

「それで済ませていいのかしら」

 

 ハーマイオニーは本気で不安そうだった。

 

「屋敷しもべ妖精が、一斉に魔法使いへ反乱したら」

 

「魔法界は終わる」

 

 ハリーは即答した。

 

「やっぱり?」

 

「ホグワーツの結界を無視する。純血家の屋敷へ出入りできる。人間の防護とは別系統。魔法省にも、グリンゴッツにも届く可能性がある」

 

「怖いな」

 

 ロンが言う。

 

「だから、待遇を改善しろと言っている」

 

「反乱防止のために?」

 

「それだけではない」

 

「先に、その理由が出るところがハリーよね」

 

 妖精を奴隷として扱うことが間違っている。

 

 同時に。

 

 魔法使いが、自分たちより自由な移動魔法を持つ存在を、永遠に無条件で従うと考えていることも危険。

 

「でも、グリンゴッツは小鬼の魔法よ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「ホグワーツや人間の屋敷と同じとは限らない」

 

「だから、試す」

 

「いきなりレストレンジ家の金庫へ?」

 

「自分の金庫」

 

 ロンが眉をひそめる。

 

「自分のなら、普通に入ればいいだろ」

 

「普通に入るシリウスと、妖精魔法で入る僕。二つの経路を試す」

 

「失敗したら?」

 

「透明マントを被って待つ」

 

「どこで?」

 

「金庫の中」

 

「入れたなら成功じゃない?」

 

 ロンが言う。

 

「入れたが、出られない場合」

 

「ああ」

 

「シリウスが通常経路で来た時に合流する」

 

「入れなかった場合は?」

 

「その場から動かない」

 

「その場って?」

 

「グリンゴッツの受付近く」

 

 ハーマイオニーが腕を組む。

 

「危険性は?」

 

「低い」

 

「ハリーが低いと言う時は、信用できない」

 

「今回は本当に低い」

 

「誰が同行するの?」

 

「シリウス」

 

「クリーチャーは?」

 

「グリンゴッツ内部へ入れるか分からない」

 

「連れていった方が安全では?」

 

「小鬼が、屋敷しもべ妖精を警戒する可能性がある」

 

「妖精魔法を使うのに?」

 

「僕が使うとは思わない」

 

 小鬼は。

 

 人間が、屋敷しもべ妖精の魔法を習得しているとは考えない。

 

 そもそも。

 

 ハリー自身も、前世でそんなことが可能だとは思っていなかった。

 

 今世。

 

 必要の部屋で妖精たちへ教わった。

 

 人間の魔法。

 

 杖。

 

 呪文。

 

 妖精魔法。

 

 違う。

 

 それでも、魔力を持つ存在が構造を理解すれば、完全ではないにせよ模倣できる。

 

「マクゴナガル先生たちには?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「まだ」

 

「話して」

 

「実験だけだ」

 

「グリンゴッツへ無断で転移する実験よ」

 

「自分の金庫だ」

 

「場所が自分の物でも、銀行の防護を無視するでしょう」

 

「侵入できると決まったわけではない」

 

「だから実験するんでしょう!」

 

 正しい。

 

「シリウスには話した」

 

「保護者だけ?」

 

「名付け親」

 

「学校側にも」

 

「夏休みだ」

 

「ダンブルドア先生か、スネイプ先生へ」

 

「ダンブルドア先生へ話せば、同行したがる」

 

「同行させれば?」

 

「小鬼と話を始める」

 

「交渉できるなら、そちらの方がいいでしょう」

 

「正面から分霊箱が入った金庫を開けろと?」

 

「事情を説明して」

 

「小鬼は、魔法使いの戦争へ協力しない」

 

 グリンゴッツは。

 

 魔法使いの組織ではない。

 

 小鬼の銀行。

 

 契約。

 

 所有権。

 

 金庫。

 

 信用。

 

 中に危険な物がある。

 

 だから開けろ。

 

 それを認めれば、銀行の根幹が揺らぐ。

 

「レストレンジ家は収監中よ」

 

「だからこそ、所有権の問題が複雑になる」

 

「シリウスはブラック家の当主でしょう?」

 

「ベラトリックスは、結婚してレストレンジ家に入った」

 

「実家側の権利は?」

 

「調査中」

 

 シリウスが。

 

 ブラック家の法務代理人。

 

 小鬼。

 

 古い契約。

 

 相続。

 

 財産管理。

 

 調べている。

 

 だが。

 

 合法的な経路だけで、レストレンジ家の金庫へ入るのは難しい。

 

「まず、できるか確認する」

 

 ハリーは言った。

 

「できなければ、別の方法」

 

「できたら?」

 

「レストレンジ家の金庫への侵入を検討する」

 

「すぐに?」

 

「準備をしてから」

 

「私たちにも話す?」

 

「ああ」

 

「教師にも?」

 

 少し迷う。

 

「侵入前には」

 

「実験前に話して」

 

「ハーマイオニー」

 

「未来のあなたが、グリンゴッツへ違法侵入した経験を持っているからこそ、今回は止める人が必要なの」

 

「シリウスがいる」

 

「一緒にやる人でしょう」

 

「止める役ではないな」

 

 ロンが言う。

 

 ハリーは黙る。

 

「スネイプ先生」

 

 ハーマイオニーが提案する。

 

「なぜ?」

 

「ダンブルドア先生より、侵入を止めずに危険性だけ確認してくれそう」

 

「評価が酷いな」

 

 ロンが言う。

 

「でも正しい」

 

「本人が聞いたら?」

 

「減点される」

 

「もう学年末だ」

 

「来年度分から引かれるかも」

 

「さすがにない」

 

 三日後。

 

 スネイプの研究室。

 

 ハリーは計画を説明した。

 

 シリウスもいる。

 

「馬鹿か」

 

 最初の言葉だった。

 

「まだ実行していません」

 

「計画した時点で十分だ」

 

「自分の金庫です」

 

「グリンゴッツの防護を破る」

 

「破れるか確認するだけです」

 

「破れた場合、小鬼へ感知される可能性は?」

 

「分かりません」

 

「転移先が金庫内ではなく、岩盤の中だった場合は?」

 

「妖精魔法は、目的地の空間を認識して」

 

「完全に習得したのか?」

 

「かなり」

 

「完全かと聞いている」

 

「いいえ」

 

「却下だ」

 

「先生」

 

「却下だ」

 

「でも」

 

「頭だけ岩へ埋まった状態で発見されたいのか?」

 

「妖精魔法では、そのような失敗は」

 

「過去に、人間が同じ魔法でグリンゴッツへ侵入した記録は?」

 

「知りません」

 

「ならば、何を根拠に安全だと?」

 

 ハリーは答えない。

 

 感覚。

 

 経験。

 

 何度も使用。

 

 だが。

 

 グリンゴッツは初めて。

 

「対策を考えます」

 

「中止しろ」

 

「カップは必要です」

 

「今日である必要はない」

 

「実験だけでも」

 

「ポッター」

 

「何です?」

 

「お前は、最近人に任せることを覚えたと思っていた」

 

「任せる相手がいません」

 

「小鬼との交渉は?」

 

「難しい」

 

「難しいことと、不可能は違う」

 

「時間が掛かります」

 

「闇の帝王は、今すぐ完全復活するのか?」

 

「可能性はあります」

 

「可能性で銀行の防護を破るな」

 

 正論。

 

 シリウスが口を挟む。

 

「なら、どうする?」

 

「ブラック家の法的権利を調べろ」

 

「調べてる」

 

「結果は?」

 

「ベラトリックスはレストレンジ家の人間だ。ブラック家当主として直接金庫へ入る権利はない」

 

「収監者の財産管理は?」

 

「夫のロドルファスも収監中。次の管理権者は、レストレンジ家側の親族」

 

「誰だ?」

 

「面倒な純血家が何人か」

 

「買収は?」

 

「できるかもしれない」

 

 ハリーがシリウスを見る。

 

「できるんですか?」

 

「金ならある」

 

「なぜ先に」

 

「相手が怪しむ」

 

「何を?」

 

「ブラック家当主が、突然レストレンジ家の金庫へ関心を持つ理由」

 

「適当な理由を」

 

「純血家の財産争いでは、適当な理由が一番怪しい」

 

 スネイプが机を指で叩く。

 

「金庫の中に、何があるかを確認する方法は?」

 

「契約上、無理だ」

 

「ベラトリックス本人へ聞く」

 

 ハリーが言う。

 

 二人が見る。

 

「アズカバンで?」

 

「面会」

 

「何を聞く?」

 

「ヴォルデモートから預かった物が、金庫にあるか」

 

「答えると思うか?」

 

「反応は見られる」

 

 スネイプが考える。

 

「開心術は、アズカバンの面会規則で禁止されている」

 

「使わなくても」

 

「ベラトリックスは狂信者だ。お前が分霊箱を知っていると分かれば、闇の帝王へ伝える方法を探す」

 

「すでに知られている可能性が高い」

 

「カップの場所まで知られていると確信させるな」

 

 また正しい。

 

「では」

 

 ハリーは言う。

 

「実験だけ」

 

「話を戻すな」

 

「僕の金庫に妖精魔法で入れるか確認できれば、最終手段があると分かる」

 

「最終手段を持つために危険を冒す?」

 

「選択肢です」

 

 スネイプはハリーを睨む。

 

 シリウスを見る。

 

「お前は止めないのか?」

 

「止めたら、こいつは一人でやる」

 

「やりません」

 

「本当に?」

 

「最近は」

 

「最近は、という言い方が信用できない」

 

 シリウスは続ける。

 

「だから、俺が一緒に行く。通常経路で金庫へ向かう。ハリーが失敗したら、すぐに回収する」

 

「失敗の種類によっては回収できん」

 

「クリーチャーを待機させる」

 

「小鬼に感知される」

 

「銀行の外」

 

「内部で転移不能になった場合は?」

 

「透明マント」

 

「解決になっていない」

 

 議論。

 

 一時間。

 

 最終的に。

 

 条件付き。

 

 スネイプが許可する立場ではない。

 

 だが。

 

 危険性を下げるため、複数の条件を出した。

 

 一。

 

 事前に、自分の金庫の正確な構造を思い出す。

 

 二。

 

 妖精魔法で、より強い防護が掛かったブラック家の地下金庫へ転移実験を行う。

 

 三。

 

 身体の一部だけが出現した場合に備え、即座に元の位置へ戻る術式を重ねる。

 

 四。

 

 シリウスが通常経路で、同時に金庫へ向かう。

 

 五。

 

 一定時間ハリーが現れなければ、小鬼へ正直に話す。

 

「正直に?」

 

 ハリーが尋ねた。

 

「名付け子が無断で金庫へ入ろうとしたと」

 

「それは」

 

「条件だ」

 

「小鬼との関係が」

 

「死ぬよりましだ」

 

「分かりました」

 

 六。

 

 実験で成功しても、そのままレストレンジ家の金庫へ行かない。

 

「当然です」

 

「お前の当然は信用していない」

 

「行きません」

 

「約束?」

 

「約束します」

 

 マクゴナガルに似てきた。

 

 本人へは言わない。

 

 終業式。

 

 ホグワーツ特急。

 

 キングズ・クロス。

 

 シリウスが迎えに来ていた。

 

 今年は、駅へ立つ姿にも少し慣れたらしい。

 

 周囲から見られても、以前ほど身体を硬くしない。

 

「三年目、お疲れ」

 

「シリウスも」

 

「俺はかなり働いたぞ」

 

「認めます」

 

「もっと」

 

「非常に働きました」

 

「聞いたか、クリーチャー」

 

「聞いております」

 

「記録に」

 

「残しません」

 

 いつものやり取り。

 

 プリベット通り。

 

 母の守り。

 

 今年も、最初の二週間はダーズリー家で過ごす。

 

 バーノンは。

 

 シリウスが無罪になった新聞記事を見ていた。

 

「お前の名付け親という男は、本当に犯罪者ではないんだな?」

 

「冤罪でした」

 

「十三年も牢屋にいたんだろう」

 

「裁判なしで」

 

「その社会は、本当に大丈夫なのか?」

 

「改善中です」

 

「学校の校長は?」

 

「改善中です」

 

「教師は?」

 

「一人は逮捕されましたが、今年は優秀でした」

 

「それを大丈夫とは言わん!」

 

 ダドリーは、シリウスが黒い犬へ変身できると聞き、見たがった。

 

 シリウスは変身した。

 

 巨大な黒犬。

 

 ダドリーは最初こそ驚いたが。

 

 十分後には、背中へ乗ろうとした。

 

 シリウスは逃げた。

 

「お前の従兄弟、昔より重くなってないか?」

 

「成長期です」

 

「俺の背骨が折れる」

 

「アズカバンで弱っていますから」

 

「傷つく言い方をするな」

 

 プリベット通りでの滞在を終え。

 

 グリモールド・プレイスへ。

 

 実験前。

 

 ブラック家の地下。

 

 クリーチャーの案内。

 

 古い金庫。

 

 人間の侵入防止。

 

 血統。

 

 当主。

 

 家の魔法。

 

「ここへ転移します」

 

 ハリーが言う。

 

「現在地から?」

 

「二階の応接室」

 

「近すぎないか?」

 

「最初は」

 

 応接室。

 

 集中。

 

 地下金庫。

 

 自分が中にいる。

 

 妖精魔法。

 

 空間。

 

 移動。

 

 視界が変わる。

 

 冷たい石壁。

 

 金庫。

 

 成功。

 

 戻る。

 

 今度は、屋敷の外。

 

 成功。

 

 次に。

 

 ロンドンの別の場所。

 

 距離を伸ばす。

 

 成功。

 

 スネイプが作った帰還術式も、正常に動く。

 

「問題ないな」

 

 シリウスが言う。

 

「だからといって」

 

 ハーマイオニーが睨む。

 

 ロンと共に、夏休みの数日をグリモールド・プレイスで過ごしている。

 

「グリンゴッツは別よ」

 

「分かってる」

 

「本当に?」

 

「行くのは自分の金庫だけ」

 

「成功しても、他へ行かない」

 

「約束した」

 

「もう一度」

 

「行かない」

 

 実験当日。

 

 ダイアゴン横丁。

 

 グリンゴッツ魔法銀行。

 

 白い建物。

 

 青銅の扉。

 

 銀色の扉。

 

 小鬼。

 

 警告文。

 

『入る者よ、覚悟せよ。

 

 強欲の罪に何が待つか――』

 

「改めて読むと、銀行の入口に書く文章ではないな」

 

 シリウスが言う。

 

「侵入者への警告です」

 

「客も読む」

 

「防犯意識が高い」

 

「脅してるだけだろ」

 

 シリウスは。

 

 ハリーの金庫から、学用品購入のため金貨を引き出す。

 

 正式な委任状。

 

 名付け親。

 

 保護者に近い立場。

 

 ブラック家当主。

 

 必要な書類は揃えた。

 

 受付。

 

 小鬼が確認。

 

「ハリー・ジェームズ・ポッター本人は?」

 

「今日は別の用事がある」

 

 シリウスが答える。

 

 ハリーは。

 

 すでに透明マントの下。

 

 受付の柱の陰。

 

 地図。

 

 金庫の記憶。

 

 前世。

 

 ハグリッドと一緒に入った。

 

 地下。

 

 トロッコ。

 

 鍵。

 

 金庫。

 

 内部。

 

 石。

 

 金貨。

 

「では、ご案内します」

 

 小鬼が立ち上がる。

 

 シリウスが歩き出す。

 

 合図。

 

 ハリーは。

 

 柱の陰で集中する。

 

 ポッター家の金庫。

 

 自分の金庫。

 

 内部。

 

 妖精魔法。

 

 移動。

 

 一瞬。

 

 身体が引かれる。

 

 ホグワーツ。

 

 必要の部屋。

 

 グリモールド・プレイス。

 

 それらより強い抵抗。

 

 空間が。

 

 押し返す。

 

 小鬼の魔法。

 

 侵入を拒む。

 

「やはり」

 

 戻るべきか。

 

 だが。

 

 完全に閉じてはいない。

 

 人間の姿現しとは違う。

 

 妖精魔法。

 

 所有者。

 

 自分の金庫。

 

 鍵。

 

 契約。

 

 ハリー・ポッター。

 

 自分の物。

 

 その認識。

 

 抵抗が僅かに弱まる。

 

 押す。

 

 空間。

 

 抜ける。

 

 足元が消える。

 

 暗闇。

 

 石。

 

 金属。

 

 冷たい空気。

 

 ハリーは転移した。

 

 目を開ける。

 

 金貨の山。

 

 銀貨。

 

 クヌート銅貨。

 

 古い箱。

 

 自分の金庫。

 

「成功」

 

 身体を確認。

 

 両手。

 

 両足。

 

 頭。

 

 ローブ。

 

 透明マント。

 

 すべてある。

 

 異常なし。

 

 額の傷も反応しない。

 

 周囲。

 

 小鬼の警報。

 

 音。

 

 魔力。

 

 何もない。

 

 少なくとも。

 

 即座には感知されていない。

 

 ハリーは、透明マントを被る。

 

 待つ。

 

 約束。

 

 そのまま別の金庫へ行かない。

 

 数分後。

 

 外から音。

 

 鍵。

 

 扉が開く。

 

 小鬼。

 

 シリウス。

 

「こちらが、ポッター家の金庫です」

 

 小鬼が言う。

 

 シリウスは中へ入る。

 

 自然に。

 

 周囲を見る。

 

 ハリーの姿は見えない。

 

 だが。

 

 合図。

 

 金貨を一枚。

 

 足元へ落とす。

 

 シリウスの近くで、ハリーが杖を一度振る。

 

 小さな風。

 

 成功を伝える。

 

 シリウスの表情は変わらない。

 

 金貨を袋へ入れる。

 

「これでいい」

 

「他に?」

 

「ない」

 

 二人が出る。

 

 扉が閉まる直前。

 

 ハリーは。

 

 妖精魔法。

 

 シリウスの後ろ。

 

 トロッコの脇。

 

 透明マントのまま移動。

 

 成功。

 

 帰還できた。

 

 銀行の外。

 

 ダイアゴン横丁。

 

 人の少ない路地。

 

 透明マントを脱ぐ。

 

「入れました」

 

「見れば分かる」

 

 シリウスは笑う。

 

「本当にいたな」

 

「気づいてました?」

 

「金貨を落とした時、風が来た」

 

「合図です」

 

「分かってた」

 

「小鬼は?」

 

「気づいてない」

 

「警報も?」

 

「何も」

 

 ハリーは息を吐く。

 

 成功。

 

 グリンゴッツ。

 

 自分の金庫。

 

 小鬼の防護。

 

 妖精魔法なら、所有者という条件を利用して入れる。

 

「問題は」

 

 シリウスが言う。

 

「レストレンジ家の金庫は、お前の物じゃない」

 

「はい」

 

「今の抵抗は?」

 

「強かったです」

 

「自分の金庫でも?」

 

「所有権を意識すると、少し弱まりました」

 

「なら、他人の金庫では」

 

「さらに強い」

 

「入れない可能性もある」

 

「あります」

 

 でも。

 

 完全に閉じてはいなかった。

 

 グリンゴッツの防護は。

 

 妖精魔法を排除するのではなく。

 

 所有者。

 

 契約。

 

 許可。

 

 それらで空間を固定している。

 

「鍵が必要かもしれない」

 

 ハリーが言う。

 

「ベラトリックスの?」

 

「物理的な鍵ではなく、金庫へ入る権利」

 

「どうやって?」

 

「代理権。相続権。所有者の魔力」

 

「結局、法的な方法か」

 

「一部だけでも」

 

 侵入する。

 

 ただし。

 

 防護を弱めるため、正当な権利を利用する。

 

「ナルシッサ」

 

 シリウスが言った。

 

「何が?」

 

「ベラトリックスの妹だ」

 

「ブラック家の?」

 

「ああ」

 

「レストレンジ家の金庫へ権利は?」

 

「普通はない」

 

「普通は?」

 

「ベラトリックスとロドルファスの双方が、長期収監。子もいない。レストレンジ家側の財産管理者はいるが」

 

「ブラック家から持ち込まれた品については?」

 

 シリウスが目を細くする。

 

「持参金や、実家由来の財産なら、ナルシッサや俺に確認権が生じる可能性がある」

 

「カップは?」

 

「ヴォルデモートから預かった物だ。実家由来ではない」

 

「でも、小鬼は中身の由来を知らない」

 

「ブラック家の家宝が混ざっている可能性を主張する?」

 

「金庫を開ける権利までは得られなくても、魔法的な抵抗を弱められるかもしれない」

 

「本当に、法律と不法侵入を組み合わせるんだな」

 

「使えるものは使います」

 

 シリウスが笑う。

 

「闇払い局長らしい」

 

「褒めています?」

 

「半分」

 

「残りは?」

 

「十三歳らしくない」

 

「今さらです」

 

 その夜。

 

 グリモールド・プレイス。

 

 報告。

 

 ハーマイオニー。

 

 ロン。

 

 クリーチャー。

 

 スネイプは、通信鏡の向こう。

 

「成功しました」

 

 ハリーが言う。

 

『だからといって、レストレンジ家の金庫へ行くな』

 

「行ってません」

 

『今後の話だ』

 

「準備してから」

 

『行く前提で話すな』

 

「カップを放置しますか?」

 

 通信鏡の向こう。

 

 スネイプが黙る。

 

『方法を詰める』

 

「はい」

 

『小鬼に感知されなかった根拠は?』

 

「警報なし。帰りも問題なし。シリウスも異常を確認していません」

 

『小鬼が黙って監視している可能性は?』

 

「あります」

 

『次に入った瞬間、捕縛される可能性も?』

 

「あります」

 

『ならば、成功とは言い切るな』

 

「侵入には成功しました」

 

『実用性は未確認だ』

 

「分かりました」

 

 ハーマイオニーが頷く。

 

「先生の言う通りよ」

 

「分かってる」

 

「本当に?」

 

「次は、情報を集める」

 

「何を?」

 

「レストレンジ家の金庫の場所。防護。所有権。内部の呪い」

 

「前世で入ったのでしょう?」

 

「場所は、案内されたから覚えていない」

 

「道順は?」

 

「トロッコが速すぎた」

 

「内部の呪いは?」

 

「触れた物が増殖して、熱くなる」

 

 ロンが顔をしかめる。

 

「財宝が増える?」

 

「ああ」

 

「いいことじゃ」

 

「触るたび増える。部屋を埋め尽くす。熱で焼かれる」

 

「悪いな」

 

「カップは?」

 

「財宝の山の中」

 

「正確な位置は?」

 

「前世では、上の方にあった」

 

「今回も同じとは限らないわ」

 

 ハーマイオニーが言う。

 

「ベラトリックスが動かしている可能性は?」

 

「収監中だから、十二年間は動いていない」

 

「小鬼が?」

 

「顧客の物へ触らないはずだ」

 

「なら、前世と同じ場所?」

 

「可能性は高い」

 

 クリーチャーが手を上げる。

 

「クリーチャーが申し上げても?」

 

「何?」

 

「レストレンジ家の金庫へ、屋敷しもべ妖精が入った記録を探すことは可能でございます」

 

「ブラック家の?」

 

「純血家同士では、婚姻の際に財産を運びます」

 

「ベラトリックスが結婚した時?」

 

「ブラック家からレストレンジ家へ、複数の品が移されました」

 

 シリウスがクリーチャーを見る。

 

「お前も行ったのか?」

 

「先代のクリーチャーが同行しております」

 

「先代?」

 

「クリーチャーの母でございます」

 

「記録がある?」

 

「屋敷しもべ妖精の家系記憶に」

 

 また。

 

 人間が把握していない情報。

 

「場所を辿れる?」

 

 ハリーが尋ねる。

 

「完全ではございません」

 

「でも、金庫の感覚は?」

 

「ブラック家の品が、今も内部にあるなら」

 

 クリーチャーは目を閉じる。

 

「家の魔法を通じて、僅かに辿れる可能性がございます」

 

「それを使えば」

 

「ハリー・ポッター様の妖精魔法へ、行き先を示すことは可能かと」

 

 所有権。

 

 ブラック家由来の財産。

 

 クリーチャーの家系記憶。

 

 シリウスの当主権限。

 

 完全な無権限ではなくなる。

 

「行ける」

 

 ハリーが言う。

 

『まだだ』

 

 通信鏡のスネイプ。

 

「可能性は上がりました」

 

『だからこそ、急ぐな』

 

「分かっています」

 

『全員の同意を得るまで、グリンゴッツへ近づかないと約束しろ』

 

「全員?」

 

『私。ブラック。グレンジャー。クリーチャー』

 

「ロンは?」

 

『判断材料にならん』

 

「失礼だな!」

 

 ロンが鏡へ抗議する。

 

『ならば、何を確認するべきか言ってみろ』

 

「え?」

 

『侵入前に必要な条件だ』

 

「ええと」

 

 ロンは考える。

 

「入れること」

 

『他には?』

 

「出られること」

 

『他には?』

 

「カップの場所」

 

『他には?』

 

「触ったら増える呪いを解除すること」

 

『他には?』

 

「小鬼に見つからないこと」

 

『最低限は分かっているな』

 

「なら僕も入れてください」

 

『却下だ』

 

「何で!」

 

「ロンも同意者へ」

 

 ハリーが言った。

 

『甘やかすな』

 

「友人です」

 

『判断を止める側になれるか?』

 

 ロンは、ハリーを見る。

 

「止めるよ」

 

「本当に?」

 

「お前が、そのままカップを取りに行こうとしたら殴る」

 

「魔法ではなく?」

 

「先に殴る」

 

「では、入れます」

 

『何を納得している』

 

 条件。

 

 小鬼の警報を調べる。

 

 ブラック家由来の財産との繋がりを確認。

 

 レストレンジ家金庫の管理権者を特定。

 

 内部の増殖呪いへの対策。

 

 退路。

 

 カップの破壊手段。

 

 そして。

 

 ヴォルデモートの協力者が動く前に。

 

 どこまで準備できるか。

 

 ハリーは、羊皮紙の一覧を見る。

 

 残り三つ。

 

 カップ。

 

 ハリー。

 

 本体。

 

 妖精魔法は。

 

 グリンゴッツへ届いた。

 

 世界一安全と言われる金庫へ。

 

 小鬼に気づかれず。

 

「怖いな」

 

 ロンが言う。

 

「何が?」

 

「本当に、妖精が反乱したら終わるって話」

 

「だから言った」

 

「クリーチャーは反乱しないよな?」

 

 クリーチャーの目が細くなる。

 

「ウィーズリー様が、クリーチャーをどのように扱われるかによります」

 

「冗談だよな?」

 

「屋敷しもべ妖精は、冗談を申し上げません」

 

「怖い!」

 

 少しだけ笑いが起きる。

 

 だが。

 

 ハリーは、本気で思っていた。

 

 妖精魔法。

 

 小鬼の魔法。

 

 人間の魔法。

 

 魔法界は。

 

 自分たちが理解しているより、ずっと多くの力の上に成り立っている。

 

 ヴォルデモートは。

 

 それを理解しなかった。

 

 屋敷しもべ妖精を道具としか見なかった。

 

 小鬼を下に見た。

 

 血統だけを重視した。

 

 だから。

 

 その隙を使う。

 

「次は、カップです」

 

 ハリーが言う。

 

「今度こそ」

 

 ハーマイオニーが睨む。

 

「全員で計画を立ててから」

 

「分かってる」

 

「約束?」

 

「約束する」

 

 レストレンジ家の金庫。

 

 前世では。

 

 追い詰められた末に侵入した。

 

 今回は違う。

 

 時間がある。

 

 仲間がいる。

 

 情報もある。

 

 それでも不法侵入であることに変わりはない。

 

「できれば、合法的な穴を見つけたいな」

 

 シリウスが言う。

 

「穴を使った時点で、合法か怪しいです」

 

「法律は、使える穴を探すものだろ」

 

 オクタヴィウスが聞けば怒る。

 

 ハリーは、少し笑った。

 

 三年目は。

 

 アズカバンの囚人を追う一年ではなくなった。

 

 その囚人と共に、グリンゴッツへ不法侵入する準備をする一年になった。

 

 未来は。

 

 かなり前倒しになっている。

 

 四年目を待つ理由は。

 

 もうなかった。

 

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