ヴォルデモートを退けた翌日から、ホグワーツでは奇妙な噂が流れ始めた。
クィレルが禁じられた魔法の研究に手を出し、重傷を負った。
スネイプがクィレルとの決闘に勝った。
ダンブルドアが地下深くに封印されていた怪物を倒した。
ハリー・ポッターが一人で百人の闇の魔法使いを相手にした。
最後の噂を流した者は、人数という概念を一度学び直した方がいい。
現場にいたのは、クィレル一人と、その後頭部に寄生していたヴォルデモートだけだ。
人間の数として数えるなら、一人半程度だろう。
もっとも、噂の内容がどれほど荒唐無稽でも、ハリーが地下で倒れていたという事実だけは隠しきれなかった。
医務室を退院した日の朝。
大広間へ入った瞬間、ほぼすべての生徒がこちらを見た。
「気にするなよ」
隣を歩くロンが言った。
「今まで以上に見られてるだけだから」
「慰める気はあるのか?」
「一応」
ハリーたちがグリフィンドールの長机へ座ると、フレッドとジョージが左右から近づいてきた。
「我らが英雄のご帰還だ」
「一年でトロールと闇の魔法使いを倒した男」
「次は何を倒す?」
「宿題」
ハリーが答える。
二人が揃って顔をしかめた。
「夢がない」
「そこはドラゴンと言ってほしかった」
「ドラゴンは好きだ。倒したくない」
「じゃあ、スネイプは?」
「聞こえているぞ、ウィーズリー」
いつの間にか教職員席から近づいていたスネイプが、三人の背後に立っていた。
フレッドとジョージは即座に逃げた。
見事な判断速度だった。
「ポッター。校長がお呼びだ」
「朝食の後でも?」
「今すぐだ」
ハリーは皿の上に置いたばかりのベーコンを見た。
「食事は重要です」
「私には関係ない」
「成長期に朝食を抜くと、集中力が下がります」
「私の集中力を試したいのか?」
スネイプの手がローブの内側へ入る。
「行ってくるよ」
ハリーは立ち上がった。
ロンが小声で尋ねる。
「ベーコン、食べていい?」
「戻るまで残しておいてくれ」
「分かった」
信用できない返事だった。
校長室には、ダンブルドアだけでなく、マクゴナガルも待っていた。
スネイプがハリーを中へ入れ、自分も扉の近くへ立つ。
完全な包囲だった。
「おはようございます、ハリー」
「おはようございます」
「体調はどうじゃ?」
「問題ありません。朝食を途中で切り上げさせられたことを除けば」
スネイプが鼻を鳴らす。
「食欲があるのは何よりじゃ」
ダンブルドアは机の上の菓子入れを差し出した。
「レモン・キャンディーはいかがの?」
「朝食の代わりにはなりません」
「残念じゃ」
ハリーは三人の表情を確認した。
ダンブルドアは穏やか。
マクゴナガルは厳格。
スネイプは不機嫌。
普段通りに見える。
ただし、全員がハリーを観察していた。
「それで、今日は何をお話しすれば?」
ハリーが尋ねる。
「できれば、すべてを」
マクゴナガルが即答した。
「あなたが入学前から杖なし魔法を使用できた理由。箒を自在に操れた理由。一年生では習わない呪文を知っている理由。クィレルが賢者の石を狙っていると知った理由。そして、例の者が生きていると確信していた理由です」
「質問が多いですね」
「数か月分です」
「一つずつでお願いします」
「では最初から――」
「ミネルバ」
ダンブルドアが静かに呼びかけた。
マクゴナガルは口を閉じたが、不満は明らかだった。
「ハリー。君が話したくないことを、無理に聞き出すつもりはない」
スネイプが僅かに顔を動かす。
無理に聞き出そうと、すでに開心術を使った人物である。
「しかし、君の知識が今後も生徒や学校の安全へ関わるのであれば、我々にも準備が必要じゃ」
「それは理解しています」
「では、話せる範囲で構わん。頼む。」
ハリーは黙って考えた。
すべてを明かす気はない。
だが、何も話さずに済む段階でもなくなった。
クィレルとの戦闘は記録されている。
術式。
戦闘技術。
ヴォルデモートに対する知識。
十一歳の独学では説明できない。
教師たちに警戒されたまま動くのも不便だった。
少なくとも、敵ではないこと。
ヴォルデモートを倒すために行動していること。
今後も危険が起きると知っていること。
そこまでは共有すべきだろう。
「僕には、未来に起こり得る出来事についての知識があります」
マクゴナガルの眉が動いた。
スネイプは表情を変えなかった。
ダンブルドアだけが静かに頷く。
「予言ですか?」
「違います」
「占い?」
「それも違います」
「では、何です?」
「今は説明できません」
マクゴナガルが息を吐く。
「結局、そこへ戻るのですね」
「嘘をつくよりはいいと思います」
「未来を知っているという話自体が、十分に疑わしいのです」
「そうでしょうね」
「証明できますか?」
「今年、クィレル先生がヴォルデモートを宿して賢者の石を狙うことを知っていました」
「事後なら何とでも言える」
スネイプが口を挟む。
「先生がフラッフィーに右脚を噛まれることも知っていました」
スネイプの顔が固まった。
「それを知ったのは、怪我を見た後だろう」
「噛まれる前に言えば、先生は信じましたか?」
「少なくとも今よりはな」
「次からは、できるだけ早くお伝えします」
「次?」
マクゴナガルが鋭く聞き返す。
「今後も事件が起きるのですか?」
「起きる可能性が高いです」
「何が?」
答える前に、ハリーはダンブルドアを見た。
「ここで話した内容は、どこまで共有されますか?」
「必要な範囲に留めよう」
「魔法省には?」
「今の段階では伝えはせんよ」
「本当に?」
「コーネリウスは、面倒な警告を素直に受け入れる人物ではないからの」
ハリーは少し意外に思った。
まだファッジが魔法大臣へ就任してから、それほど長くない。
それでもダンブルドアは、彼の本質をすでに把握しているらしい。
「分かりました」
ハリーは三人を見る。
「ヴォルデモートは生きています」
「それは我々も確認した」
スネイプが言う。
「今の状態では、自力で肉体を維持できません。ですが、いずれ復活する方法を探します」
「どのような方法です?」
マクゴナガルが尋ねる。
「僕の血を使う可能性があります」
室内が静まり返った。
ダンブルドアの目が細くなる。
「なぜ、あなたの血を?」
「母の守りを自分の中へ取り込み、僕へ触れられるようにするためです」
「リリーの守りについて、どこまで知っている」
スネイプの声が低くなった。
「彼女が僕を守るために命を差し出したこと。その犠牲によって、ヴォルデモートの魔法から守られたこと」
「それを誰に聞いた」
「今は言えません」
スネイプの表情に怒りが浮かぶ。
母に関わる話だ。
冷静ではいられないのだろう。
「僕がクィレルに触れなかったのは、そのためです」
ハリーは続ける。
「触れれば、ヴォルデモートは僕の血が自分に対して強い力を持っていると確信する。それを避けたかった」
「だから、魔法だけで戦ったのですか」
マクゴナガルが呟く。
「はい」
「十一歳の子供が、そこまで考えて?」
「中身まで十一歳とは限りません」
言った瞬間、三人の空気が変わった。
スネイプの手が杖へ近づく。
マクゴナガルの背筋が伸びる。
ダンブルドアの青い目から、笑みが完全に消えた。
「どういう意味です?」
マクゴナガルが尋ねる。
ハリーは一線を越えたことを理解した。
これ以上、曖昧な言葉だけでは済まない。
「僕は、人生を一度経験しています」
誰も口を挟まなかった。
「今の僕には、長い人生を生きた記憶があります。ホグワーツを卒業し、ヴォルデモートと戦い、闇払いになった記憶です」
「記憶を植えつけられた可能性は?」
ダンブルドアが尋ねる。
「否定できません」
「自分が未来から戻ったと、確信してはいない?」
「僕が経験したと思っている人生が、何者かに作られた記憶である可能性はあります」
闇払いとして、偽記憶の危険性はよく知っている。
自分の認識だけを絶対視するつもりはなかった。
「ですが、その記憶によって今年の出来事を予測できた。少なくとも、情報としては利用できます」
「あなたは、その人生で何歳まで生きたのです?」
マクゴナガルが静かに尋ねた。
「八十歳を超えていました」
彼女の顔に、言葉では表せない感情が浮かぶ。
「では、本当に……」
「中身だけなら、先生より年上です」
「それとこれとは別です」
即座に返された。
この反応は変わらないらしい。
「闇払いになったと言いましたね」
スネイプが言う。
「はい」
「どの程度だ」
「最後は局長でした」
スネイプが目を閉じた。
頭痛を堪えるような顔だった。
「十一歳のジェームズ・ポッターの顔をした、八十歳を超えた闇払い局長」
「情報量が多いですね」
「お前が言うな」
「なるほど」
ダンブルドアは椅子へ深く座り直した。
「これまでの不可解な点については、かなり説明ができそうじゃの」
「信じるのですか、アルバス?」
マクゴナガルが尋ねる。
「完全には。しかし、組分け帽子が彼をどのように見たのか、聞いてみたいものですな」
「帽子は秘密を守ると言いました」
「すでに話していたのですね」
「最初に見抜かれました」
「組分け帽子へは話し、私たちには隠したと?」
マクゴナガルの声が厳しくなる。
「帽子は計画を立てて僕を試練へ送り込みませんから」
ダンブルドアが咳払いをした。
「耳の痛い話じゃ」
「改善されるご予定は?」
「努力するとだけ言っておこうかの。」
ハリーは三人の反応を確認した。
少なくとも、即座に拘束されることはなさそうだ。
スネイプは疑っている。
マクゴナガルは混乱している。
ダンブルドアは信じたい部分と警戒すべき部分を整理している。
「未来では、誰がヴォルデモートを倒したのだ?」
スネイプが尋ねた。
「僕です」
「どのように?」
「多くの偶然と犠牲が重なった結果です」
「実力で勝ったのではないと?」
「最後の決闘では勝ちました。ですが、そこへ至る条件を僕一人で作ったわけではありません」
母の守り。
杖の忠誠。
分霊箱。
仲間たちの犠牲。
すべてを話すには早い。
「同じ未来を再現するつもりかの?」
ダンブルドアが尋ねる。
「いいえ」
ハリーは即答した。
「あれを再現するくらいなら、最初から実力で勝てるようにします」
「だから、これほど訓練を?」
「はい」
「あなたの未来では」
マクゴナガルが一度言葉を切った。
「多くの者が亡くなったのですか?」
ハリーは答えなかった。
答えなくても伝わったのだろう。
マクゴナガルの表情が沈む。
「誰が死んだ」
スネイプが尋ねる。
声音は平坦だった。
「今は話しません」
「なぜだ」
「自分の死を知った人間が、同じ行動を取るとは限らないからです」
「死ぬと知れば、避けることができる」
「逆もあります。誰かを守るために死んだ人間が、その情報によって別の選択をすれば、守られた人間が死ぬかもしれない」
「未来を変えるために戻ったのではないのですか?」
マクゴナガルが言う。
「変えます。ですが、一度にすべてを伝えるのは危険です」
ハリーはダンブルドアを見る。
「未来を知ることと、未来を支配できることは違う。組分け帽子に言われました」
「賢明な忠告です」
「ですから、必要な時に必要な情報を共有します」
「あなた一人の判断で?」
「最終的には」
マクゴナガルが何か言おうとする。
ハリーは先に続けた。
「僕の知識は、すでに外れ始めています」
「どういう意味です?」
「前回、クィレルが石を狙った時期はもっと遅かった。今回は僕が力を見せたことで、ヴォルデモートが警戒し、予定を早めた」
「君が行動するほど、未来が変化すると?」
ダンブルドアが言う。
「はい。だから、記憶を予言のように扱うべきではありません」
しばらく沈黙が続いた。
校長室の銀色の器具が、規則正しく煙を吐いている。
「次に起こる大きな危険は?」
ダンブルドアが尋ねた。
「来年度、ホグワーツで生徒が襲われます」
マクゴナガルの顔が険しくなる。
「誰が?」
「ある魔法道具によって操られた人物です」
「魔法道具とは?」
「ヴォルデモートが学生時代に使っていた日記」
「日記?」
「黒い表紙の、何も書かれていない日記です。ルシウス・マルフォイが保管しています」
スネイプの表情が変化した。
「ルシウスが、闇の帝王の所有物を?」
「本人は、正確な性質を知らない可能性があります。危険な闇の魔法道具だとは知っているでしょう」
「誰へ渡す?」
「ジニー・ウィーズリー」
未来で被害者となった少女の名前を出す。
「なぜウィーズリー家の娘を?」
「アーサー・ウィーズリーへの嫌がらせです。学校で事件を起こし、彼の立場を悪くする。全く…浅はかなやつだ。」
「日記は、具体的に何を引き起こすのじゃ?」
ダンブルドアの質問。
ここが重要だった。
分霊箱という言葉を、今出すべきか。
ダンブルドアなら、魂を分割する魔法の存在を知っている。
スネイプも闇の魔術に詳しい。
一つ目を回収した後に話す方が安全だと思っていた。
だが、すでにヴォルデモートの不死性を共有した。
中途半端に隠せば、教師たちは別の行動を取るかもしれない。
「日記には、ヴォルデモートの魂の一部が入っています」
ダンブルドアの指が止まった。
スネイプの顔から表情が消える。
マクゴナガルは、意味を理解できていないようだった。
「魂の一部?」
「分霊箱、ホークラックスです」
その言葉が落ちた瞬間、室内の空気が冷えた。
ダンブルドアは目を閉じる。
「それは…確かかの?」
「はい」
「一つだけ?」
流石ダンブルドアと言おうか…この一瞬でそこまで頭が回るとは
「いいえ」
ハリーは答えた。
「あいつは、魂を複数に分けています」
そこでスネイプが間に入ってきた。
「ちょっと待て。分霊箱とはなんだ?」
マクゴナガルも同じく何なのかがわかっていないようだ。
「私もその分霊箱とやらがなんなのかがわかりません。校長はご存知なので?」
「…分霊箱とは魂を分けて保管していおく魔法で、すべての魂を破壊しない限り、その者は不滅となる魔法です。」
ハリーは淡々と答える。
「そんな魔法があるとは…」
マクゴナガルが絶句している。
「いくつだ」
スネイプが尋ねる。
「確認できているだけで、日記を含めて六つ。僕自身に付着した欠片を含めるなら七つです」
沈黙。
今度の沈黙は、それまでよりも重かった。
マクゴナガルが、かすれた声で言う。
「あなた自身に?」
「赤ん坊だった僕を殺そうとしたときに呪いが跳ね返り、ヴォルデモートの魂の一部が付着しました。意図して作られたものではありません」
スネイプが一歩動いた。
「それを、どうやって取り除く」
「方法はあります」
「何だ」
「今はまだ話せません」
「ふざけるな!」
スネイプの声が校長室へ響く。
「お前の中に闇の帝王の魂があると言っておきながら――」
「すぐに取り除けば、僕が死ぬ可能性があります」
スネイプが止まった。
「魂の欠片は、額の傷を通じて僕と結びついています。安全に取り除く方法を準備する必要がある」
「未来では、どうしたのです?」
ダンブルドアが尋ねる。
「ヴォルデモートに死の呪文を撃たせました」
マクゴナガルが椅子から立ち上がった。
「認めません」
「今回はその方法を使うつもりはありません」
「当然です!」
「だから鍛えています」
「鍛錬で解決する問題ではありません!」
「分かっています。魂を分離する術式も研究します」
「一人で?」
「協力は求めます」
「今、求めなさい」
マクゴナガルの声に、拒否を許さない響きがある。
ハリーは少し迷い、頷いた。
「分かりました」
「本当に?」
「この件については、ダンブルドア先生へ協力をお願いします」
「私には?」
「先生は変身術の専門家です。魂の魔法は専門外でしょう」
「そういう問題ではありません」
「ミネルバ」
ダンブルドアが呼びかける。
「彼が協力を受け入れてくれた。それを第一歩としよう。」
マクゴナガルは不満そうに座り直した。
「日記については、どうするつもりじゃ?」
ダンブルドアが尋ねる。
「夏休み中に回収します」
「ルシウス・マルフォイの邸宅から?」
「はい」
「十一歳の生徒が、単独で純血の名家へ侵入すると?」
「夏には十二歳です」
「年齢の問題ではありません」
「屋敷しもべ妖精の魔法を使います」
ハリーは初めて、自分の切り札の一部を明かした。
「ホグワーツ内で使っていた移動方法です。ドビーというマルフォイ家の屋敷しもべ妖精が、夏休みに僕の家へ来ます。その移動へ追従し、マルフォイ邸へ入ります」
三人が沈黙する。
スネイプが額を押さえた。
「次から次へと」
「まだあります」
「もういい」
「日記を破壊するには、バジリスクの毒か、悪霊の火が必要です」
「なぜバジリスクが出てくる」
「来年度の事件で使われる怪物です」
「もう黙れ、ポッター」
スネイプの顔色が悪い。
「一度に聞くには多すぎる」
「僕もそう思って、今まで黙っていました」
「それとこれは別だ!」
ダンブルドアは深く息を吐いた。
「日記の回収については、君一人では行かせんよ」
「大人が動けば、ルシウスが警戒します」
「すでに私たちへ話した以上、単独行動を認めると思うかの?」
「思っていません」
「では?」
「止められても行くので、協力してもらう方が安全でしょうね」
マクゴナガルが目を閉じた。
「なぜ、あなたはそのように素直ではない形でしか協力を求められないのです?」
「長年の職業病です」
「今は学生です」
「努力します」
「それも何度目でしょうね」
具体的な計画は後日立て直すことになった。
日記。
分霊箱。
ドビー。
マルフォイ邸。
情報量が多すぎた。
特に、スネイプには整理する時間が必要らしい。
校長室を出る直前、ダンブルドアが尋ねた。
「ハリー。一つだけ、個人的な質問をしても?」
「内容によります」
「君が生きた未来は、幸せじゃったか?」
予想していなかった質問だった。
ハリーは足を止める。
多くの者を失った。
戦後も争いはなくならなかった。
闇払いとして、見たくないものを数え切れないほど見た。
仕事ばかりの人生だった。
それでも。
友人がいた。
家族がいた。
守れた者たちもいた。
「はい」
ハリーは答えた。
「幸せでした」
「ならば」
ダンブルドアは穏やかに微笑んだ。
「その人生を、失敗だったとは思わぬことじゃな」
「思っていません」
「そうかの?今の君は亡くなった人々を救うことばかり考えているように見える」
「そのために戻ったのかもしれませんから」
「君自身が、もう一度幸せになることも忘れないように」
ハリーは答えなかった。
校長室を出る。
スネイプが先を歩き、マクゴナガルが隣を歩く。
「先生」
ハリーはスネイプへ声をかけた。
「何だ」
「朝食へ戻ってもよいですか?」
「好きにしろ」
「ベーコンが残っているといいのですが」
「ウィーズリーが一緒なら、諦めろ」
大広間へ戻った時、ハリーの皿は空になっていた。
ロンが満足そうな顔で座っている。
「残しておいてくれと言っただろ」
「冷めるともったいないから」
「僕のベーコンだ」
「新しいのを取ればいいだろ」
ハリーはベーコンを取り直した。
隣ではハーマイオニーが本を読んでいる。
「校長先生と何を話したの?」
「僕の秘密について、少し」
ハーマイオニーが本から顔を上げる。
「話したの?」
「全部ではないけど」
「私たちにも話せる?」
ハリーは二人を見た。
来年、ジニーが狙われる。
ロンには関係が深い。
話すべきだろう。
ただし、ここでは人が多すぎる。
「今夜、談話室で」
ロンの顔が真剣になる。
「悪い話か?」
「かなり」
「また怪物?」
「大きな蛇だ」
「聞かなきゃ駄目か?」
「聞いた方がいい」
ロンが机へ突っ伏した。
「普通の学校生活って、どこにあるんだろうな」
ハリーはベーコンを食べながら考えた。
少なくとも、自分の周囲にはなさそうだった。