ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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ggo7話 追憶

 

 

――二年前。アインクラッド。

 

 

 

 

「では、これからよろしくお願いするわね、ラテン」

 

 にこっ、と見た目よりも幾分か幼く可愛らしい笑顔と共にオレンジの液体が入ったグラスを向けられる。右手に持っていた同じものをコツンとぶつけて見せれば、嬉しそうな笑みを浮かべながら目の前の女性はグラスを仰いだ。

 彼女の名は《シーナ》。

 艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、左頬側を細い三つ編みで結んでいる。どこか幼さが残りながらも綺麗に整ったその顔立ちと言葉使いからは、落ち着いた大人の雰囲気が感じられるがその実、彼女の年齢はラテンよりもたった一つ上だけらしい。

 最初にそれを聞いた時は驚いてしまい、「どういう意味」と鬼の形相で詰められたものだが、なにかと理由を付けてどうにか難を逃れることができたものだ。

 

「いやぁ、これで俺たちのギルドも超強化がされたってもんだな」

 

 がはは、と笑いながらラテンの肩に手を回したのは無精ひげが似合う濃い顔立ちをした男性プレイヤーで、名は《ガリル》という。このパーティ基ギルドでは両手剣使いの主力アタッカーだ。その横では、このギルドの(タンク)役である《オルフィ》が両肩をすくめて呆れた様子で首を振った。

 そのさらに横には同じくタンク役である《カイザー》がグラスを両手で持って、うつむいている。少年らしさが残る彼はこのギルドの中で一番の年下であり、先ほどグラスを交わした《シーナ》の従弟にあたるらしい。どうやら引っ込み思案らしく、姉のような存在の彼女が何かと世話をしているのだとか。

 円形の大きなテーブルを囲うようにラテンを含めた五人が座っており、右側にはこのギルド――といっても四人しかいなかったが――《》のリーダーを務めるシーナが座っている。

 『四人しかいなかった』、という表現をしたのは一時的だが『五人目』としてラテンが加わることになったからだ。

 彼女らとこうして濃い付き合いをすることになった原因は、二日前に行われた《第五十層ボス攻略戦》にまで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SAOのボスにはある程度一定の決まりが存在する。

 例えば、二十層、三十層など、十層ごとにその他の層とは違った癖の強い行動を取る少し強めのボスが配置されている。ただし、四十九回のボス戦の中で頭一つ跳びぬけた強さを持ったボスモンスターは、二十五層であった。そのため、クウォーターポイントにも強いボスモンスターが配置されているのなら、十の区切りとクウォーターポイントが重なる五十層のボスモンスターには苦戦が強いられると予想されていた。

 ボス戦前の攻略会議では、アインクラッド最強ギルドと名高い《血盟騎士団》の団長であるヒースクリフが直々に指揮を執り、上限人数に近い四十人のプレイヤーで綿密に練り込まれた作戦をもとに挑んだのだが――。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

「お、おい!」

 

 前線にいた数人のプレイヤーたちが次々に青い光となって消えていく。

 ただし、彼らの行きつく先は現実世界での死ではなく、この迷宮区の近場の街の中央に設置されているテレポート地だ。緊急脱出用の転移結晶を、HPがまだ三分の二以上残っているにもかかわらず使用していったのは、今まさに対峙しているボスモンスターが原因だろう。

 

 眼前の金属製の仏像めいた巨大なモンスターには、六本の手が施されておりそれぞれに長大な剣が握られている。おそらく阿修羅像をモチーフにしたボスなのだろう、六本の剣がタンク役である数人のプレイヤーの盾に高速で振るわれていく。

 一撃一撃のあまりの重さと、絶え間なく振るわれる剣に恐れを抱き戦意を喪失し、こうして緊急脱出を図るプレイヤー――主にボスの攻撃を受け止め続けるタンク部隊――が後を絶たないのだ。

 

「ぎゃああああ!!」

「――くそっ!」

 

 戦闘開始から約三十分経った現在、レイドの半分以上を占めていたタンク部隊の半数が戦線を離脱しダメージを稼ぐアタッカーでさえ、それに呼応して数人離脱していく。それによって、開戦直後は四十人いたはずのレイドも今では二十人にも満たない人数になってしまった。

 そしてついに、恐れていた事態が起こってしまった。

 叫び声の方向に顔を向ければ、タンク部隊の一人が無数のポリゴン片となって消滅する。その横にいたタンクプレイヤーたちの表情に恐怖の色が浮かんだ。彼らのHPはイエローゾーンから危険域であるレッドゾーンに差しかかる直前だった。

 無理もない。

 本来のボス攻略の場合タンク部隊を何列かに分けて、長篠の戦いの織田軍側の戦法よろしく、HPがある程度まで減少したら次の列と交代するという戦い方が定番だった。

 だが現在の戦線には、後退するだけのタンクプレイヤーが存在しておらず、回復する時間もままならないままジリ貧になっているのだ。

 このまま続けていれば、数十分で残ったタンク部隊が壊滅するだろう。

 

「おい、ちょっと協力してくれないか!?」

「え…………」

 

 ラテンは振り返りながら叫んだ。そこには、今回のボス攻略に当たってパーティーを組むことになった《》のメンバーたちが、崩壊する戦線を呆然と見ていたところだった。

 突然の提案にパーティーリーダーであるシーナがようやく我に返ると、切羽詰まった表情で叫び返す。

 

「協力って……何をするの?」

「前線を立て直すんだ」

「ど、どうやって……?」

 

 シーナが困惑しながら答える。

 彼女のギルドの構成はタンクが二人、アタッカーが二人であり、バランスは悪くない。幸いタンクの二人は離脱しておらず、残り二人のアタッカーも先の戦闘を見る限りこのボス戦に参加するに見合うほどの実力を持っている。

 

「タンクの二人はそのままあいつらと交代、俺たちアタッカーはソードスキルを使ってあの仏野郎の攻撃を弾くんだ。スイッチをうまく使えば、あの連撃にも数分ぐらい耐えることができる!」

「なるほど。だけどそれには人数が足りないわ……」

 

 さすが最前線で戦うギルドのリーダーを務めるプレイヤーだけあって、シーナはラテンが思い描いた作戦と、それによるリスクをすぐさま分析し終えた。

 彼女が言う通り、ラテンの作戦には人数が足りない。

 パーティーにいるのはラテンを含めたった五人であり、そのうちアタッカーは三人を占める。仮に一本の腕の攻撃をうまく防ぐことができたとしても、二人のタンク役に五本の腕を任せることになってしまい、負担が大きすぎる。しかし、このボス攻略に参加しているのは何もこの五人だけではない。ラテンが絶対的信頼を寄せているプレイヤーもいるのだ。

 

「大丈夫だ。俺を信じてくれ」

「…………」

 

 まっすぐな目を向けるラテンに、作戦に対して疑問を持っていた四人のプレイヤーはそれぞれ小さく頷いた。

 

「よし――キリト!」

 

 ラテンはそれを確認した後、少し離れたところに立っていたキリトに向かって叫んだ。

 こちらに顔を向け駆け寄ってきたキリトに作戦の概要を説明する。

 

「わかった。あいつらには俺が手早く説明する。ラテンは行動に移してくれ」

 

 『あいつら』とは、ラテンが信頼をしているヒースクリフ、アスナ、クライン、エギルの四人だ。どのプレイヤーも相応の実力を持っている。

 キリトの言葉に頷いたラテンは背後のシーナたちを確認した後、阿修羅像の猛攻を受け続けているタンク部隊の元へ駆けだした。

 

「ラッ――!」

 

 気合と共にカタナ単発ソードスキル《絶空》を放つ。

 今にもタンク隊に襲い掛かろうとした巨大な剣を甲高い音と共に弾き飛ばすと、間髪入れずにバックステップをしながら叫んだ。

 

「スイッチ!!」

 

 途端、右から疾風の如く現れたシーナが細剣三連撃ソードスキル《デルタ・アタック》を再び振るわれた剣に命中させた。

 ――うまい……!

 細剣は刺突メインの武器であり、ソードスキルの大半が連撃数の多いものばかりだ。しかし、その分一撃の威力は他の武器のソードスキルと比べて控えめで、目の前の巨大な剣を弾くことはほぼ不可能と言っていい。

 だがシーナは、数少ない斬撃属性を持つソードスキルの三連撃をすべてうまく阿修羅像の剣の刀身に当てることで、威力不足を補ったのだ。ただ彼女は当たり前のように成功させたが、ソードスキルはシステムに設定された軌道からズレてしまうと発動が中止されるため実際に行うことは結構難しい。アスナの他にこれほどの実力を持った細剣使いは初めてだ。

 

「数秒俺たちが引き受ける! 下がれ!」

「あ、ああ!」

 

 シーナに続いて《》のメンバーたちが割って入り、HPが減ったタンク隊を後方へ下がらせる。すぐ隣では、ラテンたちと同じようにキリトたちが綺麗に阿修羅像の斬撃を弾いていた。

 

「ラテン!」

「おう!」

 

 シーナの叫び声に呼応してラテンは三人目のガリルと交代してソードスキルを繰り出す。幸い阿修羅像の攻撃をラテンの思惑通り綺麗にさばくことに成功した。しかし、今行っているのはあくまで防衛行動であり、この猛攻を止めるにはボスモンスターを撃破するか一旦このボス部屋から退避するかの二択しかない。

 しかし後者には殿が必要で、阿修羅像の攻撃に耐えうるタンクプレイヤーが最低でも四人必要だ。この場にはヒースクリフがいるが、他の三人には当てがない。

 ラテンはちらりと後方へ下がったタンク隊のHPを見やると、四度目のパリィと共に叫んだ。

 

「交代してくれ! ――キリト、ヒースクリフ!」

 

 ラテンの言葉に後方へ下がっていたタンク隊が《》のメンバーたちと代わり、それと同時にラテン、キリト、ヒースクリフがさらに前へ飛び出した。

 低い体勢で駆けだしたラテンに巨大な剣が襲い掛かるが、アバターに到達するよりも早くヒースクリフが前に出て十字盾で防いだ。その横を通り抜け、九連撃ソードスキル《鷲羽》を発動させる。

 九つの青い流星が阿修羅像の胴体を貫き、十分ほど停滞していたHPバーをがくんと減らす。

 

「おおおおおおおお!!」

 

 硬直時間(ディレイ)に襲われたラテンの横をキリトが走り抜け、僅かにのけ反った阿修羅像目がけて片手剣七連撃ソードスキル《デットリー・シンズ》を放った。

 青紫色の閃光が爆発し、阿修羅像のHPをさらに減少させる。

 そして間髪入れずにラテンとキリトの隣からジェットエンジンめいた音と共に、赤い閃光が出現し、阿修羅像を貫きながら二人とは反対方向へヒースクリフが通り抜ける。

 片手剣上位ソードスキルである《ヴォ―パル・ストライク》により再びHPが削られた阿修羅像のヘイトが、反対方向にいるヒースクリフに向かいラテンたちにがら空きの背中が向けられる。

 

「今のうちにダメージを稼ぐんだ!」

 

 後ろにいたアタッカーたちに声をかけ、一斉にソードスキルを阿修羅像に浴びせると、四本あったHPバーが残り一本まで減らすことに成功した。

 同時に阿修羅像が咆哮し、金色のボディを緋色に染めると今までとは比にならないほどの連撃がタンク隊に襲い掛かる。

 

「耐えてくれ……!」

 

 アタッカーであるラテンたちはタンク隊の後ろに隠れるが、この連撃には盾貫通補正がかかっているのか、防いでいるというのにタンク隊のHPバーが見る見るうちに減少している。本来ならばいったん交代するのだが、そんな人員はいないことに加えこの連撃の速さではスイッチによるパリィは不可能だ。

 だが、おそらくこの連撃が終わればボスに硬直時間が発生し、その隙にアタッカー全員で再び攻撃すれば残り一本となったHPバーも消し飛ばすことができるだろう。

 ――あと少し……!」

 阿修羅像の緋色のボディが点滅し始めるのを確認して、この連撃がもうすぐ終わることを悟ったラテンは飛び出す準備をする。他のアタッカーたちもその空気を感じたようで同じように突撃体勢に入っていた。

 そして遂に連撃が終了する。

 幸いタンク隊のHPはイエローゾーンにとどまっており、死者は出ていない。それを確認したのと同時にラテンは足を踏み出した。

 しかし、ラテンの思惑は外れる。

 

「――ッ!?」

 

 最初に飛び出したラテンを待ち受けていたのは再び緋色に染まった阿修羅像。

 ――二度目の連撃……!?

 残念ながら、飛び出したラテンとそれに追随していたアタッカーたちを守るタンク隊は二度目の連撃に耐えうるほどのHPを確保していない。無防備になったラテンたちに無慈悲な連撃が放たれるのは目に見えていた。

 ――くそったれ!

 咄嗟に刀を逆手に持ち替え、防御態勢に入る。しかし、ラテンがとった行動は蟻が迫りくる人間の足を受け止めるに等しいものだった。

 天に掲げられた六本の剣が一斉に動き出し、ラテンたちに振り下ろされる。その一本一本の軌道を読みながら、精一杯の抵抗をしようとする。

 刹那――。

 

「なっ!?」

 

 ガキィィン! と一際大きな金属音と共にラテンの目の前に巨大な火花が散る。見れば、阿修羅像と同じく緋色の鎧を身にまとったヒースクリフがラテンの前に立っていた。

 この世界最強の男と噂されているは後ろを見やることなく、一撃目とほぼ同時に振り下ろされた剣を十字盾で防いだ。そして、三、四撃目が続いて、先ほど見ていた阿修羅像の乱舞がヒースクリフの盾に襲い掛かる。

 しかし、彼が持っているユニークスキル《神聖剣》による補正なのか。はたまた彼自身の技術力によるものなのかはわからないが、先のタンク隊とは違い緋色の騎士のHPは減少していない。それどころか、この男は数人のタンク隊が防ぐのに精いっぱいだった連撃をたった一人で、涼しい顔で捌いて見せている。

 ――化けモンかよ……!

 この世界では上位の実力を持っていると自負しているラテンでさえも、この騎士には賞賛せざる負えない。間違いなくこの男はこの世界最強のプレイヤーだ。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

 その場にいた全員がヒースクリフに呆気を取られていると、このボス部屋の入り口から多数の咆哮が戦場に飛び込んできた。 

 後ろを見やれば、事前にヒースクリフが準備していたのであろう援軍がこちらに向かって駆けだしていた。その数およそ二十。

 連撃を防ぎながらそれを確認したヒースクリフは、援護のタンク隊が到達するのと同時にバックステップを取って交代する。

 

「さあ、後は頼んだよ」

 

 平然と呟いたヒースクリフの瞳には焦りの色が浮かんでいない。さも当たり前のように阿修羅像の猛攻を捌き切ったこの男に、最前線で戦うアタッカーたちがただ黙っているわけがない。全員が彼の行動に触発され、闘志を燃やす。

 

「――行きましょう」

「ああ!」

 

 ラテンは隣から掛けられたシーナの言葉に呼応しながら、今度こそ連撃を終え、硬直時間が訪れた阿修羅像に向かって駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、誰がラストアタックボーナスをもらったんだろうな。あのボスだったら相当なレア武器は間違いないぜ」

「トラブルを避けるためには秘匿せざる負えないからな。まああのボス相手に生き残れただけでも儲けものだ」

「そうだな!」

 

 ラテンの言葉にダインが頷きながらジョッキを仰ぐ。

 この場ではお茶を濁したが実際にラストアタックボーナスをもらったプレイヤーをラテンは知っている。先日冗談半分で黒ずくめのプレイヤーにメッセージを飛ばしたところ、見事に的中してしまったのだ。何でも化け物じみた性能を持った片手直剣がドロップしたらしく、装備したくても周りの眼があるから装備しづらいんだとか。

 確かにソロで活動しているキリトやラテンはギルド所属の攻略組からは、《自分のことしか考えないプレイヤー》と、白い目で見られがちだ。そんなプレイヤーが超レア武器を入手したとなれば嫉妬の荒らすが襲い掛かるのは明白と言えるだろう。

 これに関してはキリトに同情せざる負えない。

 

「それにしても本当に入ってくれるとは思わなかったわ。あなた、ソロで長いことやっていたようだしギルドには興味がないと思っていたから」

「あー……別に興味がなかったわけではないよ。パーティを組めればそれだけ安定して戦闘が行えるし」

 

 ソロの利点は自分のペースでモンスターを狩ることができることだ。誰にも干渉しないし、干渉されない。言わば、自分の部屋にいるのと同じような感覚だ。パーソナルスペースを気にすることなく伸び伸びとやれるのは、ソロならではの特権である。しかしその反面、不測の事態が起こったときに対処しきれない場合もあり、実際にそれで最前線で活動していたソロプレイヤーが何人もこの世を去っている。

 常に危険が付きまとう最前線では、背中を預けられるパーティメンバーがいるだけで生存率がぐっと上がるだろう。

 ラテン自信もそれを感じていたのだが、どうにも現存する攻略組のギルドには入る気にはなれなかった。

 

「……ただ、血盟騎士団やら整竜連合やら、最前線で活動しているギルドはすべて規律を重視しているからな。馴染める予感がしなくてな……」

「あー、それはわかるかもしれないわ。彼らって装備が全員同じで、空気? も何だかピリピリしてるから、近づきずらいのよね」

 

 シーナがうんうんと頷いて見せる。

 もちろん彼らの行いを否定しているわけではない。装備を揃えればその分連帯感を味わうことができるし、ピリピリした緊張感も危険な最前線では程よい塩梅になり得る。

 ただ、彼らの行動には《個》が存在しない。このゲームをクリアし、一刻も早く現実世界の肉体に戻るための行いだとしても、《今》を生きているのはこの世界だ。《個》を捨ててまで定められた規律に従い機械的に行動する、それは果たして《生きている》と言えるのだろうか。

 

「その点この《》はすごいよ、皆が生き生きとしてる。最前線では珍しいギルドだ」

「まあ《個人》を優先にするギルドだからな、うちは」

「自由すぎるのも困りものだけどね。まとめるのが大変よ」

「シーナはよくやっていると思うよ。俺には到底まねできない」

「そ、そうかしら」

 

 ラテンの言葉にシーナがぽりぽりと頬を掻く。

 実際、お世辞抜きに彼女はすごい。戦闘スキルもさることながら状況判断力、統率力頭脳にも長けていて、誰にでも分け隔てなく接することができる。それに加え、美貌も素晴らしい。まさに、完璧に近い人間だろう。

 ラテンがこのギルドに入るきっかけになったのは自由を重んじる規律が主だが、彼女に惹かれたからという理由もなくはない。

 

「まねできないと言えば、あなたの行動もそうよ」

「俺の……?」

「そう。だって、あの絶体絶命の状況でもあきらめなかったじゃない。正直、あのままだったら私たちも離脱を選択していたかもしれないわ」

「あー……」

 

 残されたタンク隊を助けた時の話だろうか。

 確かにあの状況ならば、一旦離脱して再度挑戦したほうが良かったのかもしれないが、残されたタンク隊が絶対に離脱できるという保証はなかった。それがわかっていたのかその時は、タンク隊を残して離脱する、という選択肢が自動的に排除されていた。

 

「あの姿勢は私も見習いたいわ。ああいう状況になったときの秘訣ってあるのかしら」

「えーっと……『どんな時でも冷静になる』ってことかな……?」

 

 ずいっと迫られたラテンは、明後日の方向を見ながら絞り出した。

 あの時は衝動的に行動していたためそれを口にすることは躊躇われ、ありがちな返答をする。しかし、実際に冷静になっていたことも事実であり、嘘を言っていない。

 

「なるほど……」

 

 シーナは深く頷いて見せる。

 ラテンからしてみれば、彼女はその条件を十分に達成しているように見えるが、彼女自身はそう感じてないらしい。そのような前向きな姿勢はむしろこちらが見習うべきところだ。

 何杯目かのグラスを仰いでみせると、この集まりが始まって以来一言も喋らなかったカイザーが小さく呟いた。

 

「姉ちゃん……時間……」

「え? あ、もうこんな時間!?」

 

 彼女と同じようにウインドウを開いてみれば時刻は二十三時を回っていた。集まったのが二十時ぐらいであるから、かれこれ三時間近くだべっていたことになる。

 

「じゃあ遅くなったけど解散にしましょうか。明日は、そうね……午前十時に転移門前で集合しましょ」

 

 シーナの言葉に《》のメンバーが頷く。

 彼女の言い方からして普段はもう少し早めに解散するのだろうか。攻略組のトップギルドたちは日付が変わるまでレベリングをしているため、それらとは大違いだ。

 ただその差があるというのにこのギルドが攻略組の有名ギルドに匹敵するほどの力を持っているのは、リーダーであるシーナのおかげだろう。

 

「じゃ、また明日」

「うん。今日はありがとう」

「いや、こちらこそありがとうな」

 

 手を上げて《》メンバーたちに別れを告げると、ラテンはそのまま酒場を後にした。その背中に一人の少年が怨嗟の視線を投げかけているとは知らずに。

 

 

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