リン「ラバァァッ!!」
女の爪を受けたのは、俺だった。
スズカ「カノジョを守るなんて男だねぇ、そういうの嫌いじゃないよ。」
ラバック「こんな時じゃねぇと…いいとこ見せらんねぇからなぁ…。」
ドクン…ドクン…
心臓の鼓動に合わせて、切られた腹から血が流れる。
スズカ「いい男だってのは認めてあげるさ。でも、ここでお別れだ。」
女がゆっくりと右腕を振り上げた。
リンがその手に向かって一刀のメスを投げる。小さなメスは、女の腕にかすることなく上方へ飛んでいく。
スズカ「アンタも朦朧としてるのかい?すぐ楽にしてあげるよ。」
…いや、キッチリ正確なピッチだぜ?
プツン!
布が切れる音がした後、ガラガラと音を立て、女目掛けて無数の岩が落ちる。
スズカ「!! トラップか!」
岩を回避するために後方へ飛んだその時だった。
ズブッ…
スズカ「…カハッ!」
女の胸を、クローステールを束ねて創った槍が貫いた。
スズカ「まさか…全部…」
ラバック「あぁ…。確実にクローステールの餌食にするためのトラップだよ。」
膝についた砂を払い、ゆっくりと立ち上がって女の方へ歩み寄る。
スズカ「女が…あそこから動かなかったのは…」
ラバック「お前をあの位置までおびき寄せるためさ。」
女の体内にある槍が少しずつ一本の糸へとほつれていき、心臓へと走る。
スズカ「…じゃあ…最初の斧を回収せずにあのままだったのも…」
ラバック「お前に気付かれないよう槍に変形して、背後から仕留めるためだ。」
スズカ「フフ…これを追いかけながら考えてたってのかい…。痺れるくらい頭の回転が早いやつだ…」
観念したように、目を瞑った。
ラバック「さっきのお前の言葉じゃないけど…。苦しいだろ?そろそろ楽にしてやるよ。」
グッ!
心臓を握りつぶすように糸を引く。
スズカ「グハッ!」
女は一気に血を吐き出すと、ピクリとも動かなくなった。
ラバック「くっ…」
終わった開放感からか、どっと疲れが押し寄せた。
リン「ラバ!」
しゃがみ込む俺の元に近づき、止血をする。
ただ、リン自身のコンディションも良くない。これ以上能力を使わせるわけにはいかないな…。
ラバック「このまま夜道を歩くのは危険だね…。明るくなるまでどこかで待機しようか。」
小高い崖に浅い防空壕のような穴を見つけ、そこで一晩を明かすことにした。
周りに遮るものがない景色。雲もなく、澄んだ星空が眼前に広がる。
こんな状態じゃなけりゃ、最高のシチュエーションってやつなんじゃないの?やっぱとことん損な役回りばっかだな、俺…。
運のなさに目眩がしたか、血の流しすぎで貧血か…足元がフラつき始めたのでその場に腰を落とす。その隣にリンが座った。
ラバック「…リンは大丈夫?」
リン「私は平気よ。それより早くラバの手当を…」
ラバック「それはダメだ。今の状態でその帝具を使ったら…お前が死ぬぞ。」
回復の力は、リンの生命エネルギーを使用する。自身の状態が左右され、瀕死の時に力を使えば、術者の生命エネルギーがゼロとなり死に至る。
リン「でも、今ちゃんと治療をしないとラバが…!」
ラバック「たとえ俺がいなくても、皆が革命を成功させてくれる…。」
リン「そんなこと言わないで…!ナイトレイドには、あなたの力が必要なのよ!?」
かわしてみるが、リンの険しい表情は変わらない。
ラバック「リンの能力は勝利に不可欠なんだ。」
リンは徐々に俺から目線を外し下を向くと、作った両手の拳を見つめた。
リン「…ナイトレイドの…ためだけじゃない。」
小さく体が震えている。その手に、ポツリと雫が落ちた。
リン「私が! …私が、あなたに生きていてほしいから…!!」
いくつもの雫を落とし、肩で息をしながら呼吸を整えている。
ふと、彼女が顔をあげた。
リン「好きなの…ラバック…。」
ドキン…!
大きく鼓動が鳴った。
ふいに名前を呼ばれたから?
泣き顔が美しく見えたから?
いや…
ラバック「リン…」
ポロポロと涙を流す彼女を見つめる。
ドキン…ドキン…
何か言わなくちゃ
そう思っても、言葉が出ない。
それでも無意識に、彼女の頬を伝う涙を手で拭った。
少しずつ落ち着きを取り戻す姿を見て、やっと言葉がこぼれ落ちる。
ラバック「俺は…」
アカメ「ここに居たのか!」
ラバック「!?」
突然の大きな声に驚き振り向くと、逆光の中に、ロングヘアーがなびく姿と、耳と尻尾が揺れる姿が映った。
リン「アカメ?レオーネ?」
アカメちゃんが急いでこちらへ走ってくる。その後ろを、邪魔してごめん!という顔とポーズでレオーネ姐さんが歩いてきた。
アカメ「二人とも、なかなか帰ってこないので心配したぞ。」
リン「ごめんなさい…私が付いていながら。」
ボロボロの俺と自分の姿を見られ、役目を全うできていないことを悔む。
アカメ「何を言っているんだ。二人とも生きてる、それで十分だ。」
ラバック「姐さんが探してくれたの?」
レオーネ「あぁ、二人の匂いを追ってきた。さすがに血の匂いが混ざりはじめた時は焦ったけどね。でも…」
ラバック「心配かけて悪かった。」
何か余計なことを言われそうだったから、思い切り遮る。
アカメ「さぁ、帰ろう。」
俺とリンは、アカメちゃんとレオーネ姐さんの肩を借りながらアジトへと向かった。
さっき言えなかった言葉…
戦いもなにもかも全部終わって、平和な世の中ってやつになったら
ちゃんと伝えるか…あいつに。