"今すぐ大広場に戻られよ"
密偵からの知らせを受けて、ボスと私は馬を走らせる。
さっきの胸騒ぎが気のせいであればいい…何度も心の中で唱えた。
メインストリートへ入り広場に近づくにつれて、人影が増えていく。
深くフードをかぶり人々の合間をすり抜けると、御触書が撒き散らされる広場の中に、レオーネとマインの姿を見つけた。
リン「レオーネ?一体何が…」
レオーネは厳しい表情のまま視線を逸らさない。
瞬時に脳裏をよぎる予感。
ドクン… ドクン…
大きくなる鼓動を感じながら、ゆっくりと、その目線の先へ振り向いた。
悲しげな夕日に照らされた無機質な木の杭には
タツミの公開処刑を告げる御触書と…
見慣れた赤いバンダナが、静かに風に揺れていた。
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リン「私…置いてあった道具があるから取ってくる。先に戻ってて。」
静けさを打ち破ったのは、リンだった。
マインが記した地下水路の地図を頼りに、一度待機ポイントへ戻ることになった私たち。広場からここまで、誰一人言葉を発することはなかった。
リンは、今にもはち切れそうな顔でそう告げると、私たちに背を向けて暗闇の中へと消えて行く。
ナジェンダ「…少し、一人にさせてやろう。作戦の変更は私達で立てるぞ。」
ボスの言葉に続き、私とマインは地下水路を進んだ。
リンは一粒の涙も流さなかった。
気丈だからとか、報いだからとか、そんなんじゃない。
自分を保つことで、必死に何かを守っているんだろう…。
広場でリンの肩を支えてはいたが、その場で崩れ落ちることはなかった。
…でも、震える体が彼女の心を物語っていたんだ。
レオーネ「ごめん、作戦会議はよろしく!」
マイン「あ、ちょっと…!」
マインの制止を背中に受けながら、リンが消えた暗闇の中を追った。
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メインストリートの中にある、ラバの貸本屋。
戦いが終わったら、ここを大きくしていずれは全国チェーンだ!…なんて言ってたっけ。
店の中に入ると、ひんやりとした空気が身を包む。
夕方の日が差し込んでいる時間にも関わらず、暗く冷たい影を落とすこの場所。
まるで、帰ってこないと分かっている主を、寂しげに待ち続けているようだった。
リン「私と…一緒ね。」
カウンターにそっと手を置く。
そのままにされたレジスターやペンやエプロン…さっきまで彼がそこに居たような風景に、目頭が熱くなる。
彼が読んでいたのであろう、ページが開かれたままの本を手に取った。
わかってる。
これは報い。
覚悟は…出来ていたはずよ。
でも…
リン「…約束、したじゃない…! ウソつきッ!!!」
溢れ出る涙を止めることは、もう出来なかった。
傷が癒えていないことを知っていたのに。
あの時ちゃんと引き止めていれば良かったのに。
どうして…
後悔ばかりが浮かび、抱きしめていた本は大粒の涙に濡れて歪んでいった。
気付けば辺りは暗くなり、泣きはらした顔で見上げた窓の外は、月が顔を覗かせている。
私、ずっと泣いてたなんて…
こんなんじゃ、笑われちゃうね…。
枯れるまで出尽くした涙を、全て受け止めてくれていた一冊の本。
"もう泣くなよ?"
ラバに、そう言われている気がした。
ゆっくりと立ち上がり、決意を新たにする。
私たちが約束したのは、"この国を変えること"。
それだけは…守ってみせる。
本棚の裏に隠された階段で隠れ家へと降りる。日も入らないこの場所は、店以上にしんとして冷たい。
補充用として置いてあった器具を装備すると、カタンと背後から音がした。
リン「レオーネ…?」
レオーネ「こんな悲しみの連鎖は、私たちで終わりにしよう。」
階段から降りてきたレオーネに、私は微笑みで返事をした。
リン「…!」
よく見ると、レオーネの鼻の頭がほんのり赤い。
…もしかして、ずっと外に?
きっと心配して後を追ってくれたんだろう。そして私の姿を見て、待っていてくれたんだ。
鼻がツンと痛くなる。
リン「心配かけてごめん…レオーネ。でももう大丈夫だよ。私がやるべきことは、泣くことなんかじゃない。」
レオーネを思い潤んだ目を一拭きして、前を向く。
リン「今やるべきなのは、捉えられた仲間を取り戻すこと…!」
マイン「処刑当日、地上と上空から仕掛けるわ。」
レオーネの背後から、マインがツインテールを覗かせる。どうやら、新たな作戦が決定したらしい。
その後、ボス、アカメ、スーさんも合流してタツミを奪還すべく意志を一つにする。
ナジェンダ「最終作戦にはタツミのインクルシオが必要だ。死んでいった仲間達のためにも…必ず成功させる。」
ボス、マイン、スーさんはエアマンタに乗り上空から。
アカメ、レオーネ、私は地下水路を使い地上から突入する作戦だった。
地下水路から敷地内に出ると、木々の先に宮殿がそびえ立つ。多少距離があるものの、ここまで近づいたのは初めてだ。
ここから闘技場へは庭園を通り抜けなければいけないが、不幸中の幸いか、闘技場付近の警備が強化されているためこちら側はさほど警戒されていないようだった。
小さな樹海を抜けると、目に飛び込んできたのは焼け焦げた瓦礫と無数にヒビ割れをした地面。ところどころに血痕も残っている。
レオーネ「…戦いは、もう始まっているんだな。」
アカメ「これから、この場所以上の戦場が待っている。」
レオーネ「もちろん、覚悟は出来ているさ!」
リン「 行きましょう。」
惨状を背に、庭園へと続く格子戸を開こうとした瞬間だった。
??「そこから先は行かせたくないねぇ。」
ドゴォ!!
上空からの敵襲に、咄嗟に身をかわす。
レオーネ「ちぇっ、そう簡単には通してくれないってわけか。」
臨戦態勢を取りつつ土埃の先に捉えた相手は、いつかラバと共に対峙した羅刹四鬼の一人だった。
リン「お前は…!」
スズカ「あの時はこれ以上ないってくらいいい経験させてもらったよ。また楽しませてくれるんだろう?」
あの時、仕留め切れていなかったってこと…ね。
正直、攻撃型じゃない私がどこまで応戦できるかわからない…けど!
リン「先に行って。アカメ、レオーネ。」
アカメ「!」
レオーネ「何言ってんだ!」
リン「タツミ奪還は一刻を争うわ。こんなところで足止めを食らっていてはいけない。」
レオーネ「でもそいつは…!」
相手は、ラバでも苦戦を強いられた羅刹四鬼。レオーネが言いたいこともわかる。でも…
リン「ラバは…完治していない体でも…それでも危険な任務に向かったの。」
閉じていた目を開け、アカメとレオーネへ振り向く。
リン「私も、負けてられないから!」
苦悶の表情を浮かべる二人を安心させるように、精一杯笑ってみせた。
アカメ「…行こう。」
レオーネ「絶対助けに戻るからな!」
格子戸の先へと走っていく背中を最後まで見送った。