リン「…シェーレとブラートのことは聞いたわ。」
そう呟きながら砂糖をテーブルの上に置き、俺の隣にそっと座った。
リン「こういう稼業だってことは十分わかってる。…でも、会いたかったな。」
改めて二人の名前を聞くと、堪えていた悲しみが溢れ出てきそうで。
その気持ちをなんとか誤魔化そうと、砂糖を入れたコーヒーをひたすらかき混ぜる。
ラバック「でもさ、リンが帰って来てくれて皆喜んでるよ。」
明るい話題に変えようと、ぎこちなさの残る笑顔で話を振った。
突然自分に振られるもんだから少しビックリして俺を見つめていたが、すぐに柔らかい表情に変わった。
リン「うん。私も戻って来れて嬉しい。もちろん、任務は完遂するつもりだったけど…私達はいつ死んでもおかしくない立場だから、こうやってまた皆と会えて本当に良かった。」
ラバック「タツミも会えて楽しそうだしな。」
リン「ふふっ。あの子、ラバと気が合いそうだね。」
そりゃどーゆう意味だ…
いやまぁ、間違ってはいないか。
小さく口を尖らせながら、十分に混ざり合った砂糖入りのコーヒーを口に含む。
ふとリンの胸元に目がいった。
ラバ「寝る時もつけてるんだね、それ。」
一瞬きょとんとしていたが、すぐに察しがついたようだ。
リン「…うん。これは帝具だけど、それだけじゃないからね。」
首からかけた十字架のネックレスに触れながら、リンが話を続けた。
リン「小さい頃に母さまからもらったの。貧しい村だったから、プレゼントを貰うなんて珍しくて…すごく嬉しかった。認められた者にしか反応しないから、それまでこれが帝具だなんて誰も思ってなかったみたい。」
過去を懐かしむかのように遠い目をしながら、リンはコーヒーを一口すすった。
リン「でも、年貢の徴収に来た衛兵に帝具の存在を知られてしまって…。大臣は、帝具の納付を拒んだ私達の村を襲わせたわ。」
瞳の奥に鋭さを潜ませ、持っていた水色のそれを静かに置く。
動作こそ静かだが、取手を握るその手は力がこもり、微かに震えている。
リン「私はこれの力もあってなんとか生き延びた。…でも、村はダメだった。」
リンの瞳はどんどん深い闇に堕ちていく。
やべ…話題振り間違えたかも…。
そう思った瞬間、こっちの様子に気づいたのか「あっ」と慌てた顔をした。
リン「ごっ、ごめんねこんな話!暗くなっちゃったね。」
えへへ…と苦く笑いながら、また一口コーヒーをすする。
気、使わせちまったかな…。
横目でチラリとリンを見る。
伏せた目の先のまつげはまだ少し湿っていて、一粒の雫が落ちそうで落ちない。
初めて見せる物憂げな表情から、目が離せなかった。
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ラバック「俺でよければさ、話…聞くし。」
そっぽを向きながら、ラバが言った。
マグカップで顔を隠してるみたいだけど…もしかして、照れてる?
その言葉と仕草がとても嬉しくて。
リン「ありがとう。」
とっておきの笑顔で返事をした。
なんでだろう?
今まで過去の話なんて、仲間にしたことなかった。
自分の昔話なんて、誰が聞いても虚しくなるだけ。
皆に悲しい顔させたくない。
だから聞かれない限りは話さない。
ずっと、そうやってきたのに…。
見つめたカップの中身は半分まで減っていたけど、私の心はとても満たされていた。
リン「私はね、このネックレスのこと帝具だなんて思ってないの。これは…母さまからの大事な贈り物。」
まだほんの少し湯気の残るカップを持ち、立ち上がった。不思議と体が軽い。
リン「大切なもの…もう失いたくない。だから、きっとこの国を変えてみせる。」
さっきまでの淀んだ靄は消えていた。たった一言で、こんなにも心が晴れるなんて。
そんな私の様子を見ていたラバにも、笑顔が戻っていた。
リン「お手入れ、邪魔しちゃってごめんね。」
少し名残惜しかったけど、残っていたコーヒーを飲み干して、おやすみと告げた。
穏やかな足取りで部屋に向かう途中、訓練所の方から何かを振り回す音を耳にした。
そっと覗くと、眩しい月に照らされて、自分の体ほどある大きな剣を振るう少年の姿があった。
リン「頑張ってるのね、タツミ!」
私に気づいた少年は剣を振るのを止め、照れ臭そうに「へへ…」と笑った。
タツミ「おう!ありがとう、リン!」
はにかんだ笑顔から一変、眉をキリっとあげ、正面を見つめて再び剣を振るった。
そんなタツミの姿も頼もしく思いながら、訓練所を後にした。