「まずは貴様らの適性を見る!両側の腰にロープを繋いでぶら下がるだけだ!!」
翌日、全員が集合したのちにキース教官から訓練内容を聞かされた。
「全身のベルトで体のバランスを取れ!これができない奴は囮にも使えん!出来ない者には開拓地に移ってもらう!」
早速立体機動の適性の訓練を行うが元々鍛えていたおかげかバランス感覚も鍛えられていたらしく、ミカサと同じレベルで体幹がブレずにこなせた。アルミンも俺達ほどとはいかないがバランスは取れ無事適正訓練の合格をもらえた。
「すげえ、アッカーマンとイェーガー兄の2人全然ブレてねぇぞ」
「スプリンガーとブラウスも中々だ。こりゃあ今年は才能があるやつが多そうだ」
適正訓練の合格をもらい降りると物凄い音が訓練所に響いた。
「何をやってるエレン・イェーガー!!上体を起こせ!!」
教官の声がする方を見ると、体を上下反転させて宙吊りになっているエレンの姿があった。本人も状況が掴めないようで茫然としている。
「(…?他のやつと違ってやけにバランスの崩れ方が違う…もしかしてアイツの装備)」
そしてこの日の訓練は終了しエレンは…
「グレン!なんかコツとか無いか!?」
早速エレンはバランスの良かった俺に聞いてくる。他にもジャンやコニーにも聞いたらしいが軽くあしらわれ馬鹿にされてしまい結果こうして聞いてきたのだ。
しかしこればかりはアドバイスが難しい。
「…コツって言われてもな。俺は腰を中心にして、身体全体のバランスを取ってるだけだが……」
「それが分かんねぇんだよ!」
「いや、俺に言われても……」
エレンは頭を抱えながら唸っている。その様子を見て、俺はふと口を開いた。
「……エレン。おそらくなんだが…お前の装備に不備があったんだろ。動きが他の奴らと少し変だった」
「不備……?」
エレンがはっと顔を上げる。こう言うのは前世で使っていた機械とかでもよくあった。もしかしたらエレンは運悪く不備のある装備を支給された可能性もある。
「詳しいことまでは分からない。教官に言う前に、一度だけ俺のベルトで試してみるか?俺の予想が正しければ…もしかしたら整備科目ない箇所が壊れてる可能性もある」
アルミンは俺の言葉に考え込み何処が納得する顔となった。やはりアルミンもエレンのバランスの崩し方には違和感を感じていたのだろう。そして俺はエレンの装備しているベルトを俺のと交換しもう一度挑戦すると…
「……で、出来た」
「やっぱりか…」
俺の装備していたベルトで挑戦するとぐらついているもののバランスを崩すことなく難なくぶら下がる事が出来た。
エレンは宙に浮いたまま、驚いたように自分の身体を見下ろしている。
さっきまで何度やってもバランスを崩し、まともに姿勢を維持できなかったのが嘘のようだ。
「さっきまでとは全然違う」
ミカサも驚いた様子でエレンを見上げている。
「グレンの言う通り、装備の不具合だったんだ……」
「俺も確信があったわけじゃないが、バランスの崩れ方が他の奴らと明らかにおかしかったからな」
「でも……だったら最初から教官に言えばよかったんじゃ…」
ミカサが首を傾げる。
「教官に言うにしても、原因が分からないままじゃ『お前の身体の使い方が悪い』って判断される可能性もあるだろ。だから一度、俺の装備で試したかったんだ」
「なるほど……」
アルミンは納得したように頷く。
「グレンは最初からエレンの動きそのものじゃなくて、装備の方を疑っていたんだね」
「ああ。俺達は同じ訓練をしてるのに、エレンだけ明らかにバランスの崩れ方が違ったからな」
「それなら、教官に報告した方がいい」
ミカサがエレンを見る。
「うん。これで原因が分かったなら、ちゃんと調べてもらった方がいい」
「まだ適性訓練に合格したわけじゃないぞ」
「分かってるよ!」
「それに、まだ身体が少し揺れてる。俺達みたいに完全に安定してるわけじゃない」
「お前は一言多いんだよ!おわっ⁉︎」
エレンは気を抜いてしまいバランスを崩してしまう。
「ほら、そうやって熱くなると周りが見えなくなってる。調査兵になるなら、冷静さを身に付けるのは必須だぞ?」
「ぐぅ…」
「グレン……」
アルミンが苦笑する。翌日、エレンの二度目の適性試験で、エレンは装備の破損をキース教官に申し出ることで難なく合格することが出来た。
入団してからは基礎的な体力作りがメインで徹底的に追い込まれる。半年以上経過すると、本格的に立体機動装置の訓練が開始されるようになり、今日は立体機動装置を用いた移動訓練。目標地点まで移動するという単純な訓練だ。因みに鞘には剣は収納されておらず移動のみの訓練の為剣は装備されていない。
「次!」
キース教官の言葉に従って出発地点に並ぶ。進行方向にあるのは森の間にできた谷。剥き出しの岩にアンカーを刺して移動する形となる。
「行け!」
一斉にアンカーが射出され、圧縮されたガスが噴射されると同時に全員の足が地を離れる。二本のアンカーを巻き取りながら斜め上へと進み、一旦アンカーを回収してもう一度射出する。一見簡単そうに見えるその動作において、再射出が遅れたりアンカーがうまく刺さらなかったりで上手く扱えない者が多発し、怪我や挫折で開拓地へ戻ったり、落下や誤射による死者も過去にもいたが、それは分かっていたことで、訓練が中止になったり内容が変更されるようなことは無いとの事
「(気持ちいいな…前世でも似た様なものもあったが…これは中々面白い)」
俺は初めての感覚に思わず笑みが浮かべる。乗り物ではあったが、こうやって人一人が空を飛ぶ事など前世でもなかった為気分もかなりいい。
「くそっ!なんであいつはあんなに速いんだ!」
やる気に満ちていたジャンが当然のように先を行くミカサを見て自己嫌悪に近い言葉を発した。
「(凄いな、どうしたらあんな早く動けるんだ?)」
俺は内心で感心しミカサの立体起動の動きを観察する。ジャンも立体起動の扱いに関しては恐らく同期の中では上手いがミカサが予想以上に速いのだ。
「凄い…どうしたらあんな速く」
近くを飛んでいたクリスタは自分の能力の低さについてではなく、訓練ノルマを達成できるかどうかを危惧している様子だ。
「……あっ」
焦って速度を上げようとしたクリスタのアンカーが深く刺さらず途中で抜けてしまっていた。バランスを大きく崩した体は、背を地面に向けて落ちていく。
「クリスタ!」
突然の出来事に誰もが反応出来ず、ワイヤーに引っ張られて直進していく。
「ッ!」
俺は反射的に柄のトリガーを握り込む。
バシュッ!!左右のアンカーがほぼ同時に射出され、前方の樹へと突き刺さる。
「(そこだ!)」
巻き取りの速度を調整しながら身体を前へ投げ出す。通常なら、そのまま二本のワイヤーに引かれ俺はクリスタの落下地点を見ていた。
このままでは間に合わない。クリスタは地面へ向かって落下している。
「(間に合わせる!)」
左のアンカーを巻き取り、身体を壁へと寄せ右側のアンカーを外す。身体が大きく右へ振られ普通なら危険な姿勢だ。だが、ここからが重要。俺は腰を捻り、身体を横向きにする。
視界の端に、落下していくクリスタの姿が映った。
「――ッ!」
もう一度、トリガーを引く。
バシュッ!!
今度は前方ではない。クリスタの真下にある巨大な木の幹へ向けて、アンカーを射出する。
「グレン!?」
誰かの声が聞こえた。ワイヤーが伸びきる瞬間、身体が強烈に引っ張られた。
「ぐっ……!」
身体に衝撃が走る。だが、ここで身体を固めてはいけない。
力を逃がす。膝を曲げ、腰を落とし、ワイヤーの張力に合わせて身体を回転させる。そのまま木を中心に大きく円を描くように旋回し――
「クリスタ!」
「え……?」
落下していたクリスタと目が合う。俺は左手のトリガーを引き、アンカーがクリスタの近くにあった太い枝へ突き刺さる。
そして右側のワイヤーを巻き取り、一気に距離を詰める。
「手を!」
「……!」
クリスタが手を伸ばす。俺も腕を伸ばし、その手首を掴んだ
「捕まえた!」
だが、勢いは止まらない。二人分の重量が一気に俺へ掛かる。
「ぐっ……!」
身体が大きく振られてしまいこのままでは二人とも木に叩きつけられる。
俺は咄嗟にクリスタを自分の胸元へ引き寄せ、片方のアンカーを外し身体が反転する。
「きゃっ!」
「動くな!」
空中で身体を捻り、背中から木へ向かう軌道を避け、新たなアンカーを別の木へ撃ち込む。ワイヤーが張り、二人の身体が大きく弧を描く。
速度が徐々に落ちていく。最後に少し低い位置に向けてアンカーを撃ち込み、片方のワイヤーを巻き取りながら高度を落としていく。
そして――
「……っと」
地面へ着地する。俺はクリスタの手を離した。
「大丈夫か?」
「……う、うん」
クリスタは呆然とした表情で俺を見上げている。
「怪我は?」
「な、ない……」
「ならよかった」
俺は周囲を確認する。少し離れた場所では、他の訓練兵たちもこちらを見ていた。
「……」
誰も声を出さない。それも当然だ。今の俺自身、かなり無茶をした自覚がある。
けれど――
「……グレン」
クリスタが小さな声で呼ぶ。
「ん?」
「ありがとう……助けてくれて」
「気にするな。訓練中の事故だ。誰だって失敗する」
「でも……あんな動き……」
クリスタは俺を見つめ…
「どうやったの……?」
「どうって……」
俺は少し考え…
「落ちている人間を見たら助ける。それだけだろ?」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
クリスタが困ったように笑う。
「……あれ、普通できるか?」
少し離れた場所から、誰かの呟きが聞こえた。
「俺には無理だ……」
「途中から目で追えなかった」
「そもそも、あんな動きしてワイヤー絡まらないのかよ……?」
訓練兵たちは口々に呟きながら、未だに俺とクリスタを見ている。俺はそんなに凄いことをしたつもりはなかった。ただ、落ちていくクリスタを見て身体が勝手に動いただけだ。
クリスタは少しだけ頬を赤くしながら、俺から視線を逸らした。
「……ありがとう、グレン」
「だから気にするなって。それと、そろそろ訓練に戻らないとな」
「え?」
クリスタが顔を上げる。
「まだノルマが残ってるだろ?教官に見つかったら怒られるぞ」
「あ…う、うん!」
クリスタが慌てて立ち上がる。俺も立体機動装置を確認する。トリガーの異常、アンカー、ワイヤー、残りガス……問題なし。
「行こう」
「うん!」
俺はクリスタと共に再び訓練へ戻る。その背中を見ながら、同期たちはしばらく言葉を失っていた。
「本日の訓練は終了だ!!希望する者は引き続き、自主訓練を続けろ!!」
目標地点に無事に到着し、怪我人も少なからず出た中、今日の訓練が終わった。宿舎へ戻っていく者や自主訓練を続ける者もおり、俺自身も自主訓練を続けていく。
「…………」
自主訓練を続けている様子を、キースは少し離れた場所から黙って見つめていた。特に視線を向けているのは、グレン・イェーガー。
キースは腕を組み、しばらくグレンの背中を見つめる。あの判断。あの速度。そして、あの立体機動の動き、立体機動装置を使い始めて間もない訓練兵としては明らかに異常だ。
「……グレン・イェーガー…か(グリシャ…お前の息子の一人は…とんでもない才を秘めているやもしれん)」