そんな訳で久々に後藤家in虹夏ちゃんのお話です。ふたりちゃんとがっつり絡めたお話も書きたいと前々から思っていたのでやっと書けてスッキリしました。
虹夏Side
「虹夏ちゃん先生! よろしくおねがいします!」
「はいよろしくお願いします。ふたりちゃん、お手々はちゃんと洗ったかな?」
「はーい!」
「よく出来ました! じゃあ美味しいクッキー作ろうね!」
「うん!」
元気に頷くふたりちゃん。可愛いなぁ本当に。
今日私は金沢八景にあるぼっちちゃんの家まで来ていた。だけどぼっちちゃんは今ジミヘンと一緒にお散歩をしていて、お父さんとお母さんも出掛けていて私とふたりちゃんの二人だけ。
どうして今この状況なのかというと、それは三日前。ふたりちゃんからの電話が発端だった。
~三日前~
「ん? 電話だ。……ぼっちちゃん?」
何だろう。電話だなんて珍しい。普段直接喋るのが苦手だからか大抵ロインでメッセージを送ってくるだけなのに。緊急の用事かな?
「はいもしもし?」
『あ! 虹夏ちゃん! こんばんわ、ふたりです!』
「え? ふたりちゃん?」
スマホから聞こえてくる元気な声。それは私とお姉ちゃんの様にぼっちちゃんと歳が干支一回り近く離れた妹、ふたりちゃんだった。
「ふたりちゃん久しぶりだね。ぼっちちゃ……お姉ちゃんかと思ってびっくりしたよ。スマホ借りてるの?」
『えへへ、おねえちゃんがお風呂に入ってる間に内緒で電話してるの』
「内緒で?」
なんで内緒で? ぼっちちゃんならお願いすれば電話くらい貸してくれそうなもんだけど。
『あのね、実は虹夏ちゃんにおねがいがあります』
「お願い?」
『うん! えっとね、おねえちゃんが言ってたんだけど虹夏ちゃんってお料理上手なんだよね?』
「お料理?」
まぁ毎日してるしそれなりには得意って言っていいかな?
『それでね、虹夏ちゃんにお料理教えて欲しいんだ』
「え? 私に? それは良いけど、お母さんじゃ駄目なの?」
『おかあさんやおとうさんには内緒なんだ。おねーちゃんにも。美味しいお料理作ってビックリさせたいの!』
「あ、そういうことか」
つまりサプライズがしたいのか。ふたりちゃんってば可愛いなぁ。
でもお料理か。料理ってなると包丁や火を扱うし、でも危ないからって代わりにそれをやっちゃうと殆ど私が作ることになるからふたりちゃん的に納得いかないだろうな。かと言ってもそれをそのまま伝えるとふたりちゃんおませさんみたいだしまんま子供扱いしたら機嫌損ねちゃいそう。さてどうしたものか。
……あ、そうだ。
「ねぇふたりちゃん。もし良かったらお菓子作りにしない?」
『お菓子作り? 虹夏ちゃんお菓子も作れるの!?』
「うん、バレンタインはいつもお姉ちゃんにチョコのお菓子とか作ってあげてるよ」
『すごーい! ふたりにも作れるかな?』
「勿論! しっかり教えてあげる!」
『やったー! ふたり可愛い形のクッキー作りたい!』
クッキーか。量も作れるし初心者向けだしちょうどいいかな?
「よし! じゃあいつ作ろうか?」
『えーっとね、次の日曜日お昼におかあさんとおとうさんお買い物に出かけるって言ってたからその日がいいかも。ふたりはお友達のお家に行くって言ってついていかない様にするね』
「うん分かった。あ、でもお姉ちゃんは?」
『おねーちゃんはジミヘンにお散歩に連れてってもらうから大丈夫! ね、ジミヘン!』
『ワン!』
「そっか、ジミヘンにお散歩……、ん?」
今なんかおかしくなかった? ……まぁいいや。
「じゃあ次の土曜日にそっちに行くね」
『うん! 虹夏ちゃん先生よろしくおねがいします!』
「あはは、はい任されました!」
そして今日、約束の日にふたりちゃん以外が出かけたのを見計らってぼっちちゃんの家に来てふたりちゃんにお菓子作りを教えに来たという訳だ。
「じゃあ材料は持ってきてるから作ろうか。玉子にバターにバニラエッセンスにお砂糖、クッキーの型。それと、生地にはこれを使います」
「なにこれ? ホットケーキミックス? 今日作るのクッキーじゃないの?」
「勿論クッキーだよ。これを使うと簡単にサクサクのクッキーが作れるんだ」
「へ~」
薄力粉から作っても良いんだけど下手すると硬いクッキーが出来ちゃうからね。それに使いやすい分量に小分けされてるの買ってきたから量を測る手間も省けるし。
「まずはこのホットケーキミックスをふるいにかけていきます」
「ふるい?」
「うん。ふるいにかけると粉の塊が無くなって、生地も更にふわふわサクサクになるからね。まぁやらなくてもそこまで大きくは変わらないんだけど」
「そうなんだ。でもやる! どうせならおいしく食べてほしいもん!」
「良く言ったふたりちゃん!」
教え甲斐があるよ! これがお姉ちゃんだったら『あ? んなもん大して変わんないなら一気に入れていいだろドバー』みたいになるんだろうな。
さて、ふるいの下にボールを置いて、ホットケーキミックスを入れてっと。
「ふたりちゃん。私がふるいを持ってるからぽんぽんって叩いてもらっていい? 強く叩くと粉が飛び散っちゃうから優しくね」
「はーい! ぽんぽん!」
ふたりちゃんが軽くたたく度に粉がふるいに掛けられて下のボールに落ちていく。……よし、全部落ちたな。
「じゃあ次は他の材料も混ぜていくんだけど、その前にオーブンを予熱しておきます」
「予熱?」
「そ。先にオーブンを170℃で予熱しておくと綺麗に焼けるんだ。焼き菓子は大抵予熱しておくんだよ」
「そうなんだ! 勉強になります虹夏ちゃん先生!」
ああんもう可愛い! 妹にほしい!
オーブンもウチにあるのと似たようなタイプだったから問題なく予熱の設定完了。
「では粉の中に卵、バター、砂糖、バニラエッセンスを入れていきます。それで、入れる際に絶対に守らないといけないことがあります」
「はい! なんですか虹夏ちゃん先生!」
「それはね、分量です」
「分量?」
「うん。お料理は慣れてきたら自分の感覚で味付けを調整をパパっとしちゃうんだけど、お菓子作りは分量がすごく大事なの。これを適当にしちゃうと出来上がりが残念な事になっちゃうから必ず重量計で重さを計ります。分かったかな?」
「はーい!」
「じゃあレシピを見ながらグラムを量っていこうね。まずはお砂糖を……」
お砂糖、卵、柔らかくしたバターをしっかり混ぜ合わせて一つの生地にして、平たく伸ばしていく。
「よし、じゃあここまで来たらお待ちかね。型を使って好きなクッキーの形にしていきます!」
キッチンにハートや、星型、丸型、動物の型などのクッキーの型を並べていく。
「わーい! えへへ、まずはどれにしようかなー」
ふたりちゃんが楽しそうにクッキーの型を選んでる。ふふ、私もクッキーを初めて作った時はこんな感じだったな。あの時は結局お姉ちゃんの名前にちなんで星型ばっかり作ったっけ。
そういえばお姉ちゃんはあの時少し焦がした苦いクッキーを見ていつも通り意地悪ばっかり言って、でも全部食べてくれて最後には美味かったよって言ってくれたんだったな。思えばそれがうれしくてお料理だけじゃなくてお菓子作りもやろうって思ったんだっけ。
「……喜んでもらえるといいね。ふたりちゃん」
「うん!」
それからふたりちゃんが両親とぼっちちゃんに渡す分を焼いた後、私もバンドメンバーとお姉ちゃんの分を焼いてクッキーの出来上がり。
「やった! 出来た出来た!」
綺麗に焼けたクッキーを載せたお皿を持ちながらピョンピョン跳ねながら喜ぶふたりちゃん。これだけ喜んで貰えると教えた甲斐があったな。
そして頑張ったふたりちゃんに。
「よーし! ふたりちゃんよく頑張りました! 頑張ったふたりちゃんにはご褒美があります!」
「え! なになに!?」
「それは……、じゃじゃーん! ホットケーキです!」
「やったー! ホットケーキだー!」
そう、残ったホットケーキミックスでササッとホットケーキを焼いておいたのだ。時間も3時のおやつにちょうどいいしね。
ホットケーキに残ったバターと、一緒に買っておいたメープルシロップをたっぷりかけて……、と。
「はい出来上がり! ふたりちゃんどうぞ」
「ありがとう虹夏ちゃん! いただきまーす!」
ホットケーキにフォークを突き刺して齧り付くふたりちゃん。ナイフはまだ上手く使えないのかな? 口の周りがシロップでベタベタになってて可愛いな。後で拭いてあげなきゃ。さて、私も自分の分を食べちゃおうかな。
「虹夏ちゃん先生! 今日は本当にありがとうございました!」
「どういたしまして。私も誰かとお菓子作ったの初めてで楽しかったよ」
「ほんと!? えへへ、良かったー!」
「また一緒に作ろうね」
「うん!」
「ただいまー」
「あ! お母さん達だ!」
バタバタと玄関までお出迎えに行くふたりちゃん。後を追いかけるとふたりちゃんのご両親とジミヘンと、まるで引きずられたかのようにボロボロのぼっちちゃんが倒れていた。……犬の散歩をしていたのでは?
「あら虹夏ちゃんいらっしゃい」
「お邪魔してます。ふたりちゃんに呼ばれて遊びに来てました」
「そうだったのね。……あら? 何か甘くて良い匂いがするわね」
「あのねあのね! 虹夏ちゃんにクッキー教えて貰ってたんだ!」
「そうなのかい? 虹夏ちゃんありがとう」
「いえいえ」
「ほらひとりちゃん起きて。虹夏ちゃんが来てるわよ?」
「……んえ? 虹夏ちゃん?」
お母さんに揺さぶられてぼっちちゃんが目を覚ます。
「あ! え!? に、虹夏ちゃん!?」
「やっほ、ぼっちちゃん。ボロボロだけど大丈夫?」
「だ、大丈夫です。ただでさえ見苦しいのにこんな薄汚れててすみません……! す、すぐ着替えてきます!」
バタバタと部屋に戻っていくぼっちちゃん。今更そんなこと気にする間柄でもないんだし気にしなくてもいいのに。……まぁ私もぼっちちゃんに会うならちゃんとした格好するだろうし人の事は言えないか。
「ねぇねぇクッキー上手に焼けたから早く食べて!」
「勿論さ。ふたりの初めてのクッキー、ちゃんと写真にも撮るからな」
「やったー!」
お父さんに肩車されながらリビングに向かうふたりちゃん。微笑ましいなぁ。
「じゃあ私は紅茶を入れてくるわね」
「あ、それなら私も手伝います!」
「いいのいいの。虹夏ちゃん達には美味しいクッキー作ってもらったんだもの。これぐらいはしないとね」
そう言って私の頭を撫でて、ぼっちちゃんのお母さんは台所へと向かっていった。……、お母さんの手、温かいな。
そしてぼっちちゃんのお父さんがクッキーを載せたお皿を持ったふたりちゃんを軽快なフットワークで写真を撮っているのを眺めていると、お母さんの趣味の可愛いお洋服に着替えたぼっちちゃんが降りてきた。
「あれ? ぼっちちゃん珍しいね」
「あ、はい。他のジャージもお洗濯に出してたのでこういうのしか無くて……。似合ってないのに変な物を見せてすみません……」
「そんな事ないってば。よく似合ってるよ」
ホントいつもこういう格好してればバンドでも人気出ると思うんだけどな。ぼっちちゃんバンド内で目立ってないの気にしてるし。でもぼっちちゃんが望んでる目立ち方とは違うか。可愛い路線じゃなくてカッコいい路線を望んでるっぽいし。……それに私も、ぼっちちゃんがカッコいいのは皆に知ってほしいけど、かわいいのはあんまり知られたくないかな。
「あ、そうだ。これ先に渡しておくね」
ぼっちちゃんにクッキーを詰めた袋を渡す。
「え、あ、ありがとうございます。い、良いんですか?」
「勿論! 他にもお姉ちゃんの分と、今度バンドメンバーで集まった時用にも分けてあるから遠慮なく食べてね」
「は、はい。へへ……、虹夏ちゃんのクッキー……」
ぼっちちゃんがにちゃにちゃしながら袋を開ける。良かった、喜んで貰えてるみたい。
「……あれ?」
「ん? どうかしたぼっちちゃん? もしかして焦げてた?」
「い、いえいえすごく綺麗に焼けてます! もし丸焦げで真っ黒になってても虹夏ちゃんのクッキーなら美味しくいただきます!」
「そ、そう?」
まぁそんなクッキーならそもそもリョウくらいにしか食べさせないけど。草ばかり食べてるあいつなら喜んで食べるだろうし。
「あらあらひとりちゃん。虹夏ちゃんからもクッキー貰ったの? 良かったわね」
紅茶セットを持ってきたぼっちちゃんのお母さんが袋に入ったクッキーを覗き込んできた。
「……あら? ……うふふ、良かったわねひとりちゃん」
そう言って紅茶セットをテーブルに並べていくお母さん。……ぼっちちゃんといいお母さんといい何なんだろう? 何か変な所あるかな?
「ねぇねぇ早く食べて食べて!」
「ええ勿論。ほらパパとひとりちゃんも」
「ああ、写真も充分撮ったしね。じゃあいただきます」
「う、うん。いただきます」
皆それぞれふたりちゃんが作ったクッキーを摘まんで食べていく。……あ、ぼっちちゃんが取ったの少し焦げてる。
「美味いよふたり!」
「ええ本当。上手に作れたわね」
「えへへー。おねーちゃんは?」
「……うん。勿論美味しいよ」
「やったー!」
……ぼっちちゃんが食べたの焦げてて絶対苦かったのに。やっぱりお姉ちゃんなんだな。
「虹夏ちゃんありがとー! 皆美味しいって!」
「うん。ふたりちゃんが頑張ったからだよ」
ふたりちゃんが満面の笑みで私のお膝に乗っかる。
「うふふ。そうしてると何だか本当に姉妹みたいね」
「そうですか? 私もふたりちゃんみたいな妹なら大歓迎ですよ」
「本当!? やったぁ!」
「ははは、後藤三姉妹かぁ。賑やかでいいね!」
「じゃあ私もひとりちゃんの制服を着て後藤四姉妹に……」
「やめてお母さん!!」
おお、ぼっちちゃんってお母さん相手なら大きい声出せるんだ。そんな必死になって止めなくても本当に着たりしないって。……しないよね?
「でも虹夏ちゃんなら本当におねーちゃんになってほしいなー」
「ふ、ふたり? お姉ちゃんなら私がいるよ?」
「おねーちゃんは面白いから別腹」
「面白枠!?」
ふたりちゃん容赦ないな……。
でもこんなに懐いてもらえて、なんだか本当に妹が出来たみたいで嬉しいな。
とは言え流石に本当にお姉ちゃんになるのは難しいからまた遊ぼうってお茶を濁しておくか。ぼっちちゃんも何だかんだ姉のポジション取られるのは複雑だろうし。と、
「あ! そうだ!」
そう考えていると。
「おねーちゃんと虹夏ちゃんが結婚したら良いんだ! そしたらふたりのおねーちゃんになれるよね!」
ふたりちゃんから爆弾発言が飛び出した。何言ってるのふたりちゃん!?
「ふ、ふたり!? 何言って……!」
「あらあらあらあら、それすっごく良いわね!」
「虹夏ちゃんが我が家に来たらまた賑やかになっていいね! それに貯めてたお金もちゃんと結婚資金に使って貰えるし!」
まさかのぼっちちゃん以外大賛成!? いやいやいや! ぼっちちゃんと結婚なんてそんな!
「お父さんとお母さんまで何言ってるの!? そんなの虹夏ちゃんが嫌に決まってるでしょ!?」
……いや、別に、嫌ではないけど……。
「えー? おねーちゃんと結婚したくないの? だって虹夏ちゃんがおねーちゃんにあげたクッキーって……」
「ふ、ふたり!! その話はもうおしまい! 冷凍庫に入ってるお姉ちゃんのアイスも食べていいから!」
ぼっちちゃんにあげたクッキー? さっきから妙に反応があるけどそんな変なクッキー渡したかな?
「ぶー。じゃあ虹夏ちゃんまたいっぱい遊びに来てくれる?」
「勿論。またお菓子一緒に作ろうね」
「うん!」
「あ、そうだ。虹夏ちゃんこのお菓子の材料費いくらだったかしら? 最近色々高いから結構したでしょう? その分のお金を出したいから教えてもらえるかしら?」
「そ、そんな良いですよ、好きでしたことですから」
「そういう訳にはいかないわ。ふたりちゃんがお世話になったんですから材料のお金くらいは……」
「大丈夫です大丈夫です!」
本当に好きでしたことだし、ぼっちちゃんやバンドメンバーやお姉ちゃんの分だって作ってるんだからそんなお金貰えるわけがない。
それでも互いに引かずにいると、
「ん〜、それだったら……。ねぇ虹夏ちゃん。明日ってもう何か用事入ってるかしら?」
「明日ですか? 明日は夕方からバイトが入ってますからそれまでは大丈夫ですけど……」
「それなら今日は晩ごはんをご馳走させてもらえないかしら? それから遅くなってしまうし、虹夏ちゃんさえ良ければそのままお泊りしていって」
「そんな本当、お気遣いなく……!」
「お願い虹夏ちゃん。中々虹夏ちゃんに会えることってないし、何もお返し出来ないのも心苦しいものなの。私を助けると思って。ね? それに……」
「虹夏ちゃんお泊りするの!? やったー!!」
「ふたりちゃんも喜ぶし、それに、ほら」
ぼっちちゃんのお母さんが別の方に視線を向けると、
「あ……! わわ……!」
期待を覗かせていた目を慌てて伏せるぼっちちゃんがいた。……ふーん?
「……ぼっちちゃんは私に泊まって欲しいの?」
「い、いやあの……! わ、私なんかが虹夏ちゃんに要望を言うなんて身の程知らずにも程がありまして……!」
「んー? つまり、泊って欲しいの?」
「いや、その、あの……! …………はい」
「よろしい」
じゃあふたりちゃんも喜んでくれるみたいだし。
「今日一日お世話になります」
「ええ。よろしくね虹夏ちゃん」
それからお姉ちゃんに今日は泊まることを連絡してから、ぼっちちゃんのお母さんにお料理を教えてもらったり、ぼっちちゃんとふたりちゃんと三人でお風呂に入ったり(この時私の裸を見たぼっちちゃんがギターヒーローの収益を全部渡そうとしてきたのでゲンコツした)、少し遊んでからぼっちちゃんの部屋で三人で眠りについた。
「んぅ……?」
ぁえ……? ここは、ああそうか。ぼっちちゃんの家に泊まったんだった。時間は……2時か。変な時間に起きちゃったな。
このまますぐに寝ても良いんだけど少し催してるしトイレに行こうかな。ぼっちちゃんとふたりちゃんを起こさないようにそっと部屋を出る。トイレは確か一階だったな。
そしてトイレを済ませ、ふとリビングの灯りが点いてるのに気が付いた。誰かいるのかな?
リビングの方を覗くとぼっちちゃんのお母さんが何かの本を捲りながら一人でお酒を呑んでいた。
「……あら? 虹夏ちゃん?」
「あ、すみません。覗き見するつもりじゃなかったんですけど……」
「うふふ、良いのよ。別に悪い事してた訳じゃないもの」
そう言いながら手招きするぼっちちゃんのお母さんに近付く。……結構強いお酒呑んでるな。
「お酒好きなんですか?」
「ええ。パパは呑めないから付き合わせるのも悪いし偶にこうして一人で呑んでるの。ひとりちゃんとふたりちゃんにも教育に良くないからあまり呑むとこ見せたくないしね」
そうなんだ。ちょっと意外かも。
「ところで虹夏ちゃんはどうしたの?」
「私は目が覚めちゃったのでちょっとトイレに来ただけで……
」
「あらそうだったのね。じゃあもうお部屋に戻るのかしら?」
ん〜……、そうするつもりだったんだけど目が冴えてきちゃったんだよな。このまま布団に潜ってても眠れなさそうな気がする。
「……ねぇ虹夏ちゃん。もし良かったらお話しましょ? お酒呑むのは好きだけど一人で呑むのもちょっと寂しいのよね」
「あ、はい。私で良かったら」
「うふふ、ありがと。虹夏ちゃんはホットミルクで良かったかしら?」
「あ、お願いします」
……多分、一人で呑むのが寂しいのも本音だろうけど私が眠れなくなってるのに気付いて気を遣ってくれたんだろうな。昔お母さんもこうやってホットミルク作ってくれたの思い出しちゃうな。
「はいどうぞ。熱いから気を付けてね」
「ありがとうございます」
ぼっちちゃんのお母さんから受け取ったホットミルクを一口飲む。はぁ、ホッとする……。
「そういえばさっき何か読んでましたよね? 何を見てたんですか?」
「これよ。ひとりちゃんとふたりちゃんのアルバム」
そう言ってぼっちちゃんのお母さんがアルバムを開いて見せてくれる。アルバムには今のふたりちゃんと同じ頃くらいのひとりちゃんが写っていた。
「わ、可愛い……! 小さい頃のぼっちちゃんですか?」
「ええ」
「見ても大丈夫ですか?」
「勿論。あ、でもひとりちゃんには内緒よ?」
「あはは、分かりました」
ぼっちちゃんのお母さんがアルバムを渡してくれる。
今も可愛いけど子供の頃のぼっちちゃんも可愛いなぁ。笑顔が苦手なのは昔からなのか引き攣った顔が多いかも。あ、ぼっちちゃんが11歳の頃のページから赤ちゃんの頃のふたりちゃんも出てきた。可愛い!! ちょっとおっかなびっくりにぼっちちゃんがふたりちゃんの事抱っこしてて、こういうの見てるとやっぱりぼっちちゃんもお姉ちゃんなんだな。私のお姉ちゃんも私が赤ちゃんの頃にこんな感じで抱っこしてくれたのかな?
……お、ぼっちちゃんがギターを持ってる写真だ。『ひとりがギターを始めてくれた! 感動!!』って書き込みがあるって事はこれがギターヒーロー誕生の瞬間なんだ。ファンとしてはかなり貴重な瞬間だ。Ameさんが羨ましがりそう。今度自慢しようかな?
でも中学卒業する頃までアルバムを見たけど、やっぱり友達と写ってる写真が一枚も無いんだな。引き攣ってた笑顔も無くなってるし、学校生活寂しかっただろうな……。
「……ねぇ虹夏ちゃん。もう何枚かページ捲ってくれる?」
「え? はい」
ぼっちちゃんのお母さんに言われた通りパラパラとページを捲る。すると見覚えのある、私と喜多ちゃんとリョウとぼっちちゃんで取ったアー写の撮影をした時の写真が出てきた。
「これね、ひとりちゃんが初めて自分でアルバムに挟んで欲しいって言ってきた写真なの。この写真の表情は笑顔じゃないけど、でもすごく嬉しそうに見えるのよね」
「……そうですね。私もそう見えます」
それからも家族との写真の中に私達との写真も混ざり始めて、江の島の時、遊園地の時、リョウの家の別荘の海、夏フェスで花火をした時、色んな写真が挟まれていた。
「パパともよく一緒に見るのよ。ひとりちゃんが笑顔の写真が増えて嬉しいねって。それもこれも虹夏ちゃんのお陰ね。ありがとう」
「え!? い、いやそんな私は何も」
「うぅん。ひとりちゃんもいつも言ってるもの。虹夏ちゃんとあの日出会えて良かったって。それからもずっと一緒にいてくれて。私もパパもすごく感謝してるのよ?」
そ、そんな事言われるとむず痒いな。でも……。
「……そういう事なら尚の事お礼を言われる様な事なんてしてませんよ。だって私が好きでぼっちちゃんと一緒にいるんですから。私がそうしたいだけなんです。ぼっちちゃんは優しくて、頼りになって、可愛くて、カッコいいですから」
「……そう。ねぇ、虹夏ちゃん。虹夏ちゃんさえ良かったら、本当にひとりちゃんの事貰ってもいいのよ?」
「ええ!? な、ななな何を言って……!」
そ、そんな事言われても一番大事なのはぼっちちゃんの気持ちだし……!
「うふふ。勿論お互いの気持ちが大事だけど、もしも『その時』が来たら私もパパも反対なんてしないわ」
「い、いや、でも! ……女同士ですよ? 孫の顔とか見たいんじゃないですか?」
「そうねぇ。それは勿論ひとりちゃんに子供が生まれたらベタベタに可愛がる自信があるわね。でも一番大事なのは見た事もない孫じゃなくて、お腹を痛めて産んだ可愛いひとりちゃんの幸せだから。それに」
「虹夏ちゃんってば、ひとりちゃんと結婚するの嫌とか無理とか言わないんだもの」
それにきっと孫の顔はふたりちゃんが見せてくれるしね。うふふ。と笑うぼっちちゃんのお母さん。
そしてぼっちちゃんのお母さんが「ふぁ……」と欠伸をする・
「じゃあ私もそろそろ寝ようかな。朝ご飯作る時間に起きれなくなっちゃうしね」
そう言ってお酒と空いたグラスを片付け始め、私の飲み終えたホットミルクのマグカップも下げてくれる。
「それじゃあおやすみなさい虹夏ちゃん」
「あ、あの、寝る前にもう一ついいですか?」
「あら? 何かしら?」
「……あ、の。私がぼっちちゃんの事、その、好きって、何で分かるんですか?」
会った回数も少ないのに。そんなに分かりやすくしてた覚えはないんだけど。
「うふふふふ。だって虹夏ちゃんがひとりちゃんにあげたあのクッキー。愛情しか詰まってなかったんだもの」
じゃあおやすみなさい。とリビングを出るぼっちちゃんのお母さん。……愛情? 別にぼっちちゃんのクッキーだけ味を変えたりもしてないんだけどな。皆と同じように……。
「……あれ?」
いや、待てよ。そう言えばお姉ちゃん達のクッキーは色んな型で作ったけど、ぼっちちゃんのクッキーだけ私一種類しか使ってない気がする。そうだ。それもその型は確か……。
「あ」
顔から火が出そうな程熱くなる。だからぼっちちゃんもふたりちゃんもぼっちちゃんのお母さんもぼっちちゃんにあげたクッキーを見た時あんな変なリアクションを……。私めちゃくちゃ露骨にアピールしてるじゃん!!
結局この後ぼっちちゃんの部屋に戻って布団に潜ったけど恥ずかしさのあまり寝付けず、翌日のバイトはずっと欠伸ばかりしていてお姉ちゃんにどやされたのだった。