ピンクの司書が閲覧禁止の本をこっそり読んでくれる話 作:ひみっち
――無幻図書館。
ピンクの司書と名乗る女性が管理している巨大図書館。
彼女曰く、遥か昔の出来事の記録まで収蔵されているという。
今、あなたがいる場所だ。
「おや、三度目の正直ですねぇ。え、初回ですか? 失礼、一期一会ですものねぇ……」
女はピンクの司書と名乗り、軽くスカートを摘んで丁寧にお辞儀した。
司書服に身を包んでいることから、本当にこの無幻図書館の司書なのだろう。
……その派手な桃色の長髪と胡散臭い表情は、やはりどこかで見覚えがある。
「無幻図書館へようこそ。お探しの本をお申しつけください。なぁんでも、取り揃えてありますよぉ」
ピンクの司書は、こちらを見透かすように、あなたをじっと見つめている。
「読みたい本が分からない……なるほどぉ……でしたら、こちらはいかがでしょう?」
ピンクの司書が優雅に指をパチンッとかき鳴らす。
その合図を皮切りに、一冊の本がひとりでにこちらへ飛んできた。
「『
◇◇◇
――
それは、人ならざる者へ向けられた名称だった。
妖怪、怪異、物の怪、鬼、天使、悪魔、果ては神に至るまで。
この世界では、そのすべてが一律に伝魔と呼ばれ、一様に信仰される。
伝魔の実在を証明するため、U氏は町の人々へインタビューを試みた。
「すみません、あなたは伝魔を見たことがありますか?」
U氏を一瞥もせずに通り過ぎる女性。
前途多難だった。
「突然お邪魔して申し訳ございません。あなたは伝魔をご存知でしょうか?」
やや丁寧な口調で尋ねてみても、効果なし。
行き交う町の人々は、ことごとくU氏の言葉を無視する。
まるで、よそ者を嫌う、古びた因習に縛られた村人のようだった。
(参ったな……まだ一言も聞けてないぞ)
人通りを離れ、U氏は近くの森で涼んでいた。
あれから何人に聞いただろうか。
見向きもせず通り過ぎる人がほとんどだった。
たまにこちらを向く者がいても、すぐに顔を背けて去っていく。
この町の人たちは、そのどちらかしかいなかった。
「おじさん、こんなことで何してんの?」
話しかけてきたのは、透き通るような金髪が麗しい十五歳くらいの少女。
こちらを興味深そうに観察していた。
「ああ……あなたは伝魔に会ったことはありますか?」
面を食らいながらも、U氏はもう何十回と言った問いを少女に投げかける。
(ようやく、まともに話を聞いてもらえそうだ)
伝魔の実在を証明するどころではなかった状況に差し込む、一筋の光。
熱望していた答えは、返ってくるだろうか。
「会ったことあるよ」
思わぬ収穫だった。
捨てる神あれば拾う神ありとは、まさにこのことだ。
これでようやく取材らしい取材になる。
すでに勝利を確信したU氏だったが、少女にいつ、どんな伝魔に会ったのかを興奮気味に問いただす。
しかし、少女はきょとんとした顔でこう言った。
「だって、目の前のあなたがそうじゃない」
◇◇◇
「お気に召したでしょうか? それにしても伝魔という言葉は面白いですよねぇ。デマという虚偽の言葉と同じ読み……例え実在しなくても妙な納得感がある。まあ、司書としてのワタシの立場で言うなら、いてくれた方がロマンがあっていいと思いますけどねぇ……」
目の前のピンクの司書が、実は伝魔なのではないか?
いや、そんな存在はおとぎ話の中だけだろう。
この桃髪の女が常識的な人間かはさておき、この図書館の異常性に比べれば、あまりに普通の人間だ。
くだらない考えを振り切り、あなたは本を返却した。
「これはこれはご丁寧に……ありがとうございます」
彼女が指を鳴らすと、本がひとりでに書架へと収蔵される。
……やはり、この女は伝魔なのではないか?
「おや、もう時間ですねぇ……」
あなたの疑問を握りつぶすかのように、閉館の鐘が鳴り響く。
それと同時に、書架の灯りが消えていく。
「それでは、またのお越しをお待ちしております」
ピンクの司書に疑念を覚えつつ、あなたの意識は遠くなっていった。