ピンクの司書が閲覧禁止の本をこっそり読んでくれる話   作:ひみっち

3 / 4
第三冊「八百万の伝魔」

 

 ――無幻図書館。

 

 ピンクの司書と名乗る女性が管理している巨大図書館。

 彼女曰く、遥か昔の出来事の記録まで収蔵されているという。

 

 今、あなたがいる場所だ。

 

「おや、三度目の正直ですねぇ。え、初回ですか? 失礼、一期一会ですものねぇ……」

 

 女はピンクの司書と名乗り、軽くスカートを摘んで丁寧にお辞儀した。

 司書服に身を包んでいることから、本当にこの無幻図書館の司書なのだろう。

 ……その派手な桃色の長髪と胡散臭い表情は、やはりどこかで見覚えがある。

 

「無幻図書館へようこそ。お探しの本をお申しつけください。なぁんでも、取り揃えてありますよぉ」

 

 ピンクの司書は、こちらを見透かすように、あなたをじっと見つめている。

 

「読みたい本が分からない……なるほどぉ……でしたら、こちらはいかがでしょう?」

 

 ピンクの司書が優雅に指をパチンッとかき鳴らす。

 その合図を皮切りに、一冊の本がひとりでにこちらへ飛んできた。

 

「『八百万(ヤオヨロズ)伝魔(デマ)』……噂話がお好きな方には楽しめるのではないでしょうか」

 

 

    ◇◇◇

 

 

 ――伝魔(デマ)

 

 それは、人ならざる者へ向けられた名称だった。

 妖怪、怪異、物の怪、鬼、天使、悪魔、果ては神に至るまで。

 この世界では、そのすべてが一律に伝魔と呼ばれ、一様に信仰される。

 

 神鳴町(かみなりまち)は、伝魔の目撃情報が特に多い。

 伝魔の実在を証明するため、U氏は町の人々へインタビューを試みた。

 

「すみません、あなたは伝魔を見たことがありますか?」

 

 U氏を一瞥もせずに通り過ぎる女性。

 前途多難だった。

 

「突然お邪魔して申し訳ございません。あなたは伝魔をご存知でしょうか?」

 

 やや丁寧な口調で尋ねてみても、効果なし。

 行き交う町の人々は、ことごとくU氏の言葉を無視する。

 まるで、よそ者を嫌う、古びた因習に縛られた村人のようだった。

 

(参ったな……まだ一言も聞けてないぞ)

 

 人通りを離れ、U氏は近くの森で涼んでいた。

 あれから何人に聞いただろうか。

 見向きもせず通り過ぎる人がほとんどだった。

 たまにこちらを向く者がいても、すぐに顔を背けて去っていく。

 この町の人たちは、そのどちらかしかいなかった。

 

「おじさん、こんなことで何してんの?」

 

 話しかけてきたのは、透き通るような金髪が麗しい十五歳くらいの少女。

 こちらを興味深そうに観察していた。

 

「ああ……あなたは伝魔に会ったことはありますか?」

 

 面を食らいながらも、U氏はもう何十回と言った問いを少女に投げかける。

 

(ようやく、まともに話を聞いてもらえそうだ)

 

 伝魔の実在を証明するどころではなかった状況に差し込む、一筋の光。

 熱望していた答えは、返ってくるだろうか。

 

「会ったことあるよ」

 

 思わぬ収穫だった。

 捨てる神あれば拾う神ありとは、まさにこのことだ。

 

 これでようやく取材らしい取材になる。

 すでに勝利を確信したU氏だったが、少女にいつ、どんな伝魔に会ったのかを興奮気味に問いただす。

 

 しかし、少女はきょとんとした顔でこう言った。

 

「だって、目の前のあなたがそうじゃない」

 

 

    ◇◇◇

 

 

「お気に召したでしょうか? それにしても伝魔という言葉は面白いですよねぇ。デマという虚偽の言葉と同じ読み……例え実在しなくても妙な納得感がある。まあ、司書としてのワタシの立場で言うなら、いてくれた方がロマンがあっていいと思いますけどねぇ……」

 

 目の前のピンクの司書が、実は伝魔なのではないか?

 いや、そんな存在はおとぎ話の中だけだろう。

 この桃髪の女が常識的な人間かはさておき、この図書館の異常性に比べれば、あまりに普通の人間だ。

 

 くだらない考えを振り切り、あなたは本を返却した。

 

「これはこれはご丁寧に……ありがとうございます」

 

 彼女が指を鳴らすと、本がひとりでに書架へと収蔵される。

 ……やはり、この女は伝魔なのではないか?

 

「おや、もう時間ですねぇ……」

 

 あなたの疑問を握りつぶすかのように、閉館の鐘が鳴り響く。

 それと同時に、書架の灯りが消えていく。

 

「それでは、またのお越しをお待ちしております」

 

 ピンクの司書に疑念を覚えつつ、あなたの意識は遠くなっていった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。