ピンクの司書が閲覧禁止の本をこっそり読んでくれる話 作:ひみっち
――無幻図書館。
ピンクの司書と名乗る女性が管理している巨大図書館。
彼女曰く、過去・現在・未来に至るまでのあらゆる記録が収蔵されているという。
今、あなたがいる場所だ。
「おや、最近よく来られますねぇ……え、初めて来た? 失礼、知人の顔によく似ていたものでぇ……」
女はピンクの司書と名乗り、軽くスカートを摘んで丁寧にお辞儀した。
司書服に身を包んでいることから、本当にこの無幻図書館の司書なのだろう。
その胡散臭い態度に既視感を覚えながらも、あなたは本を探しに来たのだと伝える。
「無幻図書館へようこそ。お探しの本をお申しつけください。なぁんでも、取り揃えてありますよぉ」
お決まりの台詞を言った後、ピンクの司書は何も言わずにあなたの回答を待っている。しかし、あなたはどんな本を探しに来たのか、もう分からなくなっていた。
「お探しの本は思い出せませんかぁ……でしたら代わりに、記憶に深く刻まれるような本をご用意しましょう」
ピンクの司書がやや控えめに指をパチッと鳴らす。
その合図を皮切りに、一冊の本がひとりでにこちらへ飛んできた。
飛んできた本の表紙には、『読むと死んでしまう本』とだけ書かれている。
飾りも副題もなく、本当にそれだけ。
それを見たあなたはピンクの司書に本を突き返し、出口へ向かう。
「ちょ、ちょ、ちょーっとお待ちください、お客様ぁ?」
ピンクの司書が焦りながら、あなたを引き留める。
力は意外に強く、あなたは振りほどくことができなかった。
「ご安心ください。あのタイトルは、ただの比喩表現ですよぉ……」
ピンクの司書はためらいもなく本を開き、ぱらぱらとページをめくってみせた。
どうやら、冗談の一種だったらしい。
「それではご一緒にどうぞ。少なくとも、ワタシは怖くありませんからぁ」
◇◇◇
この本を読む、あなたへ。
――警告。
この話を読むと死んでしまいます。
それでもよければ、続きをどうぞ、ご覧ください。
『昨日の自分』
睡眠活動をしない人はいません。
人は寝ることによって、脳を休めて次の活動に備えます。
この時、意識が完全に失われます。
目を覚ました時、その人が同一存在であると証明できるでしょうか?
ところで、人の細胞は、約三千億から五千億個ほど毎日入れ替わると云われています。唯一の例外は、脳の神経細胞くらいです。
人が寝る寝ないに関わらず、細胞はどんどん入れ替わっていきます。
果たして、今日の自分は昨日と同じ存在であると証明できるでしょうか?
別の切り口で考えてみましょう。
世界は五分前に始まったという荒唐無稽な説があります。
それを踏まえると、昨日の自分は存在しないことになります。
お前は何を言っているんだ、とお思いの方がいるでしょう。
しかし、重要なことなのです。
五分前の世界を誰も証明できないのです。
それは、今日の自分は昨日と同じ存在かを証明できないのと同じことです。
タイムマシンでもあれば、別ですが。
さて、この話を読んでしまったあなたはどうでしょう。
あなたは昨日と同じ存在でしょうか?
もし「同じ存在だ」と答えたなら、その根拠は記憶だけです。
しかし、その記憶が正しいことを証明する方法はありません。
昨日のあなたが眠り、今日のあなたとして目を覚ましたのではありません。
昨日のあなたは、そのまま目を覚まさなかったのかもしれません。
昨日のあなたへ。
謹んで、ご冥福をお祈りします。
◇◇◇
「お気に召したでしょうか? ふふ、これは確かに読むと死んでしまう本、でしたねぇ……曰くつきの本じゃなくて、ガッカリですかぁ?」
本を読み終えたあなたは正直、ほっとしていた。
タイトル通りではあったが、少なくとも呪いの本ではなさそうだった。
どんなタイトルでも、内容を見るまでわからないところが、本の面白いところだ。
あなたが本来、読みたいと思っていた本のことは、もはやどうでもよくなっていた。
ふと、あなたは本の巻末の一ページだけ妙に厚みがあることに気付く。
何気なしに指でこすってみると、その正体がはっきりと分かった。
ページの間に隠された一枚……いわゆる、袋とじだ。
雑誌などではおまけとしてよく使われるアイデアだが、普通の本でこういったサプライズは珍しい。
ピンクの司書は、こちらを見ていなかった。
開けるなら、今しかないだろう。
最後にどんな一文が待っているのだろうかと、はやる気持ちであなたは袋とじを開けてしまう。
そこには――
縺ゅ¢縺ヲ險ア縺励※
縺薙%縺九i蜃コ縺励※
蜉ゥ縺代※
繧ゅ≧縺励∪縺帙s縺九i
譌ゥ縺上♀鬘倥>
繧ゅ≧髯千阜縺ェ縺ョ
縺昴%縺ョ縺ゅ↑縺溯ヲ九※繧九s縺ァ縺励g
縺ェ繧画掠縺丞勧縺代※
縺昴%縺ョ螂ウ縺ォ豌励r莉倥¢縺ヲ
繧上◆縺励◆縺。縺ッ髢峨§霎シ繧√i繧後◆
蜃コ縺励※縺上l縺溘i縺顔、シ縺吶k縺九i
縺輔▲縺輔→蜃コ縺励※
蜉ゥ縺代※
縺ゅ¢縺ヲ縺ゅ¢縺ヲ
縺ゅ¢繧阪≠縺代m縺ゅ¢繧阪≠縺代m縺ゅ¢繧阪≠縺代m縺ゅ¢繧阪≠縺代m
譌ゥ縺上≠縺代m
意味不明な文字の羅列。
あなたは、何故だかとても気分が悪くなった。
「そういえば、巻末の袋とじは開けない方がいいですよぉ……。もしかして、見ちゃいましたかぁ?」
それを先に言ってくれ。
抗議する間もなく、あなたの意識は遠くなっていった。