ピンクの司書が閲覧禁止の本をこっそり読んでくれる話   作:ひみっち

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第四冊「読むと死んでしまう本」

 

 ――無幻図書館。

 

 ピンクの司書と名乗る女性が管理している巨大図書館。

 彼女曰く、過去・現在・未来に至るまでのあらゆる記録が収蔵されているという。

 

 今、あなたがいる場所だ。

 

「おや、最近よく来られますねぇ……え、初めて来た? 失礼、知人の顔によく似ていたものでぇ……」

 

 女はピンクの司書と名乗り、軽くスカートを摘んで丁寧にお辞儀した。

 司書服に身を包んでいることから、本当にこの無幻図書館の司書なのだろう。

 その胡散臭い態度に既視感を覚えながらも、あなたは本を探しに来たのだと伝える。

 

「無幻図書館へようこそ。お探しの本をお申しつけください。なぁんでも、取り揃えてありますよぉ」

 

 お決まりの台詞を言った後、ピンクの司書は何も言わずにあなたの回答を待っている。しかし、あなたはどんな本を探しに来たのか、もう分からなくなっていた。

 

「お探しの本は思い出せませんかぁ……でしたら代わりに、記憶に深く刻まれるような本をご用意しましょう」

 

 ピンクの司書がやや控えめに指をパチッと鳴らす。

 その合図を皮切りに、一冊の本がひとりでにこちらへ飛んできた。

 

 飛んできた本の表紙には、『読むと死んでしまう本』とだけ書かれている。

 飾りも副題もなく、本当にそれだけ。

 

 それを見たあなたはピンクの司書に本を突き返し、出口へ向かう。

 

「ちょ、ちょ、ちょーっとお待ちください、お客様ぁ?」

 

 ピンクの司書が焦りながら、あなたを引き留める。

 力は意外に強く、あなたは振りほどくことができなかった。

 

「ご安心ください。あのタイトルは、ただの比喩表現ですよぉ……」

 

 ピンクの司書はためらいもなく本を開き、ぱらぱらとページをめくってみせた。

 どうやら、冗談の一種だったらしい。

 

「それではご一緒にどうぞ。少なくとも、ワタシは怖くありませんからぁ」

 

 

    ◇◇◇

 

 

 この本を読む、あなたへ。

 

 ――警告。

 

 この話を読むと死んでしまいます。

 それでもよければ、続きをどうぞ、ご覧ください。

 

 

『昨日の自分』

 

 

 睡眠活動をしない人はいません。

 人は寝ることによって、脳を休めて次の活動に備えます。

 この時、意識が完全に失われます。

 目を覚ました時、その人が同一存在であると証明できるでしょうか?

 

 ところで、人の細胞は、約三千億から五千億個ほど毎日入れ替わると云われています。唯一の例外は、脳の神経細胞くらいです。

 

 人が寝る寝ないに関わらず、細胞はどんどん入れ替わっていきます。

 果たして、今日の自分は昨日と同じ存在であると証明できるでしょうか?

 

 別の切り口で考えてみましょう。

 世界は五分前に始まったという荒唐無稽な説があります。

 それを踏まえると、昨日の自分は存在しないことになります。

 お前は何を言っているんだ、とお思いの方がいるでしょう。

 しかし、重要なことなのです。

 五分前の世界を誰も証明できないのです。

 それは、今日の自分は昨日と同じ存在かを証明できないのと同じことです。

 タイムマシンでもあれば、別ですが。

 

 さて、この話を読んでしまったあなたはどうでしょう。

 あなたは昨日と同じ存在でしょうか?

 

 もし「同じ存在だ」と答えたなら、その根拠は記憶だけです。

 しかし、その記憶が正しいことを証明する方法はありません。

 昨日のあなたが眠り、今日のあなたとして目を覚ましたのではありません。

 昨日のあなたは、そのまま目を覚まさなかったのかもしれません。

 

 

 昨日のあなたへ。

 

 謹んで、ご冥福をお祈りします。

 

 

    ◇◇◇

 

 

「お気に召したでしょうか? ふふ、これは確かに読むと死んでしまう本、でしたねぇ……曰くつきの本じゃなくて、ガッカリですかぁ?」

 

 本を読み終えたあなたは正直、ほっとしていた。

 タイトル通りではあったが、少なくとも呪いの本ではなさそうだった。

 どんなタイトルでも、内容を見るまでわからないところが、本の面白いところだ。

 あなたが本来、読みたいと思っていた本のことは、もはやどうでもよくなっていた。

 

 ふと、あなたは本の巻末の一ページだけ妙に厚みがあることに気付く。

 何気なしに指でこすってみると、その正体がはっきりと分かった。

 

 ページの間に隠された一枚……いわゆる、袋とじだ。

 雑誌などではおまけとしてよく使われるアイデアだが、普通の本でこういったサプライズは珍しい。

 

 ピンクの司書は、こちらを見ていなかった。

 開けるなら、今しかないだろう。

 最後にどんな一文が待っているのだろうかと、はやる気持ちであなたは袋とじを開けてしまう。

 

 そこには――

 

 

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 意味不明な文字の羅列。

 あなたは、何故だかとても気分が悪くなった。

 

「そういえば、巻末の袋とじは開けない方がいいですよぉ……。もしかして、見ちゃいましたかぁ?」

 

 それを先に言ってくれ。

 

 抗議する間もなく、あなたの意識は遠くなっていった。

 

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