人数が集まった。
蓮は、朱音、氷刃、美野里の3人を連れてきたのに対して、生徒会長が連れてきた人数はとても多かった。
「……これ、多くないですか?」
「そんなことはないな。学園の全生徒数と比べたら、寧ろ少ないくらいだ」
これなら、余裕で構成員達を撃退する事ができるだろう。
「私達3年生は、色々と場数を踏んでいるからな。テロリストに襲撃された、という経験こそ無いが、この程度なら落ち着いて対処する事ができるんだ。まあ、今はこうして皆と同じように、体育館で軟禁状態にあっている訳だが」
ワハハハハハ、と笑う生徒会長。
何故3年生達も他の生徒同様に、この体育館に軟禁されているのか? 1年生、2年生と異なり、3年生は「魔術師」に最も近い学年だ。
つまり異能の扱い方がかなり上手い。
そんな彼らからすれば、銃火器で武装した程度の相手など、余裕で倒せてしまうだろう。そうしなかった理由は、蓮を含む後輩達を守る為だ。
抵抗した結果、後輩達に危険が迫るかもしれないから大人しくしているのか。はたまた、何かしら機を伺っているのか。
理由は定かでは無いが、蓮にとって頼もしいという事実は変わらない。
「ねえ。蓮。さっきから親しそうに話してるけど、この人は誰なのかしら?」
服の裾を引っ張り、小さな声で話しかける朱音。
この極限状態であっても、彼女達は我を忘れたりしなかった。
自分は今、何をするべきなのか? 周囲を観察して、自分にできることを必死に模索していたのだ。
「呆れる。貴方は、自分が通う学園の生徒会長の顔すら覚えられないの? というか、入学式の時も私たちに向かってスピーチを行っていた」
冷たい眼差しを朱音へと向ける氷刃。
「嘘!? せ、生徒会長!?」
「あはははは。別に、人に威張れるような凄い役職では無いが、そんな風にリアクションをしてくれると悪い気はしないな」
ぎょっ!? としたように、改めて生徒会長を見て僅かに後ずさる朱音。
「ひぃん。この場に、1年生や3年生は沢山いるのに、2年生は私だけってどういう事? 疎外感を感じるし、滅茶苦茶気まずい。私、元の場所に戻っても良いかな?」
ウェーブかかった毛先を指でいじりつつ、弱音を吐くのは蓮達が所属する「オカルト部」部長にして、2年生でもある美野里だ。
「先輩。お願いします。……どうしても先輩の力が必要です、というと嘘になってしまうので、言う事は出来ませんが、この作戦は一度切りです。失敗は許されません。だからこそ、先輩の力を貸して下さい」
頭を下げて、頼み込む蓮。
美野里は慌てたように言う。
「ちょっ、頭を上げて! 分かってるよ。私だって、この状況は何とかしたいと思ってたし、それをどうにかできるなら、私は喜んで手伝うよ」
「先輩。ありがとうございます」
蓮からの感謝の言葉に対して、美野里は薄くはにかむのだった。
「さて。談笑は、そこらへんにしておこうか。時は、一刻を争うからな。とはいえ、心配は無いだろう。この場にいるのは、この学園に入学する事ができた優秀な生徒だ。万に一つも失敗する、なんて事は起こらない。皆、肩の力を抜こう。何、必ず成功するさ」
上品というより、力強い笑みを浮かべる生徒会長。
同時に理解する。
彼女は、沢山の生徒達から慕われているのだと。誰も彼もが、彼女の言葉を疑っていない。当然だとばかりに頷いている。
その中には、蓮も含まれていた。
計画は単純だ。
各構成員の隙をつくような形で、奇襲を行う。
ここで肝心になってくるのが、一斉に、尚且つ同時に構成員を撃退しなければいけない、という事。
そのため、誰かが奇襲の合図を知らせると同時に、注目をそちら一点に集める事ができる異能を行使する手筈となった。
やがて、合図係が異能を行使する。
放たれるのは、眩い光を纏う光球。体育館の天井に向かって、まっすぐ一直線に進み、やがて爆発。
甲高い爆発音に、生徒、構成員とわず、皆が注目する。
隙ができた。
「よしっ。皆、行くぞ!」
気を取られている構成員の不意をつく形で、蓮は一瞬で距離を詰める。異能「不屈の剣」を行使して、木刀を顕現させる。
「!?」
突如として襲い掛かってきた蓮に驚きつつも、銃口を向けようとする構成員。しかし、その反応は余りにも遅すぎた。
木刀を振り下ろし、一撃で構成員を昏倒させる。
良かった。
上手くいった。
緊張状態から解放され、蓮は息を吐く。
周囲を見れば、蓮と同じように構成員が次々と倒されていく。
やがて、構成員は全員倒された。
待っていました、と言わんばかりに壇上に現れる生徒会長。突然の事態に戸惑いを隠せなかった生徒達ではあるが、生徒会長が現れると同時に落ち着きを取り戻す。
流石、と言わざるを得ない。
「皆! 『自由の庭』の構成員は、この通り倒された! つまり、今、この場において諸君を害する者はいなくなったという訳だ!」
生徒会長の声を聞き、ようやく理解する事が出来たのだろう。
歓声が上がる。
だが、まだだ。
確かに『自由の庭』の構成員を倒した事によって、体育館は安全な場所になった。しかし、依然として『自由の庭』のリーダーは健在。
彼の口ぶりから察するに、幾人もの異能力者を抱えているだろう。
この場にいないという事は、未だ異能力者という最高戦力を保有している事に他ならない。『自由の庭』側に強力な異能力者がいるのだとすれば、安心はできない。
(それに、僕たちをわざわざこの場に集めた目的も怪しい。警鐘を鳴らす為だとか、新たな仲間を手に入れる為、なんてもっともな事を言ってるけど、学園を襲撃する以外にも他に方法は存在している筈だ。……つまり、絶対に学園を襲撃しなければいけない理由があった。そして、それこそが『自由の庭』の真の目的)
そうなると、この場に異能力者をおいていない理由も納得できる。『自由の庭』の目的は生徒などではなく、学園そのものなのだ。
「……だとしたら不味い。急いで、止めなくちゃ」
皆に伝えたい。
できることなら協力して欲しい。
生徒会長がいれば、きっと百人力だろう。
だが、彼女達がいなくなればこの場にいる生徒達は不安に苛まれることだろう。生徒達に声を掛けたとしても、果たして協力してくれるか微妙だ。
ここは、蓮1人で行くしかない。
体育館の出口の扉を開け、こっそり外に出ようとする蓮。ふと、肩を叩かれる。後ろを振り向けば、そこには朱音、氷刃、美野里の3人がいた。
「体育館から抜け出して一体どこに行くつもり?」
「それは……言えない」
「アンタの事だから、どうせまた、面倒事に首を突っ込むつもりでしょう? 私も連れて行きなさい」
「私は、隣にいる赤色よりも有能。是非、私も連れていくべき」
「水臭いよ。蓮君。私は貴方の先輩で、部長なんだから。ほら、もっと頼って頼って」
蓮がこれからやろうとしている事はとても危険で、最悪の場合は命を落としてしまうかも知れない。
3人からの申し出は嬉しいが、断った方が良い。
しかし、3人の目を見た瞬間に、蓮は説得する事を諦めた。
瞳の奥には、強い意志が宿っていた。きっと、どれだけ説得した所で、3人は首を縦に振る事は無いだろう。
自分もそうだったのだから。
「……分かった。皆、本当にありがとう」
蓮は頭を下げて、感謝を伝える。
3人は笑顔で応じるのだった。
※
果たして『自由の庭』が、何の目的で第一異能学園に襲撃をかけてきたのか分からない。
しかし、立ちふさがる異能力者を倒し、とうとうリーダーの元まで辿り着く。
そこはとある一室だった。
探し物でもしているのか、豪奢な内装とは裏腹に、ゴミ屋敷のように室内は取り散らかっていた。
「おや? 皆さん、お揃いで。どうか致しましたか? 時間まではまだまだだと思いますが……ふむ。もしかすると、麗心愛さんがやられてしまいましたかね?」
「貴方の部下は倒した。残るは貴方1人だ。大人しく、投降してくれないか?」
「不屈の剣」で呼び出した木刀の先端を、リーダーへと突きつける蓮。
背後にいる朱音、氷刃、美野里の3人も戦闘態勢だ。
1対4。
仮にリーダーが強力な異能力者だったとしても、この面子なら勝利する事ができる。
「なんと。まさか、私の部下を倒してしまうとは。皆さん、とてもお強いのですね。ただ、生憎投降する事はできません。私には、なすべき事があるんです」
「アンタ、今の状況が分かってる訳?」
怪訝そうな表情で朱音がいう。
状況はリーダーにとって、最悪と言わざるを得ないだろう。
にも関わらず、リーダーの表情に変化が無い。
「勿論理解していますよ。異能を持った方が4名。対して、私は異能を持たない一般人。仮に戦えば、まず間違いなく私が負けますね」
「異能を……持っていない? 異能を持ってないのに、あんな事をしているのか?」
蓮は愕然としてしまう。
『自由の庭』の目的は、異能が厳しく制限されているこの社会を破壊し、異能力者にとって都合の良い世界に作り変える、というものだ。
てっきり、リーダーも異能力者だと思っていたが、まさかの一般人。
「おや? 何か、おかしな事でも? 恵まれた者が、不自由な者に手を差し伸べるように、異能を持たない私は、異能を持つ貴方がたの助けになりたい。ただ、それだけの事なんですよ。これの、何がおかしいのですか?」
「少なくとも僕たちはそんな事を望んでいない!」
「望んでいる、望んでいないに関わらず、これは必要な事なのですよ!」
リーダーは蓮達によって追い詰められている。
その筈なのに、リーダーは堂々としていた。
思わず気圧されてしまう程に。
「異能力者達は、普通の人間よりも優れている! それは一体、何故なのか? 理由は単純! 異能を持っているからに他ならない! 依然として、科学でも解明する事のできない不可思議な力! それを貴方がたは持っているんですよ! 人よりも勉強が出来る。人よりも早く走れる。人よりも上手く走れる。そういった優れた人材は、周囲から注目を浴びます。貴方達もそうなんですよ! 一般人では真似する事も、再現する事もできない異能! それを持っているのですから!」
蓮は理解してしまう。
リーダーは本気でそう考えている、という事に。
だからこそ、発言に迷いがない。
だからこそ、瞳は純粋な子供のようにキラキラと輝く。
ゾォっ、と寒気を覚えた。
「故に貴方達は人の上に立つ事ができるんです! いいえ、立たなければいけない! これは異能を持つ、貴方がたの義務なのですから!」
理解できない。
共感できない。
納得する事はできない。
「そんな世界、僕は絶対に嫌だ」
「……ああ。また、その反応だ。私はただ、自分の思っている事を口に出して、他の誰かに分かって欲しいだけなのに。皆、そんな反応をする。ええ、理解していますとも。私のこの考えが、異常だという事は。だけど、私は自分の考えが間違っているなんて、微塵も思っていない。だったら、自分の正しさを証明するしかない」
リーダーの声音が変わった。
何かが来ると、直感的に理解する。
「皆! 警戒して! 何か、来る!」
「ああ、そんな風に警戒しないで下さい。私はただ、自分の考えが間違っていない事を、世界に知らしめたいだけなんです。そして、貴方がたにもその手伝いをして欲しいだけなんです。例えば、こんな風に」
リーダーがした事は、強力な攻撃を放つわけでも、弁舌によって相手を翻弄するわけでも、予想外の行動をとったわけでもなかった。
ただ、一冊の本を蓮達に見せただけ。
とても古い年代の本なのか、装丁も表紙もボロボロ。
「お願いします。どうか、私の考えを理解して下さい。共感して下さい。納得して下さい。そして、願わくば私の考えの正しさを、共に証明して下さい」
リーダーが頁を捲ろうとする。
本能が訴える。
あの本を開いてはいけない、と。
蓮は走る。本へと手を伸ばす。だが、届かない。
「ああ。本当に、ありがとうございます」
まだ何も返答していない。
にも関わらず、リーダーは心底嬉しそうにしていた。
酷く、気持ちが悪かった。
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