二重投稿の報告ありがとうございました。
真っ白な空間だった。
並べられた椅子も、机も、壁すらも、全てが病的なまでに白い。
そんな場所に、一人の老人が佇んでいる。
白いヒゲ。刻まれた無数の皺。既に人生の折り返しに突入している事は明白であり、明日死んでしまうかもしれない程の年齢を重ねている。
しかし老人特有の弱弱しさは感じられない。
寧ろ、これからが人生の本番だ! と言わんばかりの生命力に溢れており、見た目に反してとても若々しい老人だった。
「「終焉」が来る。これを退ける事ができなければ我々に……いや、人類に明日は無い。……明日は無いというのに、どうして誰も来ていない!?」
声が響き渡る。
並べられた椅子には誰も座っておらず、一つを除いて全て空席。
「報告いたします」
老人の傍に立つ、秘書のような女性が言う。
「皆様からは体調不良の為、欠席するという旨の連絡を受け取っています」
「いや、絶対に仮病だろ! その理由、休みたいなぁ、と思った時に使用する言い訳だぞ! 嘘つく位なら、もう少し詳細な説明も加えて嘘の精度を上げろ!」
思わず、手に持った杖を床に叩きつけてしまう。
荒い呼吸を繰り返した後、気を取り直すように咳ばらいを行う。
「……とまあ、君以外のメンバーは全員出席していない訳だが、儂としては君に大いに期待している。贋作師」
「はい。ありがとうございます」
空席が目立つ部屋ではあったが、椅子に腰を下ろしている人物が一人だけ存在していた。
ーー贋作師。
そう呼ばれたのは、まだ高校生くらいの見た目をした、長髪の青年だった。
老人から期待しているという旨の発言を受け取るも、喜ぶ素振りは見せない。一応といった様子で、礼の言葉を口にする。
しかし、老人は先程のように怒ったりしない。
「頼んだぞ。贋作師。是非「鎮魂歌」としての務めを果たしてくれ。世界が滅びてしまう、その前に」
「分かりました。期待に沿えるかは分かりませんが……まあ、やれるだけの事はやってみようと思います」
贋作師の言葉の節々から、情熱などは一切感じられない。さながら、マニュアル通りに仕事を進める事務員のように、淡々とした口調で言う。
だが、老人は安心したように何度も頷く。
秘密機関「鎮魂歌」。
その目的は、人類の滅亡を目論む「終焉」の討伐だ。
※
何とか「任務」は完了したものの、勝手に「餓狼組」を壊滅させた事がバレてしまい、担任である理乃からお叱りの声を頂いてしまった翌日。
幸運にも、今日は休日だった。
仮に今日も学校があったら、メアがうっかり「餓狼組」を潰してしまった、という噂で持ち切りになっていたかもしれない。
危なかった。
ヒソヒソと、噂話なんてされようものなら生きていけない。
メアは清楚な優等生として振舞っているのだ。
そのイメージが損なわれるような噂が流れてしまえば、友達ゲットのチャンスが遠のいてしまう。
休日を挟めば噂もある程度収まっている事だろう。
というか、そうじゃ無いと困ってしまう。
人の噂も七十五日と言うし、最悪の場合は噂が無くなるまで七十五日も学校を休まなければいけなくなってしまう。
出席日数がヤバい事になるし、お母さんに滅茶苦茶怒られてしまう。
メアに出来る事は「噂が広まっていませんように」と祈る事だけだ。
(それは、私だって少しやり過ぎたかな? って思わなくは無いけど、家族が傷つけられるなんて、そんなの絶対嫌だもん! ……ただ、次こんな事が起こったら、ノープランで襲撃するんじゃなくて、計画を立ててから襲撃しよう。うん。絶対に、そっちの方が良い)
一体、何が良いのかは分からないが、メアは一人で納得した。
今日は休日。
自由な時間だ。
何も予定は建てていないが、好きな事をしよう。
「手始めに、最近配信された新作のホラー映画でも……」
「お姉ちゃん! 私と一緒に、お出かけしよう!」
ノックも無しに、扉が勢いよく開け放たれる。
やって来たのは甘露家の次女、甘露 エメだ。
容姿はメアと瓜二つ。銀色の髪をツインテールに結んでおり、綺麗系なメアに対して、エメは可愛い系だ。
今年で小学3年生になるのだが、まだまだ元気一杯。
出来る事なら、もう少し慎ましさを覚えて欲しい所なのだが、何度言った所で「分かった!」と元気一杯に返答するだけで改善されない為、半ば諦めている。
「……エメ。お姉ちゃん、今日は部屋でゆっくり過ごしたいの」
「嫌だ! 嫌だ! お姉ちゃんとお出かけしたい! 絶対に、今日はお姉ちゃんとお出かけするの! 良いって言うまで止めないから!」
メアのベッドを占拠したかと思えば、駄々をこね始めるエメ。
ホラー映画を見たかったが、妹がこんな状態では楽しむ事も難しいだろう。数分の葛藤の末、メアは諦めたように息を吐く。
「分かった。分かったらから、私のベッドの上で駄々をこねるのは止めなさい。支度するから、少し待って」
「本当!? ありがとう! お姉ちゃん、チョロくて大好き!」
言うや否や、エメは部屋を去る。
「あれ? 今、普通に妹に馬鹿にされた?」
それから、しばらく身支度に時間を掛けた後、メアはエメと共に外出をする。普段は制服を身に纏うが、休日の際はお気に入りの衣服であるゴシックロリータを着用。
割と沢山の人に視線を向けられるのが難点ではあるものの、こういった衣服が好きなのだから仕方が無い。
「お姉ちゃんの服、可愛くて良いなぁ。私も着たい!」
「流石に、エメにはサイズが合わないでしょ? それに、欲しいなら自分のお金で買わないと。この洋服は、私がお小遣いを頑張って貯めて買ったものだし」
「むー! 私とお姉ちゃんだったらお小遣いの金額は全然違うじゃん! お姉ちゃんだけずるい!」
「エメだって、私と同じくらいの年齢になったら沢山貰える筈だよ。実際、私が小学生の頃は、エメと同じお小遣いだったし」
当時の自分も、エメと同じくお小遣いの金額に対して不満を覚えていた。貯めるという発想は無く、割と無駄遣いしていた覚えがあるが、あの頃が懐かしい。
(というか、私。一番友達が作りやすい時期といっても過言ではない小学校時代ですら、友達がいなかったんだよね。……一人で食べた駄菓子、美味しかったけど、とても悲しかったなぁ)
幼い頃のトラウマが刺激され、メアは遠くを見つめてしまう。
「どうしたの? お姉ちゃん。忘れ去りたい思い出でも思い出したの?」
「アハハハハ。そんな訳ないでしょ? お姉ちゃんの小学生時代は、いつでもバラ色だったよ」
今回の目的は、都心にあるファンシーショップだ。
メアは大して興味は無いが、エメがどうしても行きたいという事で、保護者役として付いていく。
エメと会話しながら歩く事、数十分。
目的のファンシーショップに到着する。
が、
「……うげぇっ」
店構えもさることながら、店員や客までもがキラキラとしている。
何時ぞやの喫茶店を髣髴とさせる、難敵の予感。
少なくとも、なんの対策もしていないメアにとって無策で突っ込むのは自殺行為にも等しかった。
「エメ。私、これ、無理。一人で行ってきて」
「ええ!? お姉ちゃん、行けないの!? 自分の苦手な物を避け続けても、人は成長できないんだよ!」
妹の容赦のない言葉が、メアの心を傷つける。
が、無理だ。
入ったが最後。進む事も戻る事もできない、うめき声を上げるだけの奇怪なオブジェクトが誕生してしまう。そんな事になれば、店の人やお客さんにも迷惑が掛かってしまう。
姉としての威厳まで失い兼ねない。
「大丈夫。店の前で待っておくから、買いたい物を買ってきなさい。ほら、お詫びとしてお小遣い上げるから」
財布を取り出し、紙幣を数枚渡す。
エメの目の色が変わった。
「ホントに!? お姉ちゃん大好き! それじゃあ、行ってくるね!」
紙幣を受け取り、ファンシーショップに突撃するエメ。
暫くの間、メアは暇になってしまった。
ゴシックロリータを身に纏った少女がファンシーショップの店前で佇んでいる。
かなり人の目を惹きやすい状況だ。
しかし、メアに出来る事は何も無い。
エメの買い物が終わるまで、只々置物に徹するしかない。
「あれ? お姉さん、もしかして一人ですか?」
私は置物。
「もしも暇だったら、これから俺と一緒に遊びに行きません?」
私は置物。
「俺、ここら辺、滅茶苦茶詳しいんですよ。マジ、お姉さん滅茶苦茶楽しめると思いますよ」
私は置物。
「……あの、無視は酷いんじゃ無いかな? 俺、こんなに積極的に話しかけてるのに、反応が無いってどういう事?」
私は置物。
「おーい。もしもーし。お姉さーん、意識はありますかー?」
私は置物……。
「お姉ちゃん! ゴメン! 少し時間が掛かった……って、お姉ちゃんが滅茶苦茶チャラそうな見た目をした人にナンパされてる!?」
「え!? 嘘!? 私、ナンパされてるの!?」
置物に徹し過ぎたせいで、メアは全くもって気付かなかった。
(ナンパって、確定で友達がゲットできる神イベントじゃん! やった! 今日はツイてる!)
そして、ナンパを別の概念として解釈していた。
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