冬木市新卒ガス社員 作:菌糸類に脳を焼かれた海洋生物
誰よりも優雅に歩きながら、目の前に聳える巨城をかの王は見上げる。そろそろこの聖杯戦争も終盤だ。王にとってこの世の全ての財は自分のもので聖杯も例外ではない。なればこそ、所有者が聖杯を取ることは何も問題が無い筈だろう。願望機としての機能を有するなら、あの小娘も蔵に加えなければならない。
門を吹き飛ばし、誰よりも傲慢に歩を進める。幾らか
「……ほう、バーサーカーか。……少しは愉しめそうだな、小娘よ。」
「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!」
二人の間で睨み合いが続く中、後ろから可憐な少女が歩いてくる。雪のような白い肌の少女は絶対的な自信を持って、侵入者に言う。
「随分と舐めたことをしてくれるじゃない。私のバーサーカーは最強だから、貴方は生きたまま四肢を捥いで殺してあげる。」
狂戦士に魔力が漲り、王に飛び掛かる。狂気に墜ちようともその剣筋は健在で、携えた斧を思い切り振りかぶる。しかし、虚空から出でた数々の宝剣によって、吹き飛ばされてしまう。百を超える宝具が一斉に突き刺さる。
城壁にぶつかった彼の巌のような体にはいくつか剣が突き刺さっており、血が白亜の城を濡らす。嗜虐に王の口角は上がり、赤き眼を光らせて言う。
「身の程を分からせるのも先達の務めよな。!! 、……ほう、その傷でまだ立つか。」
王の前にいるのは、ギリシャが誇る最高最強の大英雄である。主神の血を引き、数々の無理難題を乗り越えた百折不撓の戦士である。例え、その身が狂気に侵されようとその実力に曇りはない。
突き刺さった剣の傷がいとも容易く治り、マスターを庇うようにその巨体を構える。
「言ったでしょ、最強だって。そんな程度じゃ私のバーサーカーがやられるわけないじゃない。……それじゃあ、やっちゃえバーサーカー!!!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
「ククッ、少々侮っていたようだ。……良いだろう、今此処に神話の再現をするとしよう!!!!」
ここに集うは人類史最高の英雄である。各神話の最高峰が集うこの聖杯戦争の中でも、極大の戦闘が始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
狂戦士が再び吼え、王へ飛び掛かる。その巨体を余すことなく暴力へ変換し、主に仇為す存在を潰そうと力を振るう。その様子に王は高らかに嗤いながら、宝物庫を開く。
宝具の弾幕という理不尽極まりない空間が狂戦士を持ち受けるが、先程とは違いそれをものともしない。王に刃が届こうとする中、異なる宝物によって彼は吹き飛ばされる。
体には丸く穴が開き、血が絶え間なく零れる。命が尽き、退去するかと思われたのも束の間、逆再生のように傷は塞がり、再び王の前に立ちふさがる。
「……成程、それが貴様の宝具か。命のストックとは何とも大層なものだ。……しかし、その残基、何処まで持つか見物よな。」
そう言って、攻撃の手を更に強める王。バーサーカーの宝具『
彼一人だけなら話は違ったかもしれない。理性を失っているとはいえ、一つの神話の頂点に立つ存在だ。その英霊としての格は王にも劣らず、勝負は分からなかったかもしれない。しかし、後ろに守るべき存在が居り、それらを気にして王と向き合うというのは、いかな大英雄でも難しかった。一つ、また一つと命が零れ、王の顔は愉悦に染まる。
「……驚いたものだ、殺されても立ち上がる戦士など見たことがない。さぞ強き英霊なのであろうが、あと何回生き返ることができる? 我は何度でも付き合うぞ、ほれ、頑張れ、頑張れ。」
「■■■■■■■■■■■■ッッッッ………………」
あと一歩、王を仕留める間合いに狂戦士は近づけない。そして、彼の命は無限ではない。ここでマスターの判断があれば、逃げることも出来ただろう。だが、頭に血が上ったイリヤスフィールにその思考は難しかった。その側面も含めてが、彼女であるがゆえにそれは防げなかった。
「……嘘、そんな筈ない。私のバーサーカーは最強だもん!!!! あんたなんかにやられるわけない……!!!! すぐさま立って、そいつを殺しなさい、バーサーカー!!!!」
「ああ、見せてやろうとも、そこな英霊の散り様を。……来い、我が友よ!!!」
王は宝物庫から最愛の親友を取り出す。天の鎖と呼ばれるそれは、彼の抱える中でも最高のものの一つであり、相手への敬意の表れでもあった。
「貴様の正体にも粗方察しが付いた。……抱える命の数は十二個、踏破した偉業に見合うだけのことはある。そして、これで最後……。」
マスターを守らんと四方八方から迫る宝具を防ぐが命を使い果たし、鎖が彼の身を包む。イリヤは即座に令呪を使う。
「ッツツ、まだ……!! バーサーカー!!!、『鎖を抜け出し、アイツを殺しなさい!!!!』 !?、何で動けないの……?」
「令呪による空間転移など我が許すと思ったか、たわけめ!!! 天の鎖は万物を縛る至高の財であり、そこな狂戦士にめっぽう効くだろうよ。……そして、これで詰みだ。」
四肢を囚われ、身動きが取れなくなった狂戦士の胸に槍が刺さる。肉を裂く音が辺りを満たし、彼の眼光は潰える。巨体が鎖に縛られながら、垂れ下がり、かの英雄は膝をつく。
「早々に主を見捨てていれば、勝ちの目はあったというのに……。まぁいい、我の目的はそこな娘だ。」
新たに宝物庫を開き、一本の剣を手に取る。一歩一歩、イリヤに近付き、事を成そうとしたその時、聞き覚えのある声が響く。
「よう、金ピカクレーマー。」
黒いスーツを纏った赤髪の男が金色の王に話しかける。王は彼の成長に興味を抱き、その在り方を裁定した。
「……その顔、漸く自分の役割を理解したようだな。我の指導と助言あってのものだが、今は貴様に用がない。我は我で成すべき事がある、……疾く失せい!!!」
そう彼に言い放った。しかし、王は二つミスを犯した。一つ目は守の存在に気を取られてしまった事。もう一つは
ギリシャの大英雄『ヘラクレス』は英霊になってもなお、生前の自分を越えようとする不屈の戦士である。英雄王から課せられた十二の試練を突破し、自分の限界を突破してみせた。主の命を果たすため、傷に塗れてもなお立ち上がる。それこそがかのヘラクレスである。
鎖を引きちぎり、王に吼えかかる。何度でも食い掛るその姿こそ狂戦士であった。すぐさま気付いた王はトドメを刺そうと試みるが、此処にはイレギュラーが居た。
守は地を蹴り、王へと近づく。その刹那、目の前の狂戦士と視線を交わし、全てを察する。
「人を殺しかけたんだ、これでチャラにするよ。」
瞬間、早打ちの要領でコンテンダーを抜き出し、王に目掛けて発砲する。さしもの王もこの短い時間で全てを捌き切ることは出来ず、銃弾をもろに食らってしまう。目の前の狂戦士だけは何とか倒したが、その動作で生じた隙を守に突かれてしまった。
バーサーカーが光となって消えていく。そんな中、恩を仇で返すような仕打ちに王はこれ以上ない程激怒する。
「ガハッ、ッツツ、おのれおのれおのれおのれおのれぇ!!!! このような仕打ちを王たる我にするとは……、万死すら生温いわ!!!! 手ずから我の手で八つ裂きにしてやる!!!!」
そう激怒しながら周りを見渡すとあの小娘が居ない。横をみると
「逃がすかぁ、この恩知らずめ!!!!」
フリットを使い、戦場を離脱しようとする彼を逃さんと宝物庫を開き、財を放つ。しかし、
「!?、ッツツ、これは……!? 貴様か、贋作者……!!!!」
王が視線を向ける先には赤い外套を纏った英霊が立っていた。ニヒルな笑みを浮かべて、先程の光景を振り返る。
「……やれやれ、兄者は昔から変わらないな。そんな所が周りを引き付けるのだろうが、いかんせん危なっかしくて目を離せられん。本当にどうなっていたことやら……。」
「そこを退け、雑種よ……!!! 奴には永劫の地獄を味わさなければ、気が済まんわ!!!! 分かったら、其処を退けい!!!!」
腹から血が滴り、顔を歪めながら王は話す。贋作者は飄々とした顔で話す。
「悪いがそれはできない相談だ、英雄王。私が此処を退けば、お前は兄者を害しにかかるだろう。」
「貴様、正気か……? まさか、我と戦って勝てると本気で思っていると……?」
憤怒が身を包みながら、王は贋作者に問うた。
「そう分の悪い賭けでもないさ。無傷のお前なら話は変わるが、今なら勝ちの目は十分にある。……何せ、
贋作者は英雄王の腹を指さし、答える。
「そこらの弾丸なら英霊には効かない。超常を司る私達に人の理が干渉できるはずも無いからな。しかし、今お前を貫いているのは事実だ。……
「雑種如きが、調子に乗りおって……!!! 我がその程度で動けなくなる筈などないであろう、貴様如きの尺度で我を測れると思うな!!!!」
だが、王の体には先程の銃弾のダメージがくっきりと刻まれていた。服の下は冷や汗で一杯であり、常人なら死んでもおかしくない痛みが襲っていた。受肉した肉体を蝕む絶大な痛みに苦悶の表情を浮かべる。それとは対照的に贋作者は、胸を満たす闘志にこれ以上ない程奮起する。
「どのみち私は私のすべきことをやるだけだ。……構えろ、英雄王、宝具の貯蔵は十分か!!!!」
「何処までも愚かな雑種どもが……!!!! 身を以てその罪業を知るがいい……!!!!」
怒れる王と贋作者との戦いが始まった。その様子を見て、彼の弟も戦意を燃やす。
(あの口ぶり……アイツだ、アイツが兄貴をあの夜襲ったヤツだ……。この日の為に遠坂にも力を貸してもらった……。俺は、俺達はこの聖杯戦争に決着を付ける……!! 兄貴も兄貴の成すべきことを成してくれ!!!!)
聖杯戦争は今、最終局面を迎えた。冬木を蝕む汚泥の処理は彼らに任された。第五次聖杯戦争は間もなく幕を引くだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アインツベルンの森を少女と青年は駆ける。先程から目まぐるしく変わる状況にイリヤは守に尋ねる。
「……何が何やらだけど、貴方は一体誰なのよ。どうして、私を……。」
舌を噛むから、あんまり喋らないほうがいいんだけどなぁ。まぁ、それはもっともだから簡潔に説明するね。……俺は
自分を見捨てたと思っていた存在からの助け舟にイリヤは驚きを禁じ得ない。母も自分も何もかも捨て去ったあの男には憎しみしかない。
「嘘よ、……切嗣がそんな事するわけない。私を助けにすら来なかったもの、何で今更……。」
……じいさんは君の事を最後まで気にかけていたよ。自分で救い出すことができなかったともね。だからこそ、俺が来た。あのまま居たら、あの金ピカにやられていただろう?、君。……最後にあの大きな人と目が合ってね。……何となく言いたいことは分かったよ、最期まで君の事を思う強い人だった。……本当に尊敬するよ。
「最期まで私を……、そう、……ありがとう、バーサーカー。」
かの大英雄は確かに主を守り抜いた。自身の限界を越え、その全てを懸けて一人の少女の未来を守ったのだ。彼女が信じた戦士は最高のバーサーカーだったのだ。
万感の思いを込めて、イリヤは狂戦士のことを思う。守も同様にその高潔さに走りながら黙祷を捧げる。
(……本当に強い人だったんだろう、先輩のように。自分の芯を最後まで曲げることなく貫き通した人だったんだ。俺もそういう人間になりたい。……安心して眠ってくれ、イリヤは最後まで守ってみせるよ。)
男として決意を固める守。命に代えても切嗣の、狂戦士との誓いを果たすつもりだ。そんな中、イリヤは先程の男に警戒を抱く。
「でも、アイツが追ってきたらいくら貴方でも……。バーサーカーですら逃がすので精いっぱいだったのに……。」
およよ……。……まぁあの金ピカクレーマーが追ってきても負けるつもりはないけど、君を百パーセント守り切れるとは、……情けながら断言できない。だけど、何も無策で出てきた訳じゃないんだ。
「策って何?」
実は俺も前にこっぴどくやられていてね。その時にアイツが言ってたんだ、『漸く見つけたぞ』ってね。あれ程の相手だ、何か探知能力があるのかもしれない。……けど、言の葉を信じるなら奴は
君を守るために俺は万全を期したい。暫くは俺と一緒に居てもらうことになるけど、……そこはごめんね。まぁでも、多分あの金ピカはこっちには来れないと思うよ。
珍しく自信を持って断言する守に、イリヤはその理由を尋ねる。
「……随分と自信があるわね、そんなに頼れる仲間でもいるの?」
あぁ、こっちには最高に頼れる正義の味方がいるからね。……俺の、自慢の弟だ。
「それってシロウのこと?、……でも、ちょっぴり安心した。ああでも、一つ言っておきたいのは私が『お姉ちゃん』だから!!!! シロウとマモルは弟よ!!!!」
少し元気を取り戻したのか、イリヤは強かになって自らの弟に宣言する。守はそういう時期なんだなぁと生暖かい眼で見守るが、実際はイリヤの方が長女である。哀れ守、だから貴様は駄目なのだ!!!!(理不尽)
兄弟らしくやいやい言いながら走っていると、彼の会社用の携帯に一通のメールが届く。走りながら器用に確認すると、一つの画像とメッセージがあった。……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
辺りは十年前のように、四面はガラスで囲まれている。聖堂教会の地下で嬉しそうに男は語る。
「……嗚呼、やっとだ。空腹は最高のスパイスというが、……いやはや何とも形容しがたい気持ちだな。」
歓喜に満ちた表情で男は怪しく笑う。そして、その会合を彼は言祝いだ。
「……あの日、あの店で君と出会った時、薄っすらと予感があった。……私を満たす存在、その欠片が感じ取れたのだ。……そして、今それは現実と成った。」
……五月蠅い、先輩は何処だ、さっさと答えろ、言峰神父。
「フッ、まぁそう焦るな。……折角ココまで舞台を整えたのだ、もっと肩の力を抜いて欲しいものだ。」
言峰は後ろを見やる。そこには守の雰囲気の変化に驚く、小さな少女が居た。
「……ほう、聖杯の入れ物までも釣れるとはな。……ククッ、どうやら今宵は随分とツイているようだ、君も家族の前でそんな剣呑な顔は止した方がいいんじゃないか?」
俺が聞きたいのはそれじゃない。……もう一度言うぞ、先輩は何処だ。
「……やれやれ、彼女もそうだが、最近の若者は話を聞くことが苦手と見える。……自分の思い通りにいくことなど少ないというのにな。」
その言葉で我慢の限界に達したのか、黒鍵を抜いて言峰に飛び掛かる。生まれて初めて抱く激情に体を委ね、剣戟を繰り広げる。言峰は守の服にかの男を思い出す。自身が唯一執着した魔術師殺しを。
「それにその装い、……まるであの男のようではないか、何とも愉快なものだ。……今はこの数奇な運命を仕組んだ神に感謝するとしよう。」
それは十年前に切嗣が払いきれなかった最後の悪。泥を取り込み、悪性の化身となった現世最後の純粋悪である。続くはずがなかった戦いの続きは今こうして紡がれた。悪の敵としての最後の仕事が始まった。
衛宮守
□□□→イリヤ 切嗣との誓いは果たされた。しかし、彼にとって計算外だったとは言峰の存在だろう。彼らの戦いはまだ終わっていない。十年前の焼き直しが冬木で行われる。
英雄王が千里眼で守を捉えきれないのは、守が人理の外の管轄にいるためである。例えるなら、人理課の部長であるギルはその部署の人間を粗方把握しているが、異なる部署の人にはそんなに詳しくないという感じである。一応、そのような存在があることは識っているが、場所までは知らない。
金ピカクレーマー
『おっ、エエ顔してるやん!! 我のおかげだな、ガハハ!!! ……ッツツ、お前、何してんの?』だった。守自身はかなりしつこい性格なので、今回の件で大分スッキリした。デバフにデバフをかけて、漸く弾が当たった。受肉してなかったら、多分弾効かない。慢心がないと強すぎる。
ヘラクレス
『お前が守れ』をやった。最高のバーサーカー。個人的にバーサーカーの中で一番好き。
イリヤスフィール
『え?、誰?、お兄ちゃん?、切嗣?』の情報量に耐えた。型月の作品の中でも特に印象に残ったキャラの一人である。この物語の着想はイリヤのデットエンド数の多さがきっかけだった。
正義の味方
お兄ちゃんだから、一目見た時からバレバレ。色々、複雑な気持ち。
言峰
『漸く二人きりになれたね♥ それにその服、……ふーん、燃えてくるじゃん』って感じ。ついでに聖杯も付いてきて、クリスマスぐらいウキウキしてる模様。