澄み渡った青空の下、学園都市キヴォトスは賑やかさに包まれていた。その中にある連邦生徒会の建物。その一室では外の賑やかなとはかけ離れた不穏な空気が流れていた。
中には連邦生徒会の生徒会長代理人。七神リン。そして彼女が招いた数人の女子生徒が座っていた。
「皆さん。お集まりいただきありがとうございます。まずはこれを」
彼女が近くのモニターの電源を起動された。仄暗い部屋の中をスクリーンの光が照らした。
そこには一枚の写真が映っていた。周囲の空気が騒ついた。そこにはシャーレの先生が写っていた。キヴォトスの危機を幾つも救い、彼女から絶大な信頼を集める青年だ。後ろ姿だが先生と幼い少年が手を繋いでいたのだ。
「ん? 迷子を交番に届けてるだけじゃない?」
アビドス高等学校三年。小鳥遊ホシノが首を傾げる。彼女の意見に同意するように他の生徒達の顔色もあまり大きな変化は見られない。
「ではもう一枚」
リンが次の写真に切り替えた。今度は先生と少年の顔が映し出されていた。先ほどより空気が揺らいでいるが、大きな反応は見られなかった。一人の生徒が発現するまで。
「あれ? 先生に似てない?」
ミレニアムサイエンススクール二年。早瀬ユウカが眉間に皺を寄せて、画像を睨んだ。
「弟? いやもしかして」
「ん、息子」
ホシノと来ていたアビドス高等学校二年の生徒。砂狼シロコ。彼女が一言放った時、周囲の空気が一気に凍りついた。
「いやいや。先生確かにかっこいいけど、シャーレって激務でしょ? 流石にそんな余裕」
トリニティ総合学院三年、聖園ミカが快活に意見を飛ばした。しかし、安心しきれていないのか、額からは一筋の汗が流れていた。笑顔が
「キヴォトスの来る前に結婚されていたとしたら」
ゲヘナ学園三年生の羽沼マコトの言葉で周囲の空気がさらにもう一段、下がった。
「ん、先生を問いただす」
砂狼シロコがすぐに飛び出した。
「止めなくてもいいんですか?」
「いや。今回は例外。さすがにおじさんも見過ごせないかな」
ホシノの異色の双眸が光った。
青空の下、先生は公園のベンチに深く腰掛けていた。
「いやー私もまだ二十代だけど、五歳児の体力には敵わないな」
「へえーあの子。五歳なんだ」
聞き覚えのある声が耳に入って来た。目を向けるとそこには彼の生徒。小鳥遊ホシノが立っていた。異色の双眸が先生に向けられる。ホシノ以外にも多くの生徒達がいた。皆、一応に殺気立って見えた。
「み、みんなどうしたんだ?」
何か彼女達をそうさせているのか。先生は必死に思考を巡らせる。周囲の気温は少し暑いくらいのはずなのに冷蔵庫に監禁されたように寒い。
生徒達が無言で詰め寄ってくる。ある生徒は笑みを浮かべて、ある生徒は真顔で、ある生徒は今にも泣き出しそうだった。
様々な感情が交錯する公園で先生は自分が断頭台に立たされたような気分に陥っていた。
「叔父さん!お待たせー」
不穏な空気に光が差し込んだような感覚がした。一人の少年が手を振りながら、笑顔で走って来た。
「叔父さん?」
生徒達が一斉に小首を傾げた。
「先生の甥っ子!?」
公園中に響くようにたくさんの生徒達が驚愕の声をあげた。
「そう。私の姉の息子なんだ」
「うへ〜そっか。おじさんてっきり先生の息子かと」
「忙しすぎてそんなパートナー見つからないよ」
先生は項垂れながら、甥に目を向ける。甥は複数人の生徒達と駆けっこをしていた。皆、とても楽しそうだ。
すると甥が笑顔でこちらに走って来た。その無邪気さが日頃、激務で疲弊した先生の心に清涼剤として染み込んでくる。
「叔父さん! 足舐めたって本当!?」
甥の一言で雷に打たれたような衝撃を覚えた。
「ど、どこでそれを」
「あのツインテールのお姉ちゃんから!叔父さんは脚舐めるからあんな風になったらダメだぞって」
「イオリ!」
「事実だろ?」
ゲヘナ学園二年。銀鏡イオリが腕を組んで、先生を睨んだ。
「あとあの青髪のお姉ちゃんと犬みたいに散歩したって本当!?」
「アコおおおお!」
同じくゲヘナ学園に所属する三年生。天雨アコがしてやったりと言いただけな顔をしていた。
「お母さんにいっぱい色々な話するね!」
「やめて。姉貴に殺される」
先生は甥を掴んで説得する。
「どういうこと? 先生?」
隣に座っていたホシノの目が再び、黒い笑みを作った。今度はさっきよりも恐ろしい。ホシノだけではない。気付けば先生と甥の周りを他の生徒達が囲んでいた。
今度は不味いかもしれない。逃げ場のない現状に先生は生命の危機を感じた。その光景を横目にシロコが甥の前でしゃがみこんだ。
「ねえ。叔母さん。欲しくない?」
その一言でさらに空気が冷え込んだ。今度はもっとめんどくさいことになりそうだ。