故郷にはなかったものへの憧れは、やがて大きな変化をもたらしていく。
これは、未知のものを追い求めた存在の小さな物語。
久しぶりの投稿になりました…
いつもとは少し雰囲気のちがうお話を書いてみたので、楽しんでいただけたら嬉しいです。
人間の文化は素敵だ。
特に服は魅力的だった。人間の工夫が、あの薄い布の中へいくつも詰め込まれている。
私の故郷では、服というものは存在しなかった。
それは不便だからでも、作る技術がなかったからでもない。
必要がなかったのだ。
身体を覆うという考えそのものが、私たちにはなかった。
水の中で生きる私たちにとって、それは人間が空を飛ぶ鳥に「なぜ翼を服で包まないのか」と聞くようなものだった。
だから初めて人間の服を見た時、私は驚いた。
隠すためだけのものではない。 守るためだけのものでもない。
色や形、動いた時の揺れ方、その全てに作った者の意思が込められている。
ただ身体を覆う布が、これほどまでに人の心を表すものになるなんて、知らなかった。
揺れるように縫われた裾。小さなボタン。動きやすさのための切れ込み。
どうして人間は、身体を覆うだけのものへ、ここまで美しさを求めたのだろう。
そんな疑問を持ち、人間界に来た。
街を行き交う人々。故郷とは違い、同じ色で整備されている道、同じようでもあり、細かなところが違う建物等。
これを見るだけでも、人間界へ来るため努力をして良かったと言える。
でも、本当の目的はもうすぐ先。そこへ行くため人々の間を通り過ぎる際にも、ゆらゆらと揺れるワンピースやシャラシャラと音を立てながら通り過ぎる人間が視界に入る。
気分を上げながらも目的の店の目の前に止まると、ガラス越しに何体かのマネキンが見える。それも、憧れの服を着て―――
マネキンはそれぞれ違う服を着ている。一体は全体がポップな雰囲気で、花柄の半袖にオーバーオールを合わせている。それに小さめのカラフルなバッグを持ち、白い花が付いているチューリップハットを被っている。
これだけでも十分なのに、人間界では他にも刺激がやってくる。
二体目はストリート系で、黒く、何らかの言語が印刷されたトップスにバギーパンツを履いている。バギーパンツにはチェーンがついていて。これには感動するだろう。初めて実物で見てしまった…
最後の三体目は、他よりも上品に着こなしで、黒いモックネックニットに灰色がかった白色のゆったりとしたズボン。それにヒールの靴を履き、レザーハンドバッグを合わせている。
…こんなにも言葉にできない自分がもどかしい。このマネキンはキラキラと見え、思わず夢中になって見てしまう。これで分かった。自分の一番好きな雰囲気はこれなんだ。人間の服は魅力に溢れ、全てが好きだ。だが、これが一番好きだ。
ワクワクは最高潮に達し、思わず笑みを浮かべながらも、夢見てきた場所へと一歩踏み入れる―――