ようこそ世界一の探偵がいる教室へ   作:叙述トリッピー

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Chapter4 音色を模倣する人形
page 25 相違


 

竜崎正の独白。

 

 

3学期が始まって間もない時期の朝。

全校生徒による大移動が行われていた。

高速道路を学年、クラス毎に各1台、計12台のバスが連なって走行していた。

 

この学校に入学して2回目のバス移動。

この先がどこで何をするのか、一般の学生は説明をされないだろう。

だが、私は知っている。こんなジャージまで用意させて何をしようとしているのか。

 

「…全く、最低な気分です」

 

「え、どうしたの竜崎くん?体調でも悪くなった?」

 

「いいえ。これは独り言です、忘れてください。一之瀬さん」

 

移動は約3時間、ちょっとした遊びをするのにうってつけの空き時間だった。

私たちのバス内でも話し声や、トランプで盛り上がる声が聞こえてくる。

バスの席は名前順だったが、彼女は私の隣の人間と席を交換して貰ったらしい。

最近の一之瀬帆波は、何かと私に付き纏うようになった。

恐らく、以前口走った『相棒』という特別感を与える言葉が響いているだろう。私にしては珍しい失態だった。

 

今も周囲の人間と話しながら、私の様子を窺うようにちらちらと視線を向けてきている。

その視線が鬱陶しく感じた私は窓の外に目を向け、これからの試験について考える事にした。

 

これは単なる遠足ではない。無人島のような、泥臭い特別試験だ。

ある程度は成長したこのクラスでなら容易に乗り越えられる、面白みのない試験。

だが、私には目的があった。

 

裏(・)切(・)り(・)者(・)の(・)排(・)除(・)だ(・)

 

それを成すために態々南雲雅を頼ったのだ。

彼は私の提案に喜んでいたが、無駄な労力を割いたのも事実だった。

 

そんな風に過去を振り返っていると、バス前方の星之宮が動くのを感じた。

 

「はーい、皆静かにしてね?先生がこれから話すよ~」

 

マイクを持った彼女がクラスメイト達が黙ったのを確認すると話を続けた。

 

「このバスがどこに向かっているのか、何をするのか。知りたい人、いるかな?」

 

「そりゃ知りたいですよ。でもまぁ特別試験ですよね?」

 

生徒の1人がそんな言葉を零した。

それに笑みを深めた星之宮は、こほんとわざとらしく咳払いをした。

 

「正解だよっ。流石私の生徒だね?これから新しい特別試験を行うんだ。」

 

その言葉に生徒達は騒ぎ立てることなく、耳を傾けていた。

隣に居る一之瀬帆波も話を聞きつつ、携帯で必死にメッセージを送っている。

恐らく、ある程度の試験内容の予測して対策を立てようとしているのだろう。

彼女の成長を感じられる良い行動だった。

 

「これからキミたちは山中の林間学校に行くことになるね。後一時間ぐらいかな?説明が早く終われば作戦会議の時間も増えるからなるべく静かに聞いてね」

 

そう話している最中にバスが長いトンネルを抜けた。

一気に明るくなった車内から、わずかに感嘆の声が漏れる。

高速道路から望む山岳地帯にはまだ雪が積もっており、幻想的な景色が広がっていたからだろう。

 

「はい、窓の外を見ないで私の話を聞いてね~?今回の林間合宿は学年を超える集団行動を7泊8日で行うよ。行われる特別試験は『混合合宿』。これから資料を配るね」

 

配られた資料には、合宿地の詳細として寝室や大浴場、食堂などが記されていた。

そして長々書かれたルール。ペーパーシャッフルでは口頭だけの説明だったが、それよりも多いルールに加え、資料はバスを降りる前に回収するという事を言われた。

このクラスの頭脳派はその言葉を皮切りに、資料を睨みつけるように見て、内容を必死に頭に叩き込んでいる様子が散見出来た。

 

「今回の特別試験は精神面での成長が主な目的だよ。社会で生きていく上での大事な事もそうだし、人間関係を円滑に築いていけるのかって確認も兼ねてるね」

 

上級生と集団行動をする理由はこれだ。

部活をしていない生徒は上級生や下級生と関係が生まれない。それを改善するための試験という事だろう。

 

「まず、目的地に辿り着き次第男女別に分かれて6個のグループを作ってもらう事になってるよ」

 

星之宮の冗長な説明を聞いても時間の無駄だ。私は1人で先に資料を読み進める。

整理するなら、こうだ。

 

『グループ編成のルール』

〇男女別で6つのグループを作る。

・一つのグループを作る上で、人数の下限と上限が定められている。

この学年からは退学者が男子3人、女子3人出ているため、今回は9~14人で一つのグループを作る事になる。

 

・グループには最低でも2クラス以上の生徒が存在することが条件。

1つのクラスだけでグループを形成することは認められない。だが他クラスの生徒が一人でも入れば成立するため、ほぼ同じクラスのグループは作る事が可能だ。

 

…となる。

そしてこの試験で私にとって一番面倒だと感じる部分が一つある。

 

「グループは林間学校限定のクラスみたいなものだよ。だから一緒に授業を受けて、炊事や洗濯、入浴、就寝までの日常生活を共に行う事になるね~」

 

丁度、星之宮が話した部分だ。

風呂や寝る場所すらも一緒、そんな事を許容できるわけが無かった。

現に男女ともにいくらかの悲鳴が上がっていた。

 

「そして1年生の中で6つのグループを作り終えた後は、同じようにグループを作った2年生3年生と合流して、さらに大きな6つのグループを作る事になるね」

 

グループには同学年で作る「小グループ」、その後2年3年と合流した「大グループ」があること。

 

「特別試験の結果をどう決めるかだけど最終日の総合テストで決められるよ。大まかなテスト内容は資料の7ページだね。」

 

『道徳』『精神鍛錬』『規律』『主体性』

普段の学校ではまず学習する事のない項目だった。抽象的な内容、つまり『明確な答え』が無いという事になる。

 

「肝心の結果だけど、大グループのメンバー全員の試験結果の『平均点』で評価されるよ。順(・)位(・)の(・)時(・)だ(・)け(・)は(・)男(・)女(・)合(・)わ(・)せ(・)て(・)の(・)計(・)算(・)に(・)な(・)る(・)か(・)ら(・)注(・)意(・)し(・)て(・)ね(・)?(・)そ(・)し(・)て(・)後(・)で(・)説(・)明(・)す(・)る(・)『(・)責(・)任(・)者(・)』(・)だ(・)け(・)が(・)自(・)分(・)の(・)小(・)グ(・)ル(・)ー(・)プ(・)の(・)平(・)均(・)点(・)を(・)教(・)師(・)に(・)聞(・)く(・)こ(・)と(・)が(・)出(・)来(・)る(・)よ(・)」

 

だが、点数自体は開示されるらしい。配分の内訳は分からなくとも、大体の順位を把握することは可能だということだ。

 

つまり、生活自体は男女別で行い、結果は男女同じで出される。

最終的に1年生から3年生を合わせた12の「大グループ」で試験を受けるという事だ。

 

 

『基本報酬』

 

(1)平均点によって大グループの生徒全員にプライベートポイント(以下pp)、クラスポイント(以下cp)が加点、若しくは減点される。

 

1、2位:10,000pp、3cp。

3、4位:5000pp、1cp。

5、6位:3000pp。

 

以上のポイントを生徒1人1人に配布する。

 

7、8位:5000pp

9、10位:10000pp、3cp。

11、12位:20000pp、5cp。

 

以上のポイントを生徒1人1人が失う。

 

(2) クラス数による報酬倍率の変動(※7位以下には適用外)

・2クラス構成:1倍

・3クラス構成:2倍

・4クラス構成:3倍

 

(3) 総人数による報酬倍率の変動(※7位以下には適用外)

・10人:1倍(1人増えるごとに+0.1倍、15人の場合は1.5倍)

 

※pp、cp共に0以下にはならない。

だが、不足分は「累積赤字」として残り、今後の試験報酬から自動的に精算される。

 

──そしてここからが、この試験の本質である。

 

「でも、そんなに美味しい話なわけないよね。あまりにも出来が悪いグループにはペナルティが課される、『退学』だね」

 

特別試験で二度目の退学が出る試験。もうそれ自体に驚く事は少なくなっているだろう。

 

「とはいっても最下位の大グループ全員を退学にするわけじゃないよ?そんな事をしたら大量の退学者が出るからね。退学になるかどうかは学校側の用意した平均点のボーダーラインを小グループの平均点が下回ってしまった場合だけだよ」

 

面倒な仕組みだが、総合順位は大グループの平均点を元に算出されるが、退学を決める際には小グループの平均点が参考にされるという事だ。

 

「ボーダーを下回った時には小グループの『責任者』に退学してもらう事になるね」

 

「え、じゃあその責任者ってどう決めるんですか?」

 

「あらかじめ小グループ内で話し合って決める、それだけだよ。ただこれじゃあ、誰がなるんだ~って話になるからメリットもあるよ」

 

ただ退学になるリスクを負うだけでは無駄な議論が起こってしまう。

当然ながら破格の報酬が用意されている。

 

「責任者と同じクラスの生徒は報酬が2倍になるよ。つまり、今回の特別試験の最高報酬はグループをAクラスで固めて、他クラスから一人ずつ引き入れる。その上で責任者をAクラスにして1位か2位を取る事だね」

 

「え、えっと…そうなるとどうなるんだ…?」

 

「仮に一位を取ったとしたらプライベートポイントで105万。クラスポイントは327ポイント得る事になるね」

 

ハイリスク、ハイリターン。それがこの試験の全貌だ。

 

「責任者は小グループ決定後、そのグループ内で話し合いをして明日の朝までに決めてもらうよ。もし、責任者を決められなかったらその小グループの全員が退学してもらうことになるね」

 

さらに、責任者には一つの権利が付与される。 もし自身が退学することになった場合、グループ内の1人を「連帯責任」として道連れにできるという特権だ。

 

「でも安心してね。誰でも連帯責任に出来る訳じゃない。最下位になった原因の『一因』だと学校側に認められた生徒しか対象にする事は出来ないから」

 

そしてここからが、この試験の最も厄介で、面白い部分だ。

 

『ダウトゲーム』

 

〇平均点の捏造

・混合合宿における最終結果の小グループの平均点は自己申告制である。

各小グループのメンバーは誰でもこの平均点を捏造できる。

 

〇ダウト宣言

・各小グループの責任者は一度だけダウトを宣言できる。

※ダウトとは、捏造が疑われる人物に対してその結果の真偽を唱える事である。

 

ダウト成功:指摘された捏造者は即退学+責任者に500万pp与える。

ダウト失敗:指摘した責任者は即退学。

 

成功かどうかの判断は当事者以外を担当する教師に委ねられる。

 

〇弁護とペナルティ

・ダウトされた人物は、アリバイや証言者を用意して弁護をする事が出来る。

ただし、その証言やアリバイが「嘘」だと発覚した場合、提出者には個人のプライベートポイントから10万ポイントが差し引かれるというペナルティが課される。

 

 

「そしてもう一つ大切なことがあるよ。それは退学者を出してしまったクラスには相応のペナルティが課されるんだ。ペナルティの内容は試験に応じて変化するけど今回は1人につき100cp減るよ」

 

得られる効果の大きさが大きい分、マイナスも大きい。

責任者になればポイントが2倍だが、反面退学のリスクを抱える。

そしてそれを覆せるダウトゲームというシステム。

 

策略が入り乱れる混沌とした試験となる事は明白だった。

私は今後の方針を伝えるため、複数人にメッセージを伝えておいた。そして送るとすぐに既読の表示がされ、了承の返信が来た。

 

これはつまり、この特別試験の根回しは既に終了したことを意味していた。

 

「これで説明は終わりだよ。じゃあ皆、作戦会議頑張ってね?」

 

その声にざっと辺りで話し声が広がった。

この試験をどう考えるのか、限られた時間でまとめなければならないからだ。

 

「あ、言い忘れてたけど携帯は一週間禁止だからね?後日用品と遊び道具以外は持ち込めないよ」

 

それに真剣な様子を見せていた生徒達も悲鳴を上げる。現代人である彼らにとって携帯が没収されるのは苦行だからだ。

 

「あ、先生質問です!!」

 

「お、何かな柴田くん」

 

「男女別々ってことですけどどれくらいバラバラなんですか?」

 

「良い質問だね。林間学校は二棟建っていて、本棟を男子、もう一つの分棟を女子が使うよ。そして基本的には一週間バラバラで生活して、休み時間や放課後に許可なく外へ出るのも禁止」

 

「じゃあ話は出来ないって事ですか?」

 

「一日一時間だけ本棟の食堂で男女同時に食事を取る時間があるから、その間は好きなように話せるよ~」

 

今回の特別試験はその時間以外で男女が接触は出来ない。

加えて、今回の試験は携帯が没収される。

つまり詳細な指示を出す事は今以外難しいという事だろう。

 

「他に質問は無いかな?じゃあ竜崎くん、キミの出番だよ」

 

私は自分の名前が呼ばれると、ゆっくりと前へと向かい置かれていたマイクを手に取った。

 

「どうです?皆さん、何が大事か分かりましたか」

 

その言葉に隣や周囲の席の人とこそこそと話す生徒達。私の言葉に表立って反応する生徒はやはり少ないらしい。だからこそ、このクラスで派閥を築いている彼女へと声を掛けた。

 

「じゃあ、一之瀬さん…この試験の肝ってなんだと思いますか?」

 

「え、どうやって退学を防ぐか、とかかな?」

 

「はい、なので女子はなるべく同じクラスだけで固まるように動いてください」

 

私が指示を出せない以上、大胆な作戦は女子側ではしづらい。

なら守りを固める方が合理的だろう。女子側で攻撃的な作戦を取れるのは坂柳有栖と椎名ひよりのみ。

前者は派閥争いが停戦状態へと移行し、実質的に機能停止。後者は前回の特別試験で指揮者から降りた事を確認している。つまり全クラス守りに入る事は予想できた。

 

「それは基準点を下回らないように、って事だよね?」

 

「はい。同クラスで固まれば最悪の事態は抑えられる」

 

このクラスの強み。男子は私、女子は一之瀬帆波が仕切れる点だ。実績や信頼を持つ私たちがリーダーを務める事にクラスは反論することなく頷いた。

 

「責任者に関してはお好きなように。したい方は一之瀬さんに相談してください、私は特に関与しません」

 

一之瀬帆波が私の言葉に頷いた事を確認し、話を続けた。

 

「そして男子ですが……私が独断で決めます」

 

逆に私の視界に入る男子は色々とやりようがあった。

私のその言葉にクラスの男子たちは息を飲んだ。無茶苦茶な命令が下される、そう判断したのだろう。

だ(・)が(・)、(・)今(・)回(・)は(・)違(・)う(・)。(・)

 

「私以外は3クラスグループを作れるように尽力してください」

 

「え、じゃあ竜崎くんはどうする気なの?」

 

「それは後で分かりますよ。貴女は自分の事を優先で考えてください」

 

その言葉に一之瀬帆波は疑問の声を上げていたがそれを無視して、私は携帯で最後の連絡を送った。

 

『一つ話を追加します』

 

小競り合いなんてものに興味はない。

この試験で勝つのは、南雲雅でも堀北学でも無く──、私だ。

 

 

***

 

 

全学年の男子生徒が体育館の中に集められた。

肩身の狭い一年は直ぐ集まり身を寄せ合っていた。

そんな中、他学年の教師と思われる男性が壇上に立つと、マイクを持って生徒たちに声を掛けた。

 

「バスの中の事前説明で試験の内容は理解できていると判断し、改めて説明はしない。これより、各学年話し合いのもと6つの小グループを作るように」

 

男子全員にその場で好きに進行するように指示が通達される。大グループを作る前の第一歩となる小グループの結成は、他クラスがどのような作戦で動くのかが初めて露わになる局面だった。

それぞれ学年ごとに距離を取り、体育館のあちこちでグループ決めようと動き出す。

 

その開始の合図からまだ数瞬の時も経っていない中、1年の集団でも一つのクラスに動きだした。

Bクラスが一つの大きいグループを作り出したのだ。当然のように周囲の注目を集める中、やがて彼らは13人からなるグループを作り上げ、代表者が声を張り上げた。

 

「俺たちは見ての通りこのメンバーで一つのグループを構成するつもりだ。現在のグルー

プの人数は13人で、後1名参加すれば人数が揃う。ここに参加したい者は居るか?」

 

そう言ったのは葛城だ。

彼は失墜していた立場から再び男子側を主導できるだけの地位を回復したらしい。

責任者を引き受けるかどうかはさておき、彼らしい堅実を極めた守りの戦略と言えた。

 

「俺たちだけで狡いと言う意見が出るのは承知の上でこの提案をしている。だがこの案ではグループを構成する人間が2クラスの生徒になる。仮に1位取った時の倍率も低い。つまりお前達にも利がある提案だと思うがどうだろうか?」

 

その提案にCクラスの生徒から不満の反発が漏れたが、「ならば余った生徒は好きなように使っていい」という葛城の切り返しに論破され、不承不承ながら沈黙を選ぶほかなかった。

 

葛城はもう異議はないかと周囲を見回し、やがてその視線をAクラスへと定めた。

 

「竜崎、お前はどうだ?お前からしても悪くない提案だと思うが」

 

周囲の視線が集まる中、竜崎は笑みを浮かべて頷いた。

 

「…確かにAクラスである私たちからしても、拒絶しにくい良い作戦ですね」

 

葛城がわずかに安堵の色を浮かべた。

竜崎が反対しなければ自らの作戦は通ったも同義だと考えたのだろう。

確かにその考えは正しいが、竜崎がただで通すわけは無かった。なら、とトゲのある言葉を付け加えた。

 

「一つ質問なんですけど、その余った6人に責任者を押し付けて退学させても良いんですか?」

 

……周囲の空気がわずかに凍りつく。葛城は目を細め、警戒の色を滲ませた。

 

「…なに?」

 

「だって貴方は好きなように使っていいと言いましたよね?この試験って退学者が出たらクラスポイントが引かれるんですよ」

 

その言葉に葛城は青ざめた。竜崎にとって失言とは、付け入る隙を作る事と同じだ。

彼は自らの失態に気が付いてしまったらしい。

 

「だからこそ伺っているんです。その余った人たちに全責任を負わせ、全員まとめて退学させても良いんですよね?」

 

「……それは駄目だ。第一、そんなマネをどうやってする気だ」

 

そんな一触即発の中、不意に低い声が割り込んできた。

斜に構えた姿勢でその場を眺めていた龍園が、ニヤニヤと笑みを貼り付けて口を開く。

 

「おいおい、葛城。そんな態度じゃ呑まれるぞ?竜崎はお前にはまだ早えよ」

 

葛城はその言葉に微かに眉をひそめつつも、事態を理解はしているのか視線を龍園へと向けた。

 

「なら龍園、お前はどう考える?」

 

「クク。俺には分からねぇな。なぁ竜崎、教えてくれよ。お前の脳みそはどんな筋書きを描いてるんだ?」

 

「なら教えてあげましょうか、キミの顔に免じて」

 

竜崎は不気味に微笑みながら、周囲の血の気を引かせるような残酷な仮説を紡いだ。

 

「退学させたい人物をあらかじめ責任者に仕立て上げ、周りの人間ですべての罪を被せて嵌め……すると、どうなるか分かりますか?」

 

何が言いたいのかを理解した何人かが、思わず息を呑んで絶句する。それは人を血の通った生き物ではなく、ただの「駒」としか見ていない人間の発言だったからだ。

 

「その人物と、連帯責任に指定されたもう1人の計2人が退学して終わる。つまり、クラスの不要な人間を一人捨てるだけで、他クラスの人間を一人潰すことができるんですよ」

 

つまり竜崎はこう言いたいわけだ。

たった一人を犠牲にするだけで、他クラスの主要な人物を葬り去ることが出来る、と。

確かに理論的に可能ではあるが、所詮は机上論だ。

 

仲間のために自爆してまで他クラスの生徒を一人道連れに出来る生徒など、特別な事情や脅迫がない限り存在しないだろう。

 

しかし、竜崎が言えばそれは単なる笑い話ではなくなる。

何せ、それが本人の意思とは無関係に、謀略によって実行される可能性があるからだ。

「不要な捨て石」と「他クラスの有能な人材」との圧倒的な有利トレード。それが成立してしまえば、今後のクラス間競争で優位に立つことが出来るからだ。

 

「龍園くんなら、それくらいの芸当は簡単にできるでしょう?」

 

一瞬の静寂のあと、龍園の瞳に危険な光が宿った。

 

「クク……。幾ら俺でも、そんな悪辣さはマネできねぇな。何せ俺はクラスの王を降ろされたからな」

 

「そうなんですか、それは大変でしたね?今やDクラスは椎名さんと龍園くんの2トップらしいですから、さぞ不便なことでしょう」

 

「……舐めたこと言いやがるなァ、竜崎?」

 

「ただの冗談です。そんなに真に受けないでください」

 

軽く手を上げていなすと、竜崎は再び場の主導権を握るべく葛城と周囲の生徒たちへと向き直った。

 

「じゃあそんな私から提案よろしいでしょうか?」

 

誰の声も発せられない重苦しい空気の中、竜崎ははっきりと言い放った。

 

「私たちAクラスは、3クラス混合グループを作りたいと思ってるんです」

 

4クラス混合などにしてしまえば、要らぬ不穏分子を抱え込むリスクが高まる。だからこそ、3クラス混合に絞ることで、得られるポイントとリスクを良いの塩梅に調整する。と多くの生徒は想像しているだろう。

 

「責任者は最も所属が多いクラスから選出する、それでいかがでしょうか?」

 

周囲の生徒たちが騒めく中、竜崎はさらに畳みかけるように視線を巡らせた。

 

「正直に言えば、葛城さんの話は皆さんにとっては受け入れやすい話だったかも知れません。ですが私の仮説を踏まえて、まだ葛城さんの提案を呑めますか?嵌められて困るのは他ならぬ貴方たちだというのに…」

 

「い、いや、俺は……責任者はBクラスから出そうと…」

 

「確かに葛城さんならそうするでしょう。ですがBクラスは貴方だけのクラスではない…そう、坂柳さんなら『一人を嵌める作戦』を平然と選択肢に入れるでしょう、違いますか?」

 

その言葉に否定を出来る訳が無かった。坂柳有栖は確かに攻撃的で人を物のように扱う事で有名だ。現に従者のように従っていた側近たちは口を固く閉ざしたままだった。

 

「それに葛城さん、その作戦で押し切るのならばこちらにも考えがあるという事です。

私のグループに入るBクラスの生徒はどうなっても知りませんよ?」

 

葛城はその条件を吟味するように腕を組んだ。

 

「それは特に異論はない条件だが……。お前はその中でどうする気だ?」

 

周囲の視線が再び竜崎に集中する。

葛城の提案に乗るのか、それとも別の謀略があるのか。

誰もが固唾を呑んで見守る中、彼は平然と全員の予想を踏みにじる言葉を落とした。

 

「あ、私ですか? そうですね……あ、ちょうど今、面白いことを思いつきました」

 

その一言だけで、周囲の空気がピリピリと軋む。

竜崎がこのトーンで言葉を発する時は、大抵がろくでもない、しかも圧倒的な合理性を持った企みを実行に移す時だ。警戒しない方がどうかしていた。

 

「私は1人で他クラスとグループを作ります」

 

それは傍から見れば、自ら矢面に立って孤立し、他クラスの標的すべてを正面から受け止めるような、狂気じみた暴挙にしか見えなかった

葛城だけでなく、近くに控えていたクラスメイトたちまでもが息を呑み、動揺の色を隠せなかった。

 

「り、竜崎っ!それは、俺たちを一切頼らないということか……!?」

 

仲間を切り捨て、単騎で敵陣に飛び込むような危険すぎる宣言。

しかし、私の表情に迷いは微塵もなかった。

 

「いいえ、それは違います」

 

「…どういうことだ」

 

「こんな底意地の悪い考えをしている私が、同じグループの中にいる……。その状況、皆さんの想像以上に怖いと思いませんか?」

 

竜崎はその反応に冷ややかに微笑み、トドメの一言を告げた。

 

「だからこそ、これは私なりの配慮ですよ。──貴方たちに対するね?」

 




▶︎混合合宿(原作からの変更点)
・順位が男女混合で判定
・平均点を責任者が教師に聞けるように
・ダウトゲームが追加(平均点捏造)
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