ようこそ世界一の探偵がいる教室へ   作:叙述トリッピー

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page.30 策略

 

綾小路清隆の独白。

 

 

体育館に風が吹き当たる。

年季があるこの空間が軋むような音がした。

 

「すいません、時間を取りました。次の話をしましょうか、大グループの順位の話をね」

 

そんな、不穏な空気の中で竜崎は言葉を続けた。

2人の生徒が退学した、その事実に顔を背け、嗚咽を上げている者もいる。あの2人と仲が良い生徒が悲しんでいるのかもしれない。

オレはそれをまるで他人事のように見つめていた。

 

「竜崎、随分と楽しそうだったじゃねーか?」

 

「そうでしょうか?私としては想定外の事態でした」

 

「それにしても無様だったじゃねーか。なんだっけ森下だっけ?あの女子生徒に負けてどんな気持ちだよ?」

 

「はい。彼女は手強かったです」

 

竜崎がその挑発に対して顔色一つ変えないことが気に食わなかったのか、大きく舌打ちをして南雲は話を変えた。

 

「それでどんな手品使ったんだ?」

 

「何がですか」

 

「奇想天外、俺の策略は誰にも読まれない…筈だった」

 

南雲は確かに自らの策が成功したと思い込んでいた。事前の下準備をし、堀北兄を勝負の舞台に立たせた時点でコイツの策の半分は成功していたのだろう。

 

 

「竜崎、お前は気づいていた上で何もしなかった。違うか?」

 

「そうですか?私は出来る限りの事はしましたよ」

 

竜崎は椅子からゆっくりと降り、揶揄うような笑みを浮かべて南雲に近づいていく。

その態度は、子ども扱いにも見えて南雲は余計青筋を立てた。

 

「クソッ、どこまで舐めた後輩だな」

 

そしてその様子に興味を無くしたのか、少し離れた位置に立つ堀北兄に目を向けた。

 

「堀北さんは、何か用あります?」

 

「竜崎、何故お前はあの女子生徒を擁護した?得は無い筈だ」

 

「これはあくまでも善意からの行動ですよ」

 

その言葉に納得をしていない堀北兄は、いつもより険しい顔で竜崎を問い詰めた。

 

「…竜崎、お前は正攻法をする気が無いのか?」

 

「いいえ。それは違いますよ、堀北さん」

 

竜崎は親指の爪を噛みながら、堀北兄の顔色を下から覗き込むように見た。

 

「これは、私にとっての正攻法です」

 

「それは…どういう?」

 

「それに、貴方との約束はしっかり果たしています」

 

オレは確信した。この結果発表もまた竜崎の独壇場になる事を。

 

恐らく竜崎が言っている約束は南雲の『悪意』から橘を守るという内容だろう。

オレも堀北兄から頼まれた、なら竜崎にもその話が行っていても可笑しくはない。

確実にAクラスで卒業する為、南雲への対策の為、堀北兄は自分のクラスの人間に責任者にはならないように指示を出していた。

それは確かに手堅い戦略で、成績さえ良ければ退学にはならない。

 

だが、絶対的な防御にはならない。

それを分かったうえで南雲との勝負を受けた。

そして本来なら可能な限りの万策を尽くした堀北兄を、南雲の『悪意』が上回る。

この特別試験という罠を使って、南雲の独壇場を作る筈だった──

 

「結果発表を聞いてどうするか判断してください」

 

そしてそれは阻止される。

罠にかかっていた人物もその結果を聞いて、顔に色を取り戻していった。自らが陥れられていると気が付き、倒れそうだった。だが、それは杞憂だったという現実に困惑した表情になっていた。

 

「これから男女合わせてのグループ総合1位を発表します。ここでは3年生の責任者の名前のみ読み上げます。そのグループに属する1年生から3年生の生徒には後日報酬としてポイントが配布されることになります」

 

そう説明した後、初老の男はゆっくりと名前を読み上げた。

 

「総合1位は───」

 

 

次の言葉は、衝撃的だった。

 

「2つの大グループ以外が同率1位です」

 

その言葉が体育館の空気に投げ落とされた瞬間、時間が止まったかのような静寂が訪れた。 同率、そんな現象は普通にこの試験へ挑んでいる限り、絶対に起きるはずがないからだ。

だが、オレは周囲の異様な生徒たちの様子を見て、そのカラクリを理解した。

 

『南雲雅、堀北学以外の大グループが一位』

 

つまり、この試験で蠢いていた陰謀。

それは南雲雅と堀北学の狙い撃ち、という事だ。

 

「おめでとうございます、凄まじい結果です。今年は豊作でしたね」

 

初老の男はどこか胡散臭くにこりと微笑みながら、まばらな拍手をし始めた。 しかし、それが純粋な称賛であるはずがない。何故なら、誰もが真面目にルール通り取り組んだ結果などではなく、周到に仕組まれた『ズル』なのだから。

 

「何をした、竜崎……ッ!」

 

南雲が、まるで獣のように険しい顔つきで竜崎へと詰め寄る。

対して、堀北兄はその殺気立った様子を静かに見据えながら、どこか腑に落ちたような、乾いた納得の表情を浮かべていた。

 

「どうしました、南雲さん。貴方らしくないですよ」

 

まるで、何事も無かったように竜崎は首を傾げた。

 

「何故?という顔をしていますね。答えはシンプルです」

 

黙り込んでいる生徒たちを見て、竜崎はふっと笑った。南雲たちの双眸には、これまで見たこともない動揺の色が浮かんでいた。

 

「堀北学、そして南雲雅。貴方たち強すぎたんです。彼らは貴方たちへの勝ち目が増える事を喜んでいましたよ」

 

竜崎は薄気味悪いほど落ち着いた足取りで、歩いていく。

そして、集まっていた他学年のグループの前で立ち止まり、言葉を続けた。

 

「今、この場にいる全学年の約4分の1が私に付いてますよ」

 

「……なっ」

 

息を呑む音が周囲の空気を震わせた。

そうだろう、南雲が支配していたと思われていた2年生からすれば、衝撃の事実だからだ。独裁政権が崩壊する音が聞こえたような気がした。

竜崎の周りにいる生徒も互いの顔を見て、疑心暗鬼が始まっている。

 

その様子を明らかに楽しみながら、竜崎は後ろを振り向いた。

 

「南雲さん、この状況を打開するためにダウトゲームをしますか?」

 

竜崎はわずかに口角を上げ、値踏みするような冷たい目を南雲に向けた。

 

「1回しか使えない権利で、証拠も何もない状態から犯人を捜し当てますか?」

 

「お前、まさかこれを狙って俺にこのルールを追加させたのか?」

 

「はい。南雲さんならそうすると思ってましたよ。なので退学者を出しやすく、そして貴方方に勝てるルールを提案したんです」

 

やはり、竜崎が追加したらしい。

オレもこの意味の分からないルールを聞いた時、堀北兄に『生徒会』が噛んでいるのかを確認する連絡をしていた。

 

そして返ってきた返事は、肯定。

 

南雲が主体となっていたのだろうが、竜崎がそこに茶々を入れたのだろう。

体育祭の参加表を2枚にしたのも竜崎。その目的は、どこまで南雲が意見を取り入れるのかの確認の側面もあったはずだ。

 

「そしてなにより公平性、それに配慮しました。堀北さん、貴方はその言葉がお好きなようなので」

 

逃げ道は完全に塞がれていた。 南雲はしばらく天井を見上げてフッと息を吐き出すと、やがて力なく、しかしどこか晴れやかな笑みを浮かべて竜崎を見下ろした。

 

「竜崎、お前はこれを読んでいたのか?だから俺と堀北先輩の勝負に乗らなかった」

 

「はい。その通りです」

 

「そうか、そうか……」

 

南雲は負けを噛みしめるように両手を広げ、肩をすくめた。

 

「俺は堀北先輩を狙わなかった。それは先輩にしても思いも寄らない方法で防ぎそうだった。そして退学させたくないという思いからだ」

 

彼はぽつりぽつりと、自白をするように話始めた。それは南雲という人間が初めて見せた本音のように思えた。

 

「信頼は経験値みたいなもの。積み重なってどんどん厚くなり、いつしか疑わなくなる。俺はこの一年間、価値観が合わないと思っても指示に従ってきました。貴方との関係を築くうえで、有言実行してルールを守ってきた」

 

「……お前は、どうしてこんな事をしたんだ?南雲」

 

「今までの信頼を捨ててでも、先輩に理解して欲しかった。俺という人間を」

 

「…そう、だったのか」

 

堀北兄は、南雲を信じ切ってはいなかったものの裏切れなかった。それがこの男の長所であり短所だった。品行方正で、専守防衛な思考。それは南雲と相性が悪い。

 

南雲は堀北兄の様子にどこか、悲し気な表情を浮べつつ、竜崎の方へ目線を向けた。

 

「それを失ってでも実行した作戦をお前は防ぎ切った。俺のやり方の穴を突いたんだな」

 

「はい。貴方のやり口は多くの反感を持たれる独裁政治だ。だからこそ、ここまでの人数が私の作戦に乗ってくれました」

 

「やられた、お前の勝ちだ竜崎」

 

信頼、尊敬。そんな垣根を取っ払ってしたと叩き付けた挑戦状に横槍が入れられたというのに南雲は素直に敗北を受けいれた。

その横で、立ち直ったらしい堀北兄が竜崎へと問うた。

 

「…竜崎、一つ訊きたい」

 

「なんでしょうか」

 

「お前は4月にした約束を律儀に守ったのか」

 

「そうですね。貴方の人間性に敬意を表して手段を選びました」

 

確かに、この結果はルールの枠内だった。南雲のように特定の人物を嵌めて捥ぎ取った勝利では無い。

大グループが結託して低い点数を取り、かつ橘茜が所属している小グループには手を抜かせた。橘が夜に騒いで眠れなかった、橘の指示のせいで結果が出なかった。

そうして道連れの対象を満たした橘を退学させる作戦を取った南雲とは対照的だった。

 

竜崎はAクラスになりたいという欲望を利用した。

南雲の作戦に全面的に賛成していない生徒を扇動しただけ。それは誰も咎められない正攻法でしかなかった。

 

「確かに、お前は人道に反する事はしていないな。怪しい部分はあったが」

 

「そうでしょうか?あれは自業自得だと思いますよ」

 

「…遅かれ早かれ同じ末路、そう言う訳か」

 

「はい」

 

竜崎の淀みのない返答に、堀北兄は小さく目を細める。

この話は恐らく真鍋の退学の話だろう。あれは確かに嵌めたと言われても可笑しくない、茶番劇だった。

 

「一つ、例え話をしましょうか。死刑囚っているじゃないですか、彼らはもう死ぬことが定められてます。ならその過程ってどうでも良いと思いませんか?」

 

「…危険な考えだぞ、それは」

 

堀北兄の警告に、竜崎はわずかに首を傾げる。その瞳には、恐怖も葛藤もなく、ただ底知れない闇が広がっていた。

 

「何故ですか?彼らの結末は定められている、死ぬという結果が変わらなければその道中に何があっても良いんじゃないんですか?」

 

「それは、ダメだ。お前はまだ立ち止まれるはずだ」

 

堀北兄は、言葉に詰まりながらもそう話した。竜崎が輝いて見えているのかもしれない。

同じ土俵で、自分に勝ち星を挙げたと言ってもいい竜崎に、強い感情を覚えているのかもしれない。

 

「なら、貴方が止めてみてください」

 

「なに?」

 

「今の貴方は、以前と同じように目的が無い人生なんですか」

 

その言葉の刃は、堀北兄の最も深い核心を正確に抉り出していた。

そして動きがピタリと止まる。わずかな沈黙のあと、自嘲するように小さく息を漏らした。

 

「…フッ、そうか。それが目的か」

 

「南雲さん、貴方も理解したでしょう?」

 

竜崎は隣で黙って会話を聞いていた南雲の方へ顔を向けた。

 

「私を侮るのは止めてください」

 

南雲その言葉には不敵な笑みを貼り付けると、頭を軽く掻いた。

 

「そうか、まぁ負けた俺がまだそんなこと言ってたら、無様すぎるな…」

 

「では?」

 

「──良いぜ、竜崎。お前は本当に俺を超えてるらしい」

 

南雲はまっすぐに竜崎を見据え、清々しさすら混じった声を響かせた。

 

「…はぁ。お前が同じ学年だったらよかったのにな」

 

「そうでしょうか?堀北さんならまだしも、貴方はもう1年あります。幾らでもお相手しますよ」

 

「フハッ、そうか……、それは楽しみだ」

 

南雲は小さく笑うと、自分のクラスの方へと歩いて行った。どうやら事の顛末を見守る事にしたらしい。

 

「では、最後に私から一つ。」

 

竜崎の声が、体育館の隅々まで染み渡るように響く。

 

「勝った方も負けた方も、これで満足されては困ります。……まさか、これで自分の限界だと思ってはいないでしょう? 貴方たちにはまだ、もう少し未来が残されているはずです」

 

静まり返った空間に、竜崎の静かな、しかし有無を言わせぬ圧力が重くのしかかる。

 

「与えられたチャンス。それをどうやって次に繋げるか、楽しみにしていますよ」

 

 

…オレはその言葉で一つの出来事を思い出した。

橘茜、彼女との対話だ。

 

『堀北くんはずっと1人で戦っている。1人で全てを相手にする事の大変さが、貴方には分からないでしょうね』

 

そんな言葉をオレは言われた。

オレは一応、堀北元生徒会長側だ。建前上はそうなっている。

そして約束をしている以上、橘を助けるつもりだった。堀北兄と南雲が勝負し、身動きが出来ない以上詰みの状況だった。

 

だが、オレは動く気が無かった。

竜崎の策にある程度気が付いていたからだ。ある日の朝食の当番の話も、異様なまでに竜崎に絡む他学年の人間も、度々居ない竜崎の姿も全てオレは知っていた。

 

──この男の本命は、堀北兄と南雲だと。

 

他学年と既に手を組んでいたから、勝負にも乗らなかった。

やはり、竜崎に勝つためには相当な下準備が必要な事を理解した。

 

用(・)意(・)し(・)て(・)い(・)た(・)ア(・)イ(・)ツ(・)を(・)使(・)う(・)と(・)す(・)る(・)か(・)

 

オレは持っていた携帯でメッセージを送る事にした。

 

──

 

竜崎正の独白。

 

 

1年生の私たちは行きと同じようにバスに乗っている。これから学校へ帰り、いつも通りの日常が始めるからだ。

今は溜まった疲労のせいか熟睡している生徒も、今回の試験の反省をする為に話す生徒もいる。

 

「それで、竜崎。この試験はお前の掌の上だったのか?」

 

バスに乗った私の隣には神崎隆二が座っている。彼は疲れからか深く座席に身を預けながら、私に問うてきた。

 

「大まかには。結局この試験は私が全てをコントロールするのは不可能でした」

 

「他学年が裏切ればその時点で詰むからか?」

 

「そうですね」

 

私は神崎隆二と話をしながらこの試験の結果を整理していた。

 

1年男子小グループ

① A.1人、B.3人、C.3人、D.3人の計10人グループ。(責任者:Cクラス)

② A.3人、B.3人、C.3人、D.4人の計13人グループ。(責任者:Dクラス)

③ A.4人、Bクラス3人、Cクラス3人、Dクラス3人の計13人グループ。(責任者:Aクラス)

④ A.5人、B.2人、C.3人、D.4人の計14人グループ。(責任者:Dクラス)

 

以下2グループが同率11位 

 

⑤ A.3人、B.5人、C.2人、D.4人の計14人グループ。(責任者:Bクラス)

⑥ A.4人、B.3人、C.4人、D.2人の計13人グループ。(責任者:Cクラス)

 

1年女子小グループ”(退学者2名は除く)

① A.5人、B.3人、C.3人、D.3人の計14人グループ。(責任者:Aクラス)

② A.6人、B.2人、C.4人、D.2人の計14人グループ。(責任者:Aクラス)

③ A.6人、B.3人、D.3人の計14人グループ。(責任者:Aクラス)

④ B.2人、C.6人、D.4人の計12人グループ。(責任者:Cクラス)

⑤ B.5人、C.2人、D.6人の計13人グループ。(責任者:Dクラス)

⑥ A.3人、B.2人、C.4人、D.1人の計12人グループ。本来は14人グループ(責任者:Dクラス)

 

混合試験終了後の各クラスcp(小数点以下切り捨て)

Aクラス(竜崎) 1404cp(男子31.9+女子144.3=176.2)→1580cp

Bクラス(葛城)  974cp(男子0.8+女子66.3=67.1)→1041cp

 

以下2クラスは退学者が出た為、混合合宿の結果に加えて-100cpされる。

 

Cクラス(堀北)  375cp(男子42+女子116.1―100=16.1)→391cp

Dクラス(龍園)  192cp(男子55.5+女子129.6―100=29.6)→221cp

 

2年生 Aクラス2110cp Bクラス1310cp Cクラス531cp Dクラス108cp

3年生 Aクラス1530cp Bクラス1398cp Cクラス1005cp Dクラス330cp

 

 

***

 

 

これがこの特別試験の結末だ。

 

まず、私が一之瀬帆波に言った作戦は退学者を出さないという目的もあった。

が、同率1位となった場合のポイント調整の側面も大きい。

坂柳有栖は恐らく、自クラスで固め各クラスから1人ずつ入れる構成を提案していたはずだ。

その場合、1位になると理論値に近いクラスポイントが入ってしまう。それだけは避けたかった。

 

だからこそ、一之瀬帆波が提案しても違和感がない同クラスで固まる作戦を提案した。

そして南雲がダウトゲームを潰すためのものだと断定していたが、あれは半分正解だ。

 

真の目的は、裏切り防止だ。

私は全ての捏造者を知っている。そしてその人物が捏造した証拠も確保している。

目先の利益を取りに行こうとすれば、そのグループを最下位に落とす準備は出来ていた。

 

そして予定通りに2グループ以外を同率1位にする調整は成功した。

 

つまり、全小グループに一人ずつ私の作戦に賛同している人間を入れる。

私のグループも勿論、捏造した。

 

私(・)で(・)は(・)な(・)い(・)人(・)間(・)が(・)、だ。

 

多くの人間が私を監視している状況で、そんな危険な行動をする意味は無かった。

高円寺六助は犯人に気が付いていたようだったが、特に行動を起こす事が無かった。

恐らく賄賂を与えたのが大きいのだろう。

 

信用はしていなかった。

だからこそ、保険は作っておいた、それだけの話だった。

 

「神崎くん、今回で私たちはどうなると思いますか」

 

「それは、この学年での話か?」

 

「いいえ。全てにおいてです」

 

私の食い気味の質問に、神崎は顎に手を当てて時間を使った後。

自分の憶測を話し始めた。

 

「恐らく、南雲先輩が居る2年には狙われることになるな。そして今回で同学年のCクラスとDクラスとの差はまた広がった」

 

あれだけの挑発をしたのだ。南雲は勿論のこと、同学年でも他クラスは同盟を組む可能性が高い。

 

「はい。私たちはこれからずっと狙われる立場ですね」

 

「…殆ど竜崎のせいじゃないのか」

 

「そうですよ、私が全ての元凶ではあります」

 

神崎はその言葉に呆れつつも、どこか晴れやかな顔で肩を竦めた。

 

彼にとってはこの試験の結果は満足のいくものだったからだろう。そして自分の役目を認識できた安心感、漸く恥じない自分が出来た事も大きそうだった。

 

それは私からしても確かな収穫だった。

神崎隆二という人間が、私と同じ目的を見て異なる選択肢を提示する事があればそれは未知なのだから。

 

「精々、退屈させないでください」

 

その言葉に返事は無かった。

そして私もそれ以降言葉を発する気も無い。

ただ、暗くなった山を切り裂くバスのヘッドライトだけが明るく道を照らし続けていた。

 




次回は相当長くなりそうな感じです。
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