Bクラス(葛城) 1041cp→1291cp :橋本の退学
Cクラス(堀北) 391cp→491cp :山内の退学
Dクラス(龍園) 221cp
page.38 最終戦
竜崎正の独白。
3月8日。
今Aクラスでは、担任の星之宮が1年生最後の特別試験を開始しようとしていた。
この学年ではもう珍しく無いが、退学者が出ている。
そしてその出来事は、学年にとっても他人事ではない。次は自分かもしれない、そんな思いがあるからだ。
なにより私のクラスは今、空気が悪い。
私が退学すると宣言したからか、それを止めなかったクラスメイトからか。一之瀬帆波は以前より人と距離を開けるようになった。
あの日の語りでは、人を信用せず助けるとの事だが距離感は計りかねているようだ。
しかしそんな空気が変わるのを試験は待ってくれない。
ホームルームの開始を告げる鐘と共に、星之宮が姿を見せた。
「じゃ、これから1年生最後の最終試験を始めるよ~!!ほらほら今日も可愛い先生を見て、みんな元気出してねっ?」
クラスの状況をちらりと見回した星之宮は、想像以上に遺恨が残ってしまった事に焦りを感じているようだ。いつも以上に声を張っていた。
「1年間を締めくくる最後の特別試験は、これまでの集大成。知力、体力と連携。あと運かな?とりあえずキミたちの全力を出す試験になるよ」
最後に相応しい試験と言える。全力を出す機会というのは多くの人間にとって良く働くからだ。
「特別試験は、クラスの総合力で競い合う『選抜種目試験』。ルールに従って対決クラスを決める感じだね」
「なら、ペーパーシャッフルの時と同じですか?」
クラスの人間が質問をする気配が無かったので、私からする事にした。
後々、理解できていない部分が出てくれば説明の時間が長くなるからだ。
「え?んー、それは違うかなぁ。今回は体育祭に近いよ。つまり2クラス対2クラスのタッグマッチって事だね」
何度目か分からない協力型の試験。ただ、初めてではない為、生徒達の動揺は少なかった。
「まずキミたちには話し合いをして、好きに決めた『種目』を全部で5個決めてもらうよ」
「へー、それってなんでも良いんですか」
「うん。筆記、将棋、トランプ、野球。キミたちが勝てると思う種目を選んでね。それでどんなふうに決着を付けるかもキミたちが考えてルールを作る事になるよ」
「じゃあ、私が居るクラスが勝ちってルールにしますね」
「…あのね、それじゃあ勝負にならないでしょ?竜崎くんはお茶目だなぁー」
私の冗談に星之宮は眉を震わせた。どうやら、ここまで一方的だと怒りを覚えるらしい。
そう観察していると少し前の席に座る姫野ユキが私をじろりと睨みつけた。
話を遮るな、と言いたげだったので私は軽く微笑んだ。
「でね、種目は自由に決めれるわけじゃないんだ。
例えば大勢が知らないようなマイナー競技やゲームを選んじゃえば提案者が必ず勝っちゃうでしょ?それに種目のルールも公正かつ分かりやすいものだけ。まぁ、あとで学校が適切かジャッジをするからそこまで心配にならなくても良いよー」
あまりにマイナーなスポーツや、個人がやり込んだゲーム。そういったマニアックな競技、特異なルールを選べば、多くの生徒は勝てなくなるだろう。
「それと、引き分けにならないように調整は必須だね。
例えばサッカーなら、同点になった時、延長戦をしなきゃいけない…みたいに絶対に勝敗が決まるルールにして欲しいんだ。もし勝敗が付かない場合は種目として受理されなくなるから気を付けてね」
絶対に勝敗のつく種目。なら、分かりやすいもので言えば…
「じゃあ、コイントスを種目にしても良いんですか?」
コイントスが上げられるだろう。裏と表、絶対に勝者と敗者決まるゲームだ。
じゃんけんも近いが引き分けという概念がある以上、すぐ勝敗がつくこちら側が好みだ。
「あー、まぁそれも出来るのか…。えっと、ルールは表が出た方が勝ちとかかな?」
「はい。これなら大勢が知る種目で単純明快でしょう?学校側は不採用に出来ない」
「…極論を言えばうん、そうなるね。後はこれを4回繰り返せば種目決定ってこと」
私の言葉に苦笑いした後、星之宮はチョークを手に取り黒板に何かを書き始める。
「試験の日程だけどー、これも重要だよ?メモでもしといた方が良いかも」
特別試験
3月8日・特別試験発表日
3月15日・5種目の確定。全クラスの5種目及びルールの発表
3月22日・対決クラス及び協力クラスの決定。選抜種目試験当日
「では、その日は20種目をやる事になるんですか」
「いやそれは違うかなぁ?提出された20種目の中からやるのは最高で13種目だけだよ」
「なるほど、自分が考えた種目が採用されないこともある訳ですか」
1クラス5種目。採用されるのが13なら運次第では自クラスの種目が選ばれない可能性が出る。
その意図で聞いた質問を星之宮は首を横に振り、否定した。
「いや、それは無いよ。各クラスが提出した種目を3個ずつ、最後の1種目は全クラスの中からランダムになるけどね」
奇数種目なのは必ず勝負がつくよう配慮というわけだ。
ただ、7種目を取った時点で勝敗は決まる。最後の1種目は6対6という稀な場合の措置だろう。
「もし、先に勝敗が決まった場合、その段階で試験は終了するよ。それはこの後話す、勝った時の報酬が勝ち負けで配られるからだね。それと、この5種目の申請は14日の日曜日いっぱいで受付終了。種目が認定されるかどうかのチェックが必要だからね、早め早めの行動が大事になるよ」
「もし14日までに決め切れなかったらどうなるんですか?」
「その場合は学校側が用意した種目を割り当てる事になるね。だけどキミたちのクラスに合った種目にはならないと思うなぁ。不利にはなっても有利にはならないと思うし」
「でも、それは面白いですよね?運も実力のうちと言いますし、それで決めてみるのも考えておきます」
もう、星之宮は反応する事を辞めたようだ。
彼女が中々、私に対して自らの価値を提示しない為、揺さぶってみたのだがどうやらまだ悩んでいるらしい。これまでは色仕掛けで解決してきたからこそ、それが封じられれば取れる手段は無くなるという事なのかもしれない。
「…それと大切なのは同一クラスで種目が同じものは2つ登録できない点。仮に2点先取のサッカーを種目にしてる場合、PKで勝敗を決めるルールのサッカーを別の種目で登録は出来ないって事だね。詳しくはこれを見れば分かると思うから、ここに置いとくね」
そう言い、星之宮は教壇の上に分厚い書類を一部置いた。
人数分用意してくれれば、手間が省けるのだがやむを得ないだろう。
「黒板にも書いたけど、各クラスが決定した種目は15日に発表される。どのクラスがどんな種目、ルールを選んでいるか知らないと勝負にならないからね」
つまり1週間近く、勉強や練習などの対策を立てることが出来る。
「この22日の試験が終われば、23日は休み。その後24日の卒業式、25日の終業式を超えれば、晴れて春休みに突入するわけだね」
勝って終わるか、負けて終わるかで春休みの過ごし方は大きく変わる。
だからこそ、無言であったクラスの生徒たちも表情が険しくなった。
「種目を決める以外にもう一つ重要な部分がある。それは、大人数を束ねる為に、この特別試験では『司令塔』を1人用意しなきゃいけないところだね。この司令塔は種目に参加は出来ないから注意してね」
司令塔。名前からある程度の役割は推測できるが、具体的な内容は見えてこない。
「これは臨機応変な対応が求められるとっても重要な役割だよ。全部の種目に関与したり、補助をする。生徒の解けない問題を解いたり、なんでもできる。司令塔には介入できる余地が与えられるんだ」
単なる生徒同士の対決では無い、司令塔というイレギュラー。
しかし、その役割を熟せる存在は自ずと限定される。誰でもなれるわけでは無い、カリスマ若しくは頭脳。何でもいいが指示を出した際に信頼される地盤が必要だった。
「司令塔が関与する方法も、キミたちが決める事になる。例えば竜崎くんが言ってたコイントスなら、『任意のタイミングで司令塔が代わりに出来る』とか『コイントスする生徒を入れ替えることが出来る』なんかが考えられるね」
平等な関与であれば大体認められる、そんなところだろう。
野球やサッカーであれば選手交代が出来るように関与を設定すれば実質監督のような役割を担えるわけだ。
「司令塔は勝利した時に、個別のプライベートポイントが与えられる事になってる。その代わり敗北した時には…」
今回も、退学者が出るそう思い込んでいた生徒たちは次の言葉で、驚く事になる。
「
プロテクトポイントという退学を防ぐ手段が付与された以上それを有効に使う試験が来ると予想していた生徒達が拍子抜けしただろう。
退学者が必ず出た試験と違い、今回はただクラスポイントが動くだけの試験なのだから。
「それで、対決するクラスはどう決めるんですか?」
「司令塔になった生徒が試験当日、多目的室に集まるって決めるんだ。方法は、多分クジ引きかな?」
種目、対戦クラス、協力クラス。その全てが運。ある意味平等と言える試験だった。
「今回の試験で重要なのは協力クラス。自分たちの得意を押し付けようとしても味方が苦手なら逆にしんどくなる。逆に敵の苦手種目が選ばれたりしたら、ラッキーではあるけど……」
そう言い、星之宮は微笑んだ。彼女からすればこのクラスが負けている姿が見えないからだろう。
「で、勝敗で変動するクラスポイントだけど、これはとっても単純。勝ったクラスは負けたクラスから200cp移されるって感じかなぁ」
今回の勝敗で対戦相手のクラスポイントを奪える。
これまで増やしたくても増やせなかったポイントが一気に上がる、絶好の下剋上チャンスというわけだ。
今回の試験のペア次第では4クラスが近づく可能性もある。
「もし対戦相手のクラスポイントが不足していた場合は、その不足分を学校が一時的に補填する感じになるよ。つまり、クラスポイントがマイナスになったクラスは表面上は0ポイントのままだけど、それ以降に学校に対して返済していく事になっちゃうね」
見えない形でクラスポイントが0如何にもなり得るという事だ。
しかし、今回は一番下のクラスも200を上回っているため要らない心配だろう。
──────────────
星之宮がいなくなった後、授業までの僅かな時間。
私は教壇に置かれた種目のルールが書かれた紙を見ていた。
選抜種目試験、種目を決める際のルール。
・マイナーすぎる種目、複雑すぎる種目、及びそのようなルールの制限
極めて細かなジャンルなどは不許可とする場合がある。
筆記問題などを種目にする場合、学校側が問題作成を行い公平性を保つものとする。
種目において、基本ルールを逸脱し改変する行為は禁止とする。
・使用できる施設に関して
特別試験当日は、多目的室にて4人の司令塔が種目進行を行う。また、体育館、グラウンド、音楽室や理科室など学校内の施設は基本的に使用可能であるが、一部例外も存在する。
・種目制限、時間制限に関して
同じ内容と判断される種目は各クラス1つまでしか採用できない。また種目の消化にかかる時間が長すぎる場合や、時間制限のない種目などは採用が見送られるケースもある。
・出場人数に関して
種目に必要な人数は、交代要員を除き申請する5種で全て違っていなければならない。
最少人数は1人であり、最大人数は2クラス合わせて20人まで(交代も含め20人を超えてはならない)。
2クラスの出場する人数が交代を含め10人を超える種目は最大2つしか登録が出来ない。
・参加条件に関して
各生徒が出場できる種目は1つであり、2つ以上の種目に参加することは出来ない。
ただしクラスメイト全員が種目に参加した場合に限り、2つ以上の参加を可能とする。
・司令塔の役割に関して
司令塔は種目すべてに関与する権利を持つ。どのように関与するかは種目を決めたクラスが定めること。学校側が承認して初めて関与の採用となる。
大きく分けて6つのカテゴリになっていた。
参加人数が種目につき1人から20人。
2つの種目で40人近くを使うようなことになれば、2度目、ケースによっては3度目の参加をする生徒も出てくる。
しかし、それは考えられない。この人数制限は2クラス合わせてのものだ。つまり両クラスの優秀な人間を使う方が有意義だろう。
少数精鋭に絞ろうにも、種目別に必要人数を変えなければならないとなると途端に難しくなる。
…と、試験についての説明を見ていたがそんな場合ではないようだ。
私以外の人間は今、この状況で1人も喋っていない。それはいつもならクラスを仕切り始める一之瀬帆波が動いていないからだろう。彼女は目を瞑り、じっとしていた。
その異様な光景に、クラスメイトは困惑し黙り込んでいた。
「……一之瀬さん、なにしてるんですか」
神崎隆二から私の方へ何度か視線が向けられていた為、私は軽く溜息を吐きつつも彼女に話を促した。
「…」
彼女は私の問いかけに対し無言だったものの、席を立ち教壇の方へ近づいてきた。
だが、その瞳は私を真っすぐと見つめている。あの雨に濡れた日から変わらない熱がそこにはあった。
「…なるほど、貴女はそうするんですね」
私のその言葉に一之瀬帆波は優しく微笑み、教室のクラスメイトの方へ顔を向けた。
彼らは、彼女のその並々ならぬ雰囲気に息を飲んでいた。
「…ごめん、みんな!」
教壇の前に立った彼女の最初の言葉は謝罪だった。
なぜ、謝ったのか分からないクラスメイトは困惑を隠さない。しかし、それに気が付いていないのか一之瀬帆波は話を続ける。
「私は、投票の日…すっごく情けない姿を見せたと思う。なんなら私に入れて、そんなみっともない事も言っちゃったと思う」
クラス内投票。あの日、彼女は荒れに荒れていた。私が登校していなかった間、彼女はどうにかして私を退学させないように動いていたらしい。最後には自分に票を入れてとも言ったらしいが、それは通らない話だ。私ですら難色を示した生徒が要るのだ、一之瀬帆波に入れるなどもっての外だろう。
「──私は、今まで間違ってた。ううん、今でも間違え続けてるのかもしれない」
彼女のその言葉には、過去の罪も載っている気がした。
万引きという、最初の間違い。いや、間違いを認識した最初の出来事。
それを彼女は背負う覚悟を決めているのだろう。そして、これからの間違いも見たうえで捨てずに連れていく気なのだろう。
「昔から私は良い子じゃなかったと思う。皆は薄々勘づいてたと思うけど、私母子家庭なんだ。お母さんと2つ下の妹との3人暮らしで、裕福な方じゃなかった。だからお母さんには迷惑をいっぱいかけて、あの時もっとうまく出来たなぁなんて後悔もたくさんしてきた」
間違いを振り返らない、過去に縛られない生き方を彼女は選べたはずだ。
だが、それをしなかった。何故、わざわざ茨の道を進むのか理解できなかった。
「いずれ中学を卒業したら働きに出ようと思ったの。高校には行けそうになくて、就職してお母さんを助けてあげたかったってのも理由の一つかな。でも、お母さんは反対した。私に幸せになって欲しいって、そう願ってたのかもね」
その懺悔は、クラスメイトにとって心に来るものだったらしい。
何人かの生徒が嗚咽する声が聞こえた。
「でも、私はそれを信じちゃった。お母さんの言葉に甘えちゃってた。だからその分頑張って、頑張って……ついには倒れてしまったんだ。
あの時の私は、色々な事があって、それでずっと過去を悔いてた。今も引き摺ってるのかな?」
一之瀬帆波は少しだけ自嘲気味に笑った。
「……だからね。これは私の問題で、皆は悪くないよ。私は今、みんなとこれまで通り話せないと思う。もう、怖いんだ。誰を信じたらいいのか分からない、それぐらいには疲れちゃった」
隠す気はないらしい。人を信じられなくなった自分を、嘘を吐く気はないらしい。
「でも、これだけは変えられない。私はみんなを助けたい
人を信じれないことは、困っている人を見捨てることの理由にならないと、私は思う」
それを疑う生徒はこのクラスには居なかった。
長々と語った一之瀬帆波は、もう一度クラスに向けて頭を下げた。
「だからね、ごめん。こんな情けないダメな私で…」
彼女の悲し気な声に、お人好しの多いこのクラスは黙ってはいられない。
「…そんなこと、ないよね。ねぇ皆?」
網倉が、最初に口を開いた。彼女は手を広げ教室をぐるりと見回して周囲の人間に同意を求めた。それに何人かの生徒がゆっくりと頷く。
「一之瀬は、今まで頑張ってた。だからそうなってもしょうがないと思う」
「うんっ、私たちも何もできなかった。帆波ちゃんだけが悪い訳じゃないよ!!」
次々と出てくる彼女を擁護する言葉。それは彼女のこれまでの行いを映す鏡のようだった。
しかし、彼らは一之瀬帆波を理解出来ていない。
自分たちが何を仕出かしたのか、それを認識していない。彼女に頼りすぎた結果、本心を知る機会が失われたからだろう。
一之瀬帆波を偶像としてしまったクラスが、そう簡単に変われるはずがなかった。
「ありがとう、みんな。私はもう…逃げるつもりはないよ。過去を、間違いを背負って前へ進み続けるって、決めたんだ」
私は、その言葉で彼女の真意に察しがついた。
彼女は私の事を『泥を被り、人から理解されずとも誰かを救う道を選んでしまう人間』だと定義づけているらしい。
そしてそんな私を独りにしないと、言いたげだった。
だが、違うとも言えなかった。
『人間を信用できない自分』も私は信用していないからだ。
もしかしたらそちらが私の本心の可能性はある。
「…だからね、竜崎くん。私にリーダーを任せて欲しい」
形式上、公の場でリーダーを任せると言わなければならなかった。
あの日に私は既に彼女へリーダーの立場を返したが、クラスの生徒はそれを知らない。これは必要な過程だった。
「そうですか。貴女にはその覚悟があると、そう解釈していいんですね?」
「うん。もう止まらないって決めたんだ、こんな私だけど竜崎くんは認めてくれるかな?」
「成程。是非、貴女がやってください。任せました」
彼女は私の返答を飲み込むと、目を閉じ静かに息を整えた。
「ありがとう、任されたよ。それでみんな──、竜崎くんに比べたら頼りないかもしれないけど、私を信じて欲しいんだ」
もう一度クラスの方へ視線を向け離された言葉に、クラスは一瞬沈黙した。
今にも泣きだしそうで、逃げ出したくて、過去を恥じて。そしてその裏にどんな思いが隠されていようとも。
『全員を助ける』という想いだけは本心だからだ。
「そりゃ、信じるに決まってるよな!?」
誰かが笑顔で叫ぶ。それと同時に、クラスの生徒が満場一致のエールを送った。
もはや誰も彼女をリーダーの器がないとは言えないだろう。
私の派閥の人間も、彼女をリーダーだと認めていた。神崎隆二も今の彼女には任せられると深く頷いている。
確かに彼女は頼りなかったが、それは人望とは関係ない。
彼女の人柄に接してきた生徒たちが否定など出来る筈も無かった。
「で、早速ですが一之瀬さん。今回はどうするんですか?」
しかし、時間は有限だ。
授業の時間が迫る中で、特別試験について何も話さないなど合理的では無かった。
今回は、学力、体力、器用さなど様々な分野が輝く可能性がある。自クラスだけでなく、他クラスが得意不得意とするものを見極めるのも重要で、この短い期間で相当数の調査と練習が必要となるからだ。
「んー、大体は内容を理解したつもりだけど、抜けがあるかも。それでも良いかな?」
「はい」
私が頷くと、一之瀬帆波は胸に片手を当て宣言をした。
「──私たちのクラスは、好みを押し付けるよ」
確かに理に適った判断だ。
他クラスの司令塔になりそうな人間を考慮すれば……、それが最適となり得る。
なにより他のクラスに流されず、自分たちの強みを前面に出す。
「しかし、貴女らしくない発想ですね」
以前の彼女なら取らない選択だった。
それに一之瀬は軽く笑った。彼女からしても自覚はあるらしい。
「あはは、そうなるね。まぁ、取り敢えず今回の試験の司令塔だけど、どうしようか?」
「竜崎くんがやる?」一之瀬帆波は暗に、そう言っていた。
司令塔は3月22日の対決クラス及び協力クラスが決まるときに同時に発表となる。
しかし、司令塔を事前に決定し事前に打ち合わせすることは出来る。
種目に関しては事前に発表されるため、当日はその指示通りに動けば、誰が司令塔でも差は出ない。
だが、想定外の事態が起こる可能性もある。
だから私は──
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綾小路清隆の独白。
選抜種目試験の説明を受け、ある程度の種目を決め終わった後。
帰宅したオレは、この試験について考える事にした。
今回の試験には疑問点が幾らかある。
なぜ、退学者が出ないのか。
今回の試験において司令塔は明らかにおかしい。なぜ報酬だけがあって、罰則が無いのか。
プロテクトポイントという概念がある以上、退学でも良いはずだ。
なぜ、ペアで戦うのか。
確かにクラス合同する事によってオレたちのような下位クラスは下剋上のチャンスは増える。だが上位のクラスからすれば、ほとんど良いことがない。
しかし、オレは一つの可能性に気付いた。
綾小路篤臣──あの男は一度この学校に来ている。
そして、オレを連れ戻そうとして失敗した。
そしてクラス内投票での不自然な報酬。
いくらオレが実力を出したからと言って櫛田より多いのはあり得ない。
なにより、竜崎の態度もおかしい。結局アイツはオレに2000万を貸してくれた。だが、お礼は要らないと言っていた。
いくらなんでもおかしい、竜崎という男はそんな善行を好む奴ではない。
ふと、夏休みでの出来事を思い出した。
『貴方をその境遇から助ける』
オレの背景について、推理で言い当てたアイツはそう言った。
ホワイトルームについて詳しくは知らなそうだったが、あの男が要らない虚勢は張るはずがない。
つまり、オレをホワイトルームからの刺客から助けようとしている可能性がある。
クラス内投票ではオレへ、助かる道を作ってくれた。
なら、今回のルールもオレの為?いや、違う気がする。
なにより全クラスの生徒の実力が測れる試験なんてやれば、オレの本当の実力が全員にバレて──
「…これか?」
竜崎はオレの実力をバラそうとしている?
助けると言った男が、逆の選択肢を取る。その意味をオレは理解できなかった。
いや、薄々察していた。
竜崎はオレを信用していない。ホワイトルームという施設出身のオレをあの男は疑っている。
「それが、1番辻褄が合うな」
ただ、今回の試験でそれは関係がない。竜崎が退学というオレを連れ戻す手段を潰したお陰で危険は少ないだろう。
最も試験自体に干渉してくる可能性はあるが、それとペアによって防がれる。
なにせ、他クラスの生徒が気づくからだ。明らかにおかしいと。
「なんにせよ、種目は考えなきゃいけないな」
これが個人技であれば、オレはほぼ負ける事が無いと思っている。
だが、今回の試験は2クラス合同を司令塔2人が指揮する戦い方。司令塔同士の相性もそうだが、2クラスのポテンシャルを理解しなければならない。自クラスですら誰が誰を好きか嫌いか、何が得意か不得意かを知らないオレが相当に出遅れていた。
それに情報収集能力や統率力も必要で、オレはクラスの中で下から数えた方が早いほど持っていない。
まずは、クラスの事を良く知っている人間に話を聞くべきだろう。
『恵』『平田』『櫛田』の3人がクラスの事を良く知っている。その中で恵が最も簡単で、櫛田は状況次第。平田は、どうなんだろうな。
クラスは山内が退学したばかりで疑心暗鬼になっている。茶柱が何故か学校のシステムのせいだと言ったせいでオレは全く疑われていない。
唯一疑いそうない平田はクラス内投票でオレが騙し討ちした形になったわけだが、何もしてこない。
時折オレの方を見るだけで、特にアクションは起こされていなかった。
つまり、現状で最も聞きやすいのは恵。
と、考えていたところで丁度良くチャイムが鳴った。
「お、やっほー」
オレがカギを開けると、来訪者──軽井沢恵は軽く手を挙げて立っていた。
「結構遅かったな」
「あんたと違って人付き合いがあるからね。それに色々面倒事があったし」
そう言いつつ恵はどこか落ち着かない様子で、オレの部屋を見回した。
「それにしても、こんな時間にあたし呼んで良いの?誰かに見られたら清隆との関係バレるけど」
「問題ない。それについては今更隠しても意味が無いと考え始めてたからな」
即答したからか、恵はようやく落ちついた。
安堵の息を吐いた後、オレの部屋に座り込む。
「んー、まぁそっか」
確かにオレと恵の繋がりが知られていないことで出来る動きもある。だが、スパイ的な活動よりも表立って動く方が今後の戦いでは合っているだろう。
「それより、クラスの内情を教えてくれ」
「あー、それが呼んだ理由か。どこから話せばいいのか、あたしも全部は知らないからね?」
「それでいい。出来れば明日以降に櫛田や平田にも話を聞きたいしな」
櫛田は可能だろうが、平田はどうなるのかオレにも分からない。
今の状況では、未知数だからだ。
「そりゃ出来たら良いけど、今の洋介くんはなんだか様子が変だしどうなるか分かんないし…」
「おまえも気になるのか?元彼氏だしな」
その言葉に、恵は慌てたように首を振った。今、その話をぶり返されるのはまずいらしい。
「い、今はどうでも良いでしょ!?……それに、誰が見ても洋介くんが平気じゃないのは分かるよ」
平田が本調子ではないCクラス。確かに安定性に欠けるな。
それは理解しつつも、オレから話すべきでは無いと思う。これはアイツが立ち直るキッカケとなるからだ。
なにより、堀北もどこか調子が悪そうなのだ。櫛田が仕切っているからなんとかクラス運営が出来ているものの綱渡り状態であることは否定できない。
早く、平田が復帰する事を願いつつ、オレは話を続けた。
「ともかくおまえからだ」
その言葉で恵は、10分程度Cクラスの女子について話し始め…
生徒名簿順にプロフィールを頭に叩き込み、必要になりそうな情報をあらかた聞き出した。
「──って感じかな。で、話はそれだけ?」
それで用が終わったと判断したのか恵は座っている姿勢を解いた。
「あぁ、そうだな」
「じゃああたし、帰るけど……?」
なにかを期待している表情。
そして少し諦めたような表情をしつつも、最後まで意地を貫くつもりなのか自分からは言いださない。その理由が何なのか、オレは知っていた。
「ちょっと待ってくれ」
オレは部屋に入られた時に見つけられないように、引き出しにしまっていたモノを取り出し恵に渡した。
今日は、軽井沢恵の誕生日だったからだ。
中身はハート形のネックレス。それを見た恵は目を大きく見開いた。
「なにコレ!?ネックレスでしかもハート型って……めちゃ重いプレゼントだし!?」
どうやらこれは正解では無かったらしい。気に入らなかったのか顔を真っ赤にさせ、抗議をされた。
女子に誕生日プレゼントなんて渡したことが無かったから、大手通販サイトで誕生日プレゼント第1位を買ったのだが。
オレがそう言うと、恵はドン引きしつつも説教を始めた。
「あんた頭いいのに、そういうとこはバカよね。あのね、世間知らず過ぎだし、女の子にも趣味があるんだよ?ハッキリ言って──」
恵に女子高生の何たるかを語られている間に、オレは自分の反省点を探す。
すると、オレの誕生日の時を思い出した
あの時は確か、竜崎はケーキ。一之瀬は革製のブックカバー、神崎の多機能ボールペン。他にも色々とくれたが、アイツらにどうやって選んだか聞いておけばよかった…
そうやって頭を悩ませつつ、取り敢えずは後日別のモノを用意すると提案した。
「……ま、女の子への初めてのプレゼントっぽいし一応貰っとく」
だが、恵は鏡の前でそのネックレスを自分の首に何度か当て、満足げに頷いた。
「それなら、良いが…」
女心というのは、相変わらず難しい。
突き返されないだけ、マシだったか?他の誰かに渡せるわけでも無いしな。
そう思いつつ、オレは恵が帰るのを見送った。
綾小路くんが誕生日に何をプレゼントされたかという雑な伏線回収
選抜種目試験(原作からの変更点)
・2クラス、ペアでの戦いになった。
・司令塔が退学にはならない。
・勝った時、200cp奪える。負けた時は、200cp失う。